原始仏教コミュの釈迦の前世?　　マハーゴーヴィンダ・バラモン

梵天への道を説く偉大なるゴーヴィンダ・バラモンの物語

・序
鷲の峰にいた釈迦。夜明け前ガンダッバの子パンチャシカが鷲の峰全体を輝きによって照らし釈迦に近づいた。
パンチャシカは三十三天でのことを話した。神々は増え阿修羅は減ること。サッカによるブッダの徳への八つの賞賛。一つの世界に一人のブッダであること。そして梵天サナンクマーラが現れ釈迦の前世を語ったことを。

・父ゴーヴィンダ・バラモン
昔、ディサンパティという王がいた。ディサンパティ王にはゴーヴィンダというバラモンの宮廷司祭官がいた。またディサンパティ王にはレーヌ王子がいた。対してゴーヴィンダ・バラモンにはジョーティパーラという息子がいた。レーヌ王子とジョーティパーラは、他の六人のクシャトリヤと合わせて八人の仲間を作っていた。やがて、ジョーティパーラの父ゴーヴィンダは死んだ。
ディサンパティは言った。「ああ、われわれがゴーヴィンダ・バラモンにすべての国務を任せて、五官の欲望にとらわれていたときに、まさにゴーヴィンダ・バラモンは死んでいってしまったのだ」
レーヌ王子は言った「王様、ゴーヴィンダ・バラモンが亡くなっても、そんなに嘆くべきではありません。王様、ゴーヴィンダ・バラモンにはバラモンの学生であるジョーティパーラとい名前の若い息子がおり、父よりも知識があり、父よりも物事を見極める才能があります。あなた様が、かれの父親に任せた国政をジョーティパーラ青年に任せたらよろしいでしょう」
ディサンパティ王は王令を発した「尊者、バラモンの学生ジョーティパーラ、あなたは、われわれを補佐すべきである。尊者ジョーティパーラ、あなたはこの補佐を断ってはならない。わたしは、あなたを、あなたの父親の地位に置き、執事の位につかしめよう」
ジョーティパーラは同意した。

・マハーゴーヴィンダ（大執事）という称号
ジョーティパーラは父のすべての仕事を完全に遂行した。人々は言った。
「このバラモンはまさに執事そのものである。このバラモンは、まさに大執事（マハーゴーヴィンダ）である」

・王位継承と領土分割
ディサンパティ王は年老い余命いくばくもなかった。マハーゴーヴィンダは六人のクシャトリヤを呼んで言った。王位継承者であるレーヌ王子に申し上げよ、われわれは親愛なる友である、あなたが幸福なときわれわれも幸福であり、あなたが苦しいときわれわれも苦しい、あなたが王国を継承したら、われわれにも領土を分けてください、と。
六人のクシャトリヤは大執事に合意し、そのようにレーヌ王子に言った。レーヌ王子は同意した。
まもなくディサンパティ王は崩御し、レーヌ王子はレーヌ王として即位した。レーヌ王は王となってから五官の欲望にとらわれ楽しんでいた。大執事は六人のクシャトリヤを呼んで言った。王は愛欲に酔っている、行って言え、かつての言葉を覚えているかと。彼らはそう王に伝えた。王は言った。
「きみたち、わたしは、そのことばを記憶している。しかし、誰が、この北に広がり、南に車の前部のように狭くなっている領土（←インドのことか）を、等しく七分できるのか」
六人は言った。「マハーゴーヴィンダ・バラモン以外に誰ができようか」
レーヌ王は大執事を呼んで言った。
「さて尊者ゴーヴィンダ、あなたはこの北に広がり、南に車の前部のように狭くなっている領土を、七等分しなさい」
「かしこまりました、王様」
彼は領土を分割した。

　　ⅰ　中央　レーヌ王の国土
　　ⅱ　カリンガ国のダンタプラ
　　ⅲ　アッサカ国のポータカ
　　ⅳ　アヴァンティ国のマヒッサティ
　　ⅴ　ソーヴィーラ国のロールカ
　　ⅵ　ヴィデーハ国のミティラー
　　ⅶ　アンガ国のチャンパー
　　ⅷ　カーシー国のバーラーナシー

六人のクシャトリヤは、領土を得て満足した。彼らは七人の王となった。

　　ⅰ　サッタブー
　　ⅱ　ブラフマダッタ
　　ⅲ　ヴェッサブー
　　ⅳ　バラタ
　　ⅴ　レーヌ
　　ⅵ　ダタラッタ
　　ⅶ　ダタラッタ（ⅵと同じ名）

これらは七バーラタ王たちである。王たちは、マハーゴーヴィンダに国の補佐をお願いし、大執事は同意した。彼は国事を補佐し、さらに各国で七人の豊かなバラモンと七百人の沐浴をすませた者にヴェーダの呪文を教授した。

・マハーゴーヴィンダの事実に反する名声と決意
そんなとき、彼にある名声が起こった。
「マハーゴーヴィンダ・バラモンは親しく梵天に会い、親しくともに語り、相談している」彼は思った。「わたしは梵天に会ってもいないし、ともに語り合ってもいなし、相談もしていない。ところが、わたしは、師匠のそのまた師匠である年を取った尊敬すべきバラモンたちが、人は誰でも、雨期の四ヶ月間、静かなところにひっそり暮らし、あわれみの瞑想（悲禅定）を修行すれば親しく梵天に会うことができ、親しくともに語り、相談することができるといっているのを聞いたことがある。それでは、わたしは雨期の四ヶ月間、静かなところにひっそり暮らし、あわれみの瞑想を修行しよう」彼は王たち、弟子たち、四十人の同身分の妻たちにその旨を告げた。
彼は城郭都市の東に新しい集会所を建てさせて、雨期の間静かに暮らした。あわれみの瞑想の修行をしているかれに、食事係以外誰も近づかなかった。

・梵天サナンクマーラの出現
四ヶ月が過ぎた。そのとき彼に失望が生じた。恐れが生じた。
「いまだわたしは親しく梵天に会うことができず、親しくともに語ることもなく、相談することもない」
まさにそのとき梵天サナンクマーラは、心によって彼の心を知り、あたかも力のある人が腕を伸ばしたり、曲げたりするように、梵天の世界から姿を消して、彼の前に現れた。そのとき彼は今までに見たこともないようなその姿を見て、恐怖し、体がこわばり、身の毛のよだつ思いをした。かれは詩で問いかけた。
「素晴らしい姿と栄光と幸運をもたらす、友よ、あなたはいったい何ものですか。それを知らないので、お尋ねします。どうすれば、われわれは知ることができるのでしょうか」
「梵天の世界では、皆がわたしのことを梵天サナンクマーラであると知っている。すべての神々がわたしのことを知っている。あなたもわたしをこのように知れ」
「座席と水と足の塗油と甘い菓子という梵天に相応しいお供えをしてわたしたちは、あなた様にお願いいたします。あなたさまも、われわれの供物に相応しいことをしてください」
「ゴーヴィンダよ、あなたが話しているその供物をわれわれは受けよう。いま現世の利益のため、来世の幸福のため、もしも疑問が起こって、望むならなんでも質問しなさい」
彼は考えた。わたしは現世の利益は知っている。来世を問おう。

・梵天への道
「疑問を持つわたしは、疑念のない梵天サナンクマーラに他の人々も知りたいと思うことをわたしはお尋ねする。どこにおいて、何を学べば、死すべきものはいったい不死なる梵天の世界に到達できるのか」
「バラモンよ。人間のなかのわがものという我執を捨て去り、心を統一し、あわれみの瞑想に専心し、なまぐさを嫌い、淫欲の交わりを絶つ。このように暮らし、このように学べば、死すべきものは不死なる梵天の世界に到達できる」
「梵天よ、わたしは、わがものという我執を捨てる方法を知っています。それは人が少なかろうと財産を捨て、大きかろうと財産を捨て、わずかであろうと親族を捨て、大勢であろうと親族を捨て、髪と髭を剃って袈裟の衣をまとい、在家の生活から家なき出家の生活に入ることです。梵天よ、これが、わがものという我執を捨てる方法であると、わたしは知っているのです。
また梵天よ、わたしは心の統一を知っています。この場合、人は遠く離れたところに行きます。つまり森の中、樹の根元、山岳地帯、峡谷、洞窟、山岳の洞窟、墓地、林の藪、野外、藁の置き場に住みかをうつして住むのです。梵天よ、これが、心の統一を得る方法であると、わたしは知っているのです。
また梵天よ、わたしはあわれみの瞑想に専心する方法を知っています。この場合、人はあわれみをともなう心で、一つの方角をいっぱいに行き渡らせて暮らします。同様に第二の方角を、また第三の方角を、そして同様に第四の方角をあわれみをともなう心でいっぱいに行き渡らせて暮らすのです。これと同じように上下、水平、あらゆるところすべて、全世界を、あわれみをともなう広大で、限りない、恨みのない、乱され汚されることのない心で、いっぱいに行き渡らせて暮らすのです。これがあわれみの瞑想に専心する方法であると、わたしは知っているのです。
梵天よ、わたしはあなたのおっしゃった、なまぐさについて知りません。梵天よ、人間におけるなまぐさとはなんでしょうか。それについて、知らないので、賢者よ、どうか説明してください。いったいなにによって蔽われると、人々は臭いとただれを引き起こすのか。梵天の世界は閉ざされ、悪いところに堕ちるのか」
「怒りと嘘と偽りと騙し、物惜しみと高慢と嫉妬、欲求と疑いと他を害すること、貪欲と嫌悪、不注意と迷妄、これらに結びついているものたちは、なまぐさから離れることがなく、梵天の世界は閉ざされ、悪いところに堕ちるのである」
「わたしは、あなたが説明された、なまぐさを理解しました。家に暮らしながら、これらを抑制することは容易ではないでしょう。それゆえ、わたしは在家から出て、家なき出家の状態になろうと思います」
「尊者ゴーヴィンダ、あなたの適当なときにどうぞ」

・マハーゴーヴィンダの出家と王の出家
彼はレーヌ王に出家したい旨を伝えた。王は言った。
「人間ならざるものは、いかなる姿をしていたか、あなたにいったいどんなことを話したのか。それを聞いてすぐ、家もわれらもすべてを捨てるというような」
「わたしは以前供物をささげたいと思ってそれを実行いたしました。聖火を焚きクサ草を敷いたのです。そのあと、梵天の世界から、わたしのもとへ、梵天サナンクマーラが現れてわたしの質問に答えてくれました。それを聞いてわたしはもはや家にとどまるのを好まないと考えたのです」
「ゴーヴィンダ、あなたの話を信じよう。人間ならざる声を聞いた以上もはや他に道はない。われらもあなたに従おう。ゴーヴィンダよ。あなたはわれらの師となるべきだ。あたかも瑠璃宝石（緑柱石）が透明で汚れなく輝いているように清らかになってわれわれは、ゴーヴィンダの教えてくれたことを守ろう。もしもゴーヴィンダが在家から出て、家なき出家の状態に入るならば、わたしもまた在家から出て、家なき出家の状態に入ろうと思う。あなたの赴くところ、まさにそこがわれらの赴くところだから」

・六人の王の出家
大執事は六人のクシャトリヤにも出家の旨を伝えた。六人はバラモンというものは財や女に欲深いと考え、好きなだけ与えようと言ったが、彼の決意は翻らなかった。結局彼らは言った。
「もしもゴーヴィンダが在家から出て、家なき出家の状態に入るならば、わたしもまた在家から出て、家なき出家の状態に入ろうと思うのです。あなたの赴くところ、まさにそこがわれらの赴くところだからです」
「もしも凡夫の人々が、執着するさまざまな欲望を捨てようとするならばあなたたちは努力されよ、堅固で、忍耐強くなければならない、これこそが道である。真っ直ぐな道である。これが最上の道である。梵天の世界に生まれるために、正しい人々は、真理の正しい教えを守っている」
六人の王は言った。
「それでは尊者ゴーヴィンダよ、七年だけ待ってください。七年たてば、わたしたちもまた在家から出て、家なき状態に入れると思います。あなたの赴くところ、まさにそこがわれらの赴くところだからです」
「皆さん、七年は長すぎます。わたしは七年も待つことができません。いったい誰が人の寿命を知りえましょう。来世に行かねばならず、智慧によって学ばねばならず、善いことをしなければならず、清らかな修行をしなければならず、生まれ出たものには、不死は存在しないのです。わたしは梵天が説明した、なまぐさを聞いて、家に暮らしながら、これらを抑制することは容易ではないと思い、それゆえ、わたしは在家から出て、家なき出家の状態になろうと思うのです」
「それでは尊者よ、六年だけ待ってください。（以下、五年、四年、三、二、一年、七ヶ月、六、五、四、三、二、一ヶ月、半月と繰り返し）」
「それではきみゴーヴィンダよ、わたしたちが王国を、息子や兄弟に譲り渡すのに必要な七日間だけ待ってください。七日たてばわたしたちもまた在家から出て、家なき出家の状態に入れると思います。あなたの赴くところ、まさにそこがわれらの赴くところだからです」
「皆さん、七日は長くありません。わたしは七日間あなたたちを待ちましょう」

・バラモンたちの出家
大執事は七人のバラモンと七百人の沐浴をすませた者にも出家の旨を伝えた。彼らは出家は支配力が少なく、得るところが少ないと言った。ゴーヴィンダはわたしこそが今現在、王の中の王、バラモンにとっての梵天、資産家たちにとっての神であるのにそのわたしが出家をするのだと言う。彼らも納得し、出家を決意した。「あなたの赴くところ、まさにそこがわれらの赴くところだからです」と言って。

・妻たちの出家
四十人の同身分の妻にも出家の旨を伝えた。そして他の夫を探してもよいと。しかし彼女たちは言った。
「親族を望むものたちにとって、あなただけが親族です。また、夫を望むものたちにとって、あなただけが夫です。もしもあなたが在家から出て、家なき出家の状態に入るならば、わたしもまた在家から出て、家なき出家の状態に入ろうと思う。あなたの赴くところ、まさにそこがわれらの赴くところだから」

・出家
こうして、七日が過ぎたとき、髪と髭を剃って袈裟の衣をまとい、出家した。七人の王、七人の富裕なバラモン、七百人の沐浴をすませた学生、同身分の四十人の妻、数千のクシャトリヤ、数千のバラモン、数千の資産家、後宮から来た女性たちは、みな出家した。
この群集に囲まれてマハーゴーヴィンダ・バラモンは村や町や首都を歩きまわった。そこに到着するたびに人々は言った。
「マハーゴーヴィンダ・バラモンさまに敬礼します。わが信頼しうる宮廷司祭官に敬礼します」

・四無量心（慈悲喜捨）
「マハーゴーヴィンダ・バラモンは、慈しみをともなう心で、第一の方角を満たしていました。同じように第二の方角を、同じように第三の方角を、同じように第四の方角を満たしていました。すなわち上下水平すべてのところ、あらゆるところ、全世界を慈しみをともなう広く大きい無限の、敵意のない、害のない心によって、満たしていたのです。
マハーゴーヴィンダ・バラモンは、あわれみをともなう心で、第一の方角を満たしていました。同じように第二の方角を、同じように第三の方角を、同じように第四の方角を満たしていました。すなわち上下水平すべてのところ、あらゆるところ、全世界を慈しみをともなう広く大きい無限の、敵意のない、害のない心によって、満たしていたのです。
マハーゴーヴィンダ・バラモンは、よろこびをともなう心で、第一の方角を満たしていました。同じように第二の方角を、同じように第三の方角を、同じように第四の方角を満たしていました。すなわち上下水平すべてのところ、あらゆるところ、全世界を慈しみをともなう広く大きい無限の、敵意のない、害のない心によって、満たしていたのです。
マハーゴーヴィンダ・バラモンは、心の平静をともなう心で、第一の方角を満たしていました。同じように第二の方角を、同じように第三の方角を、同じように第四の方角を満たしていました。すなわち上下水平すべてのところ、あらゆるところ、全世界を慈しみをともなう広く大きい無限の、敵意のない、害のない心によって、満たしていたのです。
そしてかれは弟子たちに梵天の世界と結びつくための道を示したのです」

・彼らの死後
完全に教えを理解したものは、死後梵天の世界に生まれました。
そうでないものは、

　　パラニンミタ・ヴァサヴァッティ（他化自在天・第六欲天）　　
　　ニンマーナラティ（化楽天・第五欲天）
　　トゥシタ天（第四欲天）
　　ヤマ天（第三欲天）
　　三十三天（第二欲天）
　　四天王天（第一欲天）
　　ガンダッバ（←最下位の体を得たものたち）

このようなすべての真面目な人々の出家は、むなしくなく、無駄ではなく、実もあり、利益があったのです。

・「わたしはマハーゴーヴィンダであった」
パンチャシカは憶えておられるかと聞いた。釈迦は言った。
「パンチャシカよ、わたしは覚えているよ。その当時、わたしはマハーゴーヴィンダであったのだ」わたしは梵天への道を教えた、その教えは世を厭うため、離欲のため、消滅のため、静かな安らぎのため、神通力のため、正しいさとりのため、ニッバーナのためにあるのではなかった。梵天の世界に生まれるためのものだった。しかし、今わたしが説く教えは、それらのためであり、まさに八正道なのである。その教えを完全に理解したものは、現世で心と智慧の解脱を体得する。理解しきれなかったものは、この世界に戻ってこずにニッバーナに入る。またあるものは、一度だけ帰ってきてニッバーナに入る。またあるものは決して悪趣に堕ちずに必ず正しい悟りに達する。
「このようにパンチャシカよ、いま述べたすべてのまじめな人々の出家は、むなしくなく、無駄でなく、実もあり、利益もあったのである」
ガンダッバのパンチャシカは尊師のことばに満足し喜びをあらわしたあとで、挨拶をして右回りの礼をしてそこから立ち去った。

－－『長部経典　第一九経　バラモン執事の出家－－典尊経』