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意味不明小説(ショートショート)コミュの撃て

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コミュ内全体

「「銃は?」
「携帯しています」
「弾は」
「弾倉に6発」
「それだけ?」
「はい」
「足りるかな?」
「十分かと」
「だといいけど」

 回転ドアを通り抜ける。受付のカウンターまで30歩といったところか。淡いブルーのベレー帽、同じく淡いブルーの制服、ぴっちりと身を包んでいる。すらりとしたシルエット。女性、年齢は26。この距離では正体は識別できない。歩を進める。こちらを見ている。目が合う。
 瞳の色は蛍光グリーン。流行のライティングコンタクトを入れている。瞳孔の伸縮を観察させない為の備えか?疑いが3%増す。

(ゾルタスクゼイアンかもしれない)

 ボクの勘がそう言っている。ギアを通じて、九子(きゅうこ)にメッセージを送る。肩越しに頷いたのが分かる。androidにも勘というものがあるのだろうか?振り返って九子の目を覗き込んでやりたい。が、前を向いたまま、カウンターに進む。「例え半身が吹っ飛んでも、被疑者から目を離すな」、殉職した先輩からのアドバイスを思い出す。(後に、アドバイスをした本人が半身を吹っ飛ばされて落命するとは……)
 決して目は離さない。だって戦いはすでに始まっている。識別官としての戦い、被疑者の精神は人間か?それともゾルタクスゼイアンか?眼を見開き、すべてを観察する。被疑者の正体を見極めるのが、ボクの仕事。そして、被疑者が人間でなかった場合に、殺傷するのが、androidである九子の仕事。使い古した革靴がカウンターの前に揃う。眼鏡型識別デバイス、通称『ギア』。レンズにデータが浮かぶ。被疑者との距離は1256.7mm。被疑者の体温は……人間の体温だ。少なくとも今は。

「日曜日の『arc high arc』のコンサートの席、まだ空きがあるかな?」
「確認致しますので、少々お待ちください」

 過剰に抑揚のある声色、受付嬢特有のしゃべり方だが、人間らしさを過剰に演出しているとも、取れる。ギアに55%の文字が浮かぶ、Z指数、ゾルタスクゼイアンである確率を示す数値。95を超えた時には、九子の銃が弾丸を放つ。ただし決定権は彼女にはない。「撃て」とボクがコマンドしなければ、九子は引き金を引けない。そうプログラムされている。

「お席は、お一人様で宜しかったでしょうか?」

 被疑者が訪ねる。一瞬、九子を見た。ギアのレンズ上に、被疑者の声色、表情、仕草のパターンを分析した数値が目まぐるしく浮かんでは消える。指数は75%。ギアが算出する上限値に達した。ここから先の数値は、識別官であるボクが算出しなければならない。人間としての観察眼で。
 第一印象で3%を加算する。78% 。九子を見て怯えた表情を浮かべていなかったか?識別官には戦闘用androidが付き添うのは周知の事実。もし仮に彼女がゾルタスクゼイアンだとしたら、九子を識別官付きのandroidだと疑い警戒しているのではないか?これを根拠に更に3%を加算すべきか?いや、まだだ。カマを掛けてみよう。

「席は二人分ね。でもなぁ、愛玩用androidにも一人分の席代が掛かるってのもなぁ、せめて割引とかあってもいいと思わない?」

 「android」という言葉に、キーをパンチする手の動きが一瞬鈍った。

(九子、コートの中に手を入れろ、銃を抜く初動を見せるんだ)

 九子がコマンドに従う。原始的で初歩的な手段だが、過去の実績は悪くない。被疑者は、耐えられるか?撃たれるかもしれないという恐怖に。

「お席ございました。スタンド席の後ろの方になってしまいますが?」
「いいよ。それで」
「畏まりました。では8月18日、スタンド席、お二人様でお取りしました。ご利用ありがとうございました」

 耐えやがった?いや、人間だったのか?まぁ、どうでもいいことだ。ボクの仕事はここまで。被疑者、牧村詩織の最終Z指数は81%。データを転送して、今日の仕事はお仕舞いだ。カウンターを離れて数歩、背後で男の声。

「おい、お前人間じゃないだろ?」

 振り返る。金髪革ジャンの男がカウンターに立っている。隣にはタイトミニの女、一目見て戦闘用androidと分かる。むき出しの武装、肩にHKY社のミニランチャー?。まるでバウンティーハンターの仮装だ。


(どうしますか?)
(このまま帰るわけにはいかなくなったな。様子見だ。しかしよりによってこんな奴が被疑者に接触するとは……)

「困ります。お客様、大きな声を出されては他のお客様にご迷惑になります」
「あー?俺はわざと大きな声を出してンの。聞いてくださーい。この女は人間じゃあありませーん」
 牧村詩織が営業用の仮面を外して、男を睨んだ。
「止めてください。名誉棄損で訴えますよ」 
「おー、言うねぇ。いっぱしに人間気取りかい?ゾルタスクゼイアンにも人権があるっていうのか?」
「私は人間です」
「証拠してみせろ?」
「そんなこと……できません」
「じゃあ人間じゃないってことでいいな?」
「……どうすれば私が人間だということをご理解いただけるのですか?」
「手を出せ」
「え?」
「手袋を取ってカウンターの上に手を乗せるんだ」
 困惑した様子、渋々手を差し出す。
「今からお前の手を握る。俺の手の平にはセンサーがインプラントされている。嘘を吐いたら温度の変化や発汗で直ぐに分かるからな。じゃあ質問、お前は人間か?」

(そんな識別方法があるなんて初耳です)
(あるわけない。ボクがお前に銃を抜く仕草を見せろと命じたのと同じ、カマかけてるんだ)
(なるほど。でもあのハンターかなりぶっ飛んでますね。誤殺傷の可能性が高いと思いますが)
(それはないな。誤殺傷なんてしたら、androidは没収、罰金と懲役、二度とハンターには戻れない。ああやって派手に立ち回る奴ほど実は小心、当然奴のギアも75%の上限値を出してはいるだろうが、あんな奴に、残りの20%を算出する観察眼なんてあるわけない)
(ですよね)
(幕引きは、奴が引き下がるか、それとも牧村詩織が正体を現して暴走するか、のどちらかだ。多分ボクは前者だと思う)

 牧村詩織は、まっすぐに男を見つめ言った。

「私は人間です」

 金髪の男、暫く手を握ったまま、被疑者を睨んでいたが。
「くっ、センサーの調子が悪い。今日のところは見逃してやる」

(masterの予想通りになりましたね)
 九子、踵を返そうとしたが。
(master、どうしました?)
(戻るぞ)
(え?)
 いつの間にかギアが再稼働している。
 仕方なく九子は後について歩く、カウンターの前に来た。

「あ、先ほどの。どういたしました?」
 たった今の騒乱はどこ吹く風、落ち着き払った様子。

 識別官は言った。

「撃て」

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