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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第四十四回 マキオ作 「遠くに見える光」

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コミュ内全体

都希子は困り果てていた。
彼女は 田舎町に住むごく普通の女子高校生だが、ふと普段の見慣れた風景から離れてしまったらしく、道に迷ってしまったのだ。

まさか高校生にもなって地元で迷うとは…
さすがに自分に呆れてしまう。ここから右へ行けば良いのか左へ行けば良いのかも分からない。誰かに道を聞こうか?聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うし。しかし地元だというのに知っている顔が一つもない。おまけに今が何時を指しているのか分からないが、かなり長い間夕方のような薄暗さが続いている。なかなか夜にならないことに安心していたが、流石にお昼から数えて半日は時間が進んでいる気がする。
小さな不安は時間が経つにつれて頭の隅から膨れ上がり、とうとうこの問題について直面しなければならないような気がしてきた。
不思議なのは先ほどから、ここは確かに地元だという強い認識はあるものの、見たことが無い風景がいくつかあったという事だ。
しかし厳密に考えると私が住む家はもっと奥なので、この場所は隣町であり通学路の途中にあたる。普段はバスで通過してしまうから、道路の両側の奥に知らない風景がいくつかあってもまあ当然かとも思う。

とりあえず今までの経緯を整理してみよう。
最初は道路に面した商店街の入り口に居たのだ。なぜバスを降りたか記憶は定かではないが、お祭りをしている雰囲気だったので面白そうと思ったのは覚えている。地面に降り立ち、「○○商店街」と書かれた提灯を見ながら商店街を練り歩き、通り抜けたら神社の旗印がいくつか見えてきたのだ。
こんな所に神社なんてあったっけ。そういえば小さい時、近くの公民館に用があってここら辺にも来たかもしれないなあと思いつつ、ちょっと体力試しにと長くて急な石段を登りきってみた。すると、かなり大きな像が境内にあったので一瞬怯んだ。
それは怖いくらい大きかった。
金剛力士像みたいな迫力のある像が対で二つあり、十五メートル位の高さでそびえ立っていた。私の目線はその像の足首くらいだった。
これ、夜に見たら相当怖いだろうな…見上げたが像の顔はよく見えなかった。

私はその時、天気が良くほのぼのとした空気を何となく鬱陶しいと感じたのかもしれない。像の横辺りに薄暗い小径を見つけたので、秘密基地を探るような気持ちでその小径へ吸い込まれるように入っていった。
小径へ入るとその先は山道になっており、沢山の木々が並んだ林の風景が広がっていた。木々の間からはチラチラ光が漏れてくる。歩けば歩くほど木々はなくなり殺風景になっていく。
誰かとすれ違うわけでも無いのだが、かなりの足跡があり常に人の気配がした。その気配に危険はなく、雰囲気としては「山登りイベント」の終盤で、家族達が「もう少しだね」とか言いながら終わりを目指しているような妙な明るさと温かさを感じた。そんな集団がこの先にいるような気がしてならない。だから安全なのだ。

その山道をジグザグに下っては登りを繰り返し、行くところまで行くと、思った通りひらけた場所に出た。ここがゴール?いや、戻らないといけないから折り返し地点になるのかな。
しかし、予想と違う点もあった。平地ではなく家族連れがいるわけでもなかった。
まず風景だが、そこは私が到着した位置を頂点として段々下に傾いていた。つまりこの位置をトップとした山の形になっている。地面は土に少し草が生えた程度。そして「まあ、お座りなさい」とでも言わんばかりに大きくて平たく様々な形の石が間隔的に下の方まで続いていた。坂が急な所もある。
それに倣ってか、何人かは石に腰掛けていた。
その人々の年齢層に少し怯んだ。ほとんどがおじいさんかおばあさんなのである。うーん、私の地元もここまで高齢化が進んでいたのか…などと考えた所で今に至る。

さて、これからどうしよう。なぜか今私は何も持っていない。携帯も財布も鞄も。まるで朝、家を出てからこの隣町に来るまでの記憶がすっぽりと抜けてしまったかのようだ。いや、実際 記憶がないのだけれど。
途方に暮れていると誰かが肩を叩いた。
「君、一人?」
びっくりして振り向くと、三十歳位の男性がこちらに目を向けていた。
「迷っているみたいだね」
「ええ、まあ…」
「ここ、良いかな」
特に断る理由もなく、目で了解した。比較的若い人が居たことに少し安心もした。その人は明らかに私より年上に見えるけれど、フットワークが軽そうで飄々とした雰囲気だったので話しやすそうに見えた。
「俺は保科と言います。君は?」
「都希子です」
つきこさん、と保科さんは呟いた。
「随分 若いね。ここに来るにはまだ早いんじゃないかな」
「というと…」
「だって、見てみなよ。周りはおじいさんおばあさんばっかりだろ。君、制服姿だし十代だよね。何で死んだの」
「死んだ?」
私が驚いて保科さんを見ると、保科さんはあれ、という感じに見返した。
「気づかないうちに死んだのか。俺の場合はさ、じわじわ死んだからばっちり記憶があるんだよね。段々具合も悪くなっていったし病室で死んだし。つきこさんは即死じゃないかな。死ぬ気もなかったのなら事故死かな」
保科さんは冷静に推測した。事故死…

そういえば今は冬の季節だ。この地域は太平洋側に面していて滅多に雪が降らないのに、今朝は何年か振りに大雪が降った。町の人は慣れない大雪に戸惑っていた。スタッドレスに履き替えていない車が沢山あった。休校になってもおかしくなかったし、実際 雪を理由に休んだ生徒もいただろう。けれど私は、真面目にてくてくバス停へ通じる田舎道を歩いていた。
そして…ああ、そうだ。正面からものすごい勢いでトラックが突っ込んできたのだ。体がグニャッとして意識が無くなるまで圧迫されるような感覚があって…
「私は死んだのか…」
「ご愁傷様です」
保科さんは目を瞑った。けれどこれまでの十六年間を振り返ってみても、いまいちキラキラした時間を思い出すことができなかった。
保科さんはタバコを吸う仕草をした。煙は出ていないがそれらしき物を手にしている。私は思わず周りを見渡す。
「ここ、タバコオッケーですか?」
「これ?これはねー、さっき町で貰ったタバコだよ。俺、ヘビースモーカーだったからどうしても欲しいって言ったら一箱貰えた。不思議な事に煙も出ないし灰も落ちないし減りも遅い。いやー良い世界だ」
「本当に良い世界ですね、頭痛がしない」
「頭痛?」
「私 毎日、あらゆるスキマ時間を活用して勉強をしていました。すればするほど点数が取れるので楽しくて…もはや中毒症でした。でもさすがに頭痛がして…休み時間もバスの中でも道端でも、ずっと教科書を読んでいたので」
「じゃ、さっきの事故の時も」
「はい、ちょうど数学の集合について勉強をしていた所でした」
集合は好きだった。図形が絵みたいで、円と円が重なった所の集合について思いを馳せていた。それまでの数学が難しかったので、サービスの章だな、と呑気に考えていた。
そんなだから家でも学校でも益々 人間関係は希薄になっていった。
「だから私、特に思い残すことは無いです」
「それはどうかな。厳密に言うと、ここはまだあの世じゃない。現世に通じる道があるから、あの世と現世の中間らしい。つまり、俺達は中途半端に成仏できないでいる」
保科さんは私が来る前に、色々と情報収集をしていたようだ。
「それは現世に未練があるって事だろうから、俺は動こうと思う。どうせ暇なら一緒に行こうよ」


居心地は悪くないけれど、いつまでもガスがかった景色に居ても何の変化も望めそうになかった。
神様からあの世へのゴーサインを出されていないのだから取り敢えず保科さんにくっついていく事にしよう。まさかここは地獄ではないだろう。
ここは人々に覇気が無い気もするが、緑もあって屋台が沢山並んでいて、提灯やガラスのような石から発せられる色とりどりの光があって…どちらかと言えば天国に近いような気がする。
「まずつきこちゃんが来た道を戻ろう。君が死んでからそんなに時間は経っていないはずだから、君が現れた地点が現世に一番近い場所だと俺は推測する」
私が「対の金剛力士像から来た」と言うと、保科さんは分かるようで先導してくれた。
林の中はさっきと変わらず、人の気配を滲ませた静かな雰囲気だった。歩きながら木々の間からチラチラ入る木漏れ日を感じていた。
前を歩く保科さんの足取りは軽かった。保科さんは小柄で細かったので身軽そうな印象だ。私は更に小さく身長も百五十センチしかないので、見上げる必要が無くて楽だと言ったら怒られるだろうか。
「保科さんはお幾つですか」
「三十八」
「え?もっと若く見えますね。三十位かと思っていました」
「あーよく言われる。言っとくけど君より二十は上だからな。驚いたか。俺はもうオッサンですから」
体中にガタが来ててさー…とぶつぶつ呟いている。
「お仕事は?体を酷使する仕事なの?」
「うん。調理師をしていた。最初は超安月給から始まってさ、ずっと続けていたら三十に入った頃 統括と副料理長を任されて毎日 忙しかった。エステティシャンの友達に腰を診てもらったら、とっくに壊れていると言われた。それでも俺は仕事が好きだったな。
俺は現世でずっと、いっぺん思いっきり眠りたいと思っていた。だからこの世界に来た時、取り敢えず眠ろうと思って横になった。ても死んだら睡眠は不要みたいで多分三日間くらいあそこで休んでいたら、もう働きたくなった」
何となくそこにも中毒性を感じたけれど、保科さんは好きな事を仕事にしていたのかなと思った。
私は背が小さいくせに流されるままにバレー部に入り、気が強い女子達に囲まれていた。そんな足の引っ張り合いの中で、成績が良い子は一目置かれるという事に気付いたので、私はそれを武器にする事にした。
それにしても死んだというのに涙も出ない。もしかすると幽霊は泣く事が出来ないのかもしれない。

私と保科さんは巨大な金剛力士像がある神社に着いた。驚いた事に、林を抜けたらそこは夜のように真っ暗になっていた。その時、後ろの林の奥から引きつった音がした。それは鈍い速さで、しかし確実に近づいて来る。
「何だか分からないけど、急ごう」
私達は神社の階段を駆け下りた。不思議そうに見つめてくる人々を掻き分けて、商店街の出口を目指す。
商店街を抜けた所に信号があった。
「よし、抜けた。いや、でもここからどうしたら良いのか分からない。つきこちゃん、ヒント」
「ヒントと言われても…あ、あんな所に大きな建物が」
「何を呑気に」
「取り敢えず行ってみませんか」
その建物は信号の先に広がる田んぼの近くにポツンと建っていた。それは一見ショッピングモールだけれど、入口のポスターからすると映画館しか入っていないようだ。中へ入ると全て「上映中」になっており廊下に人気は無い。エスカレーターを上がり、一番近い扉を開けて中へ入った。
どうやらこの部屋では上映試写会をしているらしい。
上映が終わった所で、キリッとした俳優がマイクを握っていた。観客は満員だったので私達は立ち見をする事にした。
「皆さん、本日は上映会にお出でいただき誠にありがとうございます。このような日を迎えることが出来て感無量です。この映画をご覧になってお気づきかと思いますが、この平和な世界で粛々と生きる事は秩序を守る事であり、それを乱す事は絶対に起きてはなりません。一つ綻びが出れば皆が真似をします。結果、世界の破綻を招いてしまいます」
とても嫌な予感がしたので、保科さんを見た。
「非常に残念ですが、この中に裏切り者が居ます」
その俳優の言葉が出るか出ないかのうちに、私達は重い扉を押しのけてエスカレーターを一気に駆け下りた。モールの外に飛び出した途端、車がこちらに突進してくる。
「危ない」
車のヘッドライトが眩しくて二人とも目を瞑る。痛みを感じないはずの体に、一瞬 激痛が走った。

(続く)

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