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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第22回 かとう作「そうだね、シャンプー」

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第22回 かとう作「そうだね、シャンプー」 2016年11月09日 22:59
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 ああ、まーくんがゆっくりと、目を閉じるのが僕には見える。まーくんは、最後の力をふりしぼって僕に手を伸ばし、そっとなでる。
 そして言う。
「そうだね、シャンプー」
 まーくんが、初めて僕にそう言った。僕の気持ちはやっとまーくんに伝わったんだ。僕はそう感じる。僕はまーくんにほおずりをする。まーくんが目を閉じる。まーくんは動かない。僕はまーくんの臭いをかぐ。
 そして振り返って野山を駆けた。紅葉した赤、黄の色とりどりの葉っぱが、僕の上にはらはら落ちてくる。振りむくとまーくんは、もうその葉っぱの中に埋もれていってしまう。僕はまた駆けだした。
 どこをどう走ったのかわからないけれど、気がついたら車道に出ていた。車がびゅんびゅんと山道を行き来していく。僕は渡ろうかと躊躇っていると、目の前に車が止まった。中から女の人が出てきた。
「なんでこんなところに!」
 女の人は僕を抱き上げた。車に入ると、小さな女の子がいた。
「可愛い〜」
「誰かの飼い犬かしらね? どこから来たのかしら」
 女の人が不思議そうに僕を見た。小さな女の子が、僕の頭についた葉っぱを手にとって、にっこり笑っていった。
「あなたの名前はモミジね」
 そのようにして、僕はシャンプーという名前を捨て、モミジという名前になった。


 シャンプーってへんな名前だね。まーくんの家に来た、いろんな友達が口々に言った。
「でもいい名前だろう?」
「そうかな。なんでシャンプーなんだよ」
「こいつ、シャンプーが好きだからさ」
「ひねりがない上に、やっぱり変だ」
 だけど僕はどんな名前かは特に関係ないんだ。まーくんが笑顔で僕をシャンプーと呼ぶから、それでいいのさ。

 まーくんには可愛い恋人がいた。いつもミルクのいい匂いがする、とてもとても可愛い人だ。ひとみちゃんという。実は僕を拾ったのは、まーくんじゃなくてひとみちゃんだ。
 ある春の雨の日、河川敷で1人でいた僕を、るんぺんにさらわれそうになっていた僕を、交渉してひきとったのがひとみちゃんだった。そもそもるんぺんは僕のことを別にとって食おうとしていたわけではなかったのかもしれない。なぜ僕が河川敷のるんぺんと一緒にいたのかは、もう覚えていない。ひとみちゃんがなぜるんぺんと話していたのかも。
 だけどとにかく、ひとみちゃんはるんぺんに千円払って僕を抱いた。ひとみちゃんの白いTシャツが、僕についた雨と泥で汚れた。雨が桜の花を散らして、土手の道がピンクに染まった。花びらはみんなに踏まれて薄汚れていた。ひとみちゃんは寒さに少しふるえながら、僕を上着の中で抱きしめた。
 ひとみちゃんは僕の顔をなでながら、
「あなた巻き毛ね。洗えば白くなるかしら」
 と笑った。
 ひとみちゃんは家に帰って僕をお風呂場でざぶざぶと洗った。「子犬なのに、お風呂が嫌じゃないのね」とひとみちゃんは驚いた。
 だから、僕の名前はその日から、シャンプーになったのだ。おふろという名前じゃなくて少しよかったと思う。

 ひとみちゃんの家はペット禁止だったから、僕は恋人のまーくんちの子になった。だけどひとみちゃんはいつもまーくんの家に入り浸っていたから、僕はよくひとみちゃんの胸の中で眠った。まーくんともよく昼寝した。
 ひとみちゃんとまーくんはよく喧嘩をした。そしてまーくんの家ではよく皿が割れた。
 ひとみちゃんは僕を抱いて部屋にこもって、
「嫌な男。別れようかな」
 そんな気もなさそうなのに呟いた。
「シャンプーもそう思うよね?」
「わん」
 まーくんはいい子だよ。そう言ったのに、
「ほんとにそうだよね。別れた方がいいよね」
 とひとみちゃんは頷いた。
 まーくんも僕を膝に乗せては、
「嫌な女。山の中に捨ててやろうかな」
 と物騒なことを言った。
「わん」
 そんなことしないほうがいいよ、と言ったら、
「シャンプーもそう思うか。手伝ってくれるか? 捨てるの」
「わんわん!」
 嫌なこと言わないでよ、と抗議したのに、まーくんはやけくそのように笑った。

 夏は暑い。僕ははぁはぁと舌で息をした。
「また電気止められたんじゃないの? 死ぬわよ」
 と汗だくのひとみちゃんが言った。
「あんたはいいけど、シャンプーがかわいそう」
「じゃあ捨ててこいよ、そんな犬」
 まーくんは「捨ててこい」が口癖だった。だけどそんなつもりがないのを僕は知っていた。だけどひとみちゃんは違った。そしてまた皿が飛んでは割れた。
 まーくんがひとみちゃんの手首を掴んで引きずる。僕は吠えた。がんと大きな音でドアが閉まる。いよいよ僕は吠えるしかなくなった。ドアの向こうでひとみちゃんが叫ぶ声が聞こえる。僕はジャンプしても、ドアノブに手が届かない。僕にできることはなかった。

 秋の山の風は冷たい。僕は少しあいた車の窓の隙間から鼻先を出して、生まれて初めて山の臭いをかいだ。
「もう駄目だ、しくじった」
 まーくんは、夜の山道を車で飛ばしながらそう呟いた。僕は助手席で窓の外を見た。夜だから、何も見えなかった。だけど僕は山に来るのが初めてだ。窓の外に向かって僕は吠えた。
「どうしような、シャンプー」
 まーくんが後ろをちらちらと気にした。まーくんの後ろにぴたっと張り付いた、車の中に乗っているのはいつもの友達じゃなかった。
「まさか、俺が山の中に捨てられることになるとはな」
 まーくんは少し笑った。まーくんは携帯電話で何かを話して、車を停めた。
「シャンプーはここで待っててな。きっと朝になったら誰かが見つけてくれるから」
 そう言ってまーくんは、山の中に怖いお兄さんたちと消えていった。僕はしばらくは助手席に隠れていた。お兄さんだけがそのうち戻ってきて、「車はどうする?」と話していたけれど、別にいいのだと言って去っていってしまった。
 僕は朝になるまで、そのままずっと誰かを待った。ひとみちゃんが迎えに来てくれるのかな、と思っていた。だけど誰も来なかった。僕は思い切って窓の隙間から外に出た。

 まーくんは山の中で寝ていた。ほっぺに土をつけて。朝の木漏れ日が、まーくんを照らしていた。まーくんのほっぺを舐めると、まーくんは小さく笑って僕を抱いた。そして言った。
「俺はもう駄目だ」
「わん!」
「うん、もうそろそろしたら紅葉狩りの車で混雑してくるだろうから、誰かに拾ってもらうんだよ。ひかれるなよ」
 やっぱり、まーくんは僕の言うことをわかってくれないな、と思った。それでも僕はまーくんに言った。
「きゅうん」
 僕、ひとみちゃんに会いたいよ。そしたらまーくんは、
「そうだね、シャンプー」
 と呟いた。だけどまーくんはもう動かなくなって、紅葉の中に埋もれていってしまう。そのうち、土の中に溶けていってしまう。
 だから僕は行かなきゃいけないんだ。
 そうだね、シャンプー。
 まーくんの声がいつまでも頭の中に響いていた。それでも僕は野の中を走った。

コメント(23件)

[1]2016年11月11日 09:56
酷い話なんだけどシャンプーの存在が話の暗さを中和してる
[2]2016年11月11日 14:58
星守る犬を思い出しました。
[3]2016年11月11日 17:27
>>[1] ご感想ありがとうございます。意図せず暗い話になってしまいました汗。
[4]2016年11月11日 17:29
>>[2] ご感想ありがとうございます!私も、あとで読み返していて、思い出しました。そんなつもりはなかったのですが汗
[5]2016年11月11日 21:07
心温まるお話かと思いきや…!
おや、これは…?と
ドキドキしながら読みました。
[6]2016年11月11日 22:26
>>[5] ハートフルなものも、残酷なものも、書くつもりはなかったんですが、こんなことになってしまいました笑。どうなんでしょうか?( ;´Д`)
[7]2016年11月12日 00:36
>>[6]

私も最初のイメージと、違う方向に行ってしまう事があります。
本当はどんな話になる予定でした?
そちらも気になりますね(^.^)
[8]2016年11月12日 04:59
>>[7]
作品の柱は2つあります。

・この三題噺のワードを必然的なかたちで使うのは無理。なのでせめて、象徴的に3つのワードを登場させよう(画像としても浮かぶようにしたかったのでした)
・テーマは「人間とは勝手な生き物である」(世の中にはペットにアテレコする人がいますが、絶対そんなこと言ってないでしょ?とか思ってました)

上の目的さえ達成できればよくて、作品の雰囲気やイメージ、ストーリーにはあまりこだわりがなく、思いつくままつらつらと書いてしまいました。
方向性としては貫けたとは思うのですが、テーマを伝えたい!という強い意志もなかったので、わりとふわふわした作品になりましたね笑。
シャンプーというワードの扱いが難しく、あれこれ考えていたら「おいでシャンプー」という曲が頭に浮かび。そこから題名考えたら、こんな話になりました。
[9]2016年11月12日 11:32
>>[8]

三題噺はなかなか難しい作業ですね。
私は、途中参加なのでちょっと曖昧で…、
三つのワードをキーワードとするのか?
それとも、話の中に組み込むだけで良いのか?
私はほぼ後者しか出来ていないのですが
すべてをキーワードにするなら、もっと長い時間と
長い文章が必要になりそうですね。
[10]2016年11月12日 11:50
>>[9]
もちろん、この文芸部的にはキーワードを登場させるだけでもオッケーかと思います!個人的には、キーワードとして「これがないと成立しない!」ぐらいに組み込みたいなぁ、という欲はあるのですが、なかなか難しいですね( ;´Д`)シャンプーなんてワードを提案したことを、少し後悔しました…笑
[11]2016年11月12日 11:58
まず、名前が変わるところで面白いな、と思いました。
それに最後まで読んでから読み返して思ったのですが、名前が変わるところのシーンが『そのようにして、僕はシャンプーという名前を捨て、モミジという名前になった。 』と、犬自身が能動的に名前を捨てる形になってるのは、やはり意志の現れなのでしょうか?

シャンプーの主張を、自分の都合の良いように解釈してしまう人々の姿が、人間というものの一面をうまく捉えていて、面白い切り口だと思いました! 勉強になります。
[12]2016年11月12日 12:10
>>[11]
ありがとうございます!能動態になってますね…。今気づきました。事実としては、シャンプーは人様の都合で名前を変えられるんで、受動的なはずですね。

たぶんこの一文は、最後のほうの「だから僕は行かなきゃいけないんだ」とかけたつもりでした。普通人間的な感覚で行けば、ご主人様の遺体を放置するなよ、と思う。でも犬的には、もう死んじゃったし、土に還るんだからいいよね、僕行かなきゃだよね。次のご主人様に仕えるには、名前も変えないといけないんだ。そんな認識だと思います。
※たぶん、忠犬ハチ公みたいな例は、ご主人様が死んだという認識がないからこそ成り立つんではないか?と思いました。

そんな感じで、捨てさせられたけど自分からもまーくんと名前を捨てざるを得ない、シャンプーなのでした。(今日のわんこ風)
まぁ犬はここまで考えないと思うんですが、なんせフィクションなので( ;´Д`)
[13]2016年11月12日 12:33
>>[10]

そう、三つすべてをキーワードにしたいですね。
シャンプーは組み込むしか出来ませんでした(笑)
でも文章を書く為の良い練習となっていると
思います!
[14]2016年11月12日 14:09
最初読んだときは、犬がそこまでわかってる訳ないだろ、と思いながら読みました。
しかし、途中からそうではなく、まさにこの話の通りに、犬のシャンプーにはまーくんやひとみちゃんの事が見えているのだろうな、とか思わせてくれました。
実家で昔犬がいましたが、自分が犬なら飼い主をそういう風に見るだろう、などという感情移入すらできたので、純粋におもしろい作品なんだと思います。

あと、横槍になりますが、
三題噺は、3つのお題の言葉をとにかくググりまくって、その言葉にまつわるあらゆる情報をランダムに調べてみると、
ブレインストーミングになって、全く思いもしない面白いつながりが言葉同士の間に生まれることがありますよ。
[15]2016年11月12日 16:01
>>[14]
確かに、こんなに考えてる犬はまさかいないとは思いますが笑、フィクションだからいっかと割り切りました。初めて人間以外を主人公にしました…もう少し表現方法を考えてみようと思います。
それでも、感情移入していただけて嬉しいです!

三題噺をググるという発想はありませんでした。ネット上でのブレストって面白いですね!勉強になります(^ω^)今度やってみよー
[17]2016年11月14日 01:25
犬の目線であることと、シャンプー、まーくん、ひとみちゃんというネーミングによって物語の生臭さがそぎ落とされ、寓話的でふわふわした、どこか非現実的な雰囲気を感じました。

結末から描き出す構成は面白いのですが、少し分かりにくいようにも思いました。
時系列を読者になんとなくでも感じさせるような情景描写を挟んだりすると、よりストンと読みやすくなるのではないか、と思います。
[18]2016年11月14日 09:00
>>[16]
ありがとうございます!ちゃんと伝わったようで嬉しいです(^ω^)
[19]2016年11月14日 09:03
>>[17]
ありがとうございます!初めて犬を主人公にしたので、不安もありましたが…。
思いつくままにぱーっと書いてしまったので、あまり練れていなかったところがあるかと思います( ;´Д`)結末から書こう!という意図も特になかったのですが。
確かに、読者に対して不親切な設計ですね…。もう少し推敲して練り直してみようと思います。
[20]2016年11月15日 08:31
こういう展開だったのですね。

私も、猫を飼っていますが、施設を転々として、そのたびに名前が変わっていました。うちに来たときに、もう、変わらないからね。と話しかけたのを思い出しました。

前半が、後半に繋がっていくところ、とても良いなと思います。
読んだあと、そうだったのか、ともう一度読み返しました。

皆さんおっしゃるように、暗い話も、犬の可愛さで中和されていますね。

新しい飼い主のところで、幸せに暮らして欲しいと思いました。
[21]2016年11月15日 19:07
ぐいぐい引き込まれていきました。
「僕」がまさかワンちゃん=シャンプーで、飼い主が何らかの事件に巻き込まれるという壮大なる展開も、謎が謎を呼ぶ感じで面白いと思いました。

はたしてシャンプーは飼い主の居場所を女の子とその親に伝え、無事に事件が解決できるのか、続編があれば是非読みたいです☆彡
[22]2016年11月15日 19:19
>>[21]
ありがとうございます!特に事件や謎を展開させたつもりもないので、続編は恐らくないとは思いますが笑。すべて適当です…。というか、事件を解決するという観点が全くなかったので、新たな発見でした!
機会があれば続編考えてみようと思います。
[23]2016年11月16日 12:08
>>[20]
昨日はお疲れさまでした!ご感想ありがとうございます。人々の家を転々とする犬や猫は、みんな同じような運命を辿るのかもしれませんね……。新しい環境に順応しようとする姿はなんだかいじらしく感じます。
みけねこさんの猫ちゃんも、今は穏やかな幸せを味わってるんでしょうね。

前半と後半の繋がりがわかりづらかったので、要修正かなとは思いつつ、でも読み返していただけるのが嬉しいです。
どうもありがとうございます(^ω^)

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