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『心の中の大切な日記』-完結-コミュの第7章/からまわりの時間

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コミュ内全体

香織さんにとって最期の日記

そこには心の奥底に眠っていた
寂しい気持ちが綴られていた。


ゆりはうつむきながら静かに言った。 


『香織・・
 私と純也が付きあってると
 誤解していた…』


『・・・私と純也が公園で
 話していたのを見てた・・・』

『でも・・・あれは・・・
 ゆりが香織さんのために
 伝えに行ったことなんだろ・・・ 
 ゆりは何にも悪くない!!』

『健ちゃん・・・香織・・
 電車で泣いてたって言ってたよね。。
 勘違いさせた私が悪い・・・
 香織・・辛かったにちがいない・・・』

『ゆり・・・ゆりッ。。
 お前が自分を責めることはない!!』

『私・・・私・・・最低・・・・』

ゆりはそういうと同時に
急いで階段を降り、家を出て行った。

俺はスケジュール帳を
握り締めたまま必死に追いかけた。


ゆりは公園まで走り
息を切らせて立ち止まった。

『ゆり・・・ゆりッ!!』


ゆりの顔は涙で濡れていた。


『私、私・・・最悪!!!
 香織をまた悲しませた。
 小学校の時も香織を苦しませた。
 あの時、ボールを投げなかったら
 おじさんも死ななかった…
 ずっとずっと苦しませてた。
 私は香織の大切な気持ちを奪った・・・。』

ゆりは涙を流しながら大きな声で俺に叫んだ。


『ゆり・・・それは違う。
 ゆりは香織さんを守った!!
 いじめられている香織さんを守っていた!
 何にも奪ってない。。
 おじさんもそう思ってるはず!!
 おじさんも香織さんを守る気持ちで
 川に飛び込んだ。。
 溺れている香織さんを黙って
 見てることができないから
 川に飛び込んだんだ。。
 ゆりも同じだろッ。。
 香織さんと友達だから守ったんだろ。
 だから・・・だから・・・
 ゆりは何も悪くない!!』

『健ちゃん・・・・。
 でも今は健ちゃんと一緒にいるのがつらい。
 健ちゃんと私の出会いも
 もともとは香織がきっかけだった・・・・。
 今は・・・今は・・・つらい。。』


そう言って
ゆりは走って行った。


空は夕焼け一面に覆われ
カラスが寂しげに鳴いていた。

俺はスケジュール帳を
もう一度読んだ。


「ゆりはまた私の大好きな人を奪った」


ただこの一行が悔しくて。
ただこの一行の心のすれ違いに腹が立ち。
涙が自然に溢れ出た。

いつの間にかスケジュール帳を
ギュッと握り締め地面に膝をつけて泣いていた。


ゆりと香織さんの心のすれ違いと
偶然に電車で見た香織さんの
涙の意味にただ悔しかった。


公園のライトも点灯し空は真っ暗になっていた。


俺は気持ちが真っ黒の状態で
おばさんの家に向かった。

『健ちゃん、遅かったね!
 心配したよ。。ゆりちゃんは。。』

『あぁ・・。先に帰ったみたい。。』

『ゆりちゃん、泣いて
 走って行ったけどなんかあったの。。』

おばさんに伝えようか
どうか迷ったが伝えなかった。
・・・というより伝えることができなかった。

『あっ。。ちょっと喧嘩してしまって。。』

『そうだったの。。
 まぁ、たまには喧嘩もする。。
 仲直りしないといけないよ。。』

『はい。。
 おばさん、仏壇に拝んでいい。。』

俺は仏壇に手をあわせた。

『もう。香織が死んで一年か…』
おばさんは静かにつぶやき
俺の横で手をあわせた。

俺は香織さんにゆりの今の気持ちを伝えた。

ただわかってほしかった。

おばさんは気づかなかったが
知らず知らずに涙が流れていた。


あれから1週間が経過した。

ゆりに何度も連絡を取ったが
会うことはできず戸惑っていた。

おばさんの家にもあれから行っていない。

俺は久しぶりに
おばさんの家にバスで向かった。

1週間前に話し合った公園では
楽しそうな子供たちの声が聞こえている。



おばさんの家の前に立った俺は呆然とした。



おばさんの家は取り壊されていた。



激しいショベルカーの音が響き渡る家の前に
おばさんが静かに立っていた。

『おばさん!』

『あぁ・・・健介君か。。
 昨日から壊してるんだ。
 やっぱり寂しいね。。。
 ホームへ位牌を持っていくからいいけど。。
 この家にはいろんな思い出があるし。。
 寂しいね。。』

おばさんは小さな声で呟いた。

横には老人ホームの介護士の女性が立っていた。

おばさんは5日前に老人ホームに入所し
今日、家の取り壊しを見に来た様子だ。


家は激しく壊された。


呆然とみつめるおばさん。

『さぁ、秋野さん、行こうか!』
女性が声を掛けた。

おばさんは名残惜しそうな
懐かしそうな寂しい目をして
壊れた家をみつめている。


俺は何も言えなかった。


おばさんはゆっくりと車に向かった。
車に乗ろうとしたおばさんが
微笑んで俺に話した。


『もうお別れなんだねぇ。。。
 楽しかった。。
 楽しかったなぁ〜
 あなたたちと一緒に過ごした時間
 最高だったよ。。』

『おばさん、お別れって!!
 また遊びに行くから
 こんな寂しい顔しないでよッ。。
 絶対に会いに行くから待っていてよッ!! 』

『いつでもいい。。
 ゆりちゃんと来てね!!
 待っているからね。。』
 

ゆりが、今、この場所に
いないことを悲しく思った。


今のゆりのためにも
おばさんと会わせたいと思った。   


窓から顔を出し手を振るおばさん。
いつもと同じ温かい笑顔だった。


車はどんどん小さくなっていった。


頭の中はおばさんとゆりと過ごした
楽しい日々がぐるぐると回転していた。

俺は車が見えなくなるまで見送った。


帰ろうとした時、離れた所でゆりが立っていた。


ゆりも俺と同じように心の中で
おばさんに手を振っていた。


『ゆり・・・!ゆりーーーー!』


俺は大声で叫びながらゆりの方へ走った。

ゆりは背を向け何も言わず
全力で走って行った。


『ゆりーーーー!ゆりーーーー!』


ゆりは家の中に入って行った。


『ゆり・・・ゆり・・・』

俺はドア越しにゆりに話し掛けた。

『健ちゃん、帰って!
 健ちゃんに会いたくないッ!
 健ちゃんの顔を見るとつらい・・・。
 前にも言った!! 
 帰って・・帰って・・・帰ってよ・・・!』


ドアの向こうでゆりは泣いている。


『ゆり・・・・。
 あのスケジュール帳なら気にするな!!
 香織さんの勘違いなんだ。。』

『もう・・・いや… 
 健ちゃんといると
 香織やおじさんのことを思い出す…』



『だから、健ちゃんとは別れたい…』



ゆりは決心したように静かに言った。


俺は寂しそうなゆりの声を聞きながら
そっと話し掛けた。

『ゆり・・・お前の気持ちはよくわかった。。
 でも、今、別れるという言葉はやめよう・・・
 今は互いに会うのはやめよう・・・
      
 ゆりが苦しいのなら・・・
 会うのはやめる・・・・』

俺は何を話しているのかわからず
頭の中が動揺していた。

ドアの向こうで
ゆりの静かな泣き声が聞こえていた。


『じゃあ、俺、行くからッ・・・』
俺は小さな声で言った。


俺はポケットから自転車の合鍵を取り出し
玄関にそっと置き、駅へ歩いて行った。


ピンク色のいわし雲が一面に
浮かんでいた。


第8章 ふたりの距離へ
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