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連帯オール沖縄・東北北海道コミュの鈴木正の『倚りかからぬ思想』【下】

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第三章    試練の中の知・情・意
 この章は、五つのテーマから成る。厳しい権力的弾圧や困難な情勢のなかで、平和と民衆の幸福とを実現する上で、鈴木氏は大切ないくつかの提案をされている。
 その一 大衆文化と左翼の関係はほぼ戦後断種的だった。大衆文化のさまざまなジャンルである歌謡曲、講談、落語、漫才、田舎芝居、紙芝居など。鈴木氏は自らを振り返り、敗戦後にマルクス主義の洗礼を受け左翼的政治青年となった自分が、大衆文化をバカにしてきたことを告白する。大衆文化圏を含めて文化の自立が政治的利用主義でおろさそかにされた傾向を自ら批判している。さらに、大衆文化に通っている人情こそ大衆文化の「血液」とする。理屈で相手を打ち負かして敵を増やすよりも、人情で付き合う庶民の方がすぐれていることを、母を慈しみながら人生の半ば以降に「あとで知った」とふりかえっている。上からの啓蒙活動の主力だった文化運動に比べ、生活的に自立した大衆にとって恩着せがましい保護や防衛など迷惑で余計なお世話だ、と手厳しく述べている。おだやかで温厚な鈴木氏と何回も会ってお話したことのある私には、この厳しさは意外だった。おそらく若い頃に教師をしながら、左翼運動に取り組んできた鈴木氏だからこそ自らの自己批判をこめて、その「誤謬」と思える実態を根底的に批判しているのであろう。
 大衆文化とインテリ文化、自立的文化と「啓蒙的」「政治実用主義」文化。これらに考察をめぐらした鈴木氏は、作品の善し悪しを数の論理で評価してしまっている実態をつく。視聴率、販売数など。少数者は異端視される。それが技術の活用力の領域にとどまっているうちはまだしも、思想信条の分野で多数が正しく少数は間違っているとなり、権力的強制が加わると、問題は深刻な様相を呈する。最高裁判決は多数の裁判官の意向により、「君が代起立」の判決を問題なしとした。ただひとり宮川光治判事が反対意見を述べた。
「憲法は少数者の思想、良心を多数者のそれと等しく尊重し、その思想、良心の核心に反する行為を強制することを許容していない。今回の判決は、起立斉唱行為を一般的、客観的な視点で評価している。およそ精神的自由権に属する問題を多数者の観点からのみ考えることは相当ではない。一九九九年の国旗・国家法の施行後、都立高校において、一部の教職員に不起立不斉唱があっても式典は支障なく進行していた。こうした事態を、起立斉唱を義務付けた二〇〇三年の通達は一変させた。卒業式に都職員を派遣し監視していることや処分状況を見ると、通達は式典の円滑な進行を図る価値中立的な意図ではなく、前記歴史観(「日の丸」「君が代」を軍国主義や戦前の天皇制絶対主義のシンボルと見る)を持つ教職員を念頭に置き、その歴史観に対する否定的評価を背景に、不利益処分をもって、その歴史観に反する行為を強制することにある。」と。
 鈴木氏は、この裁判問題を大衆文化の加害的側面に目を向けて紹介している。権力におもねる「大衆文化」と反対に、暮らしの中での癒し効果を持つ個人の「ひいき」という形で民衆をつなぐ大衆文化とは区別すべきとしている。その根拠として、まともな後者をバカにした左翼の亜インテリ性が少数者から多数者へと平和的に移行する契機をつぶしてしまったことを述べている。この節の最後に、鈴木氏は言う。「私の思想文化(具体的には思想史研究)は、真理と真情を一つにした主体性の性格を保っていきたい」。と。

その二 愛知県内唯一の旧制大学として発足した私立の愛知大学の愛大事件に触れている。敗戦による引き揚げで上海にあった東亜同文書院大学を中心に、京城大学、台北大学などの教師等が苦難に抗して作り上げた個性ある大学だった。当時東大ではポポロ事件が、早稲田大学でも同様な事件が起きていた。一九五二年のことである。愛大学内に特審局さしがねの警察官二名が大学校内に無断で不法侵入し、学生に捕まった。この事件は、本間学長が、一九五二年六月十日に国会衆議院行政監察特別委員会に証言を求められるに至った。
「特審局がその学校でスパイに使う。こういう問題は学校の教育から見ると非常に困った問題です。学生に対してスパイをすることははずかしいことであると、われわれは訓育しているのに国費をもって誘惑してそういうものを出すようなことは、私は教育の立場にあるものとして非常に困っておる。のみならず学校内において学生相互に信頼心がなくなる」。
本間学長の証言はこれだけにとどまらない。堂々と学長として、大学に対して権力からの試練にむかって闘っている。同時期に東大でも、矢内原忠雄学長が参議院法務・文部合同委員会が証言をおこなっている。本間、矢内原両人ともに、学問の自治と大学の自立を堂々と主張して屈していない。大学の大衆化が進んだ一九七〇年前後の大学闘争は、この頃と大学の実態を異にしている。学生も大学教職員も、闘争の変化を見落として一概にくくれないけれども、鈴木氏が紹介した当時の本間学長たちの証言を歴史に学び発掘して範としなければならないと私は考える。

その三 安藤昌益の思想をとりあげている。私も学生時代に、狩野享吉と渡辺大涛を媒介として安藤昌益の存在を知った。ただ岩波新書の『忘れられた思想家』によって広く安藤昌益を紹介したE・H・ノーマンについても、日本思想史と若干の範疇をはずれるが触れてほしいとふと思った。しかしながら、鈴木氏は、狩野の研究に即して省益の「互性活真」思想など現代の社会に即して思考を展開されている。『自然真営道』を読んでいない私は、江戸期の思想家と向かい合う明治や現代の思想家たちの研究に憧憬の念をもつ。昌益の『自然真営道』『統道真伝』の読破は私の宿題である。

その四 三・一一を境に、鈴木氏の思想に変化が生じた。憲法九条を守ることを最優先と考えてきた鈴木氏は、対外的には、国権の発動としての戦争反対の徹底と、国内的には住民の日常生活の安全の二つが表裏一体の課題として迫ってきたと記している。
 ここで鈴木氏は重要な事実を記している。核兵器に対する判断と行動は、鈴木氏は迅速果断であった。一九五四年のビキニ環礁での第五福竜丸がアメリカの核実験で被曝すると、中野、杉並の主婦から始まった原水爆廃絶の署名運動は全国から全世界へと広がり、ストックホルムアピールへと結実した。その二年後の一九五六年に原子力平和利用博覧会が京都、大阪、広島で行われた。森滝市郎を理事長とする被団協は開催反対を申し入れたが、当時の広島市長は開会式で歓迎のあいさつをしている。朝日の編集委員は「原子力の平和利用」が「原爆許すまじ」の別の表現ではなかろうか、とまで記している。原発は、開発の初期から正しい認識を国民から得られなかった。進歩的新聞もそうだし、鈴木氏自らもそうだったという趣旨の文を記している。それは福島原発後に社民党のような明確な原発反対を表明しえずあいまいだった日本共産党も私はそうだったと推測している。脱原発一〇〇〇万人アクション行動の発起人となった大江健三郎氏たちを中心とする運動が動き出して、その途中から「原発即時ゼロ」を共産党は打ち出した。これは、日本で原発が開発された時に、「原子力の安全利用」をめぐる進歩派や左翼の間で、原子力は資本主義の枠内でなく完璧な安全的利用を行社会主義・共産主義の体制下では夢のようなエネルギー開発となるという固定観念があったと私は思う。日本共産党は、ちぐはぐな経路を経ながらも、原発ゼロを打ち出してそれ以降の反原発運動に取り組んでいる。

その五 なぜ崔承喜さんという日本や中国で戦前に活躍した「東洋の舞姫」について言い及んでいるか?一流の舞踊家が世の中の変化に翻弄されていく。鈴木氏は、芸術や芸能、文化について丁寧に研究成果をもとに持論を展開されている。その末に、最終部分にこう記している。
「スターリン時代から、ミーチンとか、ジュダーノフといった政治の奴卑となった「文化的」党官僚が、哲学や音楽にあれこれ干渉したことはソ連「社会帝国主義国家」のもっとも政治的犯罪行為 だったことを忘れてはならない。歴史を学ぶということは、そういうことだ」。

第四章   思想ーその格闘の跡を読む
 ここでは十四の書評が収められている。すでに詳細を記す紙数は尽きたけれど、書物を読む行為に、思想的営為をこめている鈴木正氏の真骨頂ともいえよう。
 洋の東西を問わず、鈴木氏は、「格闘を読む」という方法で読みとっている。思想とは、思想的格闘そのものを示しているという鈴木氏の視点は、生きた思想を「文献」「ペーパー」として枠組みの中に固定化して、専門的難解な言葉でしばりつけるわが国の学会や学界のレベルとは異なる。古在由重が遺した言葉、「思想は冷凍保存できない。」が鮮明に想い出される。
 鈴木正氏が研究され執筆されたたくさんの書物は、戦後日本の思想史学において、重要な成果である。なによりも「自ら思想する」という鈴木氏の思想の中枢を究め続けた特質が見事に思想史研究に生きている。
 鈴木氏は、真理を追究する学問や左翼が、歴史を推進してきた無告の民衆の真情とが統一的に把握された時に、日本人は自らの思想を獲得して社会の変革をも成就しうることを明らかにしている。
 この精神は、日本社会で暮らす人々にとって、日常的にも励みとなる。これからも鈴木氏の著作を読み続けていくと共に、鈴木氏の思想史学を学び続けていこうと強く感じている。

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