ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

そら来い!コミュのそら来い! 第二話「交換」

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 半分引きずられるような形で、私はアコの後をついて行った。校門を出て左を見ると、学校の銘版にもたれかかるようにして、一人の男子生徒が待ち構えている。よく観察してみると、見覚えのある顔だった。確か入学してすぐに、アニメ研究会とかいうクラブを立ち上げた、同じ学年の人だ。

 彼には、入学して間もない頃に、しつこく勧誘されたのを覚えている。その時の口説き文句は、「何でも好きな漫画をプレゼントする」という実にケチ臭いものだった。名前は確か、瀬川望道だったような気がするが、正直その点はうる覚えだ。彼は痛い勧誘の事実を、まるでなかったことのように「ノゾミって呼んでね」なんて、馴れ馴れしく話しかけきたけれど、私は終始、彼の腑抜け顔を睨み付けることで、この無意味な時間をやり過ごしていた。

 でも今思えば、あの時アコは少しだけ心動かされていたような気がする。「何のマンガがありますか?」なんて興味があるような感じに尋ねていたし、彼女はそういうマニアックな男と接するのが得意な子だった。人気はそこそこらしいけど、彼女は学校の最寄り駅から2つ先の電子街で、メイド喫茶のアルバイトをしていた。彼を客として取り囲もうとしていたかどうかは定かではないけれど、私の知らない所で、交流を続けていたのはどうも確からしい。

 アコはノゾミに向かって、慣れた感じに耳元で手の平を広げ、「ちゃお!」のポーズを取っているし、ノゾミもノゾミで右目の上でピースサインを作って、「チョイス!」とかなんとか言っている。こういう意味不明なシークレットサインは、それなりに深い関係でないと構築できないはずだ。

 ただ、このノゾミ、ケチ臭いクラブ勧誘のせいもあって、私以外の女の子達からの評判も、よろしくなかった。例のギャル友人、マキに聞いた話だが、4月に発足したクラブを、もう5月には潰してしまっていたらしい。女の子しか勧誘をしなかったせいで、立ち上げメンバーから総スカンを喰らい、自然消滅してしまったというのがその理由だそうだが、マキに言わせれば、ノゾミにしても、他のメンバーにしても、どのみち気持ちが悪いんだから、そもそも潰れて当然の話なのだという。学校側も理由はどうあれ空気を読んだだけじゃないの? とまで言っていた。

 私もそれを聞いた時は、彼女とは違う意味で頷けた。ノゾミに関しては、2次元好きを逆手に取って、女の子をものにしてしまおうという魂胆がまず浅はかだし、他のメンバーはそんな彼に利用されていていたという点で、男として間抜けすぎる。私も気持ち悪さは否定できなかった。

 けれども、この気持ち悪いノゾミは、意外にもモテないわけではないらしく、何回か女の子の噂を聞いたこともあった。顔立ちは中性的で、髪はサラサラのセンター分け、さらにメガネをかけていたから、見る人が見れば牧師のような誠実さが感じられるのだという。

 たぶん、彼のけち臭い勧誘の事実を知らない、ごく一部の女の子達だけの評価なのだろうが、以前、私が知る美術部のメガネ萌え女は、彼を見てやたら興奮していたから、これはこれで事実なのだろう。私はそっちの気はなかったので、軽く流して聞いた話題の一つだったが、今こういう形で、このような豆知識が役立つとは夢にも思わなかった。それも、親友アコのために……噂話も覚えておくものだと、妙に一人で納得してしまった。

「はい! もうお互い顔ぐらいは知ってると思うけど、こちらが田岡美和ちゃんです!」

 改めてという前置きを含んだ言い方で、アコからノゾミを紹介された。男の趣味というのは2次元でも3次元でも変わらないのだろうか? 私なら、たとえ無人島で二人っきりのなっても、絶対に仲良くなりたくないタイプの人間だ。ピエロのような口元で微笑む彼が、以前の記憶よりずっと薄気味悪く見えた。

「はじめまして、美和です……」

 過去に遡って話が長くなるのが嫌で、私は必要最低限の挨拶をした。

「な〜んかテンション低いよ。それに初めて会うわけじゃないじゃないんだからさ! もっとフランクにいこうよ! フ・ラ・ン・クに!」

 アコが何故かそれを見て笑っている。私には、彼のヘアースタイルが織田信長の小姓、森蘭丸に見えて仕方がないという点以外は、笑う要素は一つもなかった。

「あーそうね。そうでした……失礼しました…ところで、二人はどうやって仲良くなったの? アコはクラブの勧誘も断ったし……」

 私は、一応友人として聞くべきところだけ聞いて、さっさと終わらせてしまおうと思った。二人は顔を見合わせて、まるでお花畑に囲まれているかのような雰囲気をかもしだしている。

「エヘ! それがね。ビックリなことに、私のバイト先でご主人様とメイドとして巡りあっちゃったの。凄い偶然でしょ? 学校では何度かすれ違ってたけど、まさかバイト中に偶然会うとは思いもよらなかった!」

 ノゾミに事前調査されていたというオチだろうが、私はそれ以上深く突っ込まなかった。私と比べても、アコはメガネを外せば、少女マンガのヒロインみたいな大きな目をしているし、肌も雪のように白かった。女の子らしさと言う点では、勝てる要素は一つもない。この高校では、私ぐらいしか友達はできなかったみたいだけれど、月曜日には必ず手作りクッキーを焼いてきたりして、よくよく考えれば、元々マニア男の萌える要素が満載なのだ。別に羨ましいというわけではないが、ノゾミが狙いを定めたというのも、なるほどと頷けるところはあった。

「まあ、そういうことな〜んだ。ねえ、ねえ、俺達も友達になろうよ!電話番号教えて〜」

 頭を文鎮で殴られたような痛みが走る。アコの気持ちに絶対に気がついているはずなのに、女好きを極めるとここまで来るのだろうか? 2次元3次元の間を行ったり来たりするみさかいのなさも、ここまで来ると逆に感心してしまう。はっきり言って、私はアコのように可愛くない。目は爬虫類のように鋭くて、黙っていると「何怒ってんの?」なんて言われてしまうような、嫌味な顔をしている。化粧はしないけど、辛うじてアイプチをして、女の子らしさを保守しているようなものだった。自分のことを不細工な女だとも思わないけれど、魅力があるとも思ってない。町を歩いて、10人中1人振り返ってくれれば、飛び上がって喜べるような、中の下ぐらいの女の子だと自負している。ノゾミのストライクゾーンの広さには全くもって驚かされる。狙われているわけではないかもしれないけれど、アコの手前、あんまりいい気はしなかった。

「ねぇ〜お願いだからおしえてよ〜」

 ノゾミは母親に甘えるような目つきで、携帯を右手に持ったまま、私にすり寄って来る。

「何のために必要? 貴方はアコの友達ってだけで、別に連絡を取り合う必要はないと思うけど……」

 段々と近づいてくる気色の悪さと、その間延びした口調に、腹が立って思わず本音が漏れた。私の不機嫌さ察してか、不安げな表情で、アコが制服の袖を引っ張っている。

「あははは。アコの話に違わぬ、ツンデレだね……。なんだかレジーナ姫みたいで萌えるよ! 好きなんでしょ? 『ダブル・ブッキング』?」

 私は、アコの方を鬼のような形相で睨みつけた。他の人には絶対内緒という約束だったのに、色恋が絡むと女という生き物は、こうまではしたないものなのだろうか? けれども、その反面で、あんなに綺麗なお姫様に例えられたことは、不覚にも嬉しいところはあった。

「今度、俺の友達とアコの3人で、勉強会やるし〜。それに誘いたいから電話番号教えてよ〜ねぇ〜お願い〜」

 アコが両手を合わせているところを見ると、これが協力して欲しいという言葉の中身なのだと察知した。私は渋々頷く。日に二回も男の子と番号交換をするなんて、マキの付き添いで渋谷に行ってナンパされた時以来だった。もちろんその時の私は、彼女の当て馬的役割で、ついでのついでに…という形だ。

「別に構わないけど、もう一人の人って男? 女? あんまり知らない人と会うのは嫌なんだけど」

「いや、美和ちゃんのクラスメイトだよ。俺の幼馴染みの桜田太郎吉。地元では良く2人で遊んでるんだよ。名前ぐらいは知っているでしょ?」

 ランソン様以外の男に下の名前で言われたよりも、タロの名前が出てきたことの方に虫唾が走った。同郷の血は争えない。彼らの地元には、ロクな男が一人もいないのだろう。歴史にその名を残す土地になりそうだ。

「じゃあアコ! 俺用事があるから先帰るね。お前のおかげで、仲間が増えてうれしい!」

 メモリーに私の番号を入力しながら、彼はさっそうと帰っていった。アコはその姿を見ながら、頬を赤らめている。彼女の好みのツボは、てんで理解できなかったが、友人として仕方なく協力してやろうとは思った。



コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

そら来い! 更新情報

そら来い!のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング