Bitter ＆ happinessコミュの９－一人の休日－

『“ＣｒｏｓｓＤａｒｔｓ
”
居酒屋『ＤＡＲＴ』で交わった２つの弓って意味だよ。
ヴォーカルがコータ…
ギターが俺で…
ベースがユウジ…（コータのバイト友達１号ね）
ドラムがマサヒト（コータのバイト友達２号だって）
ってことになったよ－』

だそうだ。
メンツ、バンド名が決まったのはその日の帰った後みたい。
朝、電話したら陽介が満面の笑みで話してくれた。

どうやら本気でやるつもりらしい。ま、陽介の自由だから私はどうこう言えないけれど、なんか面白くないなぁ。

『今日だけどさっ！
水道橋に今月オープンしたチョコレートショップがあるんだけど、そこに行きたいん…』
『あ、ごっめん！！今日は大事なバンドの初顔合わせなんだよ。
ごめんな、ユキ』

『そぅ…。そっかぁー！しょうがないよね！わかった、それじゃまた明日ねっ。』プッ…ツーツー

精一杯明るく振る舞ったつもりだったが、苦しくなって一方的に切ってしまった。

さっき言われた陽介の一言。
まるで自分だけおいてきぼりにされたみたい。
いいもん、私だって好きなことやるんだからっ！

日曜日の１１時過ぎ。
私は何をしているかと言うと、みんなのお昼の買い物。
一昨日のお母さんの体調不良はまだ良くなってなくって、私が変わりに家事をやることになった。
ま、結局やることがなかったから私にとっては調度よかった訳で…。

お父さんは愛用のゴルフクラブを丹念に磨き上げ、

マユは今日もお絵かきをしている。

そんな傍らで、慣れないエプロン、慣れない場所、慣れない包丁で慣れない料理をしてみた。

『お昼は冷し中華……か…？』

不審そうに私と、お皿に盛られた物を見比べる。

『ユキもお母さんになるにはまだまだ勉強が足りなそうだなぁ～』
と、後頭部を掻きながら椅子に座ることを躊躇しているようだった。

ちゃんとパッケージどおりに作ったつもりが、
本当につもりになってしまったようだ…。

『何かご不満でもっ？』

『いえいぇ、いただきますとも！！うまそうだなぁ～』

そそくさと席に着いたまではよかったものの、
食事中は誰の一言も話さずに過ぎていった。私の
『う゛……マズっ』
を除いては。

洗い物をお父さんに押し付け、私は部屋へ戻り、ホームページへアクセスした。

みんなは休日を満喫しているみたい。メッセージはまるで自分達の日記のようにきちんと更新されている。

昨日のメッセージの１番下にあのコータからのも届いていた。

＜モモコさん、こんばんわ。
今日は大好きなアーティストのライブを地元で観てきました。
それと、幼なじみとその彼にも会いました。
何やらこれから楽しくなる気配がします。＞

どうやら本気でバラす気はないみたい。そんな奴じゃないけど、内心ちょっとホっとした。

＜昨日は彼とデートをしました。
とても天気がよくって、ピクニック日和っ！
公園のベンチでお喋りをしたり、ボートで湖を散歩したりしました。

夕方から少し寒くなってきたんだけど、彼はそっと私の肩に自分の上着をかけてくれました。

幸せな時間でした＞

なんて、私は妄想と欲望をキーボードに叩き込んだ。

…それにしても、陽介がバンドをやりたいなんて知らなかった。
そもそも、たった１年でギターってうまくなれるのかな？
でも、陽介器用だからな～。
もしかしたらジークみたいになっちゃったりして…………………………。

その後もポジティブ思考な妄想は続き、終いには日本武道館に立つ陽介を想像していた。
『最高じゃんっっ！！』

なんだかんだ言って私も、陽介がコウタ達とバンドをやることに、いつしか賛成派になってしまっていた。