ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ホーム > コミュニティ > サークル、ゼミ > 半蔵門かきもの倶楽部 > トピック一覧 > 第三十九回作品 匿名C『酒』

半蔵門かきもの倶楽部コミュの第三十九回作品 匿名C『酒』

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コミュ内全体

どうにもうまくゆかないので酒を飲んだ。
家の近所の古びた居酒屋で
酒はたいして好きなわけでもないが、嫌いでもなく、酔ったらどうというわけでもなく、飲んだからどうというわけでもなかったが、ひとしきり飲んでいい気持ちになったのでそこを出た。空には星がまばらにしかなくて月も見えず、真っ黒な空の下、道の向こうに街灯が一つ灯台のように見えたのでそれを目指して歩いていくと、その街灯の下にはまるでここに腰掛けろ、とでもいうかのように木の箱が置いてあった。一休みしようと腰を下ろしてボーッとしていると、どこからか黒猫が現れた。“ナォ”と小さな声で鳴いて側に寄ってくると、足に顔と体をこすりつけてきた。長い尻尾がピンと真っ直ぐに上を向いていて
座っている膝に前足をおくと、もう一度小さい声で鳴き、プイッと闇の向こうに歩いて行った。と思ったらすぐ立ち止まり振り返るとまた歩いて行った。ついてこい、と言っているように思えたのでついて行った。真っ黒な道を真っ直ぐどこかに向かって一人と一匹は歩いて行った。
しばらく行くと一軒の家の前に着いた。小さな門のある小さな家で。ガラスの入った格子戸を開けると奥から女が出てきて「おかえりなさい」というので「ただいま」とこたえた。着物の上に白い割烹着を付けた童女のような笑顔のその女のあとについて家に上がり居間に入ると卓袱台があって座布団の上に胡坐をかくと、女が盆にお銚子とおちょこを乗せてきた。もう酒は、と思ったがおちょこを手に取り女に注がれるままにそれを飲んだ。何か言うと女は「そうですね」と言って微笑んだ。そんなことをして時間を過ごしているといつしか声を発しているのは実は自分だけだということに気がついた。女のしゃべったと思う声は自分が女の唇の動きから勝手に読み取っているのだとういうことに。
女の顔を見ているととてもいい気持だったので、これは幻だろうと思ったがそれならそれで幻が消える前でずっと見ていようと思った。
するとどこかから“ナォ”と小さな猫の鳴き声が聞こえた。それは確かに聞こえた。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

半蔵門かきもの倶楽部 更新情報

半蔵門かきもの倶楽部のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。