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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第三十二回 作品 匿名F 『おやすみ、夢ゴジラ。』

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…何だろうこの感覚。目が覚めたという事だけは、わかった。
はて、何だろう。それ以外は何もわからない。

そもそも、「わかる」とはどういう事か?
理解する。把握する。掴む。
そういえば、わかる、とは漢字でどう書くのが正しいのか。
解る。
分かる。
判る。
どれが正しいのか気にはなっていたが、調べた事がない。そうだ。僕はそういうことを考えた事があるし、日本語の難しさについて、何度も悩んだことがある。
その記憶はある。

それだけか?僕が覚えているのは。
少なくとも僕は、日本語を話しているという事だ。
僕は、日本にいるのだな。そこを日本と呼ぶのなら。
事実、僕の前に広がっている光景は、日本的だ。
深い緑の葉を、たっぷり湛えた木が生えているのが、竹編みの壁越しに見える。何とも日本らしい木だ。
緑色の葉と共に、薄紅色とも橙色ともいえる淡い色の、小さな花がツブツブと咲かした木がある。
しかし、僕が日本的な美を感じたのは、その木だけではない。
今、僕の隣にいる人だ。

その花を垣間越しに愛でながら、今、僕の隣に真っ赤な振袖を着た女性が、僕をじっと見ている。睨んでいるのか、見つめているのか知らないが、その女性はずっとこちらを見る。
なんだろう。この人は。日本人らしい女性。
着物姿の女性。色々な意味において、「いかにも日本人的」な人。
和の心を表現した、その着物は、古い日本の色彩感覚に似合わない、強い赤を基調にした色遣い。
簪を挿して、可愛い花の飾りを頭にいくつも携えて、そして…髪の色は、明るく目立つ茶色く染め上げられていて、根本だけが、黒いんだ。
女性が、じっと僕を見つめてくるその表情。それは、まさに日本女性だ。口元は、不自然に笑ってる。着物の鮮やかさなんて比較にならない程の、濃い色のルージュで強調された、ベタベタの唇。
口角は、上がっていない。
目も特徴的。黒い虹彩。でも睫毛は巻かれ、量も多い。自分で付け足しているに違いない。
僕を見ている。見なきゃいけない諸事情があるから、見ているんだろう。仕事なのだ。させられている。操られている意志。自我がないかのよう。全く笑ってないその瞳。
「お目を、お覚ましになられたんですね」
彼女が僕に対して聞いた、その日本語。それは違和感があった。
「お目を、お覚ましになられたんですね」と。
洗練されていない言葉遣い。耳障りに感じる。しかし、そもそも今がいつの時代なのかわからないから、今がその日本語が美しいとされている時代なのかもしれない。
「今日は、どちらに行かはりますか」
その彼女の言い回しは、奇妙だった。抑揚が不自然だ。彼女はどこの人なのだ?どこかからどこかへ来たばかりで、その言葉に慣れてない人なのだ。
ただ、彼女が誰かという事は、どうでもよい事だ。僕は、僕にとって最も尋ねたいことを尋ねようと思った。

「あのう、僕って、誰なんですか」

それは僕が今、一番知りたい。
そんなことを人に訊くのは、彼女のぎこちない日本語を聞くより、恥ずかしいかもしれない。
「さて、どなたでしょうね。大変ですね。思い出すこともできないなんて」
彼女は、答えた。

「誰か、知りませんか。僕は何歳で、ここはどこで、今はいつなのか」

彼女から、何も答えはなかった。

「さすれば、私が教えて進ぜェましょう。貴方がどなたであらせらるるか」

そこへ、暢気な声。僕は気づいた。彼女の隣にも、誰かがいる事。
そこに、彼はいる。背広を着て、山高帽子、首には縞のネクタイ。にやにや笑って、僕を見ている。
「貴方様はァ、丁度、夢ゴジラに襲われここへやって来たのでしょう」
「夢ゴジラ?」
「左様に御座りまする。オット、これは大変なるご無礼、私貴方様へのご挨拶を失念しておりました。私、こういう者に御座います」
その胡散臭い、嘘臭い言葉遣いをする彼は、縦書きの名刺を僕に差し出した。

  貴
  方
立 の
  現
石 実
  探
  し
典 ま
  す


何だこの名刺は。
名刺というものは企業名などを入れるではないか。「貴方の現実探します」が、この人の所属組織の名なのか?

「あ、あのう。大変失礼ながら、このお名前は何とお読みすれば」
「よくぞ訪ねて下さった。たていしと相申しまして…」
「はい。苗字は読めます。し、下のお名前は…のりき、殿でしょうか?」
「イヤア、惜しい!しかし残念!私、典紀と書いて、のりのりと申します」
「はあ。たていしのりのり殿ですか。よろしくお願いします。ただ大変恐縮です。私、名刺を持っておりません。それどころか、名前を持っておりません。私は誰だか、わからんのです。私は私に、どのような名をあてがえばいいのですか」
「ハハア、これはこれは、夢ゴジラに飲まるるお方、皆そのように仰るもの故、貴方は何ンにも、特別な事は御座んせん。私ども、迷える子羊たる貴方様のような方々に道を指し示す者!」
嘘くさい、狙ったような言葉遣いの典紀氏。彼はどの時代の生まれなのか。江戸時代?明治・大正の面影残りし昭和時代?はたまた昭和の追憶に浸る平成時代?
「貴方、なかなかしんどい事、おまんなあ」
立石氏より、輪をかけて不愉快な言葉遣いをするその女性。日本語を馬鹿にしているのか?彼女自身、自分の言っている言葉の意味解っているのか?なぜ、ここまで彼女の言葉遣いは耳障りなのだ。
「はてさて、夢ゴジラとは、いかな怪物に御座いましょう?それを説明するは…デデンッ!こちらに取り出しましたる、紙芝居!」
彼は、絵の描かれた紙を複数、取り出した。
「ア、むかーし昔の、そのまた昔。人間が生まれるよりもはるか昔の、年を数える事1億という数になります、ジュラ紀の地球。そこは巨大な怪獣どもが、この地上を跳梁跋扈しておりました。
その頃、恐竜に虐げられしこのネズミのような小さな生き物。彼らがまさに、私たちの祖先、原始の哺乳類でございます。
その生物、学名をAdelobasileus tsuburayas、和名を『ツブラヤエージ』と申します。
一億年前、ツブラヤは、いつかこの地球上に人類が栄えたら、恐竜たちが暴れる映画を作れば売れると考えた。
かくして彼は、天敵たちから逃げ延び、白亜紀の隕石による気候変動を乗り越え、他の哺乳類どもが日進月歩の進化を続ける数千万年の間映画を撮り続け、ついに1954年、特撮映画「ゴジラ」の公開にこぎつけた!
斯くしてゴジラ映画は、末永く撮影され続けました。キングコング対ゴジラ、モスラ対ゴジラ、さらには米国生まれのガッズィーラ!」
「あのう。そのような事はどうでもよいです。夢ゴジラとは一体何か、教えて頂けませんか」
「コホン。あーゴジラはぁ、1億年前と現代の間、銀幕と現実の間を何度も自由自在に行き来した結果、いよいよ人の夢へも自在に行き来すること能うようになります。
このゴジラは、夢を完膚なきまでに打ちのめし、ついに、夢を入り口に貴方の実際の記憶へも自在に行き来するようになったのです!
そうして生まれし夢ゴジラ。最早ゴジラとは関係のない、超越的な存在であります。
貴方の記憶は、夢に侵入した夢ゴジラによって破壊されてしまうのです。
そう!貴方様は夢ゴジラにまさにィ、喰われてしまわれた!」
典紀氏は、そう言った。
「ゴジラはん、ようけ人間に描かれとったもんで、段々とどの時代として描かれてあるんか曖昧になってもうて、ゴジラはんが人間に向こうて暴れてはんのか、人間が暴れさせてるんかもわからんようなって。終い、銀幕の中におったええのに、世間は何とかコラボレーションや、何とかタイアップや、あれしろ、これせえ言うて。それでゴジラはん、我慢ならんなったんや」
女性の言葉は、相変わらずイライラする。彼女こそ『喋っていない、喋らされている』ではないか。
しかしそうか。夢ゴジラ。現実も虚構も、時間の境も飛び越えられる存在なら、僕の夢や僕の記憶にまで飛び込んできてもおかしくない。
夢ゴジラは常にどこかにいる。自分の記憶と他人の記憶の間すら関係なく飛び越え、突然誰かの夢の中に姿を現し、記憶を奪う。

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