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オレたち「携帯刑事」コミュの携帯刑事ドラマ『MDU』ショートストーリーズ

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短編の新ストーリーはこちらから!


モバイル・ディテクティブ・ユニット=MDUの面々が贈る
数々の妄想デカドラマの為にこのトピを捧ぐw

捜査報告ネタ以外の妄想はここで書け
!www

ルール
ひとつのネタをさまざまな視点から追いかける
ザッピングドラマ形式を基本とする

話が振られたら積極的に参加♪
前後の脈絡を見極め自分を登場させよう!

コメント(55)

DGはそう言うとエミリーをスギのベッドサイドに連れていき、スギを紹介した。反対側のベッドサイドに行くhk。

「エミリー、スギだよ。先日撃たれちゃってから、まだ意識が戻らないんだ…」
「そうなのね。可哀想。DGとか、みんなの大事なお友達なんでしょ?」
「そうだよ、大事な、友達なんだ…」
「そうなんだね…」

エミリーはそう言うと、点滴を繋がれベッドの上に置かれたスギの右手を両手で握ったのだが、反対側のベッドサイドに立っていたhkは、エミリーの口元が
{心配ないよ。大丈夫}
と動いたような気がした。そしてhkと目を合わせ微笑むエミリー。

呆気に取られるhkを尻目にスギに声を掛けるエミリー。
「スギさん、早く元気になってね。みんな心配してるから」

すると…

うっすらと目を開け、意識を取り戻すスギ。
泣きながらアンナとハグするDG。泣いたり笑ったり、大喜びするMDUの面々。呆気に取られたままのhk。

もう一度hkと目を合わせ微笑むエミリー。周囲の状況や、自分の状況がわからず呆然とするスギに声を掛ける。
「スギさん、わかる?」
「い、いや、全然…」
「あなたは撃たれて入院してるの。みんなあなたのことが心配でここに集まってたの。
私はエミリーで、DGのお友達。気が付いてよかったね」
「あぁ、君がエミリーなんだね。こんなカッコでごめんね、スギって言います」
「うん、これから仲良くしてね。じゃ、DGのトコ行くね」
そう言うとエミリーはDGとアンナのところに行き、一緒にハグしてもらうのだった。

ベッドサイドで立ち尽くすのhkに声を掛けるスギ。
「hkさん、俺…」
「…ん、あぁ、良かったなスギ。意識が戻って」
「はい…。変な夢見ました。深い谷みたいなところに、ゆっくり落ちて行くんです。
そしたら誰かが俺の手を引っ張って、今度はゆっくり登って行くんです。
上の方は眩しくて、誰が引っ張ってくれてるのか見えなくて。だんだん眩しくて目も開けていられなくなって、気が付いたらココに…」
「…」
「おかしな言いますけど、あれは天使様だったのかな…」
「…なぁ、スギ」
「はい?
「おいおい話すけど、俺も天使は、いると思うよ」


−サンフランシスコの天使− 完
たっぷりと時間をかけ首筋に熱いお湯を浴びた後
湯気と共にヴィック・ユッキーがシャワールームから出てきた。

6:25AM

バスローブを羽織りまっすぐキッチンに向かい
冷蔵庫からハンドルね付いた1ガロンのミルクボトルを取り出すと
背の高いグラスにミルクをたっぷりと注いだ。




整えた髭、オールバックの短めの髪。
白い清潔なオックスフォード生地のボタンダウンシャツにネイビーのニットタイ。

ライティングデスクの椅子の背に掛けた
ギャルコのショルダーホルスターを身に付け
デスクに置かれたベレッタPX4を挿し込んでジャケットを羽織った。

M92FSから持ち替えたPX4は去年行われた
ファーミントン分署のトライアルな中の一挺で
好みのうるさい彼の琴線に触れる所があり
テストガンをそのまま使い続けている。


スリムでタイトに見えるが動きを損なわないグレーのスーツは
ファーミントンで一番古いテイラー「キングストン」で仕立てたものだ。

キャリーした銃は余程注意して見ない限り、全くシルエットには出ない。
幾分体格が増した様に見えるのは
このコンシールメントの効いたスーツのせいで
長年トレーニングで作り上げた身体は
50を超え筋力の衰えこそあるが斬れ味は未だ健在だった。



自宅のドアを出てポストの中にたまっていた郵便物を手に
ポーチに停めた車に乗り込んだ。

ダークブルーの2003年型BMW320i

グランドチェロキーを潰してしまった後
押収品車両から貸与され10年乗っているが
外装は疲れが見えてきたが本人同様
中身はエンジン、足回り共、絶好調だ。

直列6気筒エンジンに火を入れ暖気運転をしながら
郵便物に目を通すとオハイオ消印の絵葉書に目を留め
特徴的な左の口角をあげニヤリと笑い目を細めた。

広大な農場を背景に褐色の肌に真っ白な歯を見せ
綺麗なアジア系の夫人と共に小さな娘を肩車した写真ハガキ。
タウリアン・ベネディクトからだ。

彼がオハイオでファーマーとなった年にタバコを
やめた訳だからもう7年になる。
歳と共に時間の過ぎ行く早さに驚かされる。

ユッキーは首を振りながらシフトレバーをドライブに入れ
ゆっくりと車を走り出させた。


毎朝ファーミントン分署まで10分程の間を
警察無線を聞きながら走らせているが
この数年はファーミントンもだいぶ大人しくなり
この時間の現場直行はだいぶ稀になった。

ガレージにクルマを入れクルマを降りる頃あたりから
ナイトシフトのパトカー連中が続々と戻りはじめる。
制服の若手達が親しげに敬礼しながら
口々にユッキーに声を掛ける。

"O Captain ! My Captain !"
(おぉ船長!我が船長!)

ユッキーはニヤリとその言葉に敬礼を投げ返す。

このウォルト・ホイットマンの引用句は
ファーミントン分署のお約束となっていた。




改築に改築を重ねながらも建ち続ける古い教会を流用したファーミントン分署の吹き抜けを通り過ぎると
事務方のオールドミス、イブリンが気だるそうな甘い声を掛けてきた。

「ハァイ、キャプテン、マイ キャプテン?」

「ハイ、イブリン?今日もステキな髪だね」

「ユッキー… からかわないで。外線1番に副本部長よ」

「やれやれ、コーヒーも飲めないじゃないか。オケィ、部屋で取るよ」

「あまり待たせないで」


ユッキーは部屋に入ると上着を脱いでコートハンガーに引っかかると
コーヒーメイカーからマグカップにコーヒーを注ぎ
カップを手にデスクに着くとまずはゆっくりとコーヒーを啜り一息ついた。

そして、両足をデスクの上に投げ出して
リクライニングチェアに身を預けながら受話器を取る。

「悪い、待たせたな、キク。どうした?」


JFK空港ターミナル1

久し振りに吸うNYの空気を胸に溜めながら
スギは感慨深げに周りを見回していた

到着ゲートから次々に出てくる旅行客を見ながら
NYに初めてやってきた10数年前を想う
あれからもうそんなに経ったのか…
道理で俺も年を取るわけだ
腹周りについたぜい肉を無意識につまみながら
自嘲気味に嗤う

「課長代理!お待たせしました!」
日航のインフォメーションカウンターから
今回同行してきた部下が戻ってきた
機長託送の荷物を取りに行っていたはずだが
手には既にレンタカーのものらしきキーを持っている
仕事が早く気も利く部下を持つと上司は楽だ
俺の若い頃は、鳩村さんや大門さんに迷惑ばかりかけていたっけなぁ

部下に促されてキャリーケースを取ると、
到着ロビーの出口に向かった
ここから市内まで、大体30分くらいというところだろう

************************************************************

NYPD本部、通称ワン・ポリス・プラザは
古巣の所轄からそう遠くないマンハッタンの中心部にある
ここでの合同会議が今回のNY訪問の目的だ
近年、暴対法の締め付けによって国内での
シノギを失ったヤクザたちが、マフィア化して
アメリカ国内でも暗躍するようになった
NYも例外ではなく、経済ヤクザが企業に
大分食い込んできているという
自分の任務は、先に来ている組織犯罪対策部の担当者を
補佐しつつ、市警との連携で効果的にヤクザを追い詰める
ためのネットワーク構築を進めることになっている


会議は滞りなく終了した
持参した、海外進出に熱心なヤクザ組織の構成員リストが
相当お気に召したらしい
会議室の前で握手を返していると、ふいに後ろから
声をかけられた
「スギ刑事?スギさんじゃないですか!」
振り返ると懐かしい顔がそこにいた
元連邦麻薬取締局・NYタスクフォースのダン捜査官
今は転職してNYPDの組織犯罪対策局で薬物対策部長に
就任したことは、Facebookで知っていた
白いシャツに2つの大きな星が着いたバッジがまぶしい

『いやぁ、ダンさん…じゃないダン警視長どのでしたね!
 本当にご無沙汰しています、お元気そうで何よりです!』

ダンは笑いながら頭をかいた
「あはは、いやだなぁ。昔通りダンさんでいいですよ!
 スギさんこそ出世したと聞きましたよ、今回も日本の
 代表で来られたんでしょう?」

「日本の代表だなんて!僕は警視庁…メトロポリタン
 ポリスデパートメントの一職員として来ただけですよ。
 昔お世話になったご縁で伺ったまでです』

ダンはクスリと笑うとスーツの胸ポケットに挿さっていた、
スギの警察手帳をスルリと抜き取った
扁平なシールド型のバッジをひっくり返すと、スギの
顔写真入りのIDカードをしげしげと眺める

『ほら、インスペクター(警視)になってる!
 日本の警察は昇進するのが難しいと聞きました、
 さすがですね!』

「いやそんな大したもんじゃなくて、たまたまですよ」

大汗をかきながらスギが手帳を取り返したところで部下が
声をかけた

「課長代理、大丈夫ですか?」

『課長代理?』

「国際捜査課ってのがありまして、そこの課長代理を
 やってるんですよ」

ダンの問いに照れながら、仕方なしにスギは話した
ダンはにんまりと笑うとスギに握手を求める

『あなたの日本人らしい緻密な捜査技術と、サムライらしい
 大胆な捜査技法は私も目の当たりにして知っています
 しかもあなたはNYやDCで悪漢たちを相手に一歩も
 退かなかった、インターナショナルインベスティゲーション
 には最高の人材だと思います』

「やめてください!…部下の前ですから…」

照れながら差し出されたスギの手をしっかりと握ると
ダンは思い出したように聞いた

『そういえば、アリのところには…?』

スギの表情が若干硬くなった

「ええ、今日はこの後少し時間が取れそうなので…」

『そうですか、僕もしばらく会いに行ってない
 …よろしく言っておいてください』

ダンはそういうと自室へと帰って行った
スギは軽い溜息をつくと、待っていた部下を促して
エレベーターホールに向かった
帰国命令は突然だった

あの当時、DCPDで相変わらず重大事件対策班として
悪い奴を力ずくでひっくくる毎日を送っていたスギは
ある日突然連邦捜査局(FBI)に呼び出された

そこで日本国警察庁のDCでの最高位である連絡官から
直ちに帰国する旨の辞令を示されたスギは驚愕した

「なぜです!?なぜ急に!?
 あと3年の期間はあるはずじゃないですか!?」

連絡官はにべもなく、辞令に従うよう述べただけだった
憤懣やるかたないスギはぶつける宛てのない憤りを
抱えたまま、久しぶりに古巣に連絡をした

そこでスギは再び驚愕することになる
国際テロリストとの戦いで鳩村が重傷を負ったのだった
幸い命は取りとめたものの、しばらくは現場に復帰できない
大門も定年を迎えており、エスカレートしながら相次いで
発生する凶悪事件に対処することは今の西部署のメンバーに
とってかなり難しくなっているという

「なぜ!?なぜすぐに教えてくれなかったんです!?」

『スギ、それは言うな、団長の意向だ
 海外で活躍しているお前の話を、団長は大使館経由で
 しっかり聞いてたんだ、ずっとな
 スギの足を引っ張りたくない、だからお前への連絡も
 あえて取っていなかったんだ、察しろ』
先輩刑事の言葉が重くのしかかる

しばらく重大犯罪対策班の机を眺める時間が続いた
パーテーションの向こうでは少し前から様子のおかしい
巡査部長が、これまた机を眺めて動かない
この人を置いて帰国したら、この街の治安は、一体…

悩むスギの肩を叩いたのは、いつものごとく警部の
ハーグローブだった

『こっちのことは気にするな
 元々お前が守ってた街から頼りにされたんだろ?
 なら帰らないでどうする?
 この街はお前が来る前から俺たちが守ってる
 正直お前が抜けるのは痛いところだが、
 なぁに、DCっ子はそれほどヤワじゃない
 しっかり守って見せるさ
 さ、帰んな帰んな』

そう優しく笑みを浮かべながら言うハーグローブに
スギは涙で応えることしか出来なかった


かくしてスギは1年半の出向生活を終え、帰国の途に就く
ことになったのだった
西部署の新しいリーダーになる使命を胸に
クイーンズ郊外

緑の木々に囲まれた小径をスギは歩いていた
部下は車の位置に置いてきた
これからすることはあくまで私人としての行為で
部下を巻き込むようなことではない

2ブロックほど歩いたところで小径を外れ、
芝生を踏んで歩く
針葉樹の影がやさしく被さるところに、
目的のものがあった

そこそこの大きさの墓石
ライトグレーの碑面にはそこに眠る男の名と
NYPD警部のバッジの意匠が彫り込まれていた

スギは右手の花束を傍の針葉樹の根元に置くと
左手で持ったバケツからぞうきんを取り出し、
墓石を優しく拭い始めた
表も、裏も、側面も、まるでその墓に眠る男の
身体を拭うかのように、優しく、しっかりと

ひとしきり拭うと、バケツにぞうきんを放り込み
立てかけてあった花束を墓石に手向ける

墓の前にしゃがみこむと、感慨深げに墓を見つめる
目の前の四角い墓標が、まるで生きていた時の彼
かのように思える
スギは仏教スタイルに掌を合わせると、軽く念仏を
唱えた
「逝くのが…早すぎるっすよ…」
…といったところで目が覚めた。
『…夢、か。アレ、誰の墓だったんだろう。まさかアリさんじゃないよな? それにしても、オレ警視とか言われてたな。随分エラくなってたけど俺なんかノンキャリアだし絶対ムリだって。それに…』

ホノルル市警察の留置場で俺・スギは居眠りから目が覚めたのだった。最近とみに図太くなって、行き倒れ状態でも硬い床の上でも、果ては留置場の薄汚れたマットでも構わず熟睡できるようになってしまった。

『現職の警察官が留置場にぶち込まれたんだし、正直こりゃ生きて帰るのも難しい気がするな…。まぁ、覚悟の上であれだけのコトをやらかしたんだし、仕方ないわな』

むっくり起き上がって溜息付いていると、誰か来たようだ。看守に声を掛けて俺に面会だと言っている。

「NYPDのスギ刑事ですか? 私はFIVE-0のマクギャレット少佐で、こっちはウィリアムズ刑事。昨日あなたがワイキキのカーナハン邸で大暴れした件、経緯を話してもらえますか?」
DCPDからNYPDに転属、というか復帰したのは2ヶ月前の話だ。
所属していたMCU(メジャー・クライム・ユニット。重犯罪特捜班)が解体され、俺みたいな鉄砲玉がいられる場所がなくなったため、元のニューヨークに戻ることとなった。

MCU解体の直接の原因は、俺とコンビを組んでいたサージャント・スワガーが退職して、新たな人生を送るコトになったので、俺みたいな鉄砲玉をDCPDが持て余し始めたからだ。これからは穏健路線で行きたいDCPDにとって、MCUの存在はピンの抜けた手榴弾と同じなのだ。

スワガーはというと、ミハイルとの対決以降、やはり軍の仕事に己の存在価値を見出して再志願、再び最前線へと向かったのであった。

いつかまた、どこかで会うだろうと言いつつ、C130に乗り込んで行ったスワガーの笑顔を、MDUのメンバー全員で見送ったのが昨日のことのように鮮明に覚えている。

責任者のハーグローブ警部も、警視に昇進して警備局落し物相談センターのセンター長という、まさに退職までの閑職部署へと異動して行ったのだが、これはコレで結構楽しいらしく、それはソレで結構なコトであった。
かくして、俺は厄介払いのさらに厄介払いで、NYに戻って行ったのだが…
「NYPDのスギ刑事ですか? 私はFIVE-0のマクギャレット少佐で、こっちはウィリアムズ刑事。昨日あなたがワイキキのカーナハン邸で大暴れした件、経緯を話してもらえますか?」

「大したことじゃない、NYに戻るつもりが、DCPDのお偉いさんと結託して元相棒がかかわってた捜査の決着をつけてこいって言われてここまできたのさ。カーナハンはおれの元相棒が追ってたやつでね、ホノルル市警の汚職にかかわってたらしいんだ。相棒は結局証拠はつかめなかったけど、おれは奴がやったと思ってる。昨日もそれでひと暴れしたのさ」
「私たちもそう思ってます。我々の仲間だったチン・ホーもその容疑をかけられて退職しました。ここは一つ手を組みませんか?」
「そうだな、NYに帰っても今は寒いだけだし、しばらく厄介になるかな・・・」
「それに、ホノルル市警にはあなたを知っているっている人もいますよ」
「おれを?誰だ?」
「ええ、ここに一緒に来てます。」

留置所のドアからビーサンをパタパタ言わせながら入ってきたのは、日焼けして首からホノルル市警のバッジを下げたhkだった。
「よー、スギ」
「えええー、なんでいるの? つかすっかりなじんでるし!」
「や、SFでここの警部のアンディと知り合ってね。こっちで汚職事件の捜査に手が足りないっていうんで、出向依頼でっち上げてもらって刑事待遇で来てたのよ。あったかいとこはいいねえ〜。飯もうまいしみんなのんびりしてるし。 唯一面倒なのはつるしのグロック17使えってアーマラーがうるさいんだよねえ。おれフルサイズのグロックで、しかもカスタムしてないのは嫌いなんだよ。だから昔のイシューのS&Wオート勝手に武器庫から持ってきて使ってるけどね」
「HPDはグロックか〜〜アタシもグロック17は相性悪いの。あんなに壊れにくい銃が、なぜかアタシが撃つとこわれちゃう」
「なんだ、だったらスギもS&Wにすれば」

やりとりをじっと我慢して聞いていた5−0の二人がおずおずと口をはさんだ。
「えー、続きは本部でやりませんか?」
スギはhkと顔を見合わせて頷いた。
「OK,じゃ情報共有といこうか」

4人はホノルルの市庁舎に向かって歩き始めた・・・・


NYは寒いなどと言ってはみたものの、復帰してから2ヶ月ちょいで5回も査問委員会に掛けられていた俺だった。

NYPDも制式採用拳銃しか使用出来ず、相性の悪いグロックがメインなのだが…。
昔ユッキー部長刑事も言っていたが、グロックのグリップは角度があり、普段使っているブローニング・ハイパワーと同じように照準するとどうしても上に射線がズレてしまう。

狙って撃つ分には問題ないが、咄嗟の抜き撃ちの際に肩を狙って撃ってるつもりが、ヘッドショットになってしまい、復帰以降の発砲回数15回に対し、咄嗟の反撃で10人をヘッドショット。

その結果、5回の査問である。

5回目の結果、しばらく休職ということになり、やるコトもなく部屋で腐っていたところに、かつての相棒、スワガーが携わっていた事件が動き出し、決着を付けてくれとハーグローブ警部から連絡があったのだ。

そして俺は、空路ハワイに向かったのであった…
1月の凍てつく雨の夜、DGは187の通報を受けロシアンヒルの裏路地に覆面車を停めた。
重い足取りで車を降りると、レインコートを羽織った巡査が差し出すクリップボードにサインを殴り書き、規制線をくぐって現場に入った。
すぐ先には臨時の相棒ハンター巡査部長が神妙な顔でDGに両手をかざした。
ハンターは35歳のアフリカ系で、自動車盗難課で4年務めた後、2か月前にサラの後任として赴任したのだった。
なかなかガッツのある男で、口よりも手を動かすというDGとは正反対の性格ながらも不思議とウマが合った。
「DG、見ない方がいい」
制止するハンターの後方には、防水シートが掛けられた遺体と思しき膨らみが路傍にあった。
DGはハンターを無視してその傍らにしゃがみこみ、雨が黒い染みとなったジャケットの胸ポケットからパーカーのクロムペンを抜き出し防水シートの端を持ち上げた。
シートの端から雨水が滴り落ちる。
その奥には小さな遺体があった。
物言わぬ小さな遺体が。
「クソォ!!」
悪態をつきながら規制線の外に出ると、近くにあったパトロールカーのドアを思いきり蹴飛ばす。
「ファック!! シット!! サノバ...ビッチ!!」
叫びながらドアを蹴るDG。ドアに貼られたSFPDのマークが醜く歪む。
「やめろDG!!」
ハンターが羽交い絞めにして制止する。
肩で息をしていたDGだが、やがて冷静さを取り戻しハンターに詫びた。
「すまない...」
「いや」
言葉少なにうなだれるDGの肩に手を置く。
ハンターは数年前にDGが刑事を辞めようとした事件のことをロドリゲスから聞いていた。
あの事件以来、DGは子供が被害者になる事件を担当すると不安定になることが多くなった。
エミリーを養女にするのに制度上の問題があり、そのこともストレス要因のひとつとなっていた。
しかし、赴任して間もないハンターに捜査主任を任せる訳にもいかず、当番週にこの手の事件が起きたことを恨まずにはいられなかった。
CSUの証拠採集はひと段落していたので、現場をハンターに任せてDGはCSUの夜番の主任リーに話を訊くためにラボに向かった。
どうしても事件現場を冷静に見ることができなかった。
雨は小降りになっていた。
CSUのラボでリーからの報告は現時点では至極簡単なものだった。
所持品はなし。
容疑者の遺留品と思われるものもなし。
衣服に大きな乱れはない。
現場が雨だったために証拠が失われた可能性が高く、足跡やタイヤ痕も採取出来ななった。
法医学的所見は司法解剖の結果を待たねばならない。
恐らく明日の午前中になるだろう。

DGは殺人課に戻ると失踪人データベースとアンバーアラート(未成年者誘拐、行方不明警告)の検索を始めた。
CSUの報告から、女性、身長4.5フィート、体重51ポンド、白人、ブロンド、目は青、推定年齢8〜9歳。
脳裏にエミリーの顔が浮かぶ。
雑念を振り払って検索結果を見ると、失踪人はカリフォルニア州で14件、アンバーアラートは1件確認できた。
優先順位からアンバーアラートの情報を確認する。

アリシア・ボロディン 8歳。
住所は現場から6ブロックだ。
アラートが出されたのが昨日の20時15分。
母親によると、夕食後買い物に近所のコンビニエンスストアに出かけたきり帰らないとのこと。
添付された顔写真も被害者によく似ている。
「ハンター、この子じゃないかな」
モニターの画像と写真を見比べハンターが頷く。
「FBIに状況を報告してくれ。それからボロディン家へ向かおう」

時刻は夜の11時を回っていた。
ボロディン家は坂道の合間の古い木造の平屋で、比較的治安の悪い地域だった。
ポーチの前に車を停め、DGとハンターは軋む低い階段を上って玄関のチャイムを鳴らした。
しばらく待ったが反応がなかったのでハンターがドアを叩いた。
やがて奥から人の気配がしてドアが2インチほど開き、奥から不安そうな目が覗いた。
ハンターが、
「奥さん、夜分申し訳ありません。サンフランシスコ市警察の者です。娘さんの件でお話があります」
と努めて事務的な声色で切り出した。
子供が失踪した家に夜中に警官が来たのだ。
夫人の顔に絶望とも諦めともとれるような複雑な表情が浮かぶ。
夫人は2人を招き入れ、おぼつかない足取りで寝室に主人を呼びに行った。
部屋の中に充満するタバコとアルコールのすえた臭いが鼻を突く。
DGは壁紙に目を留めた。
ヤニで茶色く変色していたが、ところどころ雑巾で拭き取った跡があった。
破れたソファから変色したスポンジが飛び出し、テーブルにはウィスキーの瓶が倒れていた。
子供の写真ひとつ飾られていない。
およそ子供が生活していた空気が感じられないのだ。
6歳の男の子の父親であるハンターも同じことを感じ取っていた。
やがて、奥からだらしない恰好をした大柄で腹の出た男が夫人を伴って出てきた。
DGが切り出す。
「ボロディンさん、夜分申し訳ありません。私はディジョルジョ刑事、彼はハンター巡査部長です。市警の殺人課の者です」
DGは「殺人課」と告げられた際の2人の表情の変化を注意深く観察していた。
亭主のアンドレイは一切表情を変えず、妻のマリアはギクリと身を僅かに萎縮させたように見えた。
「実は2時間ほど前、ここから6ブロック離れた路地で娘さんとよく似た背格好の遺体が発見されました。
出来れば写真を見ていただき、娘さんかどうか確認をお願いしたいのですが」
アンドレイに現場で撮影された顔写真を見せると、彼は表情を変えぬまま無言でマリアにも見るように促す。
マリアは写真を見ると両頬に涙を流しながら小さく頷く。

DGとハンターは明日2人に遺体の確認と、その後の事情聴取のために迎えを寄こすと告げその場を後にした。
HQに帰る車内でハンターが口を開く。
「どう思う?」
「お前の考えてる通りだろうな。司法解剖の結果と近所の聞き込みで令状が取れるだろう。
とりあえず帰ったらあの夫婦のデータを洗おう」
翌日、ロドリゲスのオフィスのドアを閉め、DGがデスクの前の椅子に座る。
ハンターはモルグでボロディン夫妻の遺体確認に立ち合っていた。
今日はロドリゲスが物を投げてもキャッチする者はいない。
「報告を聞こうか」
「被害者はアリシア・ボロディン 8歳。検死によると死因は打撲による多臓器不全。
脾臓は破裂していました。性的被害の痕跡はありません。
発見時に死後22時間から26時間が経過しています。雨により正確な診断は難しいようです。
現場は人通りの少ない路地です。
アンバーアラートからおよそ24時間後の通報です」
椅子に背を預け、目で続けろと促すロドリゲス。
「ドクターによると骨折が治癒した痕跡が数か所あるそうです」
「虐待か」
「恐らく。FBIによるとアンドレイとマリア夫妻は過去に3人養子を迎え入れています。
1人目は5年前にクリーブランドで交通事故死、2人目はデンバーでハイキング中に転落死しています。
3人目のアリシアは1年前に転居先のサンフランシスコで養子縁組、近所ではアリシアを見かけた住人は少ないようです」
「補助金目当ての殺害か?」
「可能性は高いでしょう。それに虐待は彼の趣味でしょう」
「DG、お前大丈夫か?」
「hkがいれば心強いですが、ハンターも使えます。大丈夫です」
「いや、そういうことじゃないんだが、まぁいい。マスコミが騒ぐ前に早く片付けろ」
「了解」

数時間後、インタビュールーム1。
DGの向かいにはアンドレイが座っていた。
アルコールとニコチンが切れかけているのか、落ち着かない様子で微かに冷や汗をかいていた。
DGは冷たい声で話し始めた。
「ボロディンさん、アリシアの死因が判明しました。腹部打撲による多臓器不全です。
なにか心当たりはありませんか?」
「...ない」
「それでは昨日の夕方から夜にかけてのあなたの行動を聞かせてください」
「オレを疑っているのか?」
「形式通りの質問です。お聞かせいただけませんか?」
しばらくDGの顔とデスクの上で組み合わせた手を交互に見ていたアンドレイだったが、
「弁護士を呼べ」と言ったきり口をつぐんだ。

インタビュールーム2。
マリアに紅茶を差し出し、ハンターが優しく声をかける。
「ボロディンさん、このたびはお気の毒です。心からお悔やみを申し上げます」
マリアはうなだれるだけだった。
「アリシアちゃんがいなくなった時の状況を詳しく話していただけませんか?」
マリアは答えなかった。
ただ下を向いて座っているだけだった。
ドアが開きDGが入ってきた。
「旦那は弁護士を呼んだよ。この意味が分かるな?
これから女性の巡査を呼んで、あんたの身体を調べさせてもらいたい。
その首筋のアザを特に念入りにな」
マリアははっと首に手をやった。
アザなど最初からない。DGのハッタリだ。だが図星のようだった。
「もちろん令状がない以上任意でということになりますが、拒否された場合は令状を取ることになります」
なだめるようにハンターが促すとマリアはポツリ、ポツリと話し始めた。
「あの子は大人しい子でした。
あの人に殴られても泣きわめかずに、嵐が通り過ぎるのを待つのが一番利口なやり方だと分かっていたんです。
昨日もそうでした。
酒に酔ってアリシアを殴ろうとしたので私は止めようとしたんです。
私は彼に投げ飛ばされ壁に頭を打って気を失ってしまったんです。
気が付くとアリシアが私の体の上で動かなくなっていました。
彼は言いました。
私を殴るのをアリシアが止めようとしたのでいつもより強く殴ったと。
彼は動かなくなったアリシアを抱えて外に出て行きました。
30分後、彼はひとりで帰ってきました」
「今の話を供述書に書いてサインできますか?」
ハンターの問いに静かに頷くマリア。
DGは部屋を出ると力任せに壁を殴って嗚咽した。

その後、弁護士との取引の結果、アンドレイ・ボロディンは第2級殺人で州刑務所での懲役25年を飲む代わりに、余罪の追及を免れた。
余罪の捜査は他の捜査機関との不要な軋轢を生むとして、地方検事が捜査の打ち切りを決定したのだ。

DGは2週間ぶりに児童保護施設を訪れた。
玄関前には寒いのにもかかわらずエミリーが足踏みをしながら待っていた。
エミリーはDGの姿を見つけると勢いよく走り寄り、しゃがんだDGに満面の笑顔で抱きついた。
ふとDGの右手に巻かれた包帯に気付く。
「どうしたの?」
不安そうに見上げるエミリーの頭を優しくなでながらDGは答えた。
「なんでもないよ、ありがとう」

サンフランシスコの鉛色の空に、雪がちらちらと舞っていた。

fin.
そういえば、確かDCに転属前に警部補になったはずなのに、復帰してからもらったバッジはディテクティブだった。長いこと留守にするようなヤツに警部補はもったいないというトコだろうか。
かつての相棒、スワガーが追っていたという、DCPDとホノルルPDに跨るお食事券。じゃないや、汚職事件。
俺がDCPDに行く前から追っていたらしい。この数年は大人しく影を潜めていたようで、尻尾を現さなかったようだ。
俺がDCPDに異動した後は、MCUとしての任務が忙しく、ヤツらも影を潜めていたため、内偵は継続するも何も掴めなかったと、ハーグローブから聞かされた。

そして月日は流れ、スワガーは軍に復帰、MCUは解体されて、俺はNYPDに復帰となったのだが…
スワガーが居なくなったのを契機に、またヤツらが動き始めたらしい。

ヤツの名はジェフ・カーナハン。ハワイの資産家で、政界にも顔が効くという。島の有力者でもあるだろうから、ホノルルPDにももちろん顔が効くのだろう。
ハワイで麻薬を精製し、それをホノルルPDからの直行便でDCに送る。DCPDの担当者がそれを受け取り、足がつかないよう様々な手を使って街の売人に届き、ヤク中がそれを買うという流れが出来上がっていたらしい。
俺が行く前のMCUで一人の刑事が内偵し、あと一歩手前というところで消されてしまったのだが、今際の際にその刑事が遺した言葉が、ジェフ・カーナハンだった。

その名前を頼りにスワガーが調べ上げ、浮かび上がったのがハワイの実業家だった。
いろいろと内偵を進めたが、結局尻尾を掴めず今に至り、最近またDCではハワイ辺りからの麻薬が流通しているという。

何年か世話になった街が悪党の小遣い稼ぎのヤクで汚されるのは我慢ならない。
どうせこちとら査問を受けて休職中の身、せいぜい頑張ってみるさと、ここハワイの地に降り立つ俺であった。
「・・・でも、コカインやアヘンなんかのハードドラッグの産地は南アメリカとか、アフガニスタンだろ?ハワイで精製しているていう話は聞かないなあ。ハワイで流通してるのは観光客向けのハッパとか、ケミカルなセックスドラッグとかじゃないの?」と、マグロのポキ丼をぱくつきながらスギがhkに聞いた。
hkは「そのポキ丼、うまいだろ?ニコスピアって店で、シーフードがうまいんだ。で、おれも調べたんだけど、ハワイで出回って、DCに流れてるのはハードドラッグじゃないんだ。さっきスギが最後に言ったケミカルドラッグでね、こんなものはセックス中毒のやつらかクラブ通いのガキどもしか使わないと思ってたけど、ダウナー系で筋弛緩作用があるものがDCに流れてるらしい。理由が傑作でね。」
hkは話しながら、ビッグシティ・ダイナーで買ってきたロコモコとガーリックシュリンプのコンビネーションプレートに取り掛かった。
「理由って?」
「DCやボルチモアあたりは政治屋が多いだろ?奴ら普通の女に飽きて、男同士でやってるんだよ。まあ政治屋なんてどこでも同性愛者や小児姦とかばっかりだけどな。その時に筋弛緩作用のあるドラッグを使うと、まあ要するにスムーズにできるらしいんだな。」
「ケツが緩むってことね」
「そういうこと」
「さすがhk、同性愛に造詣が深い」
「・・・ヲイ」
話しながら食事を終え、箱に入ったマラサダをぱくつき、コナコーヒーで流しながら、椅子の背にもたれかかってスギが口を開いた。
「で、どこからあたる?おれはきたばっかりだから何もわからんよ。」
「そこは任せてくれ。作ってる場所の見当はだいたいついてるんだ。ちょっと遠いけど、オアフフォレストの動物保護区に潜んで、最近増えたホームレスを雇ってコミューンを作ってるやつがいる。そいつのコミューンの知り合いがケミカルドラッグをつくってるらしい」
「OK、さっそくいってみるか」
「途中でサイミン食ってこうぜ。リケリケ・ドライブインかカリヒのブールバードサイミンか・・・」
「食い物の話っていえば、DGはなにしてんの?」
「まだSFさ。子供殺しを追って頭に血が上ったとか・・あ、ちょっと待って」
hkは側にあったパソコンを操作し、なにかデータを打ち込んだ。
「どうした?」
「や、SFカウンティの性犯罪者データベースで、市民がそばに性犯罪者がいないか見られるんだけどここにいつもDGのデータを入れとくのさ。1週間くらい前に電話で話したら、カンカンに怒ってたんでここはいじり甲斐があると思ってさ。”消しても消してもおれの名前がデータべースに載るのはどういうわけだ!”っていってたけどねwwwww」
「君らは仲がいいんだか悪いんだか・・・俺には理解できん」
「まあそのうちこっち来た時にロコモコでもおごってやれば機嫌なおるだろうさ」
スギとhkをのせた車はサイミンレストランに向かって走り始めた・・・・
「知ってるか、ハンター。口の中にはうんこ10g相当の細菌がいるんだぞ。つまりお前の口の中にはうんこが20gあるってわけだ」
「なんで倍なんだよ。つか朝一番で相棒にする話がそれか?」
「殺人課の伝統だ。覚えておくんだな、HAHAHA」
いつものようにデスクに就くなり馬鹿話に興じていたDGとハンター。
ふいにロドリゲスのオフィスのドアが開くとDGは反射的に部屋の出口に向かう。
「DG! ちょっとこい!!」
渋々出口へ向けた足をロドリゲスのオフィスに向ける。
脇ではハンターがニヤニヤしながらロドリゲスのオフィスへ上向きの手のひらをうやうやしく向ける。
くそと小さく悪態をついてオフィスに頭だけ入れるDG。
「なんすかー」
「ちゃんと入ってドアを閉めろ」
後ろ手でドアを閉めて椅子に腰掛ける。
「…」
「イヤです」
「まだ何も言っとらん!」
口を開きかけたところで出鼻をくじかれてやや血圧が上がったロドリゲスだが、ふぅううと大きく溜息をついて切り出した。
「DG、精神鑑定を受けろ。今日の13時にジェリー先生の部屋だ」
「面倒だなぁ」
心底嫌そうな顔のDGを無視して続ける。
「この前の事件のこともあるからな。これは命令だ」
DGにはロドリゲスの親心が痛いほど分かっていたが、どうにも心の中を覗かれるようで精神鑑定は苦手だった。
しかし命令なら仕方がない。
「分かりました」
立ち上がってドアに手を伸ばすDGにロドリゲスが声をかける。
「くれぐれもこの前のようなことはするなよ」
ひらひらと手を振りながらオフィスを出るDG。
ドアが閉まると椅子に背を預けロドリゲスはもう一度大きく溜息をついた。
DGが直近でカウンセリング受けたのは7ヶ月前、銃撃戦の末、容疑者を射殺した時であった。DGの正当性はIAにより認めれたが、容疑者を射殺した場合はカウンセリングを受けるのが規則であった。その際、DGはなんとかカウンセリングをやり過ごそうと、あの手この手でジェリー先生を手こずらせた。最も酷かったのは、ジェリー先生が愛用していた黒ストッキングが30デニールであったのだが、DGは80デニールの素晴らしさを30分まくしたて時間切れにしたことであった。
今回はロドリゲスに釘を刺されたこともあり、DGと言えど真面目に受けざるを得ない。
副署長室の隣にあるSFPDの嘱託精神科医ジェリー・ハープトンの見晴らしの良いオフィスのドアをノックする。
ドアを開けると広々とした部屋の中央にソファとテーブルのセットがあり、その奥にははめ殺し全面ガラス窓の前に置かれたマホガニーのデスクで書類に目を通すジェリー先生が見えた。眼鏡を外しながらDGに笑顔を向け、ソファに座るように促す。ジェリーも向かいのソファに腰掛けると脚を組んだ。80デニールの黒いストッキングに包まれた美脚を強調し、自慢気にふんすと鼻を鳴らす。40代前半ながら、なんともチャーミングな女性だった。DGはどうしたものかと思ったが、つい憎まれ口が出てしまう。
「ええっと、太った?」
見る見る間に顔が赤くなり組んだ脚を戻すジェリー。やはり怒らせてしまったようだ。DGは好意を持つ女性をからかう子供染みた悪い癖があった。しかも図星を的確に突くのだ。アンナも何度となく被害を被っていた。
流石は精神科医という早技で平静を取り戻したジェリーは、開いたファイルに目を通しながらDGに話しかける。
「それではディジョルジョ刑事、カウンセリングを始めます」
前回のことがあるので警戒しながら続ける。
「今回担当した事件は大変だったそうね。今の気分はどうかしら?」
「先生の体重ほどは重くないです」
こめかみをひくつかせながら続けるジェリーに心の中でエールを送るDG。
「そう、それはなによりね。ところで今一番気になることは何かしら?ストレスになっている事柄を聞かせてもらえる?」
「そうですね、同居しているメルという娘なのですが、うんこのついた口で私の顔を舐める癖があるんです。愛しているので彼女の好きにさせているのですが、とても臭いんです」
「そ、そう。変わった趣味の女性ね。でもあなたが本当に嫌ならちゃんと話し合って解決した方が二人のためになるわ」
「努力してみます」
メルとは愛猫のことだが敢えて伏せておく。
「この前の事件から、何かあなたの中で変わったことはあるかしら?考え方とか習慣とか健康状態とかなんでもいいから」
「特には」
「アルコールは飲む?」
「週末にビールを飲むくらいですね」
「タバコは?」
「吸いません」
「カフェインは?」
「1日にコーヒーを5、6杯」
「ちょっと多いけど警官なら普通ね。ドラッグは?」
「いいえ」
「街で女性を買ったりはする?」
「しません」
「じゃあソファに横になって。このアイマスクをしてちょうだい」
「…」
「顔を赤らめて視線を逸らすのやめなさい」
DGはアイマスクをしてソファに横たわる。
「リラックスして。最近あった楽しかったことを思い出してみて」
「週末、新しい相棒のハンターの家に招待された。奥さんのアニーと、6歳の男の子アルフォンソと友達になった」
「続けて思い出して」

DGは夕食が出来るまでの間、リビングでアルフォンソと遊んでいた。
「凄いロボットだな、なんて言うんだい?」
「自由の女神ロボ!!」
「へ〜学校で流行っているのかい?」
「うん!!このスカートのなかからクラスターばくだんをはっしゃするんだ」
「へ〜すごいなぁ。他にはどんな武器を使うんだい?」
「クレイモアをつかうよ。てきがとおるばしょにおいておくと、たくさんのチョコボールがでてあなだらけにしちゃうんだ」
「へ〜ほかには?」
「わきのしたからマスタードガスがでるんだ。めをあけていられなくなるの」
「へ〜凄いなぁ」
「ひきょうなたたかいがとくいなんだよ!!」
そこにアニーから声がかかった。
「夕食が出来たわよ!」
それからDGたちの通称MDUが少しだけ有名になった事件の話や、ハンターの前の職場の話、アニーのママ友の話などで盛り上がり、夜が深まってからはコテージのベンチでハンターとビールを飲んで話した。
「今回は迷惑かけたな」
「いや、あんたの気持ちは分かるよ。オレだってあんた以上に」
そう言って庭に転がるオモチャを見やる。
「hkが復帰したらオレは誰と組むんだろうな」
「さぁな、警部が決めることだ。でもまた組めることもあるさ。お前は優秀だよ。誰とでもやっていける。それは保証するよ」
「ありがとう」
瓶をカチンと合わせビールをあおる。
「邪魔したな。楽しかったよ。料理も美味かった」
「アニーに伝えておくよ」
「アルによろしくな」

「DG」とジェリーが呼ぶ声で目が覚めた。どうやら眠ってしまったらしい。
「時間ね。これでカウンセリングを終わります」
「ありがとう先生。結果は?」
「ロドリゲス警部に報告します。なにかあったらまたいらっしゃい」

翌日、ロドリゲスのオフィスに呼ばれたDGは2週間の停職を言い渡された。しかも有給で。つまり強制的に休暇を取らされる形となった。どうやらロドリゲスがジェリー先生と裏で結託していたらしい。
2週間の停職を言い渡されたので、自分のアパートメントに帰るDG。たまにはまとまった休みが取りたいなあと思ってはいたが、急にこんなにまとめて休めるとなると、果たして何をして良いのやら。

もともと激しいデブ症、じゃないや出不精のDG、昼前だというのにネコをからかいつつ居眠りを始める始末。

昼頃、来客を知らせるチャイムが鳴り、目を覚ますと眠い目を擦りつつ玄関に向かう。
「ふぁ〜い、どなた〜??」
「ホワイトハウスから参りました」
聞き覚えのある女性の声。

若干混乱しつつドアを開けるDG。そこには大統領補佐官アンナ・ジョンソンが立っていた。大きなボストンバッグが傍に置いてある。

「何? 何? どうしたの? 平日のこんな時間に???」
「…口元にヨダレの跡付けて、また真っ昼間から寝てたのね。まぁいいわ、出掛ける支度を早くして。あと一時間でチャーター機が出発するわ」
「???」
「あなたに召喚状が出てるのよ、それも大統領のサイン入りの、ね」

「しょ、召喚て、どこに?」
混乱の極みに達するDG。その顔を見て思わず吹き出し、悪戯っぽい微笑みを浮かべるアンナ。
「どこって…ハ・ワ・イ♬」
「は、ハワイexclamation & question 大統領の名の下に、ハワイに召喚されるってかexclamation & question
「あなたが停職中の2週間、ハワイで好きなように過ごすこと、という召喚状がコレね。あともう一通あるから、自分で目を通して」

アンナから渡された2通の封筒。一つはマクナイト大統領からの【召喚状】で、直筆で『休暇を楽しめ。アンナとお嬢さん、それに既にハワイにいる相棒にもよろしく』と書かれていた。

もう一通は…
エミリーが預けられている児童保護施設の施設長に宛てられた、やはり大統領の署名入りの特別外出許可申請書。
その外出許可を受ける者の名は、エミリー・シェイファー…

こうしてDG、アンナ、エミリーの3人はハワイに向かうこととなった。メルを一人でウチに置いとくわけにいかないので、アンナが手配してくれたペットホテルに預けることにした。

既にハワイに乗り込んでいるhkとスギは、無事にスワガーの残した事件を片付けられるのか?
DGは昼行灯を決め込み家族?水入らずのバカンスを過ごすのか?

全てのカギはハワイに…
「ところで、スギさ」
「ん? どうしました? hkさん?」
「カーナハンの屋敷で大暴れしたって聞いたけど、何やったの? 皆殺し?」
「いやいやいや、皆殺しじゃハナシ終わっちゃいますよ。大暴れったって、誰も死んでないし、アタクシ一発も撃ってないですから」
「何やったのさ?」
「とりあえずホテルにチェックインして、バッジもチャカも全部部屋に置いてカーナハンのウチ見に行ったんです」
「ふむふむ」
「そしたら庭を作り変えるか何かで、ちょうど職人さんたちがマイクロバスでやって来たから、その集団に紛れ込んだんです」
「バレなかったの?」
「一人欠員がいたみたいで、ほとんどノーチェックで敷地の中に入っちゃって(笑)」
「…さすがハワイだな。それから?」
「ユンボ(ショベルカー)動かせるヤツがいなくて困ってるって聞いたんで、オレ動かせるよって言ったら、それじゃ頼むわって、ユンボ乗って」
「へ〜、スギはユンボ動かせるんだ」
「資格は無いけど、見様見真似で、ね」
「で、それからどうした?」
「ユンボ動かすのがすっかり楽しくなって、仕事忘れて2時間くらい真面目に働いちゃいました(笑)。カーナハンの庭がすっかりキレイになって」
「ダメじゃん(笑)」
「ダメダメですわ。で、仕事終わってユンボ片付ける時に、カーナハンのクルマにユンボぶつけちゃって。慌ててクルマから離れたら、今度はその横の噴水壊しちゃって」
「Mr.ビーンなんかで、よくあるヤツだな」
「そうそう、その例えピッタリ(笑)。またまた慌ててユンボ動かしちゃって、今度は屋敷に突っ込んじゃって」
「あ〜ぁ」
「そこでアタクシはユンボから引き摺り出されて、屋敷の使用人だかボディーガードだかに袋叩きにされて、警察に突き出されたと、まぁこういうワケですわ」
「…まぁ確かに大暴れかもな。殺されなくてよかったよ」
「2時間くらい真面目に働いてたんで、ホントに操作ミスってコトになったみたい。けど、ハーグローブのオヤジがFIVE-0にハナシ通してくれてたみたいで助かりました。ホノルル市警にアタクシの身分がバレてたら、恐らく今頃パールハーバーに浮いてましたよ」
「危ないトコだったな。ま、明日死ぬかもわからない身だ、死ぬ間際にアレ食っときゃ良かったなぁ〜、なんて思いながら死ぬのはヤダから、今を大事にしないとな」
「んだんだ。そろそろ目的の店ですね。とりあえず食うモノ食ってから、捜査続けましょ」
「おいおい…マジかよ?」

ヴィックユッキーは眉を八の字にして声を上げた

「あなたにしか頼み様が無いのは解るでしょ?」

LAPD=ロス市警本部。副本部長室の応接テーブルのソファに居心地が悪そうに腰掛けたヴィック・ユッキーの向かいには、
今年56歳になるとは思えない美貌とプロポーションに、白いブラウスとグレーのタイトスカートを身に纏ったモニカ・ローリング副本部長が、美しい脚を組んでソファに身体を預けていた。

その背後でモニカのデスクにもたれて立ったまま話を聞いていた
グレースーツ姿のユージーン・R・キクがニヤつきながら口を開く

「そろそろ一回りデカい仕事
したくなってきた頃だっただろ?」

ユッキーは「気楽に言いやがって…」
と言いたげに目を見開き、表情で返す。

ロスアンジェルスの南の端、ファーミントン分署の署長、キクは2週間前から市警本部に詰めてミーティングを繰り返していて不在がちだった。

ユッキーは朝一で、そのキクから電話で市警本部に呼び出された訳だが、イヤな予感はしていた。

市警本部では、新たに対凶悪犯罪タスクフォースの発足に伴い、ユッキーにはS.W.A.T.とストライクチームでの経験を活かし、当面のトレーナーとチームリーダーになって欲しいと言うオファーを持ち掛けてきたのだ。

このタスクフォースは市警察全体に及ぶアクセス権限があり、言うならばS.W.A.T.に捜査権を持たせた様なユニットになる訳だ。

無論、断る事も出来ず発足までの準備や人員の選出に追われる事は間違いない。

「こりゃまいったなぁ…いつから?」

「週明けからはこっちに出勤よ。
あなたの大好きなS.W.A.T.の隣りに
素敵な部屋を用意するわ。」

やれやれと首を振りながらも、仕事となればスイッチの切り替えは誰よりも早いユッキー。
企画書に目を通しながら数点の問題点や改善案をズバズバ切り出しはじめた。

推薦者である二人の上司は感心と共に呆れたような表情で顔を見合わせると同時に、このユニットが成功する確かな感触を感じ取っていた。

「ふぅ、これは大仕事だぞ…
安月給でやたらと使ってくれるぜ…」

と、書類に目を通し愚痴るユッキーを見ながらモニカとキクが目を合わすとモニカが目を閉じて頷く。
するとキクは寄りかかっていたモニカのデスクからクリアファイルと共にシールド型のバッジを手に取り
ユッキーに向けて差し出した。

「なんだよ、市警のバッジまで用意したのか?
…って、んんっ?!」

15年前まで使っていた懐かしいデザインの
シールド型バッジだが
ランクには「LIEUTENANT」と記されている。

驚いて顔を上げるとキクが語り出す。

「市警本部で偉そうな事言ってても大丈夫な様に
随分と気を使って下さったんだぜ?」

と、キクがモニカに向けて頭を傾げた。

「階級はLt.2に特進よ。
サラリーもだいぶ良くなると思うわ?」

「ワ…ワーォ…」



にっこり笑う二人だが、その笑顔の裏にある怖さを一番良く知っているのがユッキーである。



最近では少し緩んできた身体だったが、
また筋肉がバキバキになる事は間違いなさそうだ。
とりあえず今後のことを打ち合わせ、ファーミントン分署に戻るユッキー。腰にはルテナンのバッジが光っていた。

BMWを専用スペースに駐車し、分署の中に入る。と、受付のイブリンがユッキーに声を掛けてきた。
「あ、キャプテン。お帰りなさい。キャプテンにお話があるとかで、先程からあちらの紳士がお待ちかねよ」
と、イブリンが手を差し出した方向を見やるユッキー。待合の椅子に座りユッキーを笑顔で見つめる初老の紳士と目が合った。

視線が交わるのと同時に、ユッキーは全身にアドレナリンが駆け巡るのを感じた。
明るいグレーのスーツに白いワイシャツ、メガネを掛けた初老の男はまさに…

かつて激闘を繰り広げたロシアの双子。その兄、ユーリ・アレクサンドロポフだった。
ユッキーはそれに気付くや否や、左の懐に手を突っ込みベレッタPx4のグリップに手をかけた…
全てを見越したかのように、ユーリは笑顔のまま両手で『まぁまぁ』というように両手の掌をユッキーに向けて動かしていた。

『何だ…? ユーリのあの表情、まるで殺気など感じないし、あの笑顔ときたらまるで古い友達に久しぶりに会えた、そんな顔してやがる…』
ユッキーは右手を懐から出し、ユーリに歩み寄る。ユーリはアタッシュケースを膝に乗せ、膝の間に杖を挟んでいた。以前拳を交えた時と比べると、恐ろしく老け込んで見えた。変装という感じではなく、明らかに老けてしまったようだ。しばし見交わす目と目…

先に口を開いたのはユーリだった。
「…久しぶりだな、ヴィック・ユッキー」
「…久しぶりも何も、いきなりこんなトコ現れて、一体どういうつもりだよ? それにしても、随分老けたな。どっか悪いのか?」
「…はっきり言うなぁ。あんたは昔と全然変わってないな。俺たち兄弟は、あれからすっかり隠遁生活だから、カラダもココロも萎びたってワケだよ」
苦笑するユーリ。やはり敵意は感じない。

「今日は弟はどうした? まさかまた1キロ先から、俺のこと狙ってたりしないだろうな?」
周りを見回しながらユーリの隣に腰を下ろすユッキー。
「今日はミハイルとは別行動なんだ。…なあ、あんたのこと、ユッキーって呼んでいいか?」
「あぁ、いいよ。で? 弟と別行動で、一体こんなところで何してるんだ?」
もうユッキーはユーリを警戒していない。まさに全身全霊をかけて闘った対戦相手と、友人のような感覚を覚えていた。命を賭けて闘った者同士にしかわからない感覚なのかも知れない。

「ユッキー、あんたに話があって来たんだ。なるべく早く伝えた方がいいと思って、ね」
「…わざわざ危険を冒して、こんなところまで来て俺に伝えたいことか。聞かせてもらうよ。ここじゃ何だから、署長室に行こうか。署長は外出中だ。二人きりのがいいんだろ?」
ユッキーは立ち上がると、右手の親指を立てて2階への階段を示す。

「助かるよ。俺のこと、信用してくれて嬉しい」
そう言うとユーリは立ち上がり、左手で杖をついて歩き出した。

「何だ、右脚悪いのか?」
「前に痛めてな、後で事情話すよ」
「悪いがこの分署にゃエレベーターなんて無いんだ。そのアタッシュケース貸せよ。持ってやるよ」
「すまない」

そんなやり取りをしつつ、2階の署長室に2人は入って行った…。
「そこ座れよ。何か飲むか? 酒も少しは出せるけど?」
ユッキーはユーリにソファを勧め、持っていたアタッシュケースをユーリに渡し、自分は署長室備え付けのキッチンに向かう。

「…」
「どうした?」
「DCの空港のバーで、ミハイルにモヒート出すようにバーテンダーに頼んだの、あんただろ?」
「あぁ、そんなこともやったっけ」
「俺も一緒にモヒートをもらったんだが…」
「そうか、そりゃ悪いことしたな。あの時ミハイルの分しか金置いて行かなかったよ。お前さん酒飲まないみたいだったから、さ」
「いや、俺の分はバーテンダーが奢ってくれたよ」
「そっか、そりゃ良かったな。じゃ、オレ様お手製のモヒートでも飲むか?」
「いいね。頼むよ」

ユッキーもユーリも、互いにおかしな感覚の中にいた。古くからの友人とやり取りしているような心地良さを感じていた。

ライムと角砂糖をグラスにいれ、すりこ木棒などですりつぶす。
水分が混ざったら、ミントの葉を入れて軽くすり潰す。
氷とラム酒を注ぎ、混ぜる。
ソーダをゆっくり注いでから、全体をゆっくり混ぜてできあがり。

モヒートのグラスを2つ持って、ソファに腰を下ろすユッキー。ひとつをユーリの前に置く。

「さ、飲んでくれ。ユッキーお手製のスペシャルなモヒートだ」
「ありがとう。それじゃ、乾杯」
軽やかな音を立てて乾杯する2人。グラスの半分くらいまで飲み、グラスをテーブルに置く。呟くユーリ。
「…ひとつ夢が叶ったよ、ユッキー」
「夢?」
「あんたに負けた後から、ずっと思ってたんだ。あんたと乾杯したいって。それもモヒートで」

照れ隠しに、鼻を鳴らすユッキー。
「…ふん。ま、悪く無いな。ところで、今どこにいるんだい? まさかアメリカ国内?」
「いや、ジャパンさ。日本の寒い地方で熊を撃って暮らしてる」
「日本…か」
「ああ、雪深いところでね。町からだいぶ離れた集落で、狩猟を生活の糧にしているところなんだ。静かな、いいところだよ。特に、俺たちみたいな連中には」
「外国人で、銃なんか所持できるのかい?」
「ハンターは年寄りばかりだからね。銃を借りて俺たちが熊を撃っては、そのまま獲物を引き渡す、と。分業制を確立したのさ」
「なるほど。それにしても、よくそんな閉鎖的な集落が、あんたたちみたいな余所者を受け入れてくれたもんだな」
「始めは弟と家に引きこもりさ。俺たち日本語出来るから会話はできるんだが、相手にされなくて。正直、カネは蓄えがあるから仕事なんてしなくても良かったし、隠れているには丁度いいところだったんだ」
「逃亡生活は大変だな」
「あぁ、因果応報ってヤツだ。そしたらある日、事件が起きて…」
「ほう?」
「集落には子供が5人いて、最寄りの小学校まで一時間くらいかけて通ってるんだが、そこに熊が出たんだ。俺たちの家の前でね。昔だったら何もしないで放っておいたと思う。けど…やはり俺たちは、あんたたちに負けてから変わったんだろうな。俺もミハイルも、ナイフ一本しかないのに、熊と子供たちの間に割って入ったんだ」
「…」
「子供を逃して、俺たちは懸命に戦った。俺の右脚はその時熊にやられたんだが、その隙にミハイルが熊の眉間にナイフを叩き込んだ」
「…ひゅ〜。スゲぇな、熊殺しかよ」
「それからは集落でも良くしてくれてな。もう5年になるけど、うまくやってるってワケだ」

真剣に話を聞いていたユッキーが、グラスに残っていたモヒートを飲み干し、ソファに深く坐り直した。
「…なるほどな。そして今に至るってワケだ。あんたら兄弟の近況はよくわかったよ。それじゃ、なんでわざわざ危険を冒して、俺のところに伝えたいことがあるってのか、そこんところをそろそろ聞かせてくれよ」
「もちろんだ。そのためにはるばる来たんだからな…。ミハイルとやり合ったスワガー…だっけ? アイツは軍に復帰したって聞いたが?」
「あぁ。自分の居場所は、やはり最前線なんだって、軍に戻っていったよ」
「そのスワガーのスポッター、確か日本人の…」
「…よく知ってるな。スギってのがあの時のスポッターだった。それが?」
「そうそう、スギとか聞いたよ。いまそのスギがどこで何してるか、ユッキー、あんた知ってるか?」
「スギ? ワシントンD.C.からニューヨークに戻ったって聞いたが?」

そう応えたユッキーの言葉に、目を閉じてかぶりを振るユーリ。
「…じゃ、まだ知らないんだな。やはり来た甲斐があった…」
そう言いつつ、空になったグラスを持ち上げウインクするユーリ。
「…わかったよ。ちょっと待ちな」
苦笑いしながら自分の空のグラスとユーリのグラスを掴みキッチンに向かい、お代わりのモヒートを作って席に戻るユッキー。

「ユッキーのモヒートは最高だな。これまで飲んだ中でも一番美味い」
新しいモヒートに口をつけつつ、嬉しそうなユーリ。思わずユッキーも笑顔になる。ユーリにウインクしながら、自分もモヒートに口をつけユーリを促す。
「で? 俺の知らないことってのは?」
「ハワイにスギがいるってのは、知らないだろ?」
「そうなのか?」
「あぁ、スギは今ハワイにいる。そして命を狙われてる」
「…どういうコトだ?」
「ハワイの金持ちがスナイパーを探してて、ミハイルのとこにも仕事の依頼が来たんだ。お抱えのスナイパーにならないか、って」
「…つまり、スギをスナイプするためのスナイパーを探してる、そういうコトか?」
「もともとスワガーが、そのハワイの金持ちを調べていたみたいだな。スワガーが軍に復帰して、そのあとをスギが引き継いで調べてるんだろう。邪魔モノを消すために、スナイパーを探しているようだ」
「…」

「あんたたちのこと、以前にいろいろ調べたんだ。サンフランシスコの食いしん坊2人、ニューヨークにいる軍人上がりのタフガイ2人、ユッキーの相棒は、ファーマーになったんだったな?」
「よく知ってるな。隠遁生活でも情報は仕入れてるんだな」
「今でも時々来るんだよ、俺たち抱き込んでひと旗上げたいってバカどもが。ま、そういうヤツらは俺たちが始末して畑の肥やしにしちまってるが、ね」
「…怖いねぇ」
「生きるためさ。ま、あんたたちの中でも、あのスギってのは日本人だからか、あまり悪い話を聞かないな。居なくなったら、困るだろう?」
「あぁ、ちょっと変わったヤツだけど、居なくなったら困る」
「そう思って、こうしてはるばるあんたに会いに来たんだ。ミハイルはもうスナイパーとしては引退だから、代わりにあんたを推薦しておいた。あんたがミハイルの代わりにハワイに行って、スギを仕留めてくれ。スギを生かすも殺すも、ユッキー、あんた次第だ」
そう言いつつユーリは懐からメモを取り出しユッキーに渡す。そこにはハワイの住所と電話番号が記されていた。

「…これを、わざわざ俺に?」
メモとユーリを交互に見やるユッキー。
「そうさ。俺たち兄弟は、あんたたちに負けて新しい一歩を踏み出した。無論、これまでにしてきたことは許されることじゃないと、俺たちにももちろんわかってる。それならいっそ、神の天罰が下されるまで、精一杯生きてみようと思ってね。少しでも善業をして、長生きしたいと思ってるのさ」
遠い目をしながら語るユーリ。しばしそれを見つめていたユッキーも、微笑みを浮かべながらグラスを掲げる。
「正直、俺たちと出会う前のお前たち兄弟の所業は詳しくは知らない。けど、これからのユーリとミハイルには、幸せに暮らしてもらいたい。俺の立場で言うセリフじゃないが、心からそう思えるよ」
「ありがとう、友よ」
2人は改めて乾杯し、それぞれのグラスを空にすると立ち上がってハグをした。

強く、激しく。

「なぁユーリよ。まさかお前とこんな風にハグする日が来るとは、夢にも思わなかったよ…」
「俺もだ、友よ…。もし、神が許してくれるなら、ミハイルにも会いに来てくれないか…。きっと喜ぶだろう…」
「あぁ、スギを無事に救えたら、アイツに案内させて、必ず行くよ…。お前のくれた情報、決して無駄にはしない…」

ハグしながら涙ぐむ二人。だが決してそれを互いに見せたりはしない。
見送られると別れが辛いというユーリは、ユッキーと固い握手を交わして帰って行った。
ユーリの姿が見えなくなるまで、署長室の窓から見送っていたユッキーは、キク署長とモニカ副本部長に電話をし、事情を話して2週間の休暇をもらい、2時間後にはハワイに向けて機上の人となっていた…

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オレたち「携帯刑事」 更新情報

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