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repairman JackコミュのFatal Error  7 日曜日

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コミュ内全体

コメント(11)


 左手が冷たくてウィージーは暗闇で目を覚ました。
早い時間にレイディの隣で休んだのを覚えている。寝込んでしまったのだ。
手の上に冷たい重みがある。
 右手を伸ばし明かりをつけ喘いだ。
 レイディはウィージーが最後に見た姿のままで横たわっているが、
前よりはっきり見えるような気がする。いや、はっきり見える。
もうベッドカバーが透けて見えたりしない。左手の冷たい重みはレイディだった。
存在している。昨晩は奇妙な半液体のように薄まって、気化しようとしていた。
今は沢山の分子を集めて、逆方向に進んでいる。
 ウィージーはレイディの下から手を抜き出し、腕に触った。確かに固体だ。
でもどうやって?
 優しく揺すってみた。「レイディ?レイディ、聞こえる?」
 なんも言わない。息もない。動きもない。でもまだここにいる。
ウィージーが居眠りしていた間に動いたはずだ、
でなければどうやってウィージーの手の上に乗ったりする?
 レイディの腕を優しく握った。肉体がはね返った。どうしてこんなことが?
インターネットはダウンしたのにレイディは生き残っている、はね返った。
もしかして・・・インターネットが今だけ何とかして復活したの?
都合良すぎて本当とは思えない、でも・・・
時計を探したが見当たらなかった。携帯を引き出してタッチした。
ディスプレイには表示も時間も出ていない。
 居間のテレビをつけっぱなして来た、聞かないと。
急いで飛び出して画面に何かないか見に行った。
スクリーンの右下に2. 32の表示がある。
地方局のアナウンサーか疲れた顔つきでデスクにつき、プレスリリースを読み上げている。
「・・・国土安全保障省はジハード425が、インターネット・クラッシュの原因であり、テヘランのサーバーに端を発していると言っています。世界的に先例のないステップを踏み、国際情報部は、この件について責任がある、ハッカーまたはテロリストまたはハッカー組織または秘密グループを追い詰めるために協力しています」
アナウンサーはもう一枚の紙を取り上げた。
「国土安全保障省はまた、インターネットに接続した無数のサーバーとルーターがクラッシュした直後に、テロリストがインターネット本体の物理的基部に組織化された広範囲の攻撃を開始したことをも明らかにしました。地球上至る所で、しかし特にアメリカ合衆国において、海と陸にまたがり、データセンターと政府をつなぐファイバー・オプティック・ケーブルが破壊切断されたとも伝えています。このせいでインターネットの復旧はさらに困難さを増しています。計測不能な数のサーバー、ルーターをプログラムし直すだけでなく、リンクするダメージを受けたケーブルも修繕し置き直さねばなりません」
ウィージーはスイッチを切り、窓まで歩いて行った。
インターネットが復旧していないのは明らかだし、直ぐに直りそうもない。
見下ろせば、交通は麻痺している。ヘッドランプをつけている車はいくつもない。
まばらな歩行者の他は動くものはない。
 インターネットはクラッシュした・・・ヌースフィアはどんどん弱まっている・・・
レイディは逝ってしまうだろう。だが、まだ持ちこたえている。
いや、持ちこたえていると言うか・・・努力している。
 どうやって?どこから力を引き出しているのだろう?


 マリオットホテル受付後ろの壁の時計は六時半を少し過ぎたことを示している。
ジャックは入り口のドアを透かして見た。
日の出の光はまだはっきりしないが、空は出発するには十分明るくなった。
 寒い中六〜七マイルを歩かずにジーアのうちまで帰れるか考えながら夜を過ごした。
ジーアとヴィッキーをバイクに乗せられたとしても、安全が保障出来ない。
車は使えない、道路は・・・少なくとも見渡した限りでは・・・相変わらず詰まっている。
ここクィーンズあたりの脇道は少し緩み始めているかもしれないが、問題が多そうだ。
多くの人間が一時的にせよ車を捨てて、それがまた新たに永遠に近い麻痺状態を作っている。
実際今日は日曜日で、百万人が仕事に向かう訳ではないのが救いだが、
この混乱が解消するまでかかるかもしれない。そんなには待てない。
ホテルのコーヒーショップはすべて売り切れていたが、コーヒーはあった、が品不足気味だった。なんとかかんとかジーアと自分の為にコーヒーを二杯、
ヴィッキーにオレンジジュースを手に入れて来た。
「出かけてもいいかな?」
ジーアとヴィッキーは頷いた。二人は団結していた。
よかったのはアイオワからの帰りで、フロリダからではなかった事だ。
ジーアはジャックを見た。「どのくらい歩くと思う?」
 ジャックは夜のうちにコンシェルジュに地図を借りて、クィーンズボロ・ブリッジまで、
最短の道をチェックしておいた。ジーアのうちは橋のたもとにある。
「グランド・セントラルからノーザン・ブルヴァールを通って端まで行く、
六マイル半か七マイルだ。一時間に三マイル歩くのはかなりキツイ・・・」
 ジーアがヴィッキーをちらりと見た、それからジャックの尻を見た。
「私はオーケーよ。あとは頑張るしかないわね」全くだ。
トイレで尻を調べた、大きな傷だが、それほど痛くない。
「ヴィッキーはおれが肩車しよう。君と二人なら二時間半だな、運がよけりゃね」
ジーアはにっこりした。
「九時には家に着くわね。そう言えるのがどんなに嬉しいかわからないでしょ。
九時半にはスクランブルエッグとコーヒーがテーブルに並ぶわ」
「それを聞いてどんなに嬉しいかわからないだろうな。行こう。飢え死にしそうだ」
 ジャックはベル・キャプテンに支払いをしてジーアのバッグを出してもらった。
これで、支度は整い、一同寒い中に踏み出した。
ジャックは肩の上のヴィッキーを揺す振りながら、三人でマンハッタンを目指す。
ヴィッキーが歌い出した。「魔法使いに会いに行こう」
ある意味それは正しい、ジャックは思った。
一緒に歌い出したが、昨日から一晩過ぎたのが恐ろしい、魔法使いの名前は、ラサロムだ。


「私・・・生きているの?」
 レイディの声は微かでしわがれて、箒で砂地を掃いているようだった。
前と変わらない姿勢で横たわっていたが、目を開き、意識ははっきりしていた。
ウィージーはレイディを見つめながら話しかけ、手を触れ続けていた。
レイディの唇は何度か動いたが、昨日の晩以来、これが初めて喋った言葉だった。
近くに寄った。「奇跡的だわ、生きてるね。どうしてかしら?」
「わから・・・ない」
話す言葉は戦っているようで、一言ずつが勝利宣言に聞こえた。
「そう、敵はネットのダウンに成功した、でもヌースフィアは強くなってるんじゃないかな、誰が考えるより強かったのよ」
「いいえ・・・違う」
「でもあなたが生きているのが証拠だわ」
「いいえ・・・違う」
「違うって、何が?」
 レイディは再び目を閉じた。ウィージーはレイディを揺すぶってやりたくなった・・・
もちろん優しくだけど・・・そして説明してと頼む、
だがレイディは再び眠りに落ち込んだようだ。
レイディは眠らない、と言っていた、だが眠りるふりをしているのか。息をしない振りなのか。
ウィージーはどうもこれに慣れることが出来ない。
 ウィージーは後ろに寄りかかった。いいえ・・・違う。何のことを言ってるのかしら?
ヌースフィアが支えきれなくなったの?どうして?
レイディはヌースフィアで作られており、人類の感覚の集合で投影されている。
ウィージーはホログラムの類として認識するようになった。
電源を失いホログラムのプロジェクターが損なわれたら、
明かりの源が枯渇しそれ以上の投影を維持できなくなれば、ホログラムは消滅する。
 ヌースフィアはこの一年で少なくとも二回の打撃を受けた。
フィントマンクカによる核爆発はノックアウトパンチの威力があった。
今回のインターネットがなかったとしたら。
ネットは、莫大な規模の知覚の相互作用を継続して注ぎ込み、ヌースフィアを膨らませ、
繰り返し加えられた攻撃のクッションになり、レイディの存在を支えてきた。
フィントマンクカはレイディをノックダウンさせたが、消滅はさせなかった。
レイディは再構築されたが、以前のような深さや幅を取り戻すには長い時間が必要だった。
復活にはインターネットの協力が必要だった。インターネットのダウンは危機警告だ。
死滅することはないだろうが・・・
人類の存在と相互作用がある限りそこにはヌースフィアがあるだろうから・・・
昨晩の様な事態が起これば、過去の水準にまで落ち込む、石器時代レベルだ、
その化身であり、ビーコンであるレイディを維持することはできない。
 レイディは消滅する。未だ頑張っているが。
レイディの存続は、この場所が感覚を持つ貴重なものであるとと言う証明でもあった・・・
同袍のコレクションとして価値があるタマであると言うことの、
だからこの場所を守り続けなくてはならないと言うことの。
 どうした訳か、全ての確率にも関わらず、
ラサロムとオーダーがインターネットダウンに成功してもレイディを倒すまでに至っていない。
 ウィージーはふらふらと居間まで歩いた。ジャックがいてくれたらよかった。
ヴェイユールがいてくれたらさらによかった。彼なら説明してくれたかも。
だがどこかへ行ったきり戻らない。上の階を見に行ったが、
ヴェイユールの妻の面倒を見ている看護婦は、何の連絡も来ていないと言う。
窓まで行くと明るい冬の空を見上げた。
「これからどうなるのかしら!」

ハンク・トンプスンはじっとしていられず,ロッジにあるオフィスを出ると
ドレクスラーの部屋に向かった。
途中ニヤニヤ笑いを浮かべたキッカーどもが通り過ぎた。
みんな自分達のリーダーがインターネットダウンの背後にいると思っており、聞きたがった。
「お見事です、ボス!」誰かが声をかけて来た。
「俺は何も知らない。クレイジーのムスリムがやった事だ」
「わかってまさあ、ボス」それから笑い声がした。
ノックせずにドレクスラーのオフィスに入った、
イライラした神経を逆なですることになるからだ。
「それで?」トンプスンは言った。「いつ始まるんだ?」
ドレクスラーはデスクの向こうに座り、両手の人差し指を突き立てて唇に当てていた。
ネクタイは曲がり珍しくダラシない格好をしている、一晩中眠らなかったかのような。
ハンクの方は、よく言う、赤子の様にグッスリ、眠った。
ドレクスラーは違うことを考えていたらしく、顔を上げる。と、ハンクに焦点を合わせた。
「何が?」ハンクの詰問を気にもしていないようだ。何を考えていた?
「変化だよ」ハンクは窓まで行って階下の交通渋滞を見下ろした。
「こいつを見ろよ。カオスだ!俺たちがクソったれたシティを固めたんだ。
俺たちは役割を果たした、今度はあんたのお友達がやってくれる」
 ドレクスラーは長いことかけてハンクをじっと見つめた。
「やってくれる?君は一者に向かって、やってくれと言うのかね?」
「そうだな、面と向かってじゃないが。でも、ネットはダウンした、
ってことは異界が帰って来るためのフィールドをクリアにしてくれるんだろうよ」
「レイディも同じくダウンして貰わないと」
「レイディ?レイディってのは誰だ?」
ドレクスラーは言ってはいけないことをうっかり言ってしまった子供のような顔をした。
「何でもない。物の例えだ」
「はあん?信用できるかよ?」
「君が信じるかどうかは関係ない」
「一者と変化の間に立ちはだかるのはインターネットだと言ったろう。
今度は何だかのレイディの話だ。何があるのかちゃんと知らせて貰いたいもんだな」
「物の例えだ。そう言う言い方があるだろう。
太ったレイディが歌うまでオペラは終わらない、まだまだこれからだ。
実際に太ったレイディがいるわけではない。言い回しだよ」
「くそくらえ」
「ミスター・トンプスン、今日のあなたはとりわけ苛だたしい。出て行って頂けますかな?」
ハンクはもっと突っ込んでやる誘惑に駆られたが、もう一度思い直した、
ここの建物を自分とキッカーはオーダーから使わせてもらっており、
ドレクスラーはオーダーの人間だ。そうだな、出ていくさ、だが一言、言ってってやる。
「そうさな。どのみち出ていくさ。
だがわかってるだろうが、お前の太ったレイディが歌おうが歌うまいが特に気にしてない。
俺たちはインターネットをやっつけた。
そいつがそんだけのことで、変化に結びつかないのなら、結構さ。俺もキッカーも十分だ」
最近この言い回しをよく使うし、気に入っている。
「これでみんなをもう一歩、異化に向かって進ませたんだからな。
あんまり相互連絡ばっかりとってちゃあ、ろくなことはないってのが、
どうしたってわかるだろう」
「出て行きたまえ」
ハンクは出て行った。しなくちゃならないこともあった。
インターネットのクラッシュを金にするプランが浮かばない。
変化、がすぐ後に迫ってると思われるのに、そいつも金にならなそうだ。
そういう事なら、キッカーどもを他に移動させて、次善の策を講じなければならない。
変化しようが、変化しまいが、どっちもなんらかのチャンスだ、
目の前を素通りさせるつもりはない。

 俺たちはインターネットをやっつけた、
何たるマヌケだ、トンプスンの後ろでドアがパタンと閉まるのを見ながら、エルンストは思った。
 全てが計画通り進んでいるにしても、インターネットは死んでいない。
殺すことができると思うほどのバカではない。
直すこと叶わぬ程のダメージを与える、そんな事は不可能だ。
一週間か二週間もすれば、限られた形ででも動き出す、
それからすぐにほとんど普通に機能し始めるだろう。
破壊され、意識をなくすだろうが死にはしない。
 頭の中で疑問が渦巻き、椅子を回すと窓の方に向いた。窓敷居に足を乗せ後ろに寄りかかる。
疲れ果てた。昨日は眠れなかったし、もう若くはないのだ。
望む効果を得るためには、どのくらいの間インターネットかダウンしていればよいのだろう?
一者は一体どのくらい変化の始まりを求めたろう?
インターネットが息を吹き返し、ヌースフィアに再び命を注ぎ、
レイディが復活するまでどのくらいかかるのか?それに意味があるのか?手遅れではないのか?
 一者だけが知っている。知っているのか?彼にとっても未知の分野だろう。
こんなに変化が差し迫った事はない。多分、一者もエルンストと同じくらい手探りなのだ。
 変化・・・
 不確実、自分の人生における新しい感覚だ、ウィルスを放つ命令を出して以来、
悩まされ続けて来た。自分の人生はこの瞬間を目指し来たのだ。
今目前にそれが迫ったのに、勝利感どころか、ただ落ち着かない。
好んででこの人生を選んだのを認めざるを得ない。力、地位、特権。
歴史を作る力に関与して来た。全てをこれに引き換えるために・・・何に?
 変化に?歴史を変更する力の一端を担った・・・実際は、歴史を、終わらせる、という事だ。
だがそれはどういう事なのだ?誰が・・・一者ですら・・・わかっているのか?
緊張感で死んでしまいそうだ。もしただの・・・
「お前はわしの期待を裏切った」
 エルンストは叫び声を上げ、椅子から飛び上がった。
くるりと回転し、デスクの向こうの端に一者が立っているのを見つけた、
表情は陰鬱で、両の瞳は怒りをたたえた黒檀の黒さ。
恐怖が深すぎて、エルンストの口の中で舌が上顎にへばりついしまった。
 やっと舌を引き剥がし、弱々しく言った。「期待を裏切った?」
「あの女が存在している」
言葉の最後はシューシュー言う音になり、デスクの上に覆いかぶさらんばかりだ。
エルンストは後退りしたい衝動を抑えた。
「しかしインターネットはダウンしました。成功したのです・・・」
一者の声は相変わらず低い。エルンストはむしろ絶叫して欲しかった。
「インターネットの終焉がゴールだと?違う。レイディの抹殺がゴールだ。まだ存在している。
然るにお前は期待を裏切ったのだ」
エルンストの心臓が跳ね上がった。
「私は自分の役割を果たしました。
インターネット入力を封じ込めれば、フィントマンクカがやった事を完遂すると合意した。
私は約束通りの事をしました」
「あの女はまだ持ち堪えている。
お前の立てた計画が実るのを待って何カ月も無駄にしろと言うのか。ダメだ。
無価値だったのが証明されたな。つまりお前も同様に無価値という訳だ」
心臓がひとつ打つ間、一者にヤられると思った・・・絞殺し、脊椎をポキリと折って、
窓から放り投げる・・・与えられるであろう苦行のパレードが心をよぎった。
 しかし一者はそうしなかった。
ただ底の見えない黒い眼差しで、永遠と思える間エルンストを見つめていた。
 突然、エルンストが驚愕した事に、一者は微笑んだ。
「運がいい、昨日ある、素晴らしい、事が起こっていなかったら、
この会合はもっと違う終わりを迎えただろう」
エルンストは何とか声を出した。「素晴らしい?」
「そうだ!」一者はウキウキし始めた、浮ついていると言ってもいい。
「疑ってはいたのだが、こんな事とは夢にも思わなかった!」
それから・・・笑い出した。
エルンストは一者が笑うのを見た事がない、笑えるとは想像もしていなかった。
「何が・・・?」
「お前には多分・・・わかるまいが、お前の失敗を補って余りあるのだ。
昨日私は、すーべーて、を変えるある事を知った」
また突然、一者の空気が暗くなった。
目が眩む早さでデスクをすり抜けると、エルンストの喉を掴み持ち上げながら指で絞り上げた。
「だがお前の惨めったらしい失策が薄れたわけではない。
お前がまだ価値があると証明されるかもしれん、さもなくば・・・」
最後の単語が二人の間を漂った。
エルンストは締め付ける指の間から何とか喋った。
「私は・・・捧げました・・・我が人生を・・・」
一者の締め付けがキツくなり、エルンストの言葉を遮った。
「ついにわし自身が行動を起こす。
お前とオーダーを補佐役として呼び出すやもしれんが、今はわしが好きなように動く、
わしの手を下す。自分で終わらせるとしよう」
言いながらエルンストをオフィスの向こうに放り投げた。
エルンストは後頭部を壁に打ち付け、脳みそを揺すぶられると、視界がぼやけた。
物がはっきり見えるようになった時、一者は消えていた。
 少なくとも生きている。しかし何があったのだ?
お前がまだ価値があると証明されるかもしれん・・・
かもしれん?どう言うことだ?私は、変化、の階段を登れないのか?
一般大衆と共に苦痛の中に残されるのか?
一者の戦術をガラリと変える、どんな「素晴らしい」出来事があったと言うのだ?

 空腹を満たし、適切なカフェイン基準までコーヒーを血管に流し込み、
ジャックはヴェイユールの玄関に十時前に到着した。
セントラルパークの南を斜めに横切り、ジーアの所から最短距離で来た。
信号は相変わらず壊れていたが、警官や見習い兵士どもが一インチ刻みで車を誘導していた。
やっぱり歩いた方が早い。
 ジーアがビシバシ朝食を整える間に、ジャックは暖炉に薪をたいた。
全員が二度と暖まれないと思っていたが、スクランブルド・エッグとコーヒーが・・・
ヴィッキーはホット・チョコレートだったが・・・素晴らしい効果をあげた。
 シャワーを浴びると言うか、昼寝のために、レディ二人を置いてきた。
昨晩の有様では眠ったとは言えない。
ジャックも一眠りといきたかったが、大事な事を確かめなければ・・・レイディの事だ。
ジャックのもジーアのも携帯は役たたず、去年の事故の後、ジーアは固定電話を断ってしまった。いろいろ聞いたところによれば、固定電話も機能していない。
残る解決方法は歩いて行って調べるしかない。
 ドアマンは今や顔馴染みでジャックを中に招き入れた。
エレベーターに乗って、最上階の一階下、レイディのドアの前に出た。
ノックしようとして躊躇った。
 考え込んだ。ウィージーは一人きりでレイディの死と対面したのだ。
ウィージーに押し付けた罪悪感があったが、ヴェイユールは何かミッションがあって出かけたし、
ジャックも選択の余地がなかった・・・ウィージーの事は、失った姉と同じように愛しているが、
ジーアとヴィッキーに優先順位がある、ラガーディア空港にどうしても行きたかったのだ。
 ジャックは向き合わなければならない。
レイディは逝ってしまった。だがどんな風に終末を迎えたのか?
ウィージーには気の毒だった・・・
 ノックした。たちまちドアが開いて、ウィージーがジャックを見つめていた、
一瞬なんとも言い難い顔つきをした。
それから目を閉じ唇を震わせると、ジャックの腕に飛び込んで、すすり泣いた。
ジャックは涙ごとウィージーを抱きしめた。
「悪かった、君はひとりで・・・」
「レイディは生きてるわ!」そう言うとジャックから離れて涙を拭いた。
「なんだって?」
「何と言うか・・・生き残ったの」
「会わせてくれ」ウィージーはアパートメントの後ろのベッドルームにジャックを連れて行った。ブラインドの隙間から陽の光が差し込んでいる。鈍い光の中でベットの上に横たわる姿を認めた。ジャックは近寄って、レイディだとわかった。
「同じ姿に見える」ジャックが囁いた。
「一緒にいてくれてたらよかった。レイディは一瞬、透明になったの。
思ったわ・・・この人を失おうとしてるんだって、でも・・・」
ジャックはある事に気が付いて動揺した。「息をしてないぞ」
「レイディは息をしないのよ。リアルな人間ではないから、肉体もリアルな人間じゃないの」
 もちろんだ、考えてみれば当然だが、今まで考えた事がなかった。
「だが・・・」
 居間から音がしてジャックは口を閉じた。ドアが開く音だ。
二人で見に行くと、部屋の真ん中にヴェイユールがいた。
「本当か?」ヴェイユールが言った。「レイディは生き残ったのか?」
ウィージーは頷いた。「ええ。どうしてわかったの?」
「いなくなればわかるだろう。
ノース・キャロライナからの帰り道、いなくなるのを覚悟しながら来たが、
気配は消えなかった。薄れて行ったので、いよいよかと思ったが、彼女は戻って来た」
ジャックが言った。「でもどうやったんだ?」
「わかると思う、ただ・・・」
ヴェイユールは振り返ると大きなテーブルの上に拳を叩きつけた。部屋が振動した。
「つまり、私は大馬鹿だったと言う事だ!」
ウィージーは一歩踏み出した。「どう言う事?」
「ラサロム・・・彼が知っている」
「その名前を口にしないようにしたと思ったけど」
ヴェイユールは苦悩に満ちた目をして二人の方に向いた。
「もう言いたいだけ言ってくれ。意味がないのだ。
ノース・キャロライナであいつは私を見つけた。私を見たのだ。私が老いぼれて力のない事を。
あいつは知ったのだ!」


「長い話だ」ヴェイユールは言った。「長すぎてすぐには話しきれない」
三人は大テーブルの席に着いた。レイディの不在が目立つ。
ジャックはさっきの話のショックから立ち直ったが、怒りが収まらなかった。
言わんこっちゃない、と言うのを我慢していた。
「わかった。いつだ?あいつはどのくらい前から知ってるんだ?」
「昨日の朝からだ。君は危険過ぎると言ったね、耳を傾けるべきだった。
行くべきではなかった。我々三人は約二十四時間前に車でここに帰って来て、ずっと・・・」
「三人?」ジャックが言った。「四人で行ったのかと思ってたが」
ヴェイユールは首を振った。「一人は帰れなかった」
「あいつの母親か?」
「いや、彼女は・・・」また首を振った。「ラサロム・・・」
ウィージーが言った。
「あなたの事がわかったとしても、名前を呼び続けたら見つかって・・・?」
「私を殺すと?昨日その機会は十分にあったが、やりはしなかった。
やれば同袍に警告の狼煙が上がる。それに、彼は私に全てが崩壊する様を見せたいのだ、
私に引導を渡す前に、変化を見せつけたいのだよ」
「そう、今はあいつの名前を口にしていいなら、あなたの名前だっていけない筈ないわね・・・
グレーケン?」
「ああ」ジャックが言った。「腹を割って話そう」
「大変結構」その表情は相変わらず気遣わしげだ。「グレーケンと呼びたまえ」
「オーケー、グレーケン」ジャックが言った。
「おれたちが予想していたのと、ラサロムの戦略は何が変わった?
まだ変化に着手は出来ない・・・レイディがまだ存在するのだから。
おれたちを、感性が聞き取れる現実の存在として認識している限り、
同袍は異界に譲渡したりはしない。だから、今までにやれなかった、何をする気だろう?」
「さらに大胆にアグレッシブになる。私が前に立ちふさがり、罠を仕掛けると言う心配は、
もうしなくていい。おおっぴらにレイディを抹殺できると言うものだ」
「でもあいつはレイディを傷つける事はできないわ」ウィージーが言った。
「あいつは地球のものだし、地球上の如何なるものもレイディを傷つけることは
出来ないでしょう。また別のフィントマンクカでも持ってこないと、それは望み薄だわ」
グレーケンは首を振った。「それ程の確信は持てない。彼は狡猾で臨機応変だ。
レイディは二度倒された。三度目についてレイディが語ったのを覚えているだろう」
ウィージーは頷いた。「三度目にはラサロムが勝つ」
「レイディの話をしてくれ」ジャックが言った。
「どうしてまだおれたちのそばにいるのか、説明できると言ったろう。教えて欲しい」
「そうよ」後ろから弱々しい声がした。「私にも同じように答えを教えて欲しいわ」
ジャックが振り向くと、レイディがホールに入口のアーチに寄りかかっていた。
立ち上がると、レイディが席に着くのを手伝った。
「起きていいの?」ウィージーがそわそわとそばに寄ってきた。
レイディはがっくりとテーブルに突っ伏した。「あなたたちのそばにいないと」
グレーケンを見た。「小耳に挟んだけど、ラサロムは知ってるのね?」
グレーケンは頷いた。「恐らくは」
「私がなぜここにいるか言ってみて」
「その前に一つ聞かせてくれ。君はまだヌースフィアとつながってるのか?」
レイディは頷いた。「まだつながってるわ。
私はまだその化身であり、ビーコンでもあるけれど、支えてはもらえない。
出来なくなったの。弱すぎてね。ここにいる筈無いのにまだいる。どうして?」
「それは君が消えるのを拒んだからだ」
ジャックは、レイディがショックを受けたのを感じた。「拒む?拒む事は出来ないわ」
「最後まで聞いてくれ。フィントマンクカが君にとどめを刺さなかった時から疑問に思っていた。ほんの一瞬だが君の存在が消えたね」
「二回目の死だわ」
「そうだ、しかし復活した時・・・大人だった。
傷つき、弱まったヌースフィアが君を復活させれば、大人の姿でいられる筈がない。
子供の姿で復活する、違うかな?」
レイディは戸惑った顔をした。「そう・・・そうよ、そうだと思います」
ジャックは同意できなかった。「ピンと来ないな」
グレーケンをじっと見つめながらレイディは言った。
「ヌースフィアの力の作用で、様々の年齢、時代の姿に変わる事が私の能力です。
ヌースフィアはフィントマンクカによって殺された。その代わりのインターネットのおかげで、
脆弱ながらも生き残り、少女としての姿しか出来なかった、初期の力のレベルに投げ出される。
姿を変える力はもはや失われている」
ジャックは言った。「どうして少女の姿で戻って来なかったんだ?」
レイディは、不思議、と言う顔つきになった。
「フィントマンクカに襲われた時の姿で復活したわ。
この姿で固まって、他の姿になる事は出来ない。
そうして今は、まだヌースフィアとつながっているにも関わらず、
ヌースフィアから独立しているのはエキサイティングだわ。これはどう言うこと?」
「それは我が友よ、君は人格を持ち始めたからだ」
ウィージーは否定する風に首を振った。「いいえ、そんな事は・・・」
「あり得ない?わたしが、人間、と言わず、人格、と言ったのに気がついたかな、
ふたつは違うのだ。レイディは長い間感性を共有し続けてきたので、もはやただの映像ではなく、
自分自身を開発したのだ・・・この世界とそこに住む人間に現実に関わる一つの存在に。
それが消えるのを拒んだのだ」
レイディは混乱しているようだ。
「でもヌースフィアが供給されないのに、なぜ私は存在しているの?」
ウィージーがハッとして言った。
「私達を通してね!あなたは人間性自体を共有するようになったのね・・・直接に」
ジャックは恐ろしい事に思い当たった。
「待てよ。となると、ラサロムは彼女を傷つけられるようになったんじゃないか?」
テーブルが沈黙に包まれた・・・
レイディがジャックに手を差し出した。「あなたのナイフを貸してくれる?」
ジャックはエンドーラ・ナイフを出すと刃を開き、ゆっくりテーブルの上に押し出した。
レイディはナイフを取り上げ、暫し刃を見つめ、もう片方の手に突き刺した。
ジャックは何をするつもりかわかっていたが、やはりたじろいだ。
ウィージーもこのデモンストレーションを見た事があるとは言え、
叫び声を上げずにはいられなかった。
 全員が刃を引き抜くレイディを見守った。
金属に血はついていなかった、以前同様傷口は瞬く間にふさがった。
ジャックは止めていた息を吐いた。
「オーケー。少なくともラサロムが傷つけられない事はわかったな」
グレーケンが指を一本立てた。
「知っている事が全てではない、彼は多才だ。何かを見つけ出すかもしれない。
レイディの三度目の死を何が何でも探し出すだろう。
だから、我々の最優先事項はレイディを守る事だ」
ジャックは拳を握りしめた。「また防御か。いつも防御するばかりだ」
グレーケンは頷いた。
「そうだよ。全ての労力をあげてレイディを守るのだ。
だが例の最新の事実のおかげで戦略を変える事が出来るようになった」
その声の中に何かがあった・・・ジャックは身を乗り出した。
「何を考えてる?」
グレーケンは青い目でじっとジャックを見つめた。
「君を約束から解放してあげよう、ジャック。
わかってるだろうが、君を引き止めていたただ一つの理由は、私がこんな状態だと
ラサロムに知られる恐れがあるからだった。バカな年寄りの言うことを聞いてくれてありがとう、今や彼は知っている。もはや制限する必要はない。あいつを追ってくれ、ジャック。
見つけ出し、もし出来るなら抹殺してくれ」
ジャックは独房から解放された感じがした。
「解禁か?何でも出来るんだな?」
「何でも。何でも、やりたいこと全てだ。彼は死すべきものだ、
しかし、今や人間以上の何者かになった、殺すことは非常に困難だろう。
先に決定的な第一撃を与えねばならない。後手に回ってはならない」
ウィージーの顔色が変わった。
「よく考えて、ジャック。あいつは危険で、大変な力を持ってるのよ」
ジャックも知っていた。経験済みだ。だから慌てて引き受けようとはしなかったのだ。
そうだ、遂に行動に移るのを許可された、慎重に塾考しなければ。
行動を起こすにあたって、それが肝心だ。
「だから君の助けがいるな」ジャックはウィージーに言った。
「引き続き大綱の方は頼む。おれたちが使えそうな、
あいつの弱点や攻撃ポイントを見つけてくれるといいな」
ウィージーはグレーケンを見つめた。「他に誰かいないの?」
「君も知ってるだろう。彼は不可思議にもはまってしまったのだよ。
怪しんではいなかったかな、彼の人生は、この瞬間、この対決に向かって
突き進んでいたのではないかと」
ウィージーはジャックの方に向いた。
「まずはあいつを見つけることね。
もう、ミスター・オサラと名乗ったりはしていないでしょうから」

                                

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