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『心の中の大切な日記』-完結-コミュの第3章/過去の傷

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コミュ内全体

あれから数週間が経過した。

今日は日曜日。

彼女とおばさんの家で
昼食を食べる約束をしている。

駅に着くといつも通り
駐輪場の端に自転車が置いてあり
彼女の家まで走らせた。

家に着きチャイムを
何度も押してたが彼女は出てこない。

『ゆり・・・いないのか。。』

俺は少し大きな声で呼んだ。

すると彼女のお父さんが出てきた。

お父さんとは初対面だ。

おとなしそうな小柄なお父さんだ。

『ゆりはもう秋野さんの家に行ったよ。』

『あぁ、そうですか。
 はじめまして木下健介と・・・
 いいます・・
 ゆりさんとお付き合いさせてもらっています。』

『ああ、そうなんだ。。
 全然、知らなくて・・。よろしく…
 最近、あんまり娘と話さないからな…』


二人はぎこちない様子だ。


『あぁ、木下君…
 まぁ、家にあがってって…』

『はい』

二人は台所の椅子に座った。


・・・少し無言の気まずい時間が続いた。


しばらくしてお父さんが話し掛けた。


『木下君、ゆりのこと頼むな…』

『はっ、はい・・』


二人はまた無言になった。


『木下君・・・・・』

『はい・・・』

『あのッ・・・・』


お父さんは静かに話し掛けた。


『ゆりと小学校の時…
 町内会で川へバーベキューをしに行ったんだ。
 あいつ・・前の晩・・ 
 いろいろ準備して楽しそうだった。。
 あのゆりの楽しそうな顔が忘れられない…
 あれから親子の時間は止まってる。。』



お父さんは再び黙り
この日の出来事を静かに伝えた。


ーーーお父さんの話はこういった内容だった。ーー


小学3年の時に町内で川原に行き
バーベキューをして楽しい時間だった。

食後に子供達が川辺で遊んでいた。


しばらくして大声がした。


香織さんが川に落ちたのだ。


川に落ちたボールを香織さんが取ろうとして
急流に巻き込まれたらしい。

大声をあげ助けを求める子供達。

近くにいた香織さんのお父さんが顔色を変えて
川に飛び込み必死に香織さんを抱きかかえた。

川辺で戸惑う人たち。

お父さんは川の真ん中にある石に
香織さんを必死に乗せて力尽き流された。

香織さんの意識はなかった。

なぜこうなったんだと戸惑い集まる人達。


『ゆりが香織のボールを川に投げたから・・・』


一人の子がつぶやいた。


ゆりは何かを言おうとした。

『私、私・・・』 


そこでゆりのお母さんが急にビンタをした。

『何でこんなことをしたの!!』

そして皆に土下座した。

『娘のせいで・・・娘の・・・すいません・・』

お父さんは呆然として何も言えなかった様子だ。


ゆりはうつむき泣いていた。


鳴り響く救急車と消防車のサイレン音。


皆の視線は冷たい。


その後、香織さんは病院で意識を取り戻した。

悲しいことにお父さんの遺体も確認された。

ゆりの家族はおばさんと香織さんに
何度も謝った。

おばさんは無言で
何も言わず何も怒らなかった様子だ。

その後、ゆりも香織さんも学校へ行った。

時が経過しても香織さんはゆりを無視し続けた。

いつも仲のよかった二人。

学校では先生に隠れての
『殺し屋』といじめられる日々。

お父さんは何度も学校に伝えに行ったが
ゆりには学校に行かないでと止められた。


ゆりは毎日、学校へ行った。


近所の目線も冷たくお母さんは離婚し
家を出て行った。

ゆりにとって二度目のお母さんだった。

それ以来、引越しせず
二人でここに住んでいるということだ。

ゆりはお父さんとそれ以来
あまり口を利かないみたいだ。

『ゆりのこと頼むな。。
 最近、あいつ、俺には喋らないけど
 すごくいい表情してるんだ。。
 そんな表情をみてると俺も嬉しい。。』

お父さんは涙ぐみ俺の目をじっとみつめた。

俺もお父さんの目をじっとみつめた。

『もちろんです!!
 俺もゆりさんと知り合い
 毎日がいきいきしてます。
 過去は過去です。
 今の僕にとってゆりさんの過去は
 僕の過去と同じです。
 ゆりさんがそのことに傷いているなら
 僕も同じように心が痛いです。』

『そうか。。。』
お父さんは静かに呟いた。


お父さんの話は続いた。


その日から香織さんはゆりと3年間話さず
無視してゆりへのいじめにも加わった。

ゆりはずっといじめられた。

毎日、家で泣いていた様子だ。

ゆりは毎日、香織さんの家に手紙を届けた。


どんな日も・・・毎日、毎日届けた。


お父さんはその後ろ姿が忘れられない。


小学6年の卒業式の数日前
おばさんが香織さんを
玄関に無理やり連れ出した様子だ。

そのことをきっかけに二人は
いろいろ話をしたらしい。

香織さんとゆりの間にどんな会話が
あったのかはお父さんは知らない。

それからゆりは毎日のように
香織さんの家に遊びに行くようになった。

それ以後、香織さんも
ゆりのいじめに加わらなかった。

二人はゆっくりゆっくり時間をかけ
以前のように仲良くなったとのことだ。


俺の目にもいつの間にか涙が溢れていた。


『今日の話は僕の心の中へ入れておきます。
 お父さん、僕に伝えたこと 
 ゆりさんには言わないで下さい。
 ゆりさんから聞ける日が来るかもしれません。
 だから僕は心の中へ入れておきます。』



『そうか。わかった!!ありがとう。。』



俺はお父さんと約束し
おばさんの家に走った。

        
『こんにちは!!』


俺は元気いっぱい玄関で声を上げた。


『遅かったねー!心配してたんだ。。』

『ごめん。ごめん。寝坊して・・・。』

『健ちゃん。よく来てくれたねぇ。
 ありがとう。。』

二人はニコニコと出迎えてくれた。

昼食を食べ、いろんな話に盛り上がった。

ゆりとおばさんの顔を見ていると
お父さんの話を信じることができなかった。

ゆりの笑顔。
おばさんの笑顔。
過去にいろいろとあった二人。


二人の微笑みを見て
『今』という時間の大切さを心から感じた。


そして二人の笑顔をいつまでも守りたいと
心の中でそっと誓っている自分がいた。


第4章 ふたりの楽譜へ
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