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創好きサテライト・文芸部コミュの【企画】メテオレボリューション

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シェアワールド企画
メテオレボリューション

 時は近未来、舞台は中東某所。小さな資源産出国家、アブラード王国の物語。
 北海道ほどの国土面積に豊富な原油資源のおかげで、裕福な支配階級と貧しい下層階級の二極化がこの国のカラーとして定着している。
 ある時、砂漠地帯に隕石が落ちて、小さなクレーターを作った。回収された隕石のかけらを王立科学研究所で分析したところ、それは、生き物に病原菌のように感染し、想像を絶する特殊能力を発現させる力があることがわかった。
 3年間の研究の末、研究所ではそれをヒトにのみ選択的に感染させ、二次感染を起こさないようにまで、サンプルの成分調整に成功していた。しかし軍の志願兵による人体実験でいよいよ接種という直前、そのサンプルが爆発を起こした。
 研究施設は広範囲に渡って破壊され、多くの死傷者を出し、謎の隕石の破片はあとかたもなく霧散したと記録されている。

 そのとき、生き残っていた研究所員や兵士のうちの幾人かは、飛散した隕石の破片を浴び、超人化物質に感染していた。

***

ここまでが、今回のシェアワールド企画で使っていただく共有設定です。

これをどう解釈してどう利用するかは、みなさんの自由です。どんどん想像をふくらませてみてください。

各作品ごとの設定同士の整合が取れてなくてもかまいません。パラレルワールドと解釈します。
もちろん、他作品との整合を取って世界観を共有するのもオッケー。

コメント(150)

>>[110]
研究員だったんですかね〜?
まあその辺りにいただけなんでしょうね。
さて、次をまた投稿しますね。
別の作品のプロットに取り掛かってしまってて、頭のリソースをこっちに振り切ることができないでいます。ちょっとペース落ちてるけど、まだ放置したわけじゃないので、ゆるやかに見守ってもらえれば助かります。
>>[112]
了解です。ゆっくりやっていきましょう。
こっちはなんとか続けときます。
今新しいのも書いてますから。
>>[112]

お互い様なのでお気遣いなくーヾ(・ω・*)
私も放置しているわけではないので
のんびりやりましょう♪
ちょっと感想とかコメントとか出来てなくてごめんなさい。時間が取れるときにまとめて書き込みますね。
作品も書き上げたらUPします(*´・x・`)ゞ)))ゴメンネ
>>[114] 当方もゴニョゴニョやってます。
>>[116]
またかなり長くなってます……
そのうちあげます。
ポンコツ超人シリーズ、新ネタができした。
早ければ今夜あたりアップできるかも。

今回は主人公の名前も決まってます。レイオン少尉です。
恐るべき男


 路地の石畳に倒れていたレイオン少尉は、ゆっくりとその体を起こし、ふらついて壁にもたれかかりながらも、どうにか立ち上がった。口の端が切れていて、血の味がした。手の甲で、その血を拭う。
 ややうつむき加減に、上目遣いに相手を見る。睨む、と言えるほどの眼力はなく、ただ、見てる感じ。
 少尉を殴り倒した相手は、無傷で、ファイティングポーズを崩していなかった。訓練されたポーズ、獲物を仕留めるスキルを身につけている証拠。だが、全身に冷や汗を浮かべ、恐怖に耐えるように歯を食いしばっている。そんな相手を見て、少尉は少し笑った。
「思ったよりやりますね」
 ぼそりとした一言に、男は一瞬たじろぐ。しかし、無理に力んだ笑みを作り、言い返した。
「あんたこそ、本気でかかってこいよ。お、俺は、あんたのことを恐れてなんかいないぜ。さあ、見せてみろよ、本当の力を」
 するとレイオン少尉は、喉の奥でクククと笑った。
「それは褒め言葉と受け取っておきますよ。ただ、あなたは誤った判断をしているようだ」
「な……なんだと」
 男は作り笑いを引っ込め、緊張した。ごくり、とツバを飲む音さえ路地に響く。
 少尉は、言った。
「これが、私の本当の実力なのだよ!」
「な、なんだって!?」
 ほぼボロボロの少尉の言葉に、ぴんぴんしてる男は、思わずのけぞって叫んでいた。
「読みが甘かったようですね。ま、しかたありません、今回はこのあたりで引き上げるとしましょう」
 その場から一歩も動けないでいる男を残し、レイオン少尉は背を向けてよたよたと歩き始めた。
 それから一度立ち止まった少尉は「どうやら、命拾いをしたようですね」肩越しにふり返り「私が」と、不敵な笑みを浮かべて男に言った。男は背後の壁にもたれかかり、そのまま足の力が抜けて座り込んでしまった。
 レイオン少尉は、その場から立ち去った。

 レイオン・ストッカー少尉。38歳男性、独身。
 王立陸軍所属。超人化隕石の実験体として参加中、事故に巻き込まれる。
 覚醒能力、「威圧」
 中途半端に能力を使うと、恐怖に駆られた相手から思わぬ反撃を食うことがある。


おわり
>>[119]
まあ、使い方によっては使えるかも知れない能力ですね。
しかし……
軍人のわりには弱い……
>>[120]

それなりに実力のある軍人なら、また違ったドラマもあったのかもしれませんが(笑)。ポンコツ軍人が微妙な能力を得ると、こんな感じかなと。
口調や態度は、某フリーザ様を参考にしてます。
ようやく書けました。
かなり長くなっちゃいました……
結局何も能力は明らかにはなってないですけどね。
後はお任せする方向で……

B&R探偵社
1話
 ゼットが命がけで探してくれた場所に俺はレシアを連れてスライドする。ここの場所が何処かはよくは分からない。しかし、ゼットの見つけた場所にスライドしたことは間違いない。
「下水道の中にこんな場所があるなんて……」
 レシアの言葉に俺は黙って頷く。下水道のどこかだという事は分かるが、下水の嫌な臭いなどは全くない。こんな場所を下水道の奥に作れるというのはかなりの資金を持った人間で、しかも公共の場所に作れるという事は、この組織はかなり政府の中にもその組織の一端を忍ばせていることは間違いないだろう。もしかすると俺はかなりやばい物を相手にしているのではないか? そこまで考えが至った時にはレシアはもう、ゼットが示した場所まで走り出していた。
「お、おいレシア! 突っ走るな!」
 しかし、レシアは俺の言葉を聞く事もなく、そのまま薄暗い通路を目的の場所まで駆けていく。
「たく、あいつは!」
 俺も少し遅れてレシアの後に続く。レシアは能力を使わなくてもかなりのスピードで走ることが出来る。おそらく、ハーレム生まれで、その能力が無ければ生きてはいけなかったのだろう。もしかすると、俺達の身体に起こっている超人化という物はその人間の能力を驚異的なほどに特化させることが出来るものなのかもしれない。俺はそんなことを考えながらも、中年にはきつい速さで走るレシアの背中を追いかける。そして、急にレシアが立ち止まると、俺もそのレシアの後ろに立ち止まり、今まで走ってきたほうを少し警戒する。後ろには誰も追って来ているような痕跡はない。もしかすると、もうこの場所からは逃げ出してしまっているかもしれない。しかし、何かの記録でも残っていれば、俺達の依頼主にはそのデータを渡すことは出来るだろう。俺は少しばかり緊張しながら、懐に忍ばせた拳銃に手をかける。
「レシア、どうだ?」
「人の気配はほとんどない。でも、誰かはまだ残ってるみたい」
「いけそうか?」
「能力を使って中を見てくる」
「わかった、何もなくても一度ここに戻って来いよ」
「わかった。じゃあ行くよ」
「ああ」
「人が一人だけうずくまってた」
 あっという間の、本当に一瞬、いや、瞬きも出来ないほどのスピードで中を確認して戻ってくるレシア。その事にはいつもの事なので俺ももうさして驚きはしないが、やはりその能旅には感心する。
「そうか、抵抗されそうか?」
「いや、もう虫の息だった、おそらく見捨てられたんだろう」
「わかった。他には何か気になる事は?」
「何人かいたような痕跡はあるが、他にはもう姿は見えなかった」
「ちっ、遅かったか……。まあいい、とにかく、そのうずくまってるやつを確保しよう。助けることが出来れば、何か情報が聞き出せるかもしれない」
 俺の言葉にレシアは黙って頷く。
「とにかく、なんでもいいから情報を集めよう」
 俺とレシアは部屋の中に入っていく。部屋の中は少しオレンジのような、柑橘系の匂いがする。その匂いを嗅いで俺はその匂いの正体を思い浮かべる。
「まずい! レシア、タルジュ溶液だ!」
 俺の言葉にレシアは冷静に答える。
「大丈夫。濃度はかなり低い。おそらく普通の人間が入るためにダクトから排気されたんだろう」
「そ、そうか。でも、気を付けろよ」
「わかってる。いざとなればあたしとあんたの能力でいつでも逃げられるだろ?」
「それはそうだが……。お前に怪我でもされたらどうしていいかわからなくなるからな」
「な、何を馬鹿な事を!」
 なぜかレシアは少し顔を赤くしている。何故だろうか? まあいい。それはうずくまって倒れている人物に近寄る。真っ白な髪をしたバニーガールの姿をした女性が横たわっている。おそらく、ガルフ達の仲間だろう。
「おい、あんた。大丈夫か?」
 バニーガールは一瞬俺の姿を見るが、その目は虚ろで、焦点が合っていない。
「ちっ、仕方ない。一旦事務所に戻ろう。レシア、いったん離れるが、大丈夫か?」
 レシアは少し手を振ってこたえる。
「おい、もう大丈夫だ。とにかく、安全なところに連れて行くからな」
 俺はそう言うとバニーガールを連れて事務所にスライドする。突然現れる俺の姿にも事務所の人間はもう驚く事もなく、俺に抱えられたバニーガールの姿を見て、緊急処置が必要な事を悟ると、救護スタッフがすぐに動き出す。
「すまんがレシアを置いてきたままだ。すぐに戻らなければならん。後は頼む」
 救護スタッフの一人にバニーガールを渡すと俺はすぐにレシアのもとに戻る。
「何か情報はめぼしい情報はあったか?」
 PCの画面を見つめながらレシアは首を横に振る。




2話
「そうか。まあいい。あのバニーガールから何か話が聞き出せるかもしれん。とにかく、残っているデータを集めていったん事務所に帰ろう」
「わかった」
 それから俺とレシアは手分けして残ったデータを洗いざらい記録メディアに移し替え、また事務所に戻っていく。

「所長、お帰りなさい。レシアも」
 俺とレシアは俺の秘書をやってくれているモイラに迎えられる。
「ああ、ゼットの容態は?」
「落ち着いています。命に問題は無いでしょう」
「そうか、良かった。バニーガールの方は?」
「かなり危険な状態です。ヤブ医者の所に連れては行きましたが、どうなる事か……」
 超人専門の医者で、彼自身も超人化した老人の通称【ヤブ医者】ゲオルグのもとに運ばれたようだ。ゲオルグは腕は良いが、人格に少し問題があるから心配ではあるが……。
「まあいい。とにかく、持ち帰ったデータを解析してくれ。と言っても、ゼットはまだ動ける状態ではないか……」
「一日安静にしていれば明日には復帰できると救護スタッフからの報告は受けています。無理をすれば今からでも行けるかもしれませんが……」
「いや、いい。今日はゆっくり休ませてやってくれ」
「わかりました。所長達もお疲れでしょうから、今日はお休みください。後は私達がやっておきます」
 モイラの言葉に俺は頷く。
「そうか、すまん。では、少し休ませてもらう。レシアもゆっくり休んでくれ。あ、そうだ、あのバニーガールの事だが……」
「はい。何かありましたらすぐにご連絡させていただきます」
「悪いがそうしてくれ」
「では、ゆっくりお休みください」
 モイラに見送られ、俺とレシアは事務所を後にする。
「さて、飯でも食って帰るか。レシアはどうする?」
「いや、あたしはいい」
「そうか、じゃあゆっくり休んでくれ」
「ああ、また明日」
 俺はレシアと別れ、そのまま行きつけのバーに行く。人仕事終わったときはいつもバーで一杯やって帰るのが俺のパターンだ。まあ、そうは言っても俺はそれほど酒が強いわけではない。まあ、ハードボイルドの儀式みたいなものだ。だから俺はバーに行かないわけにはいかないのだ。俺は行きつけのバーに行き、カウンターに座り、もう顔見知りのバーテンが俺の前に黙ってウイスキーのロックをスッと差し出すと、俺はその酒精に喉を焼かれながらゆっくりと口に含む。思わず咳込みそうになるが、そこをぐっとこらえて飲み干す。するとちりんちりんと、ドアの開く音が聞こえる。誰か客が来たようだが、そんなことを気にすることもなく俺は目の前のウイスキーを傾けると、今は行って来た客だろう。その二人の客が俺の隣に座る。一人は山のような大男、そしてもう一人は……。俺はその客を二度見してしまう。大男の方はまあいい。ちょっとでかいがまあ、何とか許容範囲の大きさだ。いや、かなり常識からは離れてはいるが、まあバーにいるのは良いだろう。少なくともちゃんとバーに来てもいいような大人だ。しかし、もう一人の方が問題だ。どう見ても子供にしか見えない。それを見てバーテンが声をかける。
「お嬢ちゃん、ここは子供の来るところじゃないぜ? ミルクならお家に帰って飲みな」
 バーテンの言葉に、隣の大男がにらみを利かせる。それを少し手で制し、有無を言わせぬ声でバーテンに言葉をかける。
「これで文句はないだろう?」
 幼女とも取れるような女の子はそう言うとバーテンの目の前に札束を投げる。この国の金ではなく、米ドルの百ドル札の束を見せられ、バーテンはそれを懐に入れるとさっさと立ち去る。金に目がくらんだのもあるだろうが、その金の出し方に何か嫌なものを感じたのもあるだろう。そういう俺もかなりやばいやつが来たもんだと思い出していた。
「お前がブラストか?」
 まあなんとなくは分かってはいたが、俺の名前も少しは有名になったのかもしれないな。
「そうだが何か? お嬢さん」
「何、大した話ではない。時間はそう取らせん。話があるのは二つだけだ」
 何かかなり大きな話になりそうな気はする。しかし、話を聞かずに帰ることは許されないような雰囲気を、後ろの大男は出している。
「で、どんな話だいお嬢ちゃん?」
「なに、悪い話ではない。一つはお前のスカウトに来た。まあ、お前だけではなくてお前の事務所、B&R探偵社とか言ったか? その事務所全体のスカウトだ。悪い話ではないだろう?」

3話
 俺の頭の中でかなりぐるぐると考えを巡らせる。これは買収という奴だろうか? まあ確かに最近依頼も増えてきたし、超人がらみの仕事での実績もかなり伸ばしている。おそらく目の前の二人も何らかの能力を持った超人だろう。それは俺にも十分理解できる。最もどんな能力の使い手なのかは分からないが、しかもかなりの使い手だろう。このお嬢ちゃんにしても、奥の大男にしてもかなりの死線をくぐってきたのは分かる。
 俺は少し落ち着こうと、内ポケットの中から煙草を取り出し、それに火を点ける。最近では珍しくなった紙巻きたばこだ。まあ、俺はタバコなんてこの仕事をし出してからすいだしたから、ほとんど吹かしているようなものだが、それでもハードボイルドには必需品だ。それをニ、三回吹かし、灰皿にタバコを押し付ける。
「それで、その話に乗って、俺達にどんなメリットが有るというんだいお嬢さん?」
「そうだな、福利厚生はかなりいいぞ? 特別国家公務員になるのだからな。危険手当、役職手当、通勤費、その他機密費も使いたい放題だ。何なら世界のリゾート地のホテルなんかの会員でもあるから、利用したい放題だ。もっとも、多少の危険はあるがな。生きている限りは一生安泰の金が手に入るだろうな」
「ちょ、ちょっと待て。お嬢ちゃんは国の人間という事になるのか? そっちの大男も?」
「ああ、まあ詳しくは所属は言えないが、そう言う事になる。まあ、この件に関しては今すぐ答えを出せとは言わん。また改めて場所を設けれればいいかと思っている。そちらにも考える時間が必要だろうしな」
 さすがにそんな話をいくら所長とはいえ独断で決めるわけにもいかない。それに、その話に乗れば、おそらくB&R探偵社はかなり偏った仕事しかすることは出来なくなるだろう。俺達の自由は殆どなくなってしまうといっても過言ではないだろう。
「で、もう一つの話は?」
 幼女は少しもったいぶる様に口を開く。
「そうだな……、どちらかと言うとこちらん方が本題だ。今日お前たちが捕まえた女。その女をこちらに引き渡してほしい。むろんタダでとは言わん。それなりの礼はさせてもらう」
 幼女はそう言うとちらりと後ろの大男に目を向ける。大男は幼女の後ろに立ち、ジェラルミンのかなり大きな、もっとも大男が持っているとおもちゃのようにしか見えないが、そのスーツケースを俺の前に差し出し、その蓋を開ける。
「これでは足らんかの?」
 その中にはかなりの数のドル紙幣が詰め込まれている。すべてが旧札なのにはいろいろと訳はありそうだ。まあ、その辺の三流探偵ならこの金額に目がくらんでもおかしくはないだろう。しかし、B&R探偵社では、それくらいの金額で信用を売ったりはしない。
「悪いがお嬢ちゃん。いくら金を積まれてもその話には乗れない。俺達の商売は信用が第一だ。それを失ったらこの世界では生きてはいけないからな」
「ふむ……」
 少し考える様に幼女は顎に手をやる。
「そうか。まあ乗るか反るかはそちらしだいだ。もっとも、後で後悔するようなことにならなければいいがな」
 幼女はそう言うと、にこりと幼女らしい笑顔を向けるが、その笑顔が余計に不気味に感じられ、俺は背中に少し嫌な汗を掻くが、それを気取られないようにすました顔でウイスキーを少し口に含む。
「では、気が変わったら連絡をくれ」
 幼女はフリフリの服のポケットからタヌキの絵柄の書かれた名刺入れを取り出し、名前と電話番号のみが書かれた名刺を俺に差し出し、それを受け取ると二人はそのまま店を出て行く。その姿を見送った後、俺はて渡された名刺を見て、俺はそこに書かれた名前を口にする。
「パンドラ……」
 おそらく偽名だろう。連絡先もどこかを経由して繋がるようになっているに違いないだろう。
「さて、どうしたものか……」
 俺一人で考えても仕方ないだろう。とにかく、いまは考えることに疲れた、明日事務所で会議を開く事にしよう。俺はそう思いながら目の前にあるウイスキーのグラスを見つめる。

4話
 次の日の朝、俺は事務所に行くとそこにはもうモイラが出勤しており、俺に挨拶をする。
「おはようございます所長」
「ああ、いつも早いな。なにか変わったことは?」
「昨日の夜にはとくには」
「そうか、ゼットの方はどうだ?」
 俺の言葉にその本人が声をかける。
「もう大丈夫だボス」
 俺はゼットの方に目を向ける。
「そうか、しかし無理はするなよ?」
「ああ、わかってる。しかし、仕事は待ってはくれないだろ?」
「ああ、そうだな。早速で悪いが、昨日回収できたデータの解析を頼めるか?」
「OKボス。早速かからしてもらう」
 ゼットはそう言うと、昨日回収した記録メディアを手に持って部屋を出て行く。俺はその後またモイラに目を向ける。
「今日の予定は?」
 モイラは手帳を取り出すと、今日の予定を読み上げていく。今日もかなりの予定が詰まっていることを確認する。
「モイラ、どこかでミーティングを行いたいが、時間が取れそうなところはあるか?」
「そうですね……、全員の予定が空くのは昼の休憩時間だけですね」
「わかった、ランチミーティングを開きたい。会議室に全員を集めてくれ」
「かしこまりました」
 そんな話をしている間に、所員がだんだんと出勤してくると、事務所はだんだんと騒がしくなってくる。最初レシアと二人で始めた探偵事務所だったが、今では一〇人を超える大所帯になった。そんなことを考えながら俺はクライアントへの報告書を作成したり、来客の対応をしたりとしている間にランチの時間になる。
全員が会議室にそろい、ある程度全員が食い終わるのを見て、俺は話を始める。
「みんな昼の時間にすまない。今日集まってもらったのはほかでもない。俺は昨日ある人物と接触した。その人物からの提案を全員に伝えたい」
 俺の言葉に全員は黙って耳を傾ける。
「ある人物と言うのは政府の人間だ。おそらく、超人を集めた部隊の人間だろう。名前はパンドラ。もっとも、偽名だろうがな」
 俺はそう言うと昨日もらった名刺を皆の前に投げ渡す。それをレシアが最初に手に取り、順番に所員に手渡ししていく。
「向こうからの話は二つだ。一つは我々をそのパンドラとかいう所の所属にしたいという事。まあ、ヘッドハンティングだな。我々も有名になったものだ。そして、もう一つだが……」
 俺は全員を見渡す。
「昨日確保したバニーガールを引き渡せという話だ」
 俺の言葉に全員は黙ったままだ。俺の考えを聞きたいのだろう。
「もちろん、バニーガールの話は断った。それで、バニーガールの容態はどうなんだ?」
 俺の質問にモイラが答える。
「はい、何とか一命は取り留めましたが、意識不明の状態が続いています。ヤブ医者の話ではかなりのタルジュ漬けだったようです」
「そうか。意識が戻り次第連絡をくれ。それとくれぐれもヤブ医者の趣味に走らせないようにしてくれよ?」
「承知しました」
「とにかく、俺はバニーガールを引き渡すつもりはない。だが、ヘッドハンティングの話は、みんなはどう思う?」
 俺の言葉にゼットが答える。
「ボス、バニーガールの件を断るつもりなんだ、もう答えは出てるんだろ?」
 俺は少し笑って答える。
「ああ、俺はそのつもりだ。だが、全員の意思を確認しておきたくてな。全員同じという事でいいか? 福利厚生はこの事務所よりもかなりよかったぞ? 機密費も使い放題らしい」
「金だけの為にこの仕事をやってるわけじゃないだろ?」
 レシアの言葉に全員が頷く。
「そうか、分かった。では、この件は正式に俺の方から断りを入れておこう。しかし、俺達の事は良いだろうが、バニーガールの件は別だろう。二四時間体制で監視と護衛を付けたいと思う。奴らに奪われないようにな。モイラ、ローテーションを組んだくれ」
「承知しました」
「他に何かあるか?」
 俺は全員を見渡すが、他には何もなさそうだ。
「では、これで終わりにする」
 俺の言葉に全員が立ち上がると、それぞれの仕事に戻っていくのを見届け、俺も自分の仕事を始める。

5話
 しばらく仕事をこなしていると、モイラが突然の来客を知らせる。
「所長、お客様がお見えになっておりますが……」
「お客さん? 今日はそんな予定があったかな? いったい誰だ?」
「すまないが、邪魔させてもらうぜ」
 俺は突然入ってくる男の顔を見て納得する。超人専門の警察組織で、本人は人間だが、かなりの腕利き刑事だ。
「ああ、刑事さん。こりゃまた何かご用で? モイラ、刑事さんにコーヒーを」
「ああ、気を使わないでくれ。それにコーヒーよりゃビールの方が良い」
「だ、そうだ」
 俺はモイラにそう言うと、モイラは頭を少し下げて部屋を出ると、冷えたビール瓶を手に戻ってくる。早速そのビールを手に取り、飲み始める刑事。それを一気に飲み切る。
「ぷはぁ! やっぱり昼間のビールはきくね〜。ねーちゃん、悪いがもう一本たのまー」
 少しあきれ顔のモイラは言われた通りに、またビールをもって戻ってくると、今度はそれをゆっくりと飲み始める。
「で、刑事さん。今日はどういったご用件で?」
「あ? おお、そうそう。大事な要件を忘れる所だった」
「大事な要件?」
「ああ、そうだ。おめーさん、最近ちょっとやばい仕事に手を出してるんじゃないだろうな?」
「やばい仕事? うちは真っ当な仕事しかしてませんよ。非合法な事なんてこれっぽっちもやっちゃいません」
「いや、悪い悪い。そう言う事じゃなくてだな。お前さんらはどうも踏み込んじゃいけないところに踏み込んじまったみたいだ」
「と、言うと?」
「最近、おめーさんらはこの女に係わらなかったか?」
 刑事はそう言うと一枚の写真を机の上に乗せる。その写真に写っていたのは黒髪のバニーガールの姿。髪は黒いが、間違いなく確保したバニーガールの写真だろう。
「このバニーガールが何か?」
「ああ、このバニーガールだが、名前はレイリン。もっとも、それも本名かどうかは分からないが、かなりやばい組織に所属していた。それはお前さんもよく知っている事だろう?」
 俺は刑事の言葉に少し両手を広げて肩をすくめる。
「でな、この女、かなりの能力者、まあお前さんらと一緒で超人だ。それも電子戦に特化したな。それで、かなり組織の中の幹部と言っても過言ではないくらい、組織の中での地位は確立されていたようだ。まあ、俺達もかなり探し回ってはいたんだが、居場所は全く知れずで、困ってたところだ」
「それで、刑事さん。何が言いたいんですか?」
「お前さん、隠してるだろ?」
 今までの酔っぱらった感じの目つきとは完全に変わったプロの刑事としての目つきで俺の方を見てくる。
「ははは、何のことですか? 我々の商売は真っ当な商売だと先ほども言ったばかりでしょう? そんな怪しげな女、私は知りませんよ」
 俺は顔に出すことはなく笑顔で答えるが、刑事は俺の目の奥の方を真剣なまなざしでしばらく覗き込むと、急に表情を緩める。
「まあ、そうだよな? お前さん方は真っ当な探偵さんだ。まあ、何か困ったことが有ったら言ってくれ。困ったときはお互い様だ」
 刑事はそう言うと立ち上がる。
「すまんな忙しい所。ビールうまかったぜ。じゃあ、これで失礼するよ」
「いえ、またいつでもお越しください」
「ああ、そうそう。これは独り言だが……。あの女、追っているのは俺達だけじゃねぇ、政府のかなり上の方の組織でも追っているようだ。それも軍の類の連中がな。それに元いた組織も生きていることを嗅ぎつけたらしい。かなりやばい事になるぜ。降りるなら今の内だ。じゃあな」
「ご忠告ありがとうございます。何かあれば連絡しますよ」
「じゃあ、ビールごちそうさん」
 刑事はそう言うとモイラの尻をペロッと触りながら事務所を出て行く。

6話
「バニーガールの状態はどうだ? 場所を移さなけりゃならん。恐らくもうヤブ医者に運ばれたことは、ばれているだろう」
 俺はそう言うと、モイラが答える。
「先ほど連絡があり、目を覚ましたようです」
「そうか、ちょっと迎えに行ってくる。地下室は開いていたかな?」
「準備は整っています」
「わかった、ちょっと行ってくる」
 俺はそう言うとヤブ医者の場所にスライドする。
「相変わらず突然現れるやつだな」
「急ぎでしてね。で、どうですかドクター?」
「あの女か?」
「ええ」
「まあ取りあえず意識は取り戻したが、まだ安静にしておかなければならんな」
「そうは言ってはいられなくなりましてね」
「なんじゃ、もう嗅ぎつけられたのか?」
「ええ」
「まったく、治るものも治らんわ……で、どうするんじゃ?」
「とりあえずうちの事務所に運びます。何かあればすぐにドクターを呼びに来ます」
「老人をこき使いよって」
 俺はレイリンのいる部屋に入る。目は覚ましているようだが、様々な機器が体につけられており、身動きは出来ないような状態だ。
「すまんが、場所を移させてもらう。ドクター、一式借りていきますが問題ないですね?」
 ヤブ医者は俺の方に手を挙げてそれに答える。
「では、ドクター必要なものは後で救護スタッフに取りによこします。用意をしておいてください」
「ああ、分かった。その時に請求書も渡しておくぞ?」
「ええ。では、急ぎますので」
 俺はそう言うとレイリンの寝ていたベットと、繋がれた機器を一式事務所の地下にスライドさせる。
「お帰りなさい所長」
 地下室にはもうすでにモイラが待っており、俺とレイリンを迎える。
「すまんが、頼む。それと、誰か後でヤブ医者の所に行かせて必要な物を取ってきてくれ。ヤブ医者が用意してくれてるはずだ」
「かしこまりました」
 モイラはそう言うと部屋を出る。
「さて、いろいろ聞きたい事があるが、いいかな?」
 レイリンは黙ったまま天井を見ているだけで、俺の方には一切視線を向けることはない。
「レイリン、聞こえるか?」
 名前を呼ぶとようやく目だけを俺の方にちらりと向け、何か小声で言うが、何を言っているのか聞き取れない。俺は耳をレイリンの口元に寄せる。
「なんと言ったんだ?」
「タルジュを……」
「すまんがここにはタルジュは無い。俺達はタルジュを使わないようにしているのでね。君だってこれ以上タルジュを使うのは危険だ。今ならまだ間に合う。もうタルジュを使うのはやめておけ」
「タルジュを……」
 また小さな声で同じことを繰り返す。
「ダメだ!」
 少し強めの口調で言うと、レイリンはまた眠ったように目を閉じそのまま黙り込んでしまう。
「まだ駄目そうだな……」
 俺は仕方なく部屋を出る事にする。逃げる心配はないだろうが、それでも一応部屋を隔離するように空間を隔離する。その後俺は自室に戻る。
「さて……どうしたものか……」
 このまま依頼主にレイリンを引き渡してもいいが……。取りあえずもう少し様子を見ることにするか。しかし、依頼主に報告だけはしておかない事にはな。そう言えば……。俺は内線でゼットを呼び出す。すぐにゼットは部屋にやってくる。
「なにか用かボス?」
「ああ、忙しい所すまんな。昨日渡したデータだが、解析の進捗を聞きたくてな。依頼主に報告するためにもある程度把握しておきたい」
「その事だろうと思って用意しておいた。取りあえず見てくれ」
 ゼットはPCのデータを俺の端末に表示させる。
「ほとんどのデータは消されていた。消去されたデータを復活させようとしたが完全に消去されていて、それも不可能だった」
「そうか……、それは残念だ」
「しかし、一つだけデータが残っていた。消し忘れたのか、意図的に残されたのかは分からないが、とにかくそのデータを見てくれ。もちろん罠は取り除いてある」
 俺はその残されたデータに目を向ける。そこには超人の能力を人間が遺伝子操作で操り、どんな能力の超人でも作り上げることが出来るという研究データの一端だった。
「オペレーション・ラプラス……。もしこの計画が実行段階だとしたらかなりまずい事になる。能力はどんなものかはわからないが、こんな人口超人が大量に現れたら、とてもじゃないがどんな超人でも抑え込む事なんてできやしない!」
「ああ、こんな計画実行されたらたまったもんじゃない。詳細は残ってはいなかったが、そのデータを読むだけでもかなり危険なものだという事は認識できる。どうするボス?」
「どうもこうも……、こんなものまで出てきたらもう、俺達の何とかできる範囲を超えている。それこそ、警察か、軍に任せるしかないだろう」
「ああ、ボスの言う通りだ。この件からは手を引いたほうがいい」

7話
「そうだな。取りあえず、報告書をまとめて、依頼主にそれを渡して俺達の仕事は終わりにしよう」
「そのほうがいい。しかし、そうなるとあの女、レイリンとか言ったか? あの女はどうする? 俺達はもうかなり深い所まで関わってきちまったかもしれないぜ」
 ゼットの言う通りだろう。もしかすると俺達はもうすでに引き返せないところまで来てしまっている可能性がある。そうするとこの事務所もかなり危ない可能性がある。さっさとレイリンも警察に引き渡したほうがいいかもしれないが……。
「とにかく、依頼主に報告する。レイリンも依頼主に引き渡したほうがいいかもしれんな。しばらくは事務所の人間全員に警戒するように伝えておかなければな」
「ああ、そのほうがいいだろう」
 俺とゼットはその後も少し会話をして、ゼットは部屋を出て行く。おれはゼットの報告を聞いてかなり頭を悩ませる。とにかく、報告書をさっさとまとめてしまおう。そしてこの件からは手を引く。それが一番いいだろう。俺はそう思い、依頼主に電話をかける。しかし、依頼主と電話がつながらない。しばらくかけていると、ようやく電話がつながる。
「ああ、ブラストです。お忙しい所申し訳……」
「おお、ブラストか? 残念だがこの電話の主はもう、口がきけない体になっちまってる。どんな要件だ?」
 聞き覚えのある声だ。おそらくあの刑事だろう。
「刑事さん? まさか……」
「ああ、死んだよ。死体から察するに完全に超人の仕業だろう」
「そうですか……」
「お前さん、何か心当たりでもあるのか?」
 俺は刑事の言葉に考える。依頼主が死んだ以上、もうこの件は警察に渡したほうがいいかもしれない。
「実は刑事さん」
 俺が話そうとしたところで急に電話が切れる。もう一度かけなおしたが、やはり電話はつながらない。俺は嫌な予感が走る。その次の瞬間窓ガラスが割れる音が聞こえると同時にモイラの悲鳴が響き渡る。俺はすぐにガラスの割れた音の部屋に走り、状況を確認すると、部屋に転がる金属の筒、俺はそれが何なのかを一瞬で理解し、その筒の周りの空間を隔離する。その一瞬後、筒は破裂して爆発と共に金属の粒を隔離された空間にまき散らす。
「レシア!」
 俺は事務所の中にいるであろうレシアの名前を叫ぶ。
「ここにいる!」
「敵の状況は?」
 レシアは冷静に鏡を使って外の状況を伺う。
「今の所は動きは無い。少し見てくる」
「頼む」
一瞬の後戻ってきたレシアの話を聞く。
「まずいぞ、事務所の周りは囲まれてる。普通の人間もいるようだが、中には超人も何人か混ざっている。どうする?」
 俺は少しの間考える。取りあえず、事務所の周りを空間的に遮断して、外部からの侵入は抑えるとしても、外部に連絡もつながらないような状態だ。おそらく、感の良い刑事さんがこちらの異変に気が付いてこちらに向かっては来るだろう。空間を隔離していれば、いずれは敵も時間切れで諦めるだろう。しかし、その間まったく外部の情報は入ってこない。何日にも及ぶことは無いだろうが、この事務所をもう使う事は出来ないだろうな……。まあいい、今はそんなことは考えても仕方がない。
「とりあえず、事務所の周りの空間は遮断した。外部からの侵入はもうできはしないだろう。長時間居座ることも出来ないだろうし、とにかくは籠城するしかないだろう」
 俺はそう言うと、レシアも少しは安心したのか、表情を緩める。
「わかった、ブラストがそう言うなら大丈夫だろう」
「しかし、万が一には備えておいてくれ。いざとなったら俺の能力で、全員を安全な場所までスライドはさせるが、その後は完全に無防備な状態になる。事務所の人間を全員連れ出すのにはかなり俺も疲れるからな。もしそうなったら……」
「ああ、わかってる。その時はあたしがみんなを守るよ」
「頼りにしてる」
「モイラ、とりあえず全員を部屋に集めてくれ」
「わかりました」
 モイラは全員に召集をかける。集まるまでの間、俺はレイリンの様子を見に行くことにする。地下室の扉を開けると、ベットの上にはレイリンはおらず、逃げたかと一瞬思ったが、部屋の隅で膝を抱えて震えているレイリンの姿が目に入った。俺はレイリンに近づいて声をかける。
「レイリン、どうかしたのか?」
 俺が声をかけると、レイリンの身体はびくりとして、俺の方を怯えた目で見てくる。
「どうかしたのか? 大丈夫だ。ここは安全だから安心しろ」
 ブルブルと震えるレイリン。
「……殺される、あいつが、あいつが私を殺しに来る……」
「あいつ? あいつとは誰だ?」
「悪魔だ……あいつには誰も敵わない……、私も、お前たちも全員殺される……ふ、ふは、ふはははは、殺される、私達はもう終わりだ! みんなみんな死んで、この世からいなくなって、消えちゃうんんだ!」

8話
 レイリンは気でも触れたかのように大きな声を上げて叫び続ける、それをなだめようとしたが、もうレイリンには俺の声は聞こえない。とにかく落ち着かせよう、俺はそう思い、医療器具の近くに置いてあった、鎮静剤の注射をレイリンに打つとようやく、落ちつきを取り戻し、そのまままた眠ってしまった。
 俺はレイリンをベットに寝かせ、みんなが集まっているであろう部屋に行く。ほとんど全員がもう部屋に集まっており、俺の方に視線を向ける。
「みんな集まってくれたか?」
 俺は自分の席に座ると全員の顔を見る。一つだけ席についていないものがいる。
「救護のミオリがいないようだが?」
「ヤブ医者の所に使いに出たまままだ戻っていません」
「なんだと? まずいな……俺達のメンバーの顔は全員知られていると思って間違いないだろう……。さて、どうするか……」
 俺が頭を悩ませていると、廊下の方から足音が聞こえてくる。もしかしたら、ミオリが襲撃前に戻っていたのかもと、俺は扉の方に顔を向けると、扉はゆっくりと開かれ、ミオリを抱えた一人の若い男が立っていた。
「やあ、初めまして」
 男は場違いな感じで俺達に明るく挨拶をしてくる。
「あれ、この子、君たちの仲間じゃないの? 仲間だと思ったから捕まえたんだけどな……違うなら殺しちゃおうかな?」
 俺はその男の言っている意味が解らず少し唖然としてしまう。そもそも、この隔離された空間に入ることは俺の能力が消えない限り無理だ。なのに目の前の男は何事もなかったかのように事務所の中にミオリを抱えて入ってきている。
「お前は誰だ?」
 男はミオリを床の上に降ろすと、俺の方を見て答える。
「うん? 僕の事かな? えーと、こういう時は通り名を言うべきなのかな〜?」
 緊張感の無い声で話し始める。
「えーと、みんなからは【デーモン・オブ・ラプラス】とか言われてるよ」
 男の言葉を聞き終わる前に、レシアが動く。その瞬間、ラプラスの右手は何事もなかったかのようにレシアの拳を受け止める。
「君か〜、ライトニングマーメイドのレシアっていうのは。一度会いたいと思ってたんだよね。僕のスピードとどっちが早いか比べてみたかったんだよね!」
 そう言うとラプラスとレシアの姿が消える。一体何が行われているのかは全く分からないが、ほんの一瞬で全てが決したようで、服と体中にあざを作ったレシアが、何とか立っていることがやっとのような姿で立っている。
「レシア! 大丈夫か?」
「なんだ、もっと強いのかと思ったけど、大したことないね。ライトニングマーメイドとか言うからもっと凄いのかと思ったけど。残念だよ」
 ラプラスは、そう言うとレシアにとどめを刺そうとするが、俺はレシアの周りの空間を遮断してその攻撃を遮る。そして、そのままラプラスを拘束するためにラプラスの周りの空間も遮断する。これで奴は身動きもできないはずだ。
「ふーん、これが空間使いブラストの能力か、オリジナルの空間使いの能力がどんなものかと思ったけど……」
 その瞬間、俺の遮断した空間の壁が崩壊する。
「がっかりだよ!」
 ラプラスは何事もなかったかのように椅子に座ったままだ。
「さて、長居すると爺さんに怒られるからさっさと用事を済ませようかな」
 ラプラスはそう言うと右手を挙げて指を二本立てる。
「君たちに選択肢をあげるよ」
 指を一本折り、立ち上がる。
「まず一つ目の選択肢。君たちの匿っているレイリンをおとなしく返して、楽にあの世に送られる」
 そして一旦立ち止まって、また指を一本立てる。
「そしてもう一つの選択肢、全員に死んだほうがましなくらいの苦痛を味わわせて、なぶって、殺した後、ゆっくり僕がレイリンの居場所を探す。僕的には後者のほうが好みかな。まあ、選ぶのは君たちだから好きにすればいいけどね。さあ、どっちがいい?」
 少しあどけない笑顔を俺に向ける。
「そうだな……レイリンは渡さないしお前にも殺されない。第三の選択肢を俺は選ぶかな?」
 俺はそう言うと能力全開で俺の事務所のスタッフと、レイリンを同時に空間をスライドさせて事務所を離れる。おそらくラプラスは俺と同じ能力を使うことが出来るだろう。しかし、事務所から離れてしまえばすぐに見つけることは難しいはずだ。
9話
「ここは何処なんですか?」
 モイラが俺に話しかける。俺はかなり疲れ、肩で息をしながら答える。
「ハァハァ、いざという時の、ハァハァ……為に用意しておいた場所だ……」
 何とか呼吸を落ち着かせる。
「とにかくミオリとレシアの身体を見てくれ。特にレシアはかなり無茶をしているはずだ。それとゼット、奴の情報が少しでもほしい。何とか調べてくれ」
「OK、ボス」
「機材は全部そろっているはずだ」
 これで少しは時間が稼げるはずだ。俺はそう考えていた。しかし、またこの部屋の外に気配を感じる。
「誰だ!」
 俺は扉の向こうに叫ぶ。
「なんだ、えらく荒っぽい出迎えだな」
 扉を開くとそこには数日前に見た少女と、大男が立っていた。
「あんたか。しかし、なんでこの場所が?」
「お前の能力を辿ってここまで来た。お前の能力は分かりやすいからな」
「俺の能力が……、わかりやすい?」
「ああ、今まで気が付かなかったのか?」
 俺はパンドラの言葉に力が抜けた。今まで俺の能力にはそれなりに自信があった。しかし、ラプラスと言いパンドラと言い、俺の能力は見破られていた。
「まあそう気を落とすな。我々ならその弱点を何とかしてやれる」
「今は考えたくない。また今度にしてくれないか?」
「まあ、そうしたいところだがな……あちらは時間をくれはしないようだぞ?」
 パンドラはそう言うとちらりと部屋の外に視線を向ける。
「かくれんぼは終わりかい? おや、なんだ君まで来てたのかパンドラ」
「ああ久しぶりだなラプラス」
「うん、随分になるね。元気そうで何よりだよ。で。僕は今そこのおっさんに用があるんだけどお引き取り願えないかな?」
 ラプラスの言葉に少し意地が悪い顔で答えるパンドラ。
「それは奇遇だな。我々もこのおっさんに用事があってな」
「ふーん。でも、僕の方が先だったんだよね。君はまだ子供だから大人のルールは分からないかもしれないけど、ルールを守る。それが大人になるってことだよ? さあ、だから僕の後にしてくれないかな。まあもっとも、僕の後には順番は無いかもしれないけどね」
 ラプラスの挑発にパンドラの表情が少し歪んだように俺には見えた。
「相変わらず口の利き方がなっていないな。ぼくちゃんは。そんな奴にはお仕置きが必要だな泣き虫君」
 そう言うとラプラスとパンドラはお互いの能力を全開に引き出すように立ち尽くす。それを気配で悟り俺は事務所の全員に叫ぶ。
「いかん、全員外に出るんだ!」
 俺の言葉に全員が瞬時に動き、急いで外への扉を開けて全員が退避する。その瞬間、とてつもない力と力がぶつかり合う音が聞こえる。その衝撃は外にいる俺達にも届く。
 俺は何とか最後の力を振り絞り、全員の前に隔離した空間を展開して衝撃波と建物の破片を防ぐ。もう、俺の能力は殆ど使うことが出来ないくらい俺は能力を出し切り、その場に倒れこむ。
「ブラスト!」
 レシアはすぐに俺を支えるが、レシア自身もかなりぼろぼろの状態だ。その間にもラプラスとパンドラの戦いは続いる。パンドラと大男対ラプラスの二対一の戦い。しかし、それでもラプラスの方がパンドラと大男を押しているようにも見える。
「くっ! 全力の力が出せれば、泣き虫小僧なぞ一ひねりだというのに」
「隊長、それはいけません。まだ今はあの能力を使うわけには!」
「わかっている。しかし、このままでは……」
 そういう間にもラプラスはパンドラたちを追い詰める。
「なんだ、やっぱり子供の力はこんなもんなのかい? じゃあ、先に君たちをあの世に送ってあげるよ!」
 そう言った瞬間、ラプラスの態勢が崩れる。
「レシア!」
 俺のか傍らにいたはずのレシアがいつの間にかラプラスに攻撃を仕掛ける。
「いててて、なんだ人魚姫? そんな体で僕の相手をするのかい? おとなしく順番を待っていればいいのに、わざわざ先に死にに来たのかい?」
「そんなことはさせない! あたしがいる限り、絶対にみんなには指一本触れさせないよ!」
 レシアはそう言うとポケットの中から何かを取り出し、それを口に含む。それが何かに気が付いたが、俺が止めるより早くレシアはそれを飲み込む。
「レシア! だめだ、それは、タルジュはやめろ!」
 俺の言葉にレシアは少し振り向き穏やかな顔で微笑む。
10話
「タルジュか……。そんな物を飲んでも僕には敵わないだろうけど……。まあいい、もうそろそろ時間も迫ってるし、面倒だから一気に全部方つけるかな」
 ラプラスはそう言うと能力を開放したのか、レシアとパンドラ、そして俺達を巻き込むようにすさまじい力を、それが何なのかわからないが、相当な力を開放し、その力は周りにあるすべてを巻き込んで行く。
「させない!」
 レシアはその力の奔流に立ち向かうかのように、タルジュの力で増幅された能力でラプラスに向かう。その力は凄まじい光を生み、俺はレシアとラプラスの姿を捉えることが出来なかった。
「レシア!!」
 次の瞬間、暴力的なまでの光は消え、俺は目を開けると、そこにはほとんど無傷のラプラスと、傷だらけでかなりの血を流しながら倒れているレシアの姿が目に入る。
「残念だよ。タイムオーバーだ。今日の所は引き上げるけど、次に会った時には容赦はしないよ」
 ラプラスはそう言うとスライドしたのか、その場所から姿を消す。俺はすぐにレシアに駆け寄る。

続く……
>>[121]
いや〜。
バックにかなりの能力者がいれば交渉役には使えそうですね。
>>[131]

また片端から伏線回収してきましたね(^_^;)。
レシアの切り札にして禁じ手がタルジュ、というイメージは私も持ってたので、クライマックスは思わずニヤリとしました。時間停止、というか、時間圧縮の能力を、より長時間持続できれば、かき回した気流の破壊力は何倍にも増強できます。時間の圧縮率をより高くするのでも、効果は同様。たぶんレシアは、そういうことをやったのでしょうね。

ちなみに、ラプラスの悪魔、というのはご存知かと思います。この世のあらゆる素粒子の動きをビリヤードのように正確に把握することで、この宇宙が始まってから遥か未来に終わるまでの出来事を、すべて決定事項として知っている悪魔です。理論物理学の世界で、未来は確定しているのかどうかという問いかけをするための、思考モデルです。
作中でのラプラスの能力は、まるで未来が確定しているかのように予測できる能力、ということになると思います。ただし宇宙が始まってから終わるまで全部把握、というのは無理で、せいぜいが身の回りで起こっているような出来事の、数分とか数時間といった範囲のことでしょう。ただし、逆に自分がその出来事に関与することで、未来を自在に変化させることもできる。たとえば、指を鳴らすだけで、目の前の窓ガラスが割れる、といったような。バタフライエフェクトという言葉を聞いたことがあれば、それの凄いやつ、ということになると思います。
私の中のイメージは、こんなところ。しかしレシアには光の速度に限りなく近い速度で動けるので、たとえ未来予測ができたとしてもそれに対処できないほどのスピードと破壊力を発揮する可能性がある、ということ。レシアのスピードと、ラプラスの未来予測の精度、どちらが上回るかという勝負になるのでしょう。
オマケです。

通称パンドラボックス(本名は誰か決めてやってください(笑))の能力は、人に罪の意識や劣等感のような気持ちを起こさせる、というようなもの。使われた相手は、何がどうなったのかよくわからないまま敗北感に襲われたり、自ら命を断ったり、廃人になったり、といったことが起こります。抵抗の可否は本人の信念や意志の強さみたいなもので決まってきますが、生半可なことでは逆らえません。またその恐るべき負の感情は、一度経験すると記憶に刻まれ、個人差の範囲内で効果は持続します。物理的な強さでは対抗できない力です。(コレのポンコツバージョンが「威圧」ですが)

大男のほうは、能力は「スーパーストロング」ってのを想定してます。
イメージとしては、とにかく理屈抜きにむちゃくちゃに強い、です。その強さは、タイミングさえ間違えなければパンドラボックスの能力にさえ抵抗できるほど。腕力も筋力も尋常でなく、生身の肉体で銃弾をはじきかえすことも可能。レシアの攻撃さえ受け止めます。
弱点は、とにかく単純に強いだけなので、もっと強いものとか効果範囲の広いものには勝てないんです。たとえば、核ミサイルの直撃なんかには勝てないでしょう。とはいえビルの倒壊なんかには耐えるので、常識の範囲では無敵です。
とはいえ、能力を使ってない時にはただのばかでかいオッサンなので、普通に銃で撃たれれば死にます。
>>[108]

この前黒猫さんが書いてた透明人間と透明人間が見える人の後日譚ですねー。
なんかほっこりしました。
フィル君が服を着たら、頭が…帽子とカツラと大きなサングラスとマスクでごまかせるかな?w
ミュイさんがいてくれて、孤独じゃなくなって良かった。
恋人になるかどうかはわからないけど、仲良しでいられたらいいなぁ。
>>[119]

うはは。
今日はこのくらいにしといたるわ〜(`・ω・´)+ドヤァって目の前に浮かびました(笑)
>>[136]

己の能力におぼれて、至るところでいろんな人に殴られていそうな気もします(笑)
>>[133]
主要な所はこれで繋がったかなと思います。後はポンコツ超人達ですね。
レシアはやっぱり最終的にはタルジュを使うと私も思っていたのでこういう感じになりましたね。
ただそれでもラプラスにはかなわなかった。
今後のレシアの成長に期待ですね。
最終決戦はレシアとラプラスになるかなと思いますが……どうなるか。

ラプラスの能力にしてもパンドラの能力にしても中途半端なまま書いてしまったので、もう後は誰かに丸投げ感で書いてます。
黒猫さんのお話で行くと、まあそんなに能力的には問題ないのかなと考えれますね。
まあ、後は誰かに。
>>[135]
恋愛にまで発展するかどうかは……
まあ、彼次第でしょうね〜。
この後どうなるかはまだわかりませんね。
>>[131]

まずこの文量!お疲れ様でした!
あちこち伏線回収で、世界が繋がっていきましたね。
ラプラスとのバトルも、どんな展開になるかと
ドキドキしました。
遺伝子操作で超人を作るっていう研究は、私もざっくり想定してましたが、具体的案までは思いつかず…。
なんかうまいことできないかなーと考え中。
研究員のお話、気に入らないから
最初から考え直しているところ。
私にもタルジュをーヾ(´囗`。)ノ
SS:人には言えない秘密

 僕は、国王陛下の小姓だ。
 毎日、陛下の身の回りのお世話をするのが仕事。
 朝、陛下をベッドから起こしてさしあげて、御髪を解くことから始まって、夜、寝間着のお着替えをお手伝いして、ベッドに入っていただくまで。
 やることはたくさんある。

 そして、人には言えない秘密も。

 今日も陛下からとんでもないことを聞かされた。お側付きの近衛隊長からは、「誰にも言うな」と目配せされた。
 でも僕は、陛下のお体が心配になった。だから、つい、陛下にお尋ねしてしまった。陛下はニッコリお笑いになって、「なんともないぞ」とおっしゃった。
 夜になって、陛下がお休みになった後、明日の朝の支度をして、僕は自分の部屋へ戻った。同室の小姓たちが誰もいないのを見計らって、毛布の中に潜り込み、枕を口元に当てて、いつものように秘密を叫ぶ。

「陛下の王冠には、隕石のかけらが嵌め込まれている!」

 ああ、スッキリした。僕はいつもこうやって、誰にも言えないことを叫ぶことにしている。
 これで明日も気持ちよく仕事が出来そうだ。
研究員の話がなかなかうまくまとまらず、
今日、お風呂に入ってたら浮かんできたお話をUPしてみました(^_^;)
SS:Second impact

 はあ、と溜息をつき、僕は端末の電源を落とした。眉間を押さえる。研究ノートをパラパラと広げた。
 今日書いたページにたどり着いたところで、僕は心の中で、パシャ、とカメラのシャッターを切る。そうすると僕は、まるで写真のように目の前にあるものを切り取って記憶することができる。思い出す時は写真のように映像が細部まで鮮明に頭の中に浮かぶ。
 こんなことができるようになったのは、王立科学研究所で隕石のかけらを使った実験を始めてからだった。僕の他にも、なんらかの能力を身につけた研究員が何人も出た。隕石の落下地点付近の住民の検査を経て、隕石のかけらに含まれるなにかが、僕たちに特殊能力を与えているらしいことがわかった。
 それ以降、王立科学研究所では積極的に隕石のかけらとそれが人に与える影響について研究するようになった。僕もその一人だった。
 時計を見る。二十二時を回っていた。
 没頭するあまり、時間を忘れてしまったようだ。ラボのスタッフたちはすでに帰宅してしまったらしく、ラボ内はガランとしている。
 もう帰ろう。そう思って、片付けをしていると、コンコン、とドアをノックする音がして、ナサニエルが顔を出した。
「まだ仕事中か?」
「いや、もう帰るところだよ」
「なら、少しだけ付き合わないか?」
 そう言って、彼は缶コーヒーを二本取り出した。
「本当なら飲みに行きたいところだけど、機密情報やらなんやら、いろいろと面倒だろ」
 手近にあった椅子を引き寄せて座る。渡された缶コーヒーはまだ温かかった。
「……研究の進み具合はどうだ?」
「うーん、まあ、そこそこ、かな。進んでると言いたいところだけど、そうでもない」
 君は? と訊くと、ナサニエルは、似たようなものだ、と肩をすくめた。
「……なあ、メイスン。おまえの考えを訊きたいんだが……」
 ナサニエルにしては珍しく、沈んだ面持ちだった。
「この国は、これからどうなっていくと思う?」
「どうって?」
「あの隕石が落ちた日から、俺たちは研究を進めてきた。俺は隕石が及ぼす遺伝子への影響、おまえは外的要因による超人の能力抑制について。他にも超人たちの能力分布を研究しているやつもいるし、いろんな研究が同時進行で進んでいる」
 僕は頷き、プルタブを開けて、コーヒーを一口飲む。胃の中がじんわりと熱を帯びる。
「今、超人化しているのは、隕石落下地点から半径十キロメートル内に住んでいる住民の一部、隕石落下時に災害救助に当たった軍および国家警察、救急隊員の一部、そしてこの研究所で隕石のかけらを使って研究している研究員の一部……俺たち二人を含む、な」
「こうやって考えると、結構な人数だね」
 我ながら、なんだか間抜けな返事だな、と思う。
「そうだな。結構な人数だ。この超人たちのほとんどは、たいそうな能力を身につけたわけじゃない。日常生活を送る範囲ではそれほど問題にはならない。メイスン、おまえの写真みたいな記憶能力もそうだ」
「犯罪に使わない限り、君の言う通りだと思う」
 ナサニエルは頷いて、だが、と先を続けた。
「すべての超人の能力を調べ尽くしたわけじゃない。だから中には、とんでもない能力を得た超人もいる可能性がある。
 さて、そこでだ。俺とおまえの研究は、全く相反するものだ。俺の研究が進めば、隕石のかけらを使った遺伝子操作によって超人を作り出すことが可能になり、おまえの研究が進めば、超人の能力を外部からコントロール可能にする。
 ……この二つの研究のうち、国はどちらを優先させると思う?」
 即答は出来なかった。僕自身、何度も心の中で問いかけてきた疑問だった。
 恐らく、軍はナサニエルの研究を優先させたいと考えるだろう。超人によるエリート部隊を作れば、他国に対しても軍事的脅威となる。
 一方で、超人によるクーデター、あるいは革命が起こった場合、国王も政府も抗う方法がない。超人を政治的に支配下に置くことは最重要事項だ。
「答えるのは、難しい質問だね」
 僕はもう一度、缶コーヒーに口をつけた。しばらくの沈黙の後、ナサニエルが口を開く。
「……仮に、遺伝子操作が可能になったとして、だ。まず初めに誰に施すか? 王族? 軍の高官?」
「王族は無理だろう。万が一のことがあったら、ただじゃすまされない」
「だろうな。軍の高官は……場合によっては我先に、ってなるかもな」
 含み笑いを漏らしながら、ナサニエルもコーヒーで喉を潤した。
「軍をーー超人をコントロールする方法の開発が優先されるべき、か……」
「俺は、そう思う。だから俺からすれば、おまえに、あの写真みたいな記憶能力が備わったことは喜ばしいことだ。万が一、おまえの研究データや研究ノートが破損したり盗難にあっても安心だろ?」
>>[144]

「万が一って……ナサニエル、何かあったのか?」
 彼は肩をすくめて、ちょっとな、と苦々しく笑った。
「最近、変なんだ……誰かに監視されているような気がする。テーブルの端に置いてあったはずのものが、次に見た時にはテーブルの真ん中にあったり……」
「気のせいじゃないのか?」
「……かもしれない。ただ、ちょっと……いや、そうだな、多分、気のせいなんだろうな」
 残った缶コーヒーを一気に飲み干し、ナサニエルは深く溜息をついた。かぶりを振る。嫌な考えを振り払うように。それから僕の目をまっすぐ見つめた。
「……頼みがあるんだ。俺の研究ノートを、おまえの能力で記憶してくれないか?」
「研究ノートを? でもラボ間での情報のやり取りは禁止されてるじゃないか」
「だから、誰もいない、今のうちに、さ。ノートは俺のラボに置いてある。他の研究員も帰らせた。今回だけでいいんだ。頼むよ」
 僕の肩を強く掴み、思い詰めた表情で頼みこんでくる友人を、僕は断ることができず、わかったよ、と彼の肩を叩いた。
 二人で僕のラボを出て、他の棟にあるナサニエルのラボを目指した。夜遅いこともあり、誰にも会わずにすんだ。
 ラボの中は整然と片付けられており、どのテーブルにも、どの机にも、物は置かれておらず、すべて棚の中にしまわれて、鍵をかけられていた。
「えーと……もう論文で出している分は必要ないから……」
 机の引き出しの鍵を開け、中から何冊かノートを取り出し、ナサニエルはパラパラとそのページをめくり、いくつか付箋を貼り付けて僕に渡してきた。
「全部っていうわけにはいかないから、付箋を貼ってるページだけ頼む。順番に渡すから」
「了解」
 さっそく取りかかる。ナサニエルの研究ノートを見るのは初めてだ。思いつくままに書いたのか、なぐり書きに近い。思考の流れが見て取れる。
 さすがは王立アカデミー首席卒業。独特の発想、なのに理論と矛盾しない。あの頃から僕は、彼に対して尊敬にも似た、憧れの気持ちを抱き続けてきた。彼は僕の前に立ち、僕を引っ張り上げ、自分の理想や目的に向かって突き進んでいく。
 それは今も同じだった。彼の指示通りに記憶していくうちに、彼の研究が実は人体実験に取り掛かろうとしていることに気付いた。僕の研究はまだ動物実験に取り掛かり始めたばかりだ。
「ナサニエル。すごいじゃないか。もう人体実験を?」
「ああ、三日後にな。被験者も軍から集めることができた。上手くいけば、初めて人為的に超人を作り出すことになる。軍にとっては記念すべき日になるだろうな。俺にとっては……」
 自虐的な笑みを浮かべるナサニエル。僕は続く言葉を静かに待った。
「……なあ、メイスン」
「うん?」
「最近、思うんだ。人は、遺伝子という設計図を基に作られた。その設計図を俺が書き変えたら、書き変えた部分は超人化するだろう。でも、基本的には人間の設計図のままだ。人間の設計図の体で、超人の能力を使い続けたら、一体、どうなるんだろう……?」
「…………」
「今、おまえに能力を使ってくれと頼んでおいてなんだが……人間の体は、超人の能力によって壊れるんじゃないか。そんな気がするんだよ」
「……そう、かもしれない……」
「俺がやってることは、殺人に近いんじゃないかって……そう、思う。だから、おまえには早く研究成果を出して欲しい。超人に能力を使わせないようにすることは、国の安定だけじゃなく、超人自身のために必要だと思ってる」
 まっすぐに僕を見つめる瞳には、彼の願いが込められていた。僕はその視線をしかと受け止め、深く頷いた。
「僕と君の研究は、車の両輪だ。正直に言って、君の研究がここまで進んでいたとは思っていなかった。急いで研究を進めることにするよ。君の不安を和らげるためにも、ね」
 僕はナサニエルの肩を軽く叩いた。そして作業の続きに取り掛かる。それは深夜遅くまで続いた。
>>[145]

 ***

 気が付いたとき、僕は真っ白な天井を見上げていた。起き上がろうとして、ここが自分の知っている場所ではないと気付く。
「……あなた? 私よ、わかる?」
 妻の心配そうな顔が僕をのぞき込む。
「ああ、リディア、ここはどこだ…?」
 彼女に尋ねながら、白いベッドシーツ、腕につながれた管、ピッ、ピッ、と鳴る機械音に、なんとなく想像がついた。
「病院よ。研究所が爆発して、あなたはここに運び込まれたの。覚えてる?」
 記憶の海の中へと意識を沈める。確か……そう、ナサニエルの人体実験の日だ。僕は自分のラボで仕事をしながら、朗報を期待して待っていた。けれども、聴こえてきたのは雷のような轟音。そして激しい衝撃ーー。
「お医者様と所長さんを呼んでくるわね」
 妻は部屋を出て行き、すぐに医師と研究所長を連れて戻ってきた。
 医師は僕に名前や生年月日などを尋ね、触診をして、明日にでも退院してよろしいと言って部屋を出て行った。
 研究所長は医師の言葉を聞いて、疲れて青褪めた表情から、安堵したように顔を緩めた。
「無事で良かったよ。まだ他にも入院中のスタッフがいるが、幸い、重傷者はいない」
「研究所が爆発した、とか……」
 妻が気を利かせて部屋から出て行く。所長はその様子を目で追いかけ、妻がいなくなったことを確認してから僕へと振り返った。
「そう、爆発した。壊滅状態だ」
「しかし、なぜ……?」
「スタッフの話によると、ナサニエル・ラギ博士のラボで実験中、被験者に投与しようとしたアンプルが爆発したらしい」
「ナサニエル? ナサニエルはどうなったんですか!?」
 所長は眉を寄せてしばらく黙り込む。
「彼は……消息不明だ」
 絞り出すような所長の声。僕は全身から力が抜けていくのを感じた。手で顔を覆う。数日前に見たナサニエルの顔が頭に浮かんだ。
「今回の爆発で、所員たちは全員、隕石からの抽出物に汚染された。隕石落下地点付近の住民と同じく、ほぼ全員が軽傷で発見された。ラギ君も、この病院に運ばれた。その時は意識不明だったが、ケガはほとんどしていなかった。だが……」
 言葉尻を濁す所長に目を向ける。苦虫を噛みつぶしたような顔で、所長は話を続けた。
「……彼は、ここへ運び込まれたその日の晩に、忽然と姿を消した。自分から出て行ったのか、それとも何かに巻き込まれたのか……」
 所長の言葉に、僕ははっと我に返る。
「所長、ナサニエルは、誰かに監視されているような気がすると言っていました。机の上に置いたものが、気が付くと場所が変わっていたりするとか……。何か関係があるのでは?」
「なに、それは本当か?」 
「はい。とても不安そうに見えました。実験の三日前のことです」
「では、なんらかの事件に巻き込まれて失踪したと?」
「その可能性はあると思います。第一、研究者が途中で自分の研究を投げ出すなんてありえません」
 そうだ。ナサニエルが、途中で研究を放り出すはずがない。人体実験の直前で失敗したものを、もう無理だとあきらめるとは思えない。
 それに、投与する予定のアンプルが爆発したというのも不可解だ。
「本当にアンプルが爆発したのですか? 爆発物が混入するとは考えにくいのですが……」
「それについてはラギ君のスタッフから複数の証言を得ている。もちろん、彼らも混乱しているだろう。見間違い、あるいは錯覚の可能性もあるが、おおよそ似た証言だ。隕石からの抽出物になにか問題があったのかもしれないが、現時点では爆発の理由は不明だ」
「そう、ですか……」
 天井を仰いだ。わかっていることが少なすぎる。ナサニエルを救けてやりたい。けれど、どうすればいいのかわからない……。
>>[146]

「ともかく、だ。国王陛下は早急に体制を立て直し、引き続き研究を進めよと仰せだ。しばらくは軍の研究所を間借りして、復帰できる者から順に仕事に取り掛かってもらいたい。もちろん、君もだ」
「端末や研究ノートは……?」
「すべて破損したものと考えてもらいたい。隕石のかけらも頑丈な金庫にしまっていたが、金庫ごと破壊されて跡形もない」
「隕石もないですって!? それでどうやって研究を進めるのですか」
「軍が保管しているものがある。他にも、落下地点付近で新たに採取できないか探しているところだ」
 わかりました、と僕は小さく呟いた。
 軍に頼るということは、いずれ軍に研究内容を渡すことになるのだろう。僕の頭の中には、自分の研究の他に、ナサニエルの研究内容がピンポイントで収まっている。このことは、誰にも話すわけにはいかない。軍に知られたら、軍は独自にナサニエルの研究を進め、僕の手の届かないところで人為的に超人が作られる。その存在は、きっと軍の機密になるはずだ。
 そうなれば、ナサニエルが恐れていた事態が起こるかもしれない。
 ナサニエルのスタッフが知っている研究内容もあるだろうが、完全ではないはずだ。僕が彼の研究を守らなければ。
 僕は両手を固く握り締め、天井を睨みつけた。
やっと研究員の話ができました。
すごい時間がかかってしまった…orz

タイトルは、隕石落下時を First impact とし、
王立科学研究所爆発時を Second impact としてつけました。
>>[148]
お疲れ様でした!
楽しみにしてましたよ。
これもまた続きが気になりますね。
また何か考えてみます。
>>[149]

ありがとうございます。
お待たせしてすみません(>_<)
どう書くのがいいか迷ってしまって、
あちこちウロウロした末に、
このようにまとまりました。

ぜひぜひ! 流民さんの作品もお待ちしてます♪
私もまた他のお話を書きますねー(*´ェ`*)
また時間かかると思いますが(^_^;)

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