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銀座資産家殺人事件 渡辺剛コミュのグレート・ギャッビーのあるすじ

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あらすじ

第一章

私がまだ若く、いまよりもっと傷つきやすい心を持っ ていた頃に、父がある忠告をしてくれたが、それ以来 私はその忠告を心の中で何度もくりかえしてきた。 「誰か人を批判したい気持ちになったら、この世の中 の人がみんなおまえのように恵まれているのではない ということを思い出してみなさい」

そして、このように自分の才能を自慢した後で、私は それにも限界があるということも認める・・・ただ一 人、ギャツビー、この本に名前を使わせてもらった ギャツビー、彼だけが例外であった──ギャツビー、 ぼくが心からの軽蔑(an unaffected scorn)を抱いて いるもののすべてを体現しているような男。もしも、 途切れることのなく演じ続けられた一連の姿勢(an unbroken series of successful gestures)を個性とい うのならば、彼には何か絢爛とした個性(something gorgeous)があった。人生の兆しに対する高感度の感 受性(some heightened sensitivity to the promise of life)というか・・・それは希望を見い出す非凡な才 能であり、ぼくが他の人の中にはこれまで見たことが なく、これからも二度と見い出せそうにないようなロ マンティックな心構え(romantic readiness)だっ た。

私はニック・キャラウェイ。中西部の出身で一九一 五年にイェール大学を出た後に、第一次世界大戦に従 軍した。そして一九二二年の春、東部へやってきた私 はウォール街の証券会社で働き、ニューヨークのロン グアイランドのウエストエッグで家賃の安い平家を借 りて住んでいた。家の右隣には、そこには似つかわし くない白亜の豪邸があった。向かいのイーストエッグ は高級住宅地で、そこには親戚のデイジーが住んでい た。彼女の夫のトム・ブキャナンは私の学友だった。 その夏のある日、私はトムの家に招待された。屋敷の 玄関でトムが待っていた。

いまでは、麦わら色の頭髪のたくましい三十男で、な かなかしたたか者で、態度もごう慢だった。きらきら と光る尊大な二つの眼が彼の表情をかたちづくってい て、いつも好戦的に身構えているといった雰囲気を もっている。・・・彼の声、すこししゃがれてかすれ 声のそのテノールも、彼から受ける気難し屋の印象を 強めている。そこには彼が好意を持っている人々に対 してすら、親が子にものを言うような感じがあり、奴 の根性が気に食わないというものはニューヘイヴンの 頃から何人もいた。

私が部屋に招き入れられると、そこにはソファーにけ だるく腰かけるデイジーがいた。久々の再会を喜ぶ と、彼女は女友達のジョーダン・ベイカーを紹介し た。彼女は有名なゴルフ選手だった。私がウエスト エッグに住んでいるというと、私の隣の豪邸に住んで いるのはギャツビーという男で、彼の開くパーティー に行ったことがあると彼女は言った。庭で食事をしな がら、トムは最近読んだというゴダードという学者の 軽薄な有色人種興隆論について偉そうに講釈する。や がて、トムに電話がかかってきて彼が席を外し、デイ ジーもその後に続くと、家の奥で言い争う二人の声が 聞こえてきた。ジョーダンによると実はトムには ニューヨークに愛人がおり、デイジーは愛人からの電 話と思ったのだろうという。その後、私はデイジーか ら長女パメラが産まれた時の話を聞いた。

女の子だっていわれた時、私は顔を背けて泣いてし まったの。でも私は言ったわ、『いいわ、女の子でよ かった。おばかさんな子になるといいわ。女の子は可 愛いちっちゃなおばかさん(a beautiful little fool)、 それが一番なのよ』って。" その時、トムはすぐに病 院を出ていったという。そこへトムがやってきたの で、デイジーは話をはぐらかした。

やがて私はトムとデイジーが自分とジョーダンを くっつけたがっているということが分かってきた。

彼らが関心を寄せてくれることはうれしくもあり、彼 らは自分とかけ離れた金持ちだという感じを薄めても くれたが、車を運転しながら、私は混乱し、少しだけ むかむかしていた。

その日トムの家からウエストエッグに帰ると、隣の豪 邸で一人の男がポケットに手を入れ、遠くを見つめな がら、たたずんでいるのが見えた。彼が見ていた海の ほうには桟橋のあたりにぼんやりと緑色の光が見え た。もう一度、私が彼の姿を探したとき、既にその姿 はなかった。

第二章

ウエストエッグとニューヨークのほぼ中間地点に、道 路が急に線路と合流し、四分の一マイルほど平行して 走っているところがある、まるで荒涼としたその一体 からしりごみしているかのようだ。ここは灰の谷(a valley of ashes)──灰が小麦のように成長して、峰 や丘やグロテスクな庭になる奇妙な農場。そこでは灰 が家となり、煙突となり、立ち昇る煙となり、最後に は不可解な力によって灰色の人間が出現する。その人 間たちは埃のただよう空気の中を、すでに崩れかかり ながら、影のようにうごめいている。

しかし、しばらくすると、この灰色の土地とその上を 絶えずただようもの寂しい埃の渦の上に、T・J・エ クルバーグ医師の眼が見えてくる。T・J・エクル バーグ医師の眼は青く、とてつもなく大きい──網膜 の直径は一ヤードもある。顔はないが、その眼は鼻に あたるところにかかっている巨大な黄色い眼鏡の奥か ら見つめている。

その灰の谷にジョージ・ウィルソンの小さな自動車整 備工場があった。ある日曜日の午後、トムが私を連れ てここをわざわざ訪れたのは、ウィルソンの妻であり 彼の愛人であるマートルを見せるためだった。トムは 長い間、ウィルソンに車を売ると言っているのだがな かなか売ろうとしない。トムと会話するウィルソンは おどおどしていた。私たちがそこを立ち去った後、ト ムはマートルをニューヨークのアパートに呼び寄せ た。マートルの妹のキャサリンや階下のマッキー夫妻 らを呼び寄せパーティーが始まった。

私は一生に二度だけ泥酔したことがあるが、その二度 目がこの日の午後だった。

聞くとキャサリンはギャツビーのパーティーに行った ことがあるという。彼はドイツの皇帝の子息と言う噂 だが、姿を見せず無気味だという。やがて夜も遅くな ると、マートルとトムが些細なことから言い争いを始 めた。デイジーの名を皮肉たっぷりに叫ぶマートルに 対し、苛立ったトムが平手打ちをすると、マートルは 鼻血を流した。その光景を見た私は部屋を後にして、 夜の駅のベンチで午前四時の始発を待っていた。

第三章

ギャツビーの邸宅では少なくとも二週間に一度は パーティーが開かれていた。ある日、私のもとにギャ ツビーからパーティーの招待状が届いた。彼のパー ティーに実際に招待されて来ている人はまれで、大半 は勝手に訪ねてくるパーティー好きの連中である。私 は知らない人ばかりの中で居心地が悪かったが、そこ でジョーダンと再会した。彼女と連れ立って人々の話 を聞いていくうちに、誰一人ギャツビーを見たことが ないということがわかってきた。彼らはギャツビーに 関する様々な噂をしていた。人殺し、スパイ、オック スフォード・・・彼は誰が出ているか見るだけでパー ティーには出てこないのだという。やがて私たちがい たテーブルに同席していた男が微笑みかけてきた。そ の男こそギャツビーであった。いくつかの会話を交わ した後、執事が彼に電話の呼び出しを告げた。私は彼 にいい印象を持った。その後、また執事が現れジョー ダンにだけ話があるという。しばらくしてギャツビー とジョーダンが戻ってきた。ジョーダンはギャツビー から驚くべき話を聞いてきたのだという。夜もふけ て、パーティーはお開きとなった。

ウェーファーのような月がギャツビーの邸宅の上を照 らしている・・・玄関先に立って片手をあげ、型どお りの別れの挨拶をするこのパーティーの主催者の姿に は、完全なる孤独が感じられた。

普段の私はありふれた会社員だった。会社の近所の 食堂で昼食を取り、イェール・クラブで夕食をすませ た後、階上の図書館で証券の勉強をする。そして、ぶ らぶらとマジソン街を歩いて、電車の駅へ向かう。

私はニューヨークが好きになりはじめた。活気にあふ れ、スリルにみちた夜の雰囲気。めまぐるしく行きか う男や女や車の流れが休みなく眼にとびこんでくる満 足感。私は五番街を歩きながら、人混みの中からロマ ンティックな女性を選びだし、間もなくだれにも知ら れずだれからも非難されないまま、自分が彼女の生活 の中に入り込むといった想像にふけるのが好きだっ た。

久しぶりにジョーダンと再会したのは、もう真夏のこ とだった。彼女は以前ゴルフの試合で、ボールを有利 な位置に動かして打ったという醜聞があったことを思 い出した。だからといって私の彼女への気持ちが変わ るということはなかった。

女の不正直さなんて、深くとがめるようなことじゃな い。

また彼女の車の運転は乱暴だった。

「不注意な人は嫌いよ。だからあなたが好きなのよ」

私は一瞬、彼女が自分の恋人のような気がした。しか し、私には週に一度、「愛するニックより」という署 名を入れた手紙を書く女性が郷里にいた。以前、この 女性と結婚するような噂をトムとデイジーがしていた ことがあった。

しかし、私はものごとをゆっくりと考える性格で、内 なる心の規則が自分の欲望にブレーキをかけていた。

私が自由になる前には、まずそれをうまく断ち切らね ばならないというおぼろげな了承があったのだ。

・・・私は自分が知っている数少ない正直者のうちの 一人だった。

第四章

ギャツビーのパーティーにはイーストエッグのお金 持ち、州上院議員、映画関係者、演劇関係者など様々 な人が来ていた。ギャツビーのことを酒の密売人とい う人もいた。私はこの人々の名前を時刻表の片隅にメ モしていたことがあった。七月の末のある日、ギャツ ビーが車で私の家にあらわれ、昼食に行くことになっ た。ギャツビーはニューヨークまで車を運転しなが ら、自らの生い立ちを私に話し始めた。中西部の資産 家の出身で大学はオックスフォードに行ったこと、戦 争で手柄をたて少佐にまでなったこと、その後、家族 は皆死に巨額の遺産を相続し、悲しい出来事を忘れる ためにヨーロッパへ移住したこと。オックスフォード 出というところをいいよどみながら早口でいうところ や、中西部出身なのにサンフランシスコ出身というこ ところから、私は彼の発言を疑ってしまう。しかし、 彼が見せてくれた軍隊の勲章は本物のようにしか見え なかった。そして、今日の午後私がジョーダンと会う ことを何故かギャツビーは知っており、その際に ジョーダンが彼の話を私にすることになっているのだ という。

ニューヨークのレストランに着くと、ギャツビーは マイヤー・ウォルシャイム(Wolfsheim)という獅子 鼻の小柄なユダヤ人を私に紹介した。その老人はどう やら物騒なビジネスをしているようだ。そして、ギャ ツビーからその人物こそ伝説の賭博王であることを教 えられる。ギャツビーはこの男と組んで商売をしてい るようであった。その店へトムが偶然来ていた。私は トムにギャツビーを紹介したが、その時私はギャツ ビーの表情が当惑と緊張の色を帯びるのを見て取っ た。

その日の午後、プラザホテルのレストランで私は ジョーダンからギャツビーとデイジーの話を聞いた。 デイジー・フェイとジョーダン・ベイカーは幼馴染み で、デイジーのほうが二歳年上だった。デイジーはル イヴィルの資産家の娘で、街中の人気者だった。一九 一七年の十月のこと、ジョーダンはデイジーがジェ イ・ギャツビーという将校と一緒にいるところを見 た。

その将校はデイジーが話している間、ずっと彼女を見 つめていたわ、若い娘ならだれしも、いつかはあんな 眼で見つめてもらいたいと思うような眼差しで。わた しにはとてもロマンティックに見えて、それ以来この ことがずっと忘れられないの。

翌年、社交界にデビューしたデイジーはその翌年にシ カゴの大金持ちトム・ブキャナンと結婚した。トムは ルイヴィルのホテルの一つの階を全部貸し切って、三 十五万ドルの真珠のネックレスを花嫁に贈った。結婚 式の直前、デイジーはギャツビーからの手紙を握りし め泥酔していた。ジョーダンは彼女を水風呂に放り込 み、その手紙は水に溶けてしまった。正気を取り戻し たデイジーはトムと結婚した。新婚旅行から帰ってく ると、デイジーはすっかりトムに夢中になっていた。 翌年、デイジーは女の子を産んだが、トムの浮気が発 覚し、二人は一年間フランスへ行った。その頃のデイ ジーはよく酒飲み仲間と遊んでいたが、浮気をしたこ とはなかったようだ。そして六週間前、ウエストエッ グのギャツビーの名を耳にして、デイジーはかつてつ きあっていたあの将校であることに気がついたのだ。

黄昏のニューヨークの中、遊覧馬車に乗りながら ジョーダンは話を続けた。ギャツビーがあの家を買っ たのは対岸にデイジーが住んでいるからだという。

すると、あの六月の夜、彼が熱い想いをはせたのは、 ただ星空に対してだけではなかったのだ。ギャツビー という人間が、その無意味なほどの華麗さにつつまれ た神秘から急に抜け出して、一人の生きた人間として 私の眼に映ってきた。

ギャツビーはデイジーを私の家に招待して、そこで二 人で会いたいのだという。ギャツビーはデイジーが パーティーに現れるのを期待していたのだが、彼女が 現れなかったのでジョーダンを通じてこの計画を実行 しようとしているのだとジョーダンは言った。この計 画はデイジーには内緒のまま進めることになった。あ たりが暗くなった頃、私の心は目の前のジョーダンに すっかり夢中になっていた。彼女を夕食に誘い、帰り 道、キスをした。

・・・両腕に力を入れて、私の側にいる女性を引きよ せた。彼女の青ざめて軽蔑の色をたたえた口元は微笑 みを浮かべていたが、私はもう一度もっと側に彼女を 引きよせた、今度は自分の顔のほうへと。

第五章

その日の晩、ギャツビーが私の家を訪れた。ジョー ダンから彼の計画を聞いていた私は、了承し、明後日 にデイジーを呼ぶことにした。そして約束の日がやっ てきた。その日は雨が降っていた。朝、芝刈り機を 持った男がやってきて芝を刈り、やがてギャツビーの 手配した花屋が大量の花を家に運び込んだ。三時頃に ギャツビーがやってきた。前夜は寝付けなかったよう で、顔色がよくない。三時半頃には雨は霧雨となっ た。ギャツビーは落ち着かず、こんなことしなければ よかったという。しかし、そこへデイジーが現れた。 デイジーが部屋に入るとギャツビーの姿はそこにはな かった。そしてドアをノックする音が聞こえ、私は彼 を招き入れた。

「ずいぶん何年もお会いしませんでしたね」とデイ ジーが言った。いかにもさりげない声である。 「この十一月で五年です」

私は三十分ほどの間、家を出ると、雨はやみ、日が 照ってきた。家に戻ってくると二人は椅子の両端に 座ったまま顔を見合わせていた。デイジーの頬には涙 がつたっていて、ギャツビーの表情には今までにな かった幸福感があった。三人はギャツビーの屋敷へ行 くことになり、デイジーが化粧を直している間、ギャ ツビーが話しかけてきた。遺産は戦後の恐慌で失い、 あの豪邸を建てるために三年分の稼ぎを注ぎ込んだと いう。私が彼の仕事のことを聞くと一瞬むきになって 関係のないことだと言ったが、すぐに謝ると、ドラッ グストアや石油などいろんな商売をやってきたのだと 教えてくれた。彼の豪邸をデイジーに案内するギャツ ビーはいきいきとしていた。ギャツビーは、洋服はす べてロンドンから送ってもらっていると言った。そし て、彼は色とりどりのシャツを一枚、そして一枚と私 たちの眼の前で放り投げ始めた。デイジーは突然感き わまったように声をたて、シャツの山に顔をうずめ激 しく泣き出した。

外は雨がまた降り出していた。対岸の桟橋に輝く緑 色の灯を三人で眺めながら、デイジーはギャツビーと 腕を組んだ。ギャツビーはデイジーの社交界での記事 を切り抜きにしてとっていた。

その日の午後でさえ、デイジーが彼の夢を壊した瞬間 があったにちがいない──それは彼女自身の落ち度か らではなく、彼があまりに大きな幻想を描き躍動する からだ。それは彼女の及ばぬところまで、何ものも及 ばぬところにまで達している。彼は創造的情熱をその 自己の幻影に投影し、常にその幻影を大きくしなが ら、ありとあらゆる華麗な羽毛でその幻影を飾り立て てしまったのだ。どれほどの熱烈な情熱であっても、 どれほどの清純な心であっても、男が空虚な心にため こんでしまう幻影にはかなわないのだ。

私は見つめあう二人を残して、雨の中ギャツビーの邸 宅を後にした。

第六章

この頃、ニューヨークの新聞記者がギャツビーの元 を訪れていた。彼の噂は彼のパーティーに集まった何 百人という人々によって広がり、あることないことが ささやかれ始めていた。後に彼が語ってくれたことだ が、実際のところ彼の両親は無能な敗残の百姓で、本 名をジェイムズ・ギャッツといった。彼は十七歳の時 に家出をしてダン・コウディという男のヨットで生活 を始め、この時彼はジェイ・ギャツビーという人間に なった。ダン・コウディはかつてはゴールド・ラッ シュで財を成したが、女性記者エラ・ケイによって彼 の財産は新聞社の共有財産となり、船で大陸の周りを 巡行していた。ギャツビーはこのヨットで五年間を過 ごし、徐々に認められていった。ギャツビーが酒を飲 まないのはコウディの酒癖が悪かったからだった。あ る日、コウディは突然死んでしまい、巨額の遺産はエ ラ・ケイのものとなった。そして、ギャツビーは船を 去った。

しばらくの間、私はジョーダンに夢中だった。ある 日曜の午後、ギャツビーの家を訪ねると、そこへパー ティーの常連客がトムを連れてきた。ギャツビーが身 構えたような感じで、あなたの奥様を存じ上げており ますよとトムに言った。トムはその時まで以前ギャツ ビーと会ったことを忘れていた。しかし、最近デイ ジーが一人で遊びまわっていることが気にかかってい たトムは、その次の土曜のギャツビーのパーティーに デイジーについてやってきた。トムはギャツビーへの 反感を持つようになっていた。ギャツビーは優美なス テップでデイジーと踊り、二人だけの会話も楽しん だ。その時だけはデイジーは楽しんでいるようだっ た。しかし、そのパーティーの雰囲気からはウエスト エッグの成り上がり者が持つたくましい生命力、押し の強さがにじみ出ていて、デイジーの表情からは怯え と戸惑いの色が感じられた。トムとデイジーが帰った 後、ギャツビーは、デイジーがこのパーティーを楽し んでなかったといった。

「あの人から遠く離れてしまったような気がするんで す。あの人にはとてもわかってもらえない」

彼はデイジーにトムの所へいって「あなたを愛してい なかった」と、言ってもらいたという。

「私なら無理な要求はしないけど」思いきって私はそ ういった「過去は繰り返せないよ」(You can't repeat the past.) 「過去は繰り返せない?」そんなことがあるかという 調子で彼の声は大きくなった「もちろん、繰り返せま すよ!」

彼はデイジーとの想い出を語り始めた。五年前のある 秋の夜、月光を浴びる歩道で二人はキスをした。

・・・そしてその時、彼の夢も一個の人間に具象化さ れたのである。(…and the incarnation was complete.)"

第七章

ギャツビーに対する好奇心が最高潮に達した頃、土曜 日の夜というのに彼の屋敷に灯がともらないことが あった──そして、成り上がり者としての彼の生活は そのはじまりと同じく謎のうちに終わりをつげた。

その日、私はギャツビーが心配になり屋敷を訪ねた が、新しい使用人はぶしつけな態度で屋敷に入れては くれなかった。たびたびデイジーがギャツビーの屋敷 を訪れるようになったため、ギャツビーは使用人を全 員解雇して新しい者を雇い入れ、噂がもれないように 気を使っていたのだ。その翌日、ギャツビーから電話 がかかってきて、明日デイジーの家に昼食に行かない かと誘われた。ジョーダンも来るという。その日はす さまじく暑い日で、重くるしい雰囲気に耐えきれなく なったデイジーはニューヨークに行くことを提案す る。トムは巧みに嫌悪を隠してギャツビーに接してい た。しかし、「あら、あなたとても涼しそうね」とい うデイジーの視線とギャツビーの視線が合って見つめ あっていたのを見て、トムは二人が旧知の仲であった こととその親密さを知って愕然とした。そして、とっ てつけたようにトムもニューヨークに行く提案にのっ た。トムが運転することになったギャツビーの車に私 とジョーダンが乗り、ギャツビーとデイジーはトムの 車に乗ってニューヨークへ向かった。途中で私たちは ガソリンを給油するため、ウィルソンの整備工場に 寄った。顔色の悪いウィルソンは、二、三日前に妙な ことに気付き、女房と西部に行くことにしたのであの 車を今すぐに売ってほしいとトムに言った。この時、 トムはいまやデイジーもマートルも失おうとしている ことに気がついた。トムは翌日の午後に車を渡すこと を約束した。その時、私はウィルソンの整備工場の二 階からマートルの嫉妬にかられた視線がジョーダンに 向けられているのに気付いた。彼女をトムの妻と思っ ていたのだ。私たちはプラザホテルに到着した。とに かく暑い日で、窓を全部開けてもまだうだるような暑 さだ。いらいらするような会話が少し続いた後、トム はギャツビーがオックスフォードを出てはいないと言 い出した。ギャツビーは冷静に、戦後将校に与えられ る特権で五ヶ月だけ通ったのだと答えた。そして、ト ムがギャツビーに問いつめた。

「いったいきみは我が家にどんな騒動を起こそうとい うんだね?」

そして、ギャツビーがついに切り出した。

「親友、あなたにお話ししたいことがあるんですが ──」 「奥さんはあなたを愛していません」と、ギャツビー が言った「これまでも愛していなかった。奥さんは私 を愛しているのです」 「あなたと結婚したのは、私が貧乏だったので、私を 待ちくたびれたからなのです。ひどい間違いだったけ れど、心の中では奥さんは、私以外の人間を愛したこ とはないんですよ!」

しかし、二人が五年前からずっと会っていたわけでは なく、最近になって再会し、会い始めたのだというこ とを知り、トムはこう言い放った。

「そりゃ、五年前にどんなことがあったか、俺は知ら ない。その頃の俺はまだデイジーを知らないんだから な・・・しかし、デイジーは俺を愛して結婚したん だ。そして今でも俺を愛している」

しかし、デイジーはトムへの嫌悪感を隠さず、ギャツ ビーに促され、トムを愛したことはないとためらいな がらも言った。しかし、徐々にトムへの悪意は消えさ り、多くを求めるギャツビーへのいらだちがつのって きた。

彼女はギャツビーを見つめ「ジェイ、これでいいわ ね?」と言った・・・「ああ、あなたの要求は大きす ぎるわ!」彼女はギャツビーにむかって訴えた、「私 は今、あなたを愛している──それで十分じゃない? 過ぎたことはどうしようもないわ」彼女は頼りなさそ うにすすり泣きはじめた。「かつてはトムを愛してい た──でもあなたのことも愛していた」


コメント(6)

トムは言った。

「・・・いいか──デイジーと俺の間にはおまえには 絶対にわからないことがあるんだ、デイジーも俺もい つまでも忘れられないことが」

この言葉はギャツビーにはこたえたようだった。しか し、ギャツビーはこう言った。

「デイジーはあなたと別れるんだ」 「でも、それは本当なのよ」いかにも苦しそうに彼女 は言った。 「デイジーは俺と別れない!」突然トムは、ギャツ ビーの頭上にのしかかるようにしてどなった。

そして、ついにトムはギャツビーはマイヤー・ウォル シャイムの一味でニューヨークやシカゴのドラッグス トアを買い占め、そこでエチル・アルコールを密売し ていることなどを暴露した。デイジーはひどく混乱し て、部屋から出ていきたいとトムに懇願すると、トム はギャツビーに車で家まで送えばいいと投げやりに 言った。私は思い出した。その日は三十歳の誕生日 だった。

私は三十だった。目の前には不吉で無気味な新しい十 年の前途(the portentous, menacing road of a new decade)がのびていた。

トムが私とジョーダンを乗せ、ロングアイランドに むかって出発したのは七時だった。

こうして私たちは、涼しくなりかけたたそがれの中 を、死にむかって疾走していったのだ。(So we drove on toward death through the cooling twilight.)

その日の五時過ぎ、ウィルソンの隣人マイカリス は、マートルの浮気に勘付いたウィルソンがマートル を二階の部屋に閉じ込めていることを彼から聞いた。 そして、七時頃、激しく言い争う声がして、マートル が家を飛び出していくのを見た。そして、暗闇の中か ら現れた車にはねられた。即死だった。

私たちが灰の谷を通りかかると、事故の現場を大勢 の野次馬が取り囲んでいた。そしてニューヨークから やってきた車が猛スピードでマートルをはねたことを 知った。ウィルソンがひっきりなしに叫び続けてい た。その車は黄色い新車だったという。ギャツビーの 車に違いない。私たちはその場を去った。トムはすす り泣きながらさけんでいた。

「くそったれの腰抜け野郎!・・・ひき逃げしやがっ て!」"

トムの家に着いたが、私は家に上がってジョーダン と話す気にはなれなかった。一人になりたかった。ト ムがタクシーを呼んでくれるのを待つ間、私は自分の 名を呼ぶ声に気づいた。そこにはギャツビーがいた。 彼はニューヨークでのひき逃げの話を知っていた。実 は車を運転していたのはデイジーだったのだ。しか し、ギャツビーは自分が運転したと言うつもりだとい う。マートルは黄色い車を見て、トムと勘違いして 寄ってきたのだろう。ギャツビーは、今日の午後の件 でトムがデイジーに乱暴をしないか一晩中見張るつも りだと言った。私が家の中の様子を覗きこむと、デイ ジーとトムは無言でテーブルに向かい合い、トムはデ イジーの手をとって何か話しかけていた。何ごとも起 こりそうになかったが、ギャツビーはそのまま立ち続 けていた。

そして私は歩いてその場を去った、そこにはないもの を見つめながら(watching over nothing)月光の中に 立つ彼を残して。
第八章

私は一晩中眠れなかった。夜明け前にギャツビーの 家を訪ねると、彼は玄関のテーブルにぐったりともた れかかっていた。昨晩デイジーには何もなかったとい う。私は事故のことがあったから、ここを出ていくよ うに言ったが、彼は最後の希望にしがみつくようにデ イジーがどうするかわかるまでは離れるつもりはない ようだった。ギャツビーがダン・コウディと過ごした 若い日の話をしてくれたのは、この夜のことだった。

「ジェイ・ギャツビー」が、トムの頑丈な悪意にぶつ かって、ガラスのように砕け散り、長いあいだひそか に演じられてきた狂想劇もこれで幕になったと悟った ので、彼もそれを語ったのだ。

彼はデイジーのことを語り始めた。彼女は彼がはじめ て知った「良家」の娘であった。彼はかつては無一文 であった自分の将校という機会を最大限に利用して彼 女を奪い取りたいと思い、そしてそれを実現した。そ して彼は本当にデイジーを愛してしまっていた。しか し、第一次世界大戦が始まり彼は戦地に送られ、休戦 後も帰国の手違いからオックスフォードに送られてし まった。デイジーはなぜ彼が帰れないのか想像さえで きず、社交界で派手な交際を繰り返すようになり、そ して現れたトム・ブキャナンと婚約したのだった。

夜が明けて、私たちは階下へ降りていった。

「彼女はあの人を愛したことはないと思います」 「もちろん、彼女もほんの少しあいだくらいは彼を愛 したかもしれない、結婚した当初くらいは──でも、 そのころ以上に私のほうをもっと愛していたんです、 そうでしょう?」

私たちは朝食をとり、ベランダに出ると九時になって いた。あたりには秋の気配がただよっていた。私は ギャツビーと別れたくなかったので、会社には遅れて 行くことにした。家に戻り、昼ごろに電話すると告げ た。そして、別れ際にこう言った。

「あいつらは下らない連中だよ(a rotten crowd)」 芝生越しに私は叫んだ「君はあいつらをまとめて束に したくらいの値打ちがあるよ」 「さようなら」私は大きな声で言った「朝食楽しかっ たよ、ギャツビー君」

私は遅刻して会社へ向かった。昼前にジョーダンか ら電話があったが、私はその日は会う約束をするのが おっくうで、それきり彼女と話すことがなくてもいい やと思い、受話器を置いた。

前の日の晩のこと、ジョージ・ウィルソンにマイカ リスが付き添い、行きつけの教会に行くように勧めた が、どこの教会にも入っていないという。ウィルソン は事故のショックからもうろうとしていたが、マート ルをはねた車を見つけだす方法があるなどとうわ言を 口走っていた。そしてエクルバーグ氏の眼鏡の看板を 見ながら「神様は、すべてをみておられるのだ」とい うウィルソンにマイカリスは愕然とした。明け方、自 宅で一眠りしたマイカリスがウィルソンの店に戻る と、彼はいなくなっていた。ウエストエッグのギャツ ビーの家に向かっていたのだ。

二時に、ギャツビーは水着に着替え、プールへ向 かった。銃声を聞いたのは彼の運転手だった。早めに 仕事を切り上げていた私は駅から車で彼の家にかけつ け、急いで階段を上がった。そして、プールに浮かぶ ギャツビーを見つけた。すこし離れた芝生の中にウィ ルソンの死体があった。
第九章

その日の午後のことは、ギャツビーの屋敷にひっき りなしに出入りする警官や新聞記者の様子しか記憶に ない。私はマートルの妹キャサリンがすべての真実を 明らかにしてくれるものと思っていたが、キャサリン は一言も秘密をもらさなかった。

気がついてみると私は、ギャツビーの側にしかもただ 一人で立っていた。

私たちがギャツビーを発見してから三十分後にデイ ジーに電話したが、その日の午後早くに外出していて つかまらなかった。ウォルシャイムへも手紙を出した が、冷たい返事があっただけだった。そこで、私は ニューヨークのウォルシャイムの事務所を訪れた。 ギャツビーに仕事を世話し、一文無しから育て上げた のは彼自身だと言う("…I made him.")。私が葬式へ の出席を確認すると、かかわりあいになるわけにはい かないのだという。

「友情は死んでからではなく生きているうちに示すも のだということを学ぼうじゃありませんか」

ギャツビーの死から三日後、ミネソタ州からヘン リー・C・ギャッツと署名した電報が届いた。ギャツ ビーの父だった。彼は、シカゴの新聞で息子の死を 知ってやってきた。そのきまじめな老人は、息子の遺 骸を確認すると涙を流していたが、やがてその屋敷の 壮麗さに驚嘆の念を感じ始めていた。私が西部で葬式 をあげるのかと尋ねると、彼が好きだった東部で葬式 をあげてほしいと言った。ギャッツ氏はこの屋敷の写 真を大切にとっていた。また二年前には家を買ってく れたという。そしてギャツビーが少年の頃持っていた 本を見せてくれた。そこには午前六時から午後九時ま での毎日の規則正しい日課と、自分に課した誓いが書 かれていた。結局、葬式に参列したのは、私とギャッ ツ氏、数人の使用人、そして以前屋敷でその蔵書に驚 嘆していたふくろうのような眼鏡の男だけであった。

私は中西部と東部について思いを巡らせた。クリス マスのころ、西部へ帰省したときの情景を鮮やかに覚 えている。

自分たちはこの地方と一体なのだということを、口で は言えないがはっきりと意識する。・・・それが私の 中西部だった。

今ようやく私はわかった、この物語は結局、西部の物 語であったのだ──トムもギャツビーも、デイジーも ジョーダンも、そして私もみんな西部人であり、たぶ ん私たちは自分たちを東部の生活に少しだけ適合でき なくさせるような何か共通の欠陥を持っていたのだろ うと思う。

・・・私には東部の世界が何かいびつな要素を持って いるような気がいつもしていた。中でもウエストエッ グは、いまでも私が見た怪奇な夢の中の場面として浮 かびあがってくる。それは、エル・グレコの絵の夜の 情景みたいに見えるのだ。

ギャツビーの死後、私の目に映る東部はいくら見直し ても、その歪みは消えないままの姿で私につきまとっ た。

私は故郷へ帰ろうと決意した。しかし、その前に ジョーダンと会った。私は自分たち二人に起こったこ と、そして自分に起こったことなどをあてもなく話し た。すると、彼女はある男と婚約したと言った。私は 疑ったが、驚いたふりをした。握手をして私たちは別 れた。

私は腹立たしかった、それでも彼女が半ばいとおしく 思えたし、またたたまらなく申し訳なくも思いなが ら、その場を立ち去った。

十月のある日の午後おそく、トムを見かけた。私は トムにあの日、ウィルソンに何を言ったのか問いただ した。トムは車の持ち主を教えてやっただけで、ギャ ツビーの自業自得だと言った。しかもマートルを轢い た車を運転していたのはギャツビーだと思っていた。 私は何も言えなかった。

私は彼を許すことも、好きになることもできなかった が、彼にとっては彼が行ったことは全く正当なことだ と思っていることがわかった。何もかもが実に不注意 で混乱している。彼らは不注意な人間なのだ──トム も、デイジーも──物でも人でもめちゃくちゃにして おきながら・・・自分たちのしでかした混乱の後始末 は他人に任せる・・・

私はトムと握手をして別れた。

ニューヨークでの最後の夜、私はあの屋敷をもう一 度眺めにいった。

そして、月が次第に高くのぼっていくにつれて、その 辺りの消えてかまわぬ家々の姿は夜の闇に溶けてい き、かつてオランダの船乗りたちの眼に花のように 映ったこの島の昔の姿──新世界のういういしい緑の 胸──が徐々に私の眼にも浮かんできた。
・・・ギャツビーがデイジーの家の桟橋の突端に輝く 緑色の灯をはじめて見つけたときの彼の驚きを思い浮 かべた。彼は長い旅路の果てにこの青々とした芝生に たどりついたのだが、その彼の夢はあまりに身近に見 えて、これをつかみそこなうことなどありえないと思 われたにちがいない。しかし彼の夢は、実はすでに彼 の背後に通り過ぎてしまったことを、彼は知らなかっ たのだ・・・

そして私たちは漕ぎ進んでいく、流れにさからう舟の ように、絶えず過去へと運び去られながら。(So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past.)
http://www3.ocn.ne.jp/~kenro/literature/great-gatsby/index.html
「 霜見誠の死から三日後、宮崎県高千穂町から霜見と署名した電報が届いた。霜見誠の父だった。彼は、地元の新聞で息子の死を 知って やってきた。そのきまじめな老人は、息子の遺 骸を確 認すると涙を流していたが、やがてそのマンションの 壮麗さ に驚嘆の念を感じ始めていた。私が宮崎県で葬式 をあげ るのかと尋ねると、彼が好きだった東京で葬式 をあげ てほしいと言った。霜見氏はこのマンションの写 真を大 切にとっていた。また二年前には家を買ってく れたと いう。そして霜見誠が少年の頃持っていた 本を見 せてくれた。そこには午前六時から午後九時ま での毎 日の規則正しい日課と、自分に課した誓いが書 かれて いた。結局、葬式に参列したのは、私と霜見氏、 数人の使用人、そして以前マンションでその蔵書に驚 嘆して いたふくろうのような眼鏡の男だけであった。 」

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