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『心の中の大切な日記』-完結-コミュの伝えたい気持ち/2

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コミュ内全体

そして数週間が経過した。

今日はクリスマス会の日だ。

二人はバスに乗り楽しそうに話している。

海は太陽に照らされキラキラと輝き
二人にエールを贈っているようだ。

『健ちゃん、緊張するねぇ。。』

『なんだっ、ゆり。。顔が青白いぞ!!
 緊張しなくていいよ。。
 いっぱい練習したんだ。。
 思いっきり披露しよッ!!』

本当は俺も緊張している。
でも・・強がっていた。
ゆりに自信を持ってもらいたかった。

二人は2日前にいろいろと考えた。

老人さんたちに歌詞を読んでもらう為に
手作りで歌詞カードを書いた。

電話で介護士の方に老人さん
ひとりひとりの名前を教えてもらい
歌詞カードにはメッセージも書き入れた。

色鉛筆で丁寧に1枚1枚塗り
愛情のこもった手作り歌詞カードが出来上がった。

そして演奏だけではなく演奏が終了したら
みんなにあめを配ろうとも考えていた。 

そしてバスは停車した。

『よしッ!やるだけのことはやった!!
 出発ーーーー!』

はりきる俺。

『よーーーし!いざ出発ーーーー!!!』

負けじとはりきるゆり。

バスを降りると波音が心地よく聞こえている。

二人は老人ホームに到着した。

介護士の女性に案内され食堂に行く二人。

食堂にはクリスマス会の大きな看板があり
「ようこそ高校生サンタクロース」と書かれていた。


二人はドキドキしていた。


老人さんたちの部屋に歌詞カードを配るため
更衣室に行きサンタクロースの衣装に着替えた。

『健ちゃん、どうこの衣装!!』

『かわいいサンタさんだなぁー』

『俺はどう!』

『よく似合ってる!髭がぴったり!!
 健ちゃん、最初に歌詞カード
 おばさんに渡しに行こッ!』

『そうだなッ!』

二人はおばさんの部屋に向かった。


部屋は4人部屋だ。


窓際におばさんがいて外の景色を眺めている。


『おばさんッ!健介です!』

『・・・・』


おばさんの目は寝起きのようにうつろだ。


『おばさんッ。。健介です!』

『・・・・』

『おばさん。。』

『・・・・あんた誰。。知らない・・・』

俺は髭をはずして
おばさんににっこり笑った。

『なにッ。あんたたち。知らない!誰だ・・・』

『ええッ!おば・・さん・・・』

『おばさん、健ちゃんだよ・・忘れたの!!』

『知らないなぁ・・・』

『じゃあ、私は・・・
 ゆりだよッ・・・』

『ゆりッ・・・ 
 あんたはよく覚えてるッ!!』

『あぁ、よかった!!だったら・・・
 なんで健ちゃんを・・・』
 
『近所の人たちに聞いてるよ!!
 あんたの名前は!!
 あんたのせいで
 わしはひとりぼっちだ!!!!
 息子を返してよッ!!息子を返してよッ!!』

おばさんは真っ赤な顔でパニックを
起こしたように大声で泣き叫び
ゆりが渡した歌詞カードをしわくしゃに破いた。

床に破れた手作り歌詞カードが
バラバラに散らばった。

ゆりは無言になり震え
その場から思い切り走っていった。

俺は追いかけ
必死でゆりを探した。


そしてゆりを見つけた。


ホームの外の塀の所に
しゃがみ込み泣いていた。


『健・・ちゃ・・ん。
 もう・・もうだめだよ・・・・・・
 私は大切なおばさんまで・・・・もうだめ・・』

『ゆりッ!ゆりッ!』

『健ちゃん、みんな・・
 待っ・・てるから行ってきて・・・・』  


涙声で伝えるゆり。


介護士の女性が
二人を探して俺たちの前に来た。

『秋野さん、以前から
 認知症が進行していて・・・
 近所の方も訪問にみえるんですが・・・
 先日、近所の方たちがみえてから
 興奮気味でして・・
 申し訳ございません。
 何か気に障ること…言われましたか・・』

俺は何も答えることができなかった。 

『申し訳ございません。
 こちらビリビリになってしまって・・
 秋野さん、最近はイライラしたり攻撃的なんで・・
 本当に申し訳ございません。
 近所の方々にも今日来ていただくよう
 お伝えしたのですが来ないとのことで・・
 彼女のこともよく知っていると
 おっしゃっていました。』

そういいながら細かくなった
歌詞カードを俺に渡した。

手のひらにはビリビリになった歌詞カードが
小さな山のように積もった。


ゆりと二人でウキウキしながら
作った歌詞カードを手の中で
ギュッと握り締めていた。

『食堂にいますんで・・・
 落ち着いたら来てください。。
 無理だったら私が歌いますので。。
 無理はしないでください。
 私が園長に頼んだせいで‥』

二人の雰囲気を察してかそう言って
この場からいなくなった。

『ゆりッ、ゆりッ』

しゃがみ込み頭を抱えているゆり。

『もうだめ!もうだめだよっ!・・・』

『何がだめなんだ!』

『私はおばさんの心まで傷つけていた・・
 最低の・・最低の・・女・・・
 私なんか、死んだほうが
 消えたほうがいい!!!
 死んだほうが・・・
 健ちゃんもそう思ってるでしょ!!』

大きな声で涙を流しながら
俺の服を掴むゆり。

『健ちゃんもそう思ってるんでしょ!!
 健ちゃんもそう思ってるんでしょ!!』

『ゆりッ!!!何を言ってるんだ!!!』


俺は大声を荒げた。


『ゆり・・・
 お前が苦しい気持ちの時は
 俺もめっちゃくちゃ苦しい!!
 お前が嬉しい顔をしている時は
 俺もめっちゃくちゃ嬉しい!!
 ずっとずっと一緒に考えてきたじゃないか。。
 おばさんは認知症になった。。
 こんな時だからこそ二人でおばさんを勇気づける!
 俺たちはおばさんを喜ばせる為に
 練習してきたんだろ。。』

俺はゆりに大きな声を出してしまった。


黙り込み、しゃがみ込むゆり。
   
『おばさんがあんな言葉を本心で言ったと思うか。。
 言ったのはきっと寂しかったからだ。。。
 お前が今までずっとずっとずっと
 おばさんの悲しみを埋めてきた。。
 晩御飯を作っておばさんを心から笑わせて・・・
 誕生日に思いっきりおめでとうを言って・・・
 お前は誰よりおばさんを勇気づけてきた。。。
 
 きっとそうだ。。。
 お前はおばさんの勇気や喜びや
 生きがいだったんだ。。
 お前と離れたおばさんは寂しかった。。
 お前にはそんな力があった。。
 おばさんの言葉に振り回されたらだめだ。
 お前はお前・・・
 俺はお前の勇気や努力を知っている。
 お前はお前のままなんだッ。
 何ひとつ変わってないッ!!!』


俺は何を言っているかも
わからず必死に伝えていた。


俺の顔をゆりはじっとみつめていた。


『お前のことを大切に思っていた
 おばさんの心をそっと
 あたためてあげよう。。
 今は二人で闘う勇気を持とう。。
 食堂に行って待っている
 老人さんたちを勇気づけよう。。』

俺は静かに伝えた。


今日、演奏をしないまま帰ったら
ゆりが余計苦しむと思ったからだ。


しばらくの間、ずっと沈黙が続いた。



『健ちゃん、ごめんね。。ありがとう。。
 私たちおばさんを喜ばせる為に
 ここへ来たんだもんね。。
 無理かもしれないけど・・
 おばさんの心が昔に戻るように・・・
 私たちと笑顔でいた頃を思い出すように・・・
 私たちがそこから逃げたらだめだよね。。』


ゆりはそっと立ち上がった。


『行こう。。健ちゃん!』


俺は黙ってうなずいた。


二人は見つめあい
静かに微笑みホームに戻った。


すでにクリスマス会が始まっていて
2階からは楽しそうな声が響き渡る。

介護士の女性に10分後に
食堂で演奏を開始すると伝えた。

俺はどうしてもこの10分で
やりたいことがあった。


さっき手のひらで握っていた
おばさんの歌詞カードを
元の状態にしたかった。

事務所の人にセロハンテープを借りて
更衣室に戻り、細かく破れた
歌詞カードを張り合わせた。

ゆりは黙って俺のうしろ姿を見ていた。


『健ちゃん、私がつなげる。。』


ゆりはセロハンテープを細かく切り
ひとつひとつを繫ぎ合わせた。


ゆりの目からは涙が溢れていた。


俺は涙をこらえ
その姿をじっとみていた。


ゆりの胸元には
あの日、プレゼントした
指輪が光っていた。


あの日、砂浜で
楽しげにはしゃいだ二人。。


今、目の前にひとつの文字を
繋ぎ合わせるゆりがいる。



俺はゆりを後ろから抱きしめた。



元通りとはいえないが
ひとつの歌詞カードに戻った。

『健ちゃん、これ。。』

『戻ったな。。』


ゆりは涙を拭いて
にっこり微笑んだ。

俺もとても嬉しかった。


そして、サンタクロースの衣装を着た
二人は食堂に入った。


老人さんたちの拍手が
食堂の中に響きわたっている。


俺はゆりの手を握り
思いっきりスキップした。


思いつきのアドリブだ。


ゆりも戸惑ったが
俺に合わせてスキップした。

『どうもーーーー。
 今日、皆様と一緒に過ごさせていただく
 サンタクロースです〜〜』

『・・・・』

少し戸惑うゆり。

『・・・はーいい!サンタガールで〜す〜』

ゆりは昨日の打ち合わせどおり
精一杯の明るい声を出した。


『今日は皆様に私たちの音楽を
 聴いていただきたくてここに来ました。
 歌詞カードがありますのでみてください。。』


『前の若者だなっ!!がんばれよっ!!』


二人は老人さんたちに
歌詞カードをゆっくり配った。

俺は貼り付けた歌詞カードを
おばさんに渡そうとした。


『健ちゃん・・・私に渡させて・・』


ゆりは歌詞カードのシワを伸ばし
おばさんに手渡した。

おばさんはさっきのことを忘れたかのように
ボーッと天井を眺めている。


『おばさん、私たちの夢、演奏するからねッ。。
 おばさん、聴いててね。。』 

優しく耳元で話し掛けるゆり。


おばさんはボーッと天井を眺めている。


『おばさん、聴いててね。。』 

俺もゆりとおばさんを見つめながら
聴いてて…と心の中でつぶやいた。

二人は手をつなぎスキップをしながら
小さな舞台へと向かった。


小さな舞台の上に置いてある椅子に
そっと座る二人。



『聴いてください。。涙晴の空!!』



老人さんたちの大きな声援と拍手に包まれた。


『よし・・ゆり。。やるぞッ。。』

『うん・・』



静まった食堂に
ギターの音が響きわたる。


ギターのバックに
フルートがゆっくりと響く。



そして俺が歌い始めた。



俺は演奏しながら老人さんたちの顔を見た。

みんな優しい顔をして演奏を聴いている。


そしておばさんの姿も探した。


さっきまで天井を見上げていたおばさんも
二人をじっと見ている。
そして小さな手拍子をしていた。


とても嬉しかった。


初めて病院で会った日。
おばさんと誕生会をした日。
楽しそうにゆりと料理を作っていた姿。
花見ではしゃいでいた日。
だるまさんがころんだをした日。
そして・・家が壊された時の悲しい目・・・

いろんなおばさんの表情が
頭の中を駆け巡った。

こらえていた涙が溢れ出てきた。

涙声で歌う俺。

横を見るとゆりの目からも
涙が溢れていた。


第10章 決心へ
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