ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

意味不明小説(ショートショート)コミュの加減のおはなし

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 なんだか店の外がうるさい。気になって見に行くと、さっきの客二人連れが何やらもめている。いや、もめてるというより、上司っぽい方が、新人っぽい方を一方的に叱っているという図式。

「さっきのやっぱおかしゅうないか?」
「さっきの?」
「お会計の時のお前の立ち振る舞いよ」
「どこがですか?」
「分からんのか?」
「すいません。教えてください」
「あのな、『今日は俺が出しとく』つって、お前の分も俺が払おうとしたやろ?」
「はい」
「そん時お前何ちゅうた?」
「ええと、『全部だしてもらうのは申し訳ないんで、小ライス分だけでも払わせてください』って、言いました」
「ウケ狙いか?」
「え?」
「『小ライス分だけ』ってのがウケ狙いかって聞いてんの!」
「いや、そんな。ただ本当に、全部だして貰うのは申し訳ないと思ったんで」
「そうか。逆にウケ狙いなら凄いセンスじゃと思うたが、そうじゃないじゃの?」
「はい」
「お前、小ライスなんぼか分かっとるんか?」
「ええと、確か50円かと」
「違うわ!ランチタイムはサービスで30円じゃ」
「ああ、そうだったんですね」
「お前に30円払うてもろうて、俺、なんて言えばええんな?」
「いや、すいませんちょっと分からないです」
「逆に失礼じゃと思わんか?」
「……そう、なんでしょうか。いや、本当にすいません。ちょっとその辺の加減というか、自分よく分かってなかったかも知れないです」
「加減?」
「はい、あの、本当に、小ライスがランチライムで30円になってるって知らなかったので」
「そこじゃないわ!」
「え?」
「30円が50円でも同じじゃ。先輩が奢る言うとるときは、『ありがとうございます』っていうときゃいいんじゃ。それなら可愛げがあるわ。じゃなかったら、『いや、僕の分は出します』じゃろ?その二択しかないんよ普通は。それをお前はなんなら?『小ライス分出します』って、意味が分からん過ぎる」
「……すいません」
「分かったんか?俺が言うこと分かっとるんか?」
「はい」
「じゃあ俺が何に引っかかっとるんか説明してみい」
「ええと、あれですよね。小ライスってのがまずかったんですよね。ギョーザ分とかだったら――」
「違う違う違う違う!全然分かっとらんのお前は!ちょっと出すっていうのが、気持ち悪いんよ。中途半端なその気遣いみたいのが、逆になんか『奢られることでマウント取られたくない』感じと、『でも自分の分全部を出すのは嫌だ』っていうセコい感じとをうまくなんか、気遣いのできる後輩ですっていう外面で誤魔化そうとしててもうー、俺、マジでそういうの嫌いじゃあ!」
「いやそんなんじゃないんです。本当に先輩に全部出していただくのは申し訳ないなぁという思いで――」
「その『申し訳ない思い』ってのが小ライス分30円の値打ちしかないんが腹立つんよ!」
「いや、でも自分、小ライス50円だと思ってたんで――」
「何回も言わすな!30円でも50円でも同じじゃ。お前あれか、『そうかぁ、30円じゃなくて50円じゃと思うとったんか、ほんならしょうがないのぉ』って俺が言うとでも思っとるんか?」
「…………」
「その沈黙はなんなら?そう思うとるっちゅうことか?」
「いや、違います」
「ほんなら今の沈黙はなんなぁ?」
「いや、その、あれです。あの、つまり断腸の思いというやつです」
「お前……ワードセンスも狂うとるんか?」

 二人のやりとりは収束に向かう気配すら見せない。ここは店主の私が、間に入って収めるしかないだろう。
「あのー、すいません。先ほどのお会計のことで、何か失礼がありましたか?」
「いや、違うんよ。おたくは全然悪うないんよ。ただこいつが訳の分からんことばっかり言いよるけぇ指導しとったんじゃ。ごめんなさいね。お店の前で騒いでしもうて」
「いえいえ、あのー、差し出がましいことだとは思いますが、先ほどのポイントカードのスタンプ、余計に一個付けときますんで、どうかご機嫌を直して頂いて、ぜひまたお越しください」

 上司っぽい男は、私の顔をまじまじと見つめて、こう言った。
「そこは無料券じゃろう?」

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

意味不明小説(ショートショート) 更新情報

意味不明小説(ショートショート)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング