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第22回 かとう作 「メロス RUN! RUN! RUN!(...

第22回 かとう作 「メロス RUN! RUN! RUN!(2)」 2016年11月14日 12:17
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 僕は銀座の三越ライオン前で、メロスを待っていた。メロスが、ラデュレとかいうフランス仕込みのカフェで、どろどろに甘いショコラショーを飲みたいと言い出したからだ。日曜の歩行者天国の銀座で、僕たちはめいめい好きな店をぶらついていた。セリヌンティウスだけは「俺はそんな女子供の店には行けねぇよ」と言ったので、あとで東京駅で待ち合わせることにした。今頃東京駅近くの丸善で、本を探していることだろう。
「待たせたか、ぼんちゃん」
 メロスが僕の肩を叩いた。メロスやセリヌンティウスは、僕をぼんちゃんとか坊主とかお前とか、好き勝手に呼ぶ。
「今来たところだよ。メロス何買ったの?」
 僕はメロスが持っている紙袋を見て尋ねたけれど、なぜかメロスは照れたように笑って、「いや」と誤魔化した。一体何を買ったんだろう? あとで内緒で見てやろう。
 ともかく、僕たちは三越に入ろうとした。そこへ、
「あの、もしかしてメロスさんですか?」
 妙にまつげが濃くて黒目がちな、見知らぬ女たちが話しかけてきた。
「いかにもメロスだが」
 メロスがそう答えると、
「きゃー! メロスさんよ!」
 右耳から左耳まで、脳みそを貫くような声で叫んだ。僕は軽くめまいがした。セリヌンティウスはすっかり現代の日本に適応しているけれど、メロスはなぜかギリシャの扮装を貫いているから、街ではとても目立つのだ。
「やっぱり本物だった! 握手してください」
「LINE交換してくれませんか?」
「いや、私はLINEはやっていないのだ」
 女たちはメロスの手をぶんぶん振り回して言う。香水臭い。僕は触るとお化粧でべたべたしそうな女が苦手だ。だけど彼女たちは僕をめざとく見つけて、話しかけてくる。
「この子メロスのお友達? 可愛い〜! 君はLINEやってるでしょ?」
 正面から顔を見ると、黒目がちコンタクトのせいで、白目がほとんど見えなくて不気味だった。僕はつい目をそらして無視してしまった。女たちはにやにや笑いながら、「シカトされたんだけど〜」とぶつぶつ言っている。
 いやだなぁ。周りの人たちも、メロスに気がついてざわざわしている。一刻もこの場を立ち去りたい気分でいると、
「少年よ。無視はいけませんよ」
 女神様が僕の耳元にぼわんと現れて、言った。
「うわっ、いきなりびっくりするじゃないか!」
 僕は振り向いてつい女神様に文句を言う。女神様はそんなのどこ吹く風で続ける。
「私はあなたのことをいつでも見ているのですよ」
「それストーカーじゃんか、きしょくわる!」
 女神様が物言わず怒って、頭のお団子からぼわんと何かが噴火するのが見えた。いつも思うけれど、女神様の体はどんな仕組みになっているんだろう。
 しかし、女神様は僕やメロス以外には見えていないのだった。
「ねぇ、この子、一人でしゃべってるんだけど」
「顔可愛いけど、ちょっときもいね〜」
 きもいと言われて僕はどきりとする。僕がきもいって? いや、ただの言いがかりだ。冷静にならないと、聞き流さないと。僕は自分をコントロールできるようにならないといけないんだ。そう思いながら、僕の意識は別のところに急速にすいついていく。
 僕はきもい、僕はきもい、僕はきもい。
「ねぇ、君、なんか肌緑色になってきたけど、大丈夫……?」
「えっ、なにそれ、ウロコ?」
 女たちが僕の首元を見て、ひきつった顔で言う。僕はきっともう、きもいどころじゃない。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。
 駄目だ、もう押さえられない、しっぽも出ちゃいそうだ。
 止まらない汗に、僕はしゃがみこんで、がたがた震えだした。
「ぼんちゃん」
 メロスが僕に声をかけたと同時に、僕の腕を掴んで走り出した。僕はつんのめって転びそうになるのをこらえながら、なんとかメロスについて走り出した。
 メロスと僕は走った。横断歩道を渡り、和光の時計台へ向かって。なぜか道行く女たちが「メロスよ!」と叫んで追いかけてきた。だから僕たちはさらに走った。女たちはどんどんと増えた。ショッピングバッグを振り回しながら、嬌声をあげてついてくる。
 有楽町のスクランブル交差点に着く頃には、追いかける女たちが群のようになっていて、
「おい、そこの集団、止まりなさい!」
 と交番の警察官に注意を受けた。僕たちは構わずさらにスピードを上げる。ヒールで走る何人かの女が、転んだり靴が脱げたりして、脱落した。日比谷公園が見えたあたりでは、もう誰もついてこれなくなっていた。それでももう惰性で、角を折れて皇居外苑の中を走る。僕たちは無言だった。
「おっ、メロスさんじゃないですか。お疲れさまです」
 皇居ランナーが脇によって、笑顔で話しかけてきた。
「メロスさん、東京マラソンはエントリーされないんですか?」
「いや、もう私は公では走らぬと決めたのだ」
「そうですか。残念です。ではお先に」
 そう言ってランナーは走り去っていった。
「オリンピアンを彷彿とさせる爽やかさだ。女たちとは大違いだな」
 メロスは独り言のように言った。僕はいい加減息が上がってしまって、その場に立ち止まった。
「ぼんちゃん、いきなり止まると腹が痛くなるぞ」
「もう痛いよ……」
 僕たちは皇居外苑を、ゆったりと歩いた。細かな砂利が、足元で鳴って小気味いい。わき腹は痛かったけれど、久しぶりに走って気持ちがよかった。気がつけば、うろこも肌の色も戻っていた。
「ぼんちゃんじゃないか」
 そう言って向かいから歩いてきたのは、僕のお父さんだった。僕のお父さんは宮内庁に勤めている。たぶん昼休みだからぶらぶらしていたのだ。
「お父さん」
「あ、メロスさん。いつも息子がお世話になっております」
「こちらこそ」
 お父さんとメロスは大人らしい挨拶をする。僕はそれをぼんやりと見ていたが、下の方で何かががさがさと動いている気配がした。なんだ? と思って見ると、メロスが下げている紙袋が動いていた。袋の口から何か黒いふわふわしたものがのぞいている。
 黒い物体は腕のようなものと足のようなものを不器用に動かして、メロスの太股にしがみついた。そしてクライミングの選手のように、あっという間にメロスの背中から肩の上へよじ登った。そしてメロスの肩の上に立って言った。
「ぼんちゃんのお父さん! 初めまして。僕くまです」
 それは、手のひらに乗るほどの大きさの、黒いくまのぬいぐるみだった。「安心の日本製」というタグを、まだおしりからぶらつかせている。メロスが銀座に来た目的は、ショコラショーとこのくまのぬいぐるみだったのだ。
「こらこら、ぬいぐるみはお外でしゃべっちゃ駄目なんだよ。人間に見られちゃうじゃないか」
 お父さんは驚きもせず穏やかに笑って、くまをなでた。
「まぁ、可愛いくまちゃんね!」
 女神様がまた唐突にぼわんと現れた。くまは顔を斜めに傾けて、てへへと笑った。そしてまた、お父さんの「ああ、女神様。いつも息子がお世話になっております」が始まる。僕は驚きのあまり言葉が出ない。
 そのようにして、くまは僕たちの同居人に加わった。

コメント(7件)

[1]2016年11月14日 11:13
一度に3作品もすみません。連作の2作品、一部ですが笑、続きが気になる!とおっしゃってくださる方もいるので、続きをアップします。
前回まで読んでない方は遡って読むのは手間だと思うので、私の連作に関しては文芸部ではスルーで構いません。

また、急いでアップして推敲が足りていないので、また後日修正するかもしれません……いろいろ恐れ入りますが、よろしくお願いします。
[2]2016年11月14日 12:09
すみません、いきなり誤字発見です。ランナーとの会話、メロスのセリフは、
「いや、もう私は公では走らぬと決めたのですか」
→「いや、もう私は公では走らぬと決めたのだ」

ですね。スマホからのせいか、修正できません…失礼しました。
[3]2016年11月14日 12:15
>>[2] 作品、ありがとうございます。たぶん、管理人しか編集できないと思いますので、修正しておきますね。
[4]2016年11月14日 12:33
>>[3]
修正ありがとうございます!助かります。
[5]2016年11月14日 18:13
何だか色々な事情を抱えていそうな
ぼんちゃんですね。

余談ですが、自分の作品の中でメロス達を
オカマにした報いなのか…
頭の中で上手く修正が出来ずに戸惑いました。
[6]2016年11月14日 20:35
>>[5]
ぼんちゃんにもいろいろあるんですね!今回はただくまちゃんを登場させたかっただけで、完全に自己満足小説になりつつありますが…

確かに、ハルトさんのメロスのインパクトはすごかったです!私のメロスも、影響されてラデュレとか銀ブラとか、ぬいぐるみが好きになっちゃったのかも…笑
前回もなかなか楽しい企画でしたね(^ω^)
[7]2016年11月14日 22:59
電車の中で読んだので、途中、笑ってしまい、恥ずかしい思いをしました(笑)

そんな格好で銀座に行くなよ、メロス、という突っ込みを入れたくなりますね。他にも色々。

読んでいて、楽しかったです。もう『走れメロス』がまともに読めなくなりました(笑)

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