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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第22回 雛吉作『おばあさん』

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コミュ内全体

起きてすぐ視界に入ってきたのは、
空を覆い隠すかのように鬱蒼としげった木々が、次から次に流れていく光景だった。
足場が悪いのか、障害物があるたびにガツゴツと左右に揺れる車体。
その振動で、明け方に振っていた雨の名残が、窓から剥がれ落ちていくのが見えた。
後部座席で寝ていた私は、むっくり起き上がって目をこする。

「あ、茉里ちゃん。起きた?」

助手席に乗っていたママが声をかけてきた。

「ウン」

「まだ……調子悪そう。寝てなさい」

なにを基準にして調子が悪そうだと思うのか、聞いてみたいところだが、ここ最近の私は言葉がうまく紡げなくなっている。
だからママの言うとおり、調子が悪いふりをして、ふたたび頭を座席に落とした。
平日の昼間に、こうして家族3人で山のなかにいるのって……「普通」じゃないと証明してるようなものだな、と思う。
「普通」の家族なら、パパは仕事、ママは炊事・洗濯、娘である私は学校に通っているはずなのに。

私が「普通」の中学生でなくなって……もう3か月目になる。
最初はほんの小さな違和感…から始まった。

週末明けの学校。表参道のパンケーキ屋さん、おいしかったね〜。初耳だった。なにそれ、いつ行ったの? まりちゃん部活だったじゃん。だから誘わなかったんだよ。私テニス部はとっくに辞めてるよ。そうだったっけ?

手首に巻かれたおそろいの、ビーズブレスレット。みんな…おそろいなの? ちょうど4つしかなかったんだよね。まりちゃん、ファンシーなのあんまり好きじゃないじゃん。それは昔のことだよ! 私だって欲しかった!

私の主張に、顔を見合わせる4人の親友たち。零れ落ちる笑みを必死でこらえるかのようにして、私から視線をそらす。
そして…LINEの既読スルー。

原因はほんのささいなことだったのかもしれない。いじめではなく、単純な毎日に飽きてゲーム感覚で面白がっていただけなのかもしれない。
でも…どうでもいい。私は学校に行けなくなった。残ったのはその結末だけ。
思いだすと、目尻からじわりじわりと涙がにじみ出してくる。
そんな私を、両親はこれから山に置いていくのかもしれない。
そう思うとますます、自分が悲劇のヒロインのような気持ちになって……そして、かわいそうで仕方のない私の内部から流れ出てくる液体を、存分に解放してあげたくなった。
「うえええええ……ん」と絞り出すような声を出していても、ママはもう何も言ってくれない。


泣きながら寝てしまったらしい…。首筋までかけられたプーさんの毛布をはぎとって、起き上がると車内にはだれもいなかった。
黄色づいたり、赤く染まった葉があたり一面に吹きだまっていた。
9月になって、山ではさっそく紅葉がはじまっているようだ。
ここはいったいどこなんだろう……。
やっと、現実を考える余裕ができた私は、手がかりを求めて、助手席と運転席をのぞきこんだ。
ママとパパがいた席は……すっかり乾いていた。
席をあけてからずいぶん時間が経ったようで……。車内は、ぬくもりもなにも感じられない無機質な空間に成り果てていた。
ママとパパが帰ってくるまで、車から出ようか出るまいか悩んでいたけれど、結局好奇心に負けて出ることにした。

ガタン。
車の開閉の音が、静閑とした山に響き渡る。
よく耳をすませると、ピチチピチチ…と鳥のさえずる声が、遠くから聞こえてきた。
青と白を1:9で混ぜたような、限りなく白に近い空が、頭上を覆う木々の隙間から見える。
私は次第に、この空間が何者かがひそんでこちらをうかがっているような墓場に思えて仕方なくなってくる。息がだんだん苦しくなり、呼吸が浅くなってきた。
精神科の先生に言われたことを思い出す。

「空に向かって、深呼吸をしなさい」

けれど、空はあんなに遠い……。
本当は、ママとパパの名前を呼びたい。でも、もし返ってこなかったら。
LINEだって、返ってこなかったら…でももしかしたら…という気持ちが入り交ざりながらも、一縷の望みをかけてメッセージを送ったはずなのに…。
だれも……私に応えてくれなかった!!

足元にある落ち葉の軍団を、私は足で踏みつぶしていく。
力任せに。ひきちぎるように。
落ち葉ですら、こんな仲間がいるのに、私の周りには誰もいない。
なんでこんなに孤独で惨めなんだろう。

でも自然と涙は出てこなかった。涙を出すのは観客がいるときだけ。
私は案外、パフォーマンスが上手い女優のような女なのかもしれない。

「ああ……なんてことだい」

芝居がかった抑揚で、嘆き悲しむ声が、突然うしろから聞こえてきた。
幻聴かと思いながらも振り返ると……白髪のおばあさんが立っていた。
私よりも、背が低いおばあさんだった。藍染のじんべえをきている。

「その葉っぱは、私が苦労して集めたんだよ、ああ……ぐちゃぐちゃにしちまって」

「……」

「車だって……ここは車両通行禁止のはずだよ!」

斜めに停止された軽自動車を指さした。
あれ?と思う。パパはけっこう神経質であんな停め方はしないはずなのに。
そもそも、パパとママはなんでここに来ようと思った?
朝、起こされて「車に乗りなさい」と言われただけで、目的地も目的も何にも聞いていないことに、いまさら気がついた。

「……」

何も話せないと判断したのか、そのおばあさんは私をながめまわしたあと、
「ちょっと来な」と手招きをした。

地面に根っこが生えたかのように動かない私を見て、「ああ……アンタもそっち側の人間なんだね」と鼻で笑う。
おばあさんは、私の足元の葉っぱを横に散らすと、「綺麗な葉っぱを1枚選びな」と言うなり、さっさと行ってしまった。

「ま、待って」

とっさに声が出る。自分でもびっくりするくらい大きな声だった。
私は適当な葉っぱを1枚持って、おばあさんのもとへ駆け出す。

「この葉っぱで、何するんですか」

「……さあね」

私がつかんでいたのは、ふちがギザギザした手のひらくらいの葉だった。
緑色でまだみずみずしさのある、若い葉だった。

「アンタが、信じられないことだよ」

おばあさんは足を止めて私の方を振り返った。そして胸ポケットから、小さい瓶を取り出した。

「?」

おばあさんが私に見えるように瓶を差し出す。ラベルをよく見ると、英語で「シャンプー」と書かれているのがわかった。
その前にもいろいろぐちゃぐちゃしたアルファベットが並んでいるが、3か月学校に行ってない私には到底読めないスペルだった。
そんな私を見て、おばあさんは大きく口を開けて笑った。
私はあれ?と思う。
その口の中に、小さな影を見たような気がした。
何かが、動いていた。おばあさんの舌に、ひょろっと小さな肌色の紐状のものがぶら下がる。

小さくてよく見えなかった。

頭によぎったフレーズがあったが、まさかと思って急いで打ち消した。
おばあさんは口を閉じると、私に向かって微笑んだ。

コメント(10)

え?もしかして?

読み終えた後も、謎に包まれたままです。
結末って、ひょっとして……。
今日、作者のお話を伺いたいです。

前半の女子の行動、遊びに行くとお揃いで何かを買って、秘密ね。と言いながらわざわざお揃いをアピールするところなど、リアリティがありました。
また、車を降りたときの山の描写で、「ピチチピチチ…と鳥のさえずる声が、遠くから聞こえ」たあとに「青と白を1:9で混ぜたような、限りなく白に近い空が、頭上を覆う木々の隙間から見える」この変化がなにか不穏な空気を醸し出していて怖いですね。
山の中でのひとりぼっち感が出てると思います。

同級生の女の子達の行動はよく分かったのですが、パパとママが、何をしようとしていたのか、少しわかりづらかったので、そこが分かると、もっと面白くなると思いました。
>>[1]

ありがとうございます。
今回、風景描写(文章の書き方)を意識してかきました。設計図はなく、ストーリーは流れるがままで、最後はなんとなく終わらせてしまいました。実をいうと毎回こんな感じです。

でも、みけねこさんのように内部までストーリーを読み取って下さる読者の方もいるのだ、と改めて実感し、もう少しストーリーにこだわった文章を書いてみたい、と思いました。まだまだ修行はかかりそうですが、細く長く頑張ります(^^)/また、三題噺挑戦してみます!
>>[2]

ありがとうございます。その通り、進撃のおばあさんです。ちなみに生きたまま救出予定です。続きは書かないかもですが、救出方法はどうしようかな…。と考えてしまう私がいます。
>>[3]

ありがとうございます。妄想する材料にして頂きまして感謝です。
今回は初対面できず残念ですが、またの機会にお話できたらと思います。
>>[005]
集めた葉っぱも何かありますよね
両親を救い出す主人公の少女
構図が千と千尋を思わせるのは偶然?
お体お大事に、次回お会いしましょう
>>[7]

ありがとうございます!
そうです!「千と千尋」の構図です。
私の作品では、救出できませんでしたが(笑)

おばあさんは山姥です。山姥がシャンプーで洗った葉っぱを食べた人間は、体が縮小します。(アリスのきのこみたいに?)そこをぱくっと丸呑みしまうわけです。

おばあさんは人間のエキスで、葉っぱを紅葉させる(1人3枚程度)……なんて設定を、いま考えました(笑)

山の木々が紅葉になるのは、秋になるとおばあさんが人間を丸呑みしてるのからなのかも…しれませんねぇ(?)

またお会いするのを楽しみにしております!




最後の意味が最初はわからず「?」と思いましたが、サイモンさんの書き込みや、雛吉さんのご説明を見て、なんとなくわかりました。
どのような形になるにせよ、続きを読んでみたいです。

この3題噺からこういった物語を思いつけるのは斬新で、とても凄いですね。シャンプーという題材にそういう使い方があったんだ、と思いました。

数カ月ぶりになりますが、今日はお会いできなくて残念でした。またお会いしたらお話ししたいです。
>>[9]

その節は、温かいメッセージをありがとうございました!
本当に、励みになりました(*^^*)

たかーきさんこそ、独特な世界観で描かれた文章、毎回すごいなと思ってます!
誰にも真似できない、自分だけの文章って感じがします。
読みやすいのがまた、羨ましい…。

また、お会いできるのを楽しみ♪にしておりますね。

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