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ねこると創作クラブコミュの第六回ねこると短編小説大賞応募作品No.3『オイシイモノ』

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「好奇心は猫をも殺す……と言う言葉を辞書で調べるくらいにはどうも暇らしい」
 一言ポツリとため息と共に漏らすと、辞書をテーブルの上に置くと、その傍らに置かれたベリーティを手に取る。
 周辺には甘酸っぱい心地のよいフワフワとした香り。
 しかし昼間だというのにカーテンはきつく閉められ、薄暗いライトが部屋を照らしている。
「まぁうちの猫は好奇心なんて持ち合わせてはいないから、万が一にも殺されることはないだろうけどね」
 隣で寝ている黒猫にちらりと目をやり、手にしていた紅茶を口に含んだ。淹れたての熱々ではない、彼好みの少し冷めた熱さ……いやぬるめの紅茶。
 男の言葉に猫はなんの反応もすることはな……い、なぁんてことはもちろんなく――物語のお約束通り、黄金に輝く瞳だけを鋭く男に見せると、
「好奇心から死ねないようになったやつには言われたくはないね」
 と呟き、再び顔を体にうずめた。
 隣にいるのはしゃべるぬいぐるみではない。もちろん成功にできたマシーンでもない。正真正銘の黒猫、だ。猫又でもないので尻尾は一本。黒猫が言葉を口にして語りかけたのだ。
「それに付き合ってくれたアイシスには感謝しているよ」
 男は人間と同等に喋るように、アイシスと呼ばれた黒猫を何回か撫でる。
 アイシスは心地良いのか小さくにゃあっと声を漏らし、ムクリを起き上がり香箱座りをした。
「まぁ、あんた一人を『魂喰い』して最後の最後まで生かしておくのは、この世の中のためにならないと思ったんでね」
 不意の感謝にアイシスは少し伏し目がちながら言葉を漏らした。
 彼女――アイシスの言葉に苦笑を漏らし、冷めかけた紅茶を口に含み、テーブルの上に置いてある一口サイズのマーブルクッキーを放り込んだ。
 そんな男を横目にしながら起き上がり、向かいのソファーに座り直すと、
「しかし、あんたってやつは変わったやつだよ。確かに魂喰いになれば不老不死にはなれる。でも魂が美味いかどうかは人次第だし、不味かったら最悪じゃあないか?」
 アイシスが一言言葉を話す度に、ぐさりと矢に刺さったかの様に男は心臓のあたりのシャツを強く握りしめていった。しかしアイシスの口は止まらない。
「食わなけりゃ生きていけない、食わなければ錯乱してしまう。こんな馬鹿なものになりたがる奴なんてお前くらいだよ」
 容赦なくビシッと言い放つ。
 男はうつむき加減で冷めた紅茶を見つめる。――が、特別傷ついた表情は見せてはいない。それどころか少し顔が緩んでいる。小さく息を吐き。少し口角を上げると、
「アイシス、少し違うよ。不老にはなれるけど不死にはなれない。そもそも魂喰いって言葉がおかし……」
「はいはい。魂喰いだって決して死なないわけじゃあないな。不慮の事故があれば死んでしまうかもしれない。そもそも魂喰いって言ったって人の寿命を少し食べてるだけ……って毎度おなじみのセリフを吐きたいんだろうっ!!」
 呆れた表情でアイシスは彼を見つめる。
 一方言われたいことをすべて猫に言われてしまった男は、右手人差し指で頬を掻きながらにへらとした気の許した表情を見せた。
 その顔にアイシスは心底しまったっ! という表情をした後、大きくため息を付いた。尻尾もダランと垂れ下がっている。男が言ってほしかった言葉を毎度変わらずツッコミのように言ってしまったのだ。
「さすが僕の相棒アイシスだ。僕の考えてることがまるわかりだね」
「そりゃあこんだけ毎回これだけ同じことを繰り返していれば、猫だって同じ言葉を返すさ。……あぁ……わたしも分かっているのに、どうして毎回言葉を遮って言ってしまうんだろう」
 頭を抱える仕草を見せ、アイシスはぶつぶつと言葉を漏らした。
 言われたい放題の男だが気にする様子もなく紅茶を手にしたまま立ち上がると、閉じられたカーテンを勢い良く開け、そのまま窓を開け放つ。薄暗いライトが居場所を失ったかのように照らし続ける。
 心地の良い初夏の爽やかな風が吹き込み、部屋中を満たす。
 男はそのまま出窓に腰掛けてアイシスを呼ぶ。
 ジロリと男を睨むが、アイシスとて猫。機嫌も別に悪くはない。ソファーからぴょんっと飛び降りて男の元により、膝の上に飛び上がると丸まるように寝転ぶ。
「僕は別に人の寿命が美味しいとかまずいとかどうでもいいんだ」
 そう言葉を漏らしながら窓の外をジッと見つめた。外には母娘で歩いている二人組。バケットを紙袋に入れて談笑している、ゆるい三つ編みをの少女に焦点を合わす。
 言葉には出さずに口だけで『ごちそうさま』と動かす。
 アイシス自身も今の瞬間に男が何をしたかを理解したが、別段何をするわけでもなくそのまま男の言葉に耳を傾けている。
「悪人だから美味しい、善人だからマズイってわけでもないしね。いつも言ってるだろう、僕は好奇心がいっぱいなんだ。誰もしたことのないこと、今の時代の人間が見れないものを見たいだけ。だから魂喰いになった。そういう男なんだ」
「何日?」
 男の言葉――いつもと変わらない話だが――を無視するかのようにアイシスがボソリと言葉を漏らす。
「一日。だってもう僕はこの先、自分の何百年も先の寿命を頂いてきたんだから」
 まるで今日の天気の話すかのように男は言葉を紡いで、手にしていたベリーティーを口に運ぶ。会話に夢中になりすぎてすっかり冷めてしまっていたが、男はクイッっと一飲みでカップの中を空にした。
「でもわがままなことだけど長生きも結構暇だなぁ……まぁ、とりあえず新しいお茶でも飲もうかな」

コメント(2)

<投稿者の真生みゅうさんによるあとがきがあります>
 創作自体が久しぶり過ぎて……自分の書きたいことが全然書けなくて、締め切りの最後の最後まで書いてた割には内容が薄い(=o=;)
 本当は魂喰いになりたい女の子の話になるはずだったのに、よくわかんない男とツンデレな喋る猫の日常になっちゃいました……うん、書ききれないと思ったからですがね。
 ファンタジー系日常が大好物なので、まぁ……これはこれでヨシとしておきます←


 妄想だけは得意なんだけどなぁ……な、真生みゅうでした!
<読んだ人の感想>
・のんべんだらりとした平和な雰囲気がいいなあ。
ほぼ会話劇で、短いながらもあらすじが想像できる。ヒマヒマながらも小さな出来事がひとつあっても面白かったかもと。

・人は時として永遠の命に憧れ、またその存在に恐怖する。作中世界で「魂喰い」がどのくらい認知されているかは判らないが、俺がもし伝説の魂喰いに会いに行って出てきた奴らがこの一人と一匹だったら腰が砕ける←
 好奇心が猫をも殺すなら、暇は神をも殺す無味無臭の毒薬。あるいは彼らのようなユルい奴らこそ、永遠を生きるにふさわしい存在なのかもしれない。

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