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『心の中の大切な日記』-完結-コミュの最終章/同じ気持ちをみつめて

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コミュ内全体

4月1日、朝を迎えた。

自動車に乗りホームへ向かった。

駐車場に着いて空を眺めた。


とても綺麗な青空だ。


特別養護老人ホームの看板のうしろにある
桜の蕾が今にも開きそうだ。

玄関を開けると園長と寮母長が
笑顔で迎えてくれた。

『今日から頑張ってもらうよ!よろしくなっ!』

二人に案内され食堂に向かった。

『今、食事中でみんなが集まっているから
 木下さんを紹介させてもらいますね。。』

食堂をのぞくと入居者の方たちは食事中だった。

おばさんもエプロンを着けて食事をしていた。


『みなさん、今日からここで
 みなさんと一緒に過ごす木下健介さんです!
 困ったことがあれば何でも彼に頼んでくださいね!
 どうぞよろしくお願いいたします。』

『木下健介です。
 皆様、どうぞよろしくお願いいたします!』

挨拶すると同時に大きな拍手が聞こえ
たくさんの温かい表情に少し緊張がほぐれた。

朝食の時間が終わり職員が園長室に集まった。

『今日からここでみなさんと
 一緒に働く木下健介さんです。
 皆さん、いろいろと
 ご指導お願いいたしますね!』

『木下さん、右から鎌本さん、高木さん
 三井さん、寺井さん、鈴木さん…
 今日は夜勤明けでいない人や
 今、外に出ているヘルパーがいるから
 おいおい紹介していきます。』

デイサービス、ヘルパー、介護士…
15人ぐらいの職員を紹介していただいた。

寮母長に案内され寮母室に向かった。

『このホームには1階に25人
 2階に25人の入居者がいます。
 8割の方が認知症の方で
 6割の方が車椅子です。

 精神的にも肉体的にも
 常に介護が必要な方が多いです。

 仕事内容としては、食事や入浴、排泄の介助…
 日々の生活に寄り添って介護しています。

 また入居者が楽しめるような
 レクリエーションや事務作業など…
 いろいろあるから、また教えますね。

 日勤、夜勤があって
 24時間のシフト制で
 日勤は8人、夜勤は3人で
 介護職員が勤務しています。

 今のところ男性は君だけだから
 ホームの雰囲気が変わることを
 期待しているね!

 これに着替えてから今日はみんなの
 仕事の様子を見ていてください。』

『はいっ!』

俺は介護服に着替えて
10時のオムツ交換を見ていた。

大きなカートに温かいお尻拭き用の
タオル、シーツが積んであり
2階の奥の部屋から一斉に
排泄介助が始まった。


みんなが入居者と会話しながら
手際よくオムツ交換をしている。

中にはすごく嫌がる入居者もいるが
一人が話をして気持ちを落ち着け
その間にもう一人がオムツ交換をしている。

『木下君、明日からは私と一緒に交換するからねっ!
 私、あんまり説明、うまくできないかも
 しれないけどよろしくねっ!』

鎌本さんがオムツ交換をしながら声をかけてくれた。

エレベーターに台車を乗せて
今度は1階の奥の部屋から排泄介助が始まった。

1時間くらいで45人
(残りの5人は自分でトイレに行ける人)の
オムツ交換が終わった。

排泄介助が終わると各部屋ごとの掃除をした。

高木さんに掃除のやり方を聞き
1階の部屋に向かった。

『たづさん!木下健介さんだよ!
 男の人が来たから嬉しいね〜』

高木さんが明るい声で俺を紹介してくれた。

『そうだねぇ。また話し相手になってね!
 ずっと前、ここに演奏しに来てなかったかい。。』

『そうです!覚えてくれていましたか!』

『息子と同じ名前だから覚えていたんだわ。
 あの頃、もらった歌詞カード引き出しに
 大事に入れてあるよ。。』

そういいながらベッドの隣の棚にしまってあった
歌詞カードを見せてくれた。

『木下君、ここに演奏しに来たことがあるの。。
 楽器の演奏できるんだ!』

『はいッ!随分、前になりますが。。』

『そうなんだ!また聴かせてね!』

『この青年もゆりちゃんの演奏も素敵だったわ〜』

ゆりの名前を聞いた時、少し驚いた。

ゆりの演奏を覚えている人がいたことに
とても嬉しく感じた。

学生時代、面会にも来ていたが
いろんなすれ違いであのクリスマス会で
見覚えのある職員の顔は当時から
だいぶ変わったように思う。

高木さんに聞くと結婚をして退職したり
腰を痛めて退職したり…
5年ぐらいの間隔で介護士の顔ぶれが
変わっているみたいだ。

ベッド周り、洗面所の磨き、シーツ交換…
いろんな掃除のやり方を細かく教えてもらった。


あっという間に昼食の時間になった。

介護士が1階、2階に分かれて
各部屋の老人さんを食堂に連れてくる様子だ。

『嶋田さんは90キロあるから
 二人で車椅子に移動させたほうがいいわよ。
 脚の間にこうやって足を入れて
 後ろの人がズボンを持ち上げて…
 ねっ、嶋田さんッ!』

『君の名前、健介っていうのかい。。
 明日から健ちゃんって呼んでいいかなぁ〜』

嶋田さんが声をかけてくれた。

『はいッ!どうぞよろしくお願いいたします!』

『健ちゃんか〜
 呼びやすいねぇ!
 私たちも健ちゃんって呼ぶねッ!』

寺井さんと鈴木さんが声をかけてくれた。

歩ける人は両手を持ち介護士が後ろ歩きをしながら
ゆっくり食堂の椅子に座らせた。

食堂に皆が集合し自分で食べられない人の
食事介助の様子を見ていた。

口元にスプーンを近づけられるだけで嫌がり
スプーンを投げる入居者もいた。

みんながもくもくと食べているように感じた。

おばさんも美味しそうに
ゆっくりもくもくと食べていた。


昼食が終わると洗濯をたたみ
夜勤の人に申し送りをし
排泄介助をして夕食介助と
1日では覚えきれない内容だった。

『月、水、金は入浴介助、月々の行事の話し合い…
  
 まだまだいっぱいあるけど
 ゆっくり覚えていけばいいから。。
 
 初日だから疲れたんじゃない。。
 
 帰りに海を見てくといいよ。。
 疲れも癒されるよッ!』

俺と同年代の三井さんが声をかけてくれた。


『ありがとうございます!』


俺は温かい気持ちになり
小さくうなずいた。

このホームで一番の長く働いていて
名前が麻衣子だからまいっち、まいっちと
呼ばれ親しまれている。

三井さんの言葉が初日の緊張した気持ちを
少し楽にしてくれた。


『お疲れさまでした。』

『お疲れさまでした。』『お疲れさまでした〜』

夜勤の人と交替し皆が帰り始めた。

俺は着替えた後、おばさんの部屋に向かった。

おばさんのベッドの横の棚に小さな額に入れた
桜の樹の下の懐かしい写真をそっと置いた。

今まで面会に行くとあまり話さなかった
おばさんが『可愛い男の子だねぇ。。』
ニコッと笑って気に入ってくれた。

おばさんの笑顔を見て
明日から頑張ろうと思った。


あれから、数ヵ月が経過した。

今まで経験したことのないことばかりだった。

おばさんの誕生会も楽しく終わった。

俺も仕事に慣れて入居者、職員たちとも
気さくに話すようになっていた。

鎌本さんはオムツのダンボールを3箱を
1度に運べる力持ち。

高木さんは行事等でみんなを笑顔にさせ
宴会では大爆笑させるムードメーカー。

寺井さんと鈴木さんは絵がうまく
食堂や玄関に二人の描いた絵が
たくさん飾ってある仲良しコンビ。

三井さんは急にパニックになった
入居者の気持ちをゆっくりと
落ち着かせることのできる人。

山本さんは元理容院の方で
月末になると入居者の髪を切って
綺麗に仕上げてくれるオシャレな人。

ゆっくりではあるが
入居者の名前も覚え
性格もわかるようになってきた。

日勤、夜勤を通していろんなことが
わかってきた。

あの日、ゆりが言っていたように
ゆりと香織さんの家族は
不幸ばかり続いていたが
このホームにもいろんな事情を抱えた人が
たくさん入所していることも知った。

入居者の方、介護士が俺のことを
健ちゃんと呼ぶようになっていた。

三井さんだけは俺のことを
健之介、健之介と呼ぶようになっていた。

侍のような呼び方に最初は嫌だったが
日に日に慣れていった。

いろんな仕事を覚えるために
介護服のポケットのメモはかなり増えた。

俺はポケットのメモをあまり見ずに
ゆっくりであるが仕事ができるようになっていた。


あれから数ヵ月が経過した。

今月のクリスマス会のために
数週間前からみんなで
いろいろと準備している。

寺井さんと鈴木さんが
サンタクロースやツリーの
絵を描きながら話し始めた。

『毎年、披露している出し物は
 今回、どうする。。』

『どうしよう。。
 劇とかもいいかもねっ!』


『そういえば…たづさんが言っていたわね!
 健ちゃん、演奏ができるって!』
 高木さんが言い出した。


『そうなのぉ。聴いてみたいなぁ!』


『…』


俺は少し返答に戸惑い
何も答えられず静かになった。


『みなさ〜ん、今回
 私は健之介と漫才をします!
 どうでしょうか!』

『まいっち、それはいいねぇ!
 健ちゃんも知っていたの。。』

『えっ…まいっち、急だなぁ。
 俺、漫才なんかしたことないよ。。』

『健之介、台本は私が書くから
 クリスマス会まで練習だぞッ!』

『・・・はいッ!』

俺は三井さんのにらみに負けて
返事をしてしまった。

『じゃあ、出し物はみんなで
 クリスマスの歌の合唱と
 まいっちと健ちゃんの漫才だねっ!』

『じゃあ、これでプログラム書くね。』

『まいっち、健ちゃん、楽しみにしているねッ!』

『はいっ!やるからには頑張ります!』


次の日、三井さんに
台本を渡してもらった。


『昨日、一晩で書いたから
 面白くないかもしれないから
 健之介も読んで面白くない部分は訂正してね!』

俺はホッチキスでとめてある
3枚の紙を読んだ。

『まいっち、これは漫才じゃないなっ。。
 これはコントだよっ!
 コントかな〜コントでもないかもなッ!
 ブブッッ…でもおもしろいなッ!』

読みながら思わず笑ってしまった。

『そうだよねッ!考えに考たんだよッ!』

『まいっち、ありがとう!』

1日だけ練習したが
台本の内容は…あとにして
練習はせずに当日、ぶっつけ本番の
アドリブでしようという話になった。


あれから数週間が経過した。

今日は午前10時から
クリスマス会が始まる。

朝食が終わり、皆が排泄介助をしている間に
山本さんと舞台の準備と飾りつけをしている。

みんなで作ったクリスマス会と書いてある
ボードを天井から針金でぶら下げ
寺井さんと鈴木さんが描いた絵を
壁と窓に貼り付けた。

今日はディサービスの人たちも参加するので
パイプ椅子も壁際にたくさん並べた。

『準備OK !』

『できましたねっ!』

『私、寮母長に準備ができたこと伝えてくるねっ!
 健ちゃん、待っててね!』

山本さんは嬉しそうな顔をして
食堂から出て行った。

シーンと静まり返った食堂にある舞台をみつめ
ゆりと演奏した日を思い出した。

『おばさん、私たちの夢、演奏するからねッ。。
 おばさん、聴いててね。。』

ボーッと天井を眺めていたおばさんに
そっと伝えていたゆりの姿を思い出した。

あの日、ゆりとおばさんをみつめながら
俺たちの演奏を聴いててください…と
心の中でつぶやいていた。

あのクリスマス会の日が
最近のような、遠い昔のような…
まだ時間が止まっているような感覚だ。

演奏していた俺たちの姿を
小さな舞台を見ながら思い出していた。

『健之介〜、安藤さんと美和さん
 秋野さんを食堂に連れてきて!』

三井さんの大きな声が聞こえた。

安藤さんと美和さんを車椅子に乗せ
舞台の近くで待ってもらうよう伝えた。

食堂にはたくさんの入居者が
介護士と一緒に集まり始めた。


俺はおばさんの部屋に向かった。


おばさんは窓越しにボーッと
景色を眺めていた。

『おばさん、今日はクリスマス会だから
 食堂に行こう。。』

『そおぅ。。』


あの日、この部屋でおばさんが渡したあめを
優しく微笑んで受け取ったゆりの姿を
ふっと思い出した。


『少しの時間でもいいから
 おばさんのそばにいたいんだ。。』

『私がいろんな老人さんの癒しや力に
 なれたら嬉しいなぁ。。』


ゆりの言葉を自然に思い出した。


あの日の帰り道、嬉しそうなゆりの笑顔を
見ているだけでとても温かい気持ちになった。
 
そんな大事な気持ちを思い出した。

おばさんを車椅子に乗せ
食堂に向かった。

『おばさん、今日は俺、漫才するから
 観ていてください。』

『そおぅ。楽しみにしてるよ。』


食堂に入るとディサービスの人たちが
パイプ椅子に座り始めあっという間に
にぎやかになっていた。

『10時になりましたので
 クリスマス会を始めたいと思います。』

寮母長がにこやかに話し始めた。

まずはディサービスの老人さん三人が
カラオケを披露した。

次は介護士の合唱
『ジングルベル』『サンタが町にやってきた』
を披露した。

次はとうとう漫才だ。 

俺と三井さんは舞台裏でメイクをしていた。

手拭いでほっかぶりをして
水性マジックで顔にまつげ、鼻毛、しわを描き
頬には赤い絵具を塗った。

『まいっち、マジでこんなメイクでいいの。。』

『健之介、その方が、絶対にウケるって!』

『たしかに、そうだなっ!』

俺は三井さんのメイクを見て
吹き出しそうになった。

『次は木下さんと三井さんの漫才です。
 お二人、はりきってどうぞ!!』

『健之介、さぁ、始まるぞッ!』

二人は舞台にあがった。


『どうもぉ〜あいうえおブラザーズでーす!』

『今から兄貴の名人芸を披露しまーす!』
 
『「あ」と言えばアヒルのまね
 「い」と言えば犬のまね
 「う」と言えば牛のまね
 「え」と言えば海老のまね
 「お」と言えばオラウータンのまね
 「あいうえお」名人の兄貴に
 すばやくやってもらいます〜』

三井さんが説明し、老人さんたちも
にこやかに見つめたくさんの拍手が聞こえた。

まずは「あ」と三井さんが言って
俺はアヒルの動きをして
ガーガー鳴きながらみんなの周りを歩いた。

次は「い」犬のように元気よく
食堂内を走った。

次は「う」牛のように床に寝そべり
右手をしっぽのように動かしてモーと鳴いた。

そのあたりから食堂内に笑い声が
聞こえ始めた。

次は「え」エビのように丸くなり
床の上でピチピチと跳ねた。

次は「お」オラウータンの顔まねをして
食堂内を駆け回った。

老人さんたちの大きな笑い声が聞こえ始めた。

おばさんもこっちを見て笑っていた。

三井さんの書いた台本ではあとの5分
あいうえおの順番をバラバラにして
俺がそれを時間いっぱい素早くやりきる内容だった。

俺は三井さんのマイクを取りみんなに話した。

『ブラザーズなんだから弟の「あいうえお」も
 みなさん、見たくないですか〜
 見たいですよね〜
 もちろん、私もしますよ〜』

『おいッ!健之介〜』
三井さんが小声でつぶやいた。

食堂内に拍手が沸き上がった。

『市川さん、マイクを持ってみなさんに
「あいうえお」を言ってもらってください!
 私たちブラザーズはプロですから!』

市川さんが前列の人にマイクを向けた。

『「あいうえお」なんでもいいですよ〜』

『じゃあ、『お』。。』

俺と三井さんはオラウータンのまねをして
食堂内を駆け回った。

『次、どうぞ!』隣の人にマイクが向けられた。

『じゃあ、私は「う」』
二人が牛のまねをし始めると大爆笑が起こり始めた。

『じゃあ、わしは「や」』

『健之介、「や」って…』

三井さんの戸惑った声が聞こえた。

『「や」は、やすき節だ!
 ドジョウすくいのまねをしよう!』

『そうだねっ!』

二人はドジョウすくいのまねをして
食堂を歩き回った。

老人さん、職員が腹を抱えて笑い出した。

おばさんも笑って俺たちを見ていた。

俺も三井さんのメイクと
ドジョウすくいをする姿を見て
吹き出しそうになった。

それ以後は相次いで「や」ばかりとなり
後半はやすき節ばかりをしていた。

予定より大幅に時間オーバーし
爆笑のまま終了となった。

『次はディサービス職員の手品となります。
 やすき節ブラザーズのお二人
 ありがとうございました!』

『寮母長、「あいうえおブラザーズ」ですよ!』

そう言いながら俺と三井さんは
寮母室にメイクを落としに行った。

『健之介、成功したねっ!大成功だよっ!』

『みんな、笑ってくれたからよかった〜』

『また、来年もするとしようかッ!』

『そうだなぁ。まいっち、面白かったなぁ。
 やすき節名人みたいだったわ!』

老人さんたちのにこやかな表情を見て
とても嬉しく温かい気持ちになった。


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