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三題噺で小説コミュの『箱根・使徒・紀尾井町』

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こちらは短編集を載せる所ですね。
あとがき含む評価は別に設けてあるのでご注意を…ここには小説や詩だけを載せるようにしてくださいな( ̄∀ ̄)

コメント(4)

『箱根・使徒・紀尾井町』

「なあ!『エヴァンゲリオン』って知ってるか?」
 朝、学校へ来るなり友人の一人が僕にそんな事を言い出した。
 普通、朝会ったら「おはよう」とか「よう」とか、形式だけでも挨拶をするのが普通じゃないだろうか?
―――まあ、そんな事この破天荒な友人に言っても無駄だろうが…。
 相も変わらず人の話を全く聞かず、その『エヴァンゲリオン』というアニメの話を夢中になって話す。それを嘆息しながら話を聞き流す僕は、とりあえず鞄を机に置き、イスに座る。
「でな!ここの話で主人公のシンジに新東京市を見せるんだけど、実はここは『箱根』でさ!実際の箱根にはそれを宣伝的に広告してんだぜ!!」
 酷く興奮した様子で『エヴァンゲリオン』のDVDを見せながら、僕に一つ一つ説明を行う友人。それをいつものごとく相槌をうちながら聞き流す僕。
 一見冷たいように見えるが、これはこれでちゃんとした友人関係が成り立っているので良しとしてほしい。彼は話し出したら止まらないのだ…仕方なかろう。
 すると、また新たな獲物(?)を見つけたのか、「なあなあ!」とか言いながら僕の席を離れ、犠牲となる女子に向かう僕の友人。
 犠牲となった彼女が恨むような目線を僕に向けるが、そんな事は知った事じゃない。勝手に離れたのは彼だし、僕が仕向けた訳じゃない。
……指を彼女に指して、「彼女はとても詳しいよ」とは言ったが…。
 やがて、チャイムが鳴り、先生が「席につけ〜」とか言いながら、慌ただしい教室を諌める。
 先生が出席を取っている中、僕は先ほど彼が言っていた『エヴァンゲリオン』というアニメを思い出していた。
―――僕もあれは小学校の頃に見た事がある。
 良くは覚えていないが、確かシンジという少年が『エヴァンゲリオン』というロボット(?)に乗って、使徒と呼ばれる人類の敵と戦うものだったはず…。
 神話のような物語だったり、アニメにしてはシリアスで重い話が印象に残っている。
 その中でも気弱なシンジが一生懸命抗う姿は、見ていて共感するようなものだった気がする。結局、最終回が「アレ」だったので、当時小学生だった自分にはポカンという内容だったが…。
―――内容が知りたい人はTSUTAYAでも、どこでも行って借りてくればいい。
 まあ、とにかく小学生だった僕にはあまりにも重い話であり、とても印象的に残っている物では無い。凄惨な戦いのシーンは何となく覚えているが…
『箱根・使徒・紀尾井町』?

「………思い出したら、気分悪くなった」
 確か、戦闘シーンの中にエヴァが使徒を喰らうシーンがあったような…あれを見ていた時、アメリカンドックを食べていた僕は、あれ以来アメリカンドックが食えなくなった。
―――おのれ…『エヴァンゲリオン』。
「……箱根…か…」
 僕は先ほど友人が言っていた言葉を思い出す。
―――実はここは『箱根』でさ!実際の箱根にはそれを宣伝的に広告してんだぜ!!
 箱根…温泉が有名だったかな…うん、それもいいかもしれない。

「な〜にが『箱根…か…』だっ!!」
 ゴスッ!という軽快な音を立てて、僕の脳天に拳骨を食らわしたのは、先ほど犠牲になった彼女だ。彼女は殺気立った表情で僕を見下ろしている。
 どうやらいつの間にか、HRが終わっていたらしい。
……うん…死んだな。
「よくも生贄にしてくれたわね…覚悟はあるんでしょう?」
 彼女はボキボキと拳を鳴らしながら僕を見下ろす。
 完全な不可抗力であり、ただの八つ当たりじゃないかとも思ったが、今の彼女に逆らうのは得策ではない。下手したら明日の朝日は眺められずに終わるかもしれない。
「……あのさ、すんごく失礼な事考えてない?」
…………。
「何故、黙るのかなぁ〜〜?」
 彼女が素晴らしい笑顔で僕に詰め寄る。確かに笑顔なのだが、目が笑っていない。
 これはまずい…何とか言い訳を考えよう。
 でなければ、この悪魔のような暴力最強女に何を―――
「くたばれっ!!!!この腹黒ボケ魔人ーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
 グギッ!!という妙な音がしたと共に、僕は意識を失った。
 何となく首の後ろ側に痛みがあるので、そこいらにチョップでも喰らったのだろう。あまりにも酷い…僕が何をしたというのか…。
…………したような気もするが…。

 その日、紀尾井町にある僕の高校新聞に『高校生男児、謎の意識不明!』というテロップが流れるのは別の話…。
『箱根・使徒・紀尾井町』?

「あ…あのさ!その…な、なんで箱根?」
 学校の休みの日。僕は彼女を誘って旅行に行く事にした。ちなみに他にも来る奴は数人いるぞ。
 彼女は妙にもじもじとしながら僕に尋ねる。何かを言いたがっているようだが…はて、何を言いたいのだろうか?
「いや…ほら、箱根って温泉があるし…あいつが言ってたエヴァの何とかも見たいから」
「……ほほう…なるほどなるほど…私はアンタの趣味付き合いですか?」
 僕の言った事に彼女は青筋を浮かべながらこちらを睨みつける。
……僕は失礼な事を言っただろうか?
 これでは昨日の二の舞になる…あれだけはご免こうむりたい。
「……えと……ほら、傷にもいいって聞くし…温泉」
「へ〜〜…私がやった事、まだ気にしてるんだ…自業自得のくせにねぇ…」
 彼女は何故か更に怒りが増したように青筋を浮かべ、拳をボキリと鳴らす。
 いやいや!確かに首の痛みはまだありますが、それじゃなくて…何と言えばいいのだろうか。このままではとんでもない事に…!
 だが…本当の事など、言える訳が無い!
 僕はちらりと彼女の足を見る。そこには痛々しい包帯が少し巻かれている。
―――それは…彼女が部活で付けてしまった傷。
 練習中に捻っただけで大した事は無いと言っていたが、時々痛そうにしているのを僕は知っている。それを何とかしたいとは思っていたが…生憎、僕に医療の心得は無い。
 そんな時、安易だが…温泉は傷や疲れに良いと聞いた。
 たまたまあいつが言っていた『箱根』という単語が、それを思い出させてくれたのだ。
 これならば…と、思ったが…そんな事、あまりにも恥ずかしくて言える訳が無い。部活仲間とはいえ、付き合っている訳でもないのだから…。

「……はぁ…もういいわ。早く行こう!」
「へ…?うん…」
 彼女は何故か拳を納め、急に機嫌を直したように僕の手を引きながら、活き活きと先を歩き始める。その顔は長い髪で隠れて分からないが…なんか嬉しそうだ。
…………はて?何が彼女の機嫌を良くしたのだろうか?
 呆れた…という訳では無いようだし、なんか何処か嬉しそうだ。
 困惑している僕に、彼女は振り向きながら極上の笑顔を見せてくれた。少し、意地の悪い笑みも含みながら…それでも頬を染めて。

「顔に出てるのよっ!!このばーか!!」
『箱根・使徒・紀尾井町』終

 誉められて…いるの…か?
 何にしても、僕が見たかった彼女の笑顔を見れただけでも良しとしよう。
 それと…こんなきっかけを与えてくれた友人にも何かお返しするべきだろうか。まあ、彼はそんな事をされても困惑するだけだろうが…彼女がくれた笑顔に比べれば大した事は無い。
―――そうだな。あいつには『使徒』の玩具か何かを買ってやるか…あいつにピッタリだ。
 そうすれば、僕が何の目的で彼女を箱根に連れ出したのかも誤魔化せるし、あいつにもある意味での恩返しが出来るだろう。
 まあ…何にしても、今はこの楽しい時間を…楽しまなくては…ね。

 僕と彼女は手を繋ながら、紀尾井町の並木通りを歩く。
 奇しくも今日は桜日和。
 快晴の青空とヒラヒラと舞う桜の花びらが、僕の気分を暖かい気持ちにさせてくれる。こんな春の暖かさを…彼女も感じてくれていればいいな…と、思う僕だった。

 彼女の耳が真っ赤なのは…何でか分からないままだけど…。

―――そんな…春の一コマ。

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