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アナタが作る物語コミュの【青春活劇】中二病疾患 最終話『旅立ち』

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コミュ内全体

 俺の名前は葉山健、もうすぐ十五歳。前回でようやく十四歳になったばかりだと言うのに、もう十五歳かよ(メタ発言)。
 春休みで藻茶市に戻ってきた姉ちゃんと並んだ時、昔から背が高い方だった姉ちゃんと目線が近くなっていた。保健室で計ってみたら姉ちゃんより二センチ高くなっていた。いつ抜いたんだか。
 一年前は小学生時代の暴力のせいで怖かったはずだが、あまり怖くはなくなって来た。むしろこれからは見下ろす事になるだろうと言う期待にワクワクした。

「あなたももう遠くに行ってしまうのね」
 三年からは副担任になった灰田先生が言う。
「随分と遠くに行っちゃうねぇ」
 三年からは正担任になった勝地先生も言う。
 二人ともしみじみとした表情だ。
「まあ、家庭の都合ですから」
 俺はサラッと答えた。
「環境が変わるのが苦手な君が神奈川に行くなんてねぇ。大丈夫なの?」
 勝地先生は不安そうな顔をして訊く。三人しかいない教室は、やけに寒々しい。
「大丈夫。どの道、こっちに残っても両親も祖母も向こうに行っちゃうし、高校にも進学するし、かなり環境が変わるのは同じですから」
 言い切ってみる。確かにそうなんだから仕方ない。なら、家族が一緒の方がまだ良い。
「ま、大変だと思うけど、ちょっと調べてみたら割居くんの住んでる区と同じだし、電車で本田くんの住んでる街まですぐだし」
 灰田先生が言う。
 割居希は中二の二学期から中三の二学期までのクラスメイトで、藻茶市には地方留学と言う形で来ていたらしい。本田ユタカは元々東京都に住んでいて、有数の進学校に通っていたが、家庭の事情で藻茶市に移り住んだ。しかし、本格的に映画作りをしたい事、将来の進路の幅を広げたい事などを考え、おじいさんの家に下宿すると言う形で元の進学校に戻って行った。
 それ以外にも、姉ちゃんが進学した大学も同じ県内にある。
「世界って割りと狭いんですねぇ」
 一瞬、薄ぼんやりとした青白い女の顔が頭に浮かび、耳元にゾクッとする声が蘇った。柔らかくて細いのに、芯のしっかり通った声で、ゆっくりとしゃべるが決して舌足らずではなく、淡々とした響きだ。
 あ、あの人も東京なのにどっかの田舎とか言ってたっけ…。
 俺はだんだん鮮明になろうとする青白い顔を慌てて掻き消した。
「日本が狭いんだよ」
 と、勝地先生が言う。
「そうですね。勝地先生も灰田先生も、別れたはずの恋人とすれ違って気まずい思いとかしてそうですし。二人とも相手の足に縋り付いたりしそうですし」
 一瞬にして二人の表情が凍り付いた。
 またやってしまった。
 春の暖かな空気が寒さを和らげているはずの教室に、冷たい風が吹き抜けたような気がした。

 ___

「あんたくらいだよ、先生相手にそんな非常識なボケかませるの」
 立ち聞きするつもりなんてありませんでした。勝地先生から頼まれた雑用のため、教室に寄ろうとしたら、タケちゃんと勝地先生、灰田先生の面談に遭遇しました。そして、別れた恋人とすれ違って気まずい思いとかしてそうだの、二人とも相手の足に縋り付きそうとか、年齢的に(特に灰田先生は)焦っているとか…
「年齢的に焦ってるは言ってなーい!」
 私の語りに突っ込まないで下さい…。
 とにかく、その場をぶち壊す発言の瞬間に遭遇しました。ちょうど三人の頭にタライが落ちて、ぐわぁーんと音を立てた時、タケちゃんと目が合って私まで気まずい空気に飲まれたのです。
「まぁ、とにかく、頑張れよ」
 勝地先生が作り笑い全開でそう言ってくれたので、何とかあの気まずい教室から逃げる事が出来たのでした。
「葉山弟は相変わらず端から見る分には面白い奴だな」
 桜井先生が、わっはっはと笑いながら言いました。
「桜井先生、俺の名前は弟じゃありません。その内返事しなくなりますよ? それに…」
 タケちゃんは不機嫌そうな顔のまま、それに…の続きを桜井先生の耳元でゴニョゴニョと囁きました。
「葉山くん、お腹空いてない? ここの売店のクリームパン、超美味しいんだ」
 桜井先生は青ざめた顔でタケちゃんの顔色を伺い始めました。タケちゃんのニカッとした笑い方に、どす黒いものを感じずにはいられません。私の事を腹黒いとか言えたもんじゃありません。
 きっとタケちゃんは桜井先生の秘密か弱味を握っているのでしょう。一瞬、『はじめ』と言う言葉を聞き取れたので、はじめちゃんも関与しているのでしょう。
 そこから導き出した答えは…はじめちゃんと桜井先生はかつて恋愛関係にあった、と言う事でしょうか?
 それにしても、中学生が大学の先生の所に遊びに来るなんて、凄いシチュエーションです。食ど…ではなくカフェテリアでアホらしいボケとツッコミを繰り返す私達は、きっと浮いているでしょう。
「タケちゃん、ホントに行っちゃうの? 今からでも藻茶市で間に合う高校あるよ?」
「そこに寮はあるの?」
「バーバーには管理兼下宿で強志さんが残るから、一緒に暮らせば良いよ」
 私は桜井先生に奢らせ…奢ってもらったカフェオレを一口飲んで訊いてみました。コーヒーの苦みとミルクの柔らかさが口に広がりますが、いかんせん砂糖の甘みが強過ぎます。甘くすれば良い物でもない、と思いましたが、奢ってもらった物にケチを付けるほど神経は太くないつもりです。
「ツヨ兄には俺の世話は無理だろう。それに、家族とは一緒にいたいし」
 寂しげに呟くタケちゃんです。全く…世話してもらうのではなく、自分の事は自分で出来るようになって欲しいものです。ま、予想した通りの回答ですが。
「友達と離れるのは辛くないの?」
「辛いよ」
 寂しそうに即答です。これも予想通りです。
「でも皆、卒業後はそれぞれの進路を選ぶし、結構バラバラになってるよ? 内のクラス、藻茶市から出る奴多いし」
 そうなのです。タケちゃんと仲の良い子は割りと藻茶市を離れています。
 まず、田村明仁くんは鹿児島県で通信制高校に通いながら、家事スキルを活かして、立派なお屋敷で家政夫見習いになるそうです。
 津山浩樹くんは元々住んでいた静岡県に戻り、元々通っていた大学の附属高校に進むようです。お父さんの経営する会社の本社を静岡に移し、東京でも仕事を広げるため、家族で静岡に移り住むつもりのようです。
 森はじめちゃんはご両親と暮らすため戸成市に移ります。でも、あれだけ嫌っていたご両親と一緒に暮らす道を選ぶだなんて。この一年ではじめちゃんと森夫婦の距離はかなり縮まったように感じますが、不安は残ります。とは言え本人曰く、ダメだったら喫茶店に戻って、戸成市の高校なら電車通学できるから問題ないそうです。
 鈴木和也くんは、隣県の寮のある看護科高校に進む決意をしました。リストラされても食いぶちは確保できるようにしたいとの事です。これもカズちゃんのお父さんが過労の末にリストラされた事が関わっているのでしょう。ちなみにサッカー部はあるそうで、そちらの方は続けたいと言っていました。
 タケちゃんと親しくしていて藻茶市を出ないのは、佐藤雅希くんと阿久龍太郎くんくらいです。二人とも地元の高校への進学が決まっています。
「お待たせ〜。水沢の分も買っちゃった〜」
 チョココロネを頬張りながら戻って来た桜井先生は、タケちゃんにクリームパンを、私にメロンパンを差し出してくれました。
「桜井先生、いつもあざーっす」
「ありがとうございます」
 調子の良いタケちゃんですが、私はちゃんとお礼は言います。ええ、可愛くないですとも、子どもらしくないですとも。
 私はメロンパンをちぎって口に入れました。ビスケット生地がこんがり焼けていて、ふわふわしたパンにはよく合っています。

 ___

 部屋で段ボール箱を相手に苦手な整理整頓をしていると、音もなく気配だけがやって来た。
《やっほー、会いに来ちゃった》
(何だ、コミタか)
《何だとは何さ? せっかくもうすぐ会えなくなるから会いに来てあげたのに》
 コミタは元々尖っているクチバシを尖らせて見せた。俺は腕を差し出して止まらせてやる。
(それは神奈川と鹿児島で物理的に離れるから? それとも実体のないコミタはついに消えちゃうとか?)
 俺は、大理石みたいに真っ白な羽を膨らませて見せるおしゃべりオウムに訊いてみた。
《両方だけど、後者の意味合いの方が多いかな。健にだけは言うけど、もうすぐ明仁は隣りに寄り添う人に会うんだ。そうしたら私が寄り添う場所はなくなっちゃうから》
 伏せた目は少し寂しそうだ。いつもはくっだらないギャグばかり言っているせいか、シリアスがメタクソに似合わない。
(そっか。二人でアキを挟んで寄り添うって方法はないの?)
《それは無理だよ。明仁の隣りは左右二つあっても、そこに存在する権利は一つだけ。実体のない者は消えるだけ》
 割りと儚いと言うか、怖い事を平気で口にするオウムだ。
(中々潔いね)
《こうなる運命は分かっていたから。で、健はどうして神奈川に行くのさ?》
(家庭の事情。じいちゃんが病気しちゃってさ。夏から調子悪いなぁ、なんて思ってたら何か難しい名前の病気でさ、岡山や広島の大学病院まで行ったけど、神奈川の病院を紹介されて、ばあちゃんと二人きりで行かせるのが大変だから俺の両親もついて行く事になって、だから俺も行くの。一人暮らしも寮生活もまともに出来る自信ないし)
 コミタは銀色の瞳を時折光らせながら頷きながら訊いていた。コミタは頭の中を覗く事が出来るし、アキからも訊いていると思っていたから、知らなかったような態度には少し驚いた。
《自信ない、ねぇ。ま、健の人生だし健の好きなようにすれば良いよ》
(他にも、そっちに行けば電車で一駅の所に美術学科のある高校もあるんだ。藻茶市にはそんな高校はないし、自分の好きな事がどのくらい世間様で通用するか見てみたい部分もあるんだよ)
 決して親に振り回されているだけではない。ちゃんと考えてみたつもりだ。そもそも振り回されているだけだったら、徒歩圏内で平均的な偏差値の高校もあるのだから、そこに進むだろう。
《そっか。ま、頑張りたまえ》
 そう言うとコミタは白い羽を翻すように、壁へと消えて行った。実体がないから壁抜けも自由なんだ。
 全く、無茶な存在だ。
 俺は一人きりになった部屋で、中々進まない整理を前に、溜め息が出た。

 ___

「花ちゃん」
 アヤ姉の声はアルトで、変声期の酷い時期を脱してもやや高めなタケちゃんと裏腹に、落ち着いた印象を与えます。雰囲気や表情は全く違いますが、顔が似ているので姉弟だとははっきりと分かりますが。
 私はアーケード街で呼び止められ、振り返りました。
「こんにちは。帰省してたんですか?」
 髪は後ろで一つにまとめただけ、銀縁のメガネをかけたドスッピン、ベージュのチノにグレーのインナーと黒い上着。久し振りに見たアヤ姉は驚く程地味な女性へとなっていました。確か、中学を卒業してからは化粧とコンタクトとオシャレな服で、素敵なお姉さんになっていたはずですが…。
「うん、家も店も片付けなきゃ。後、住宅部分は強志に任せるから、きっちり話しを通しにね」
 タケちゃんの家族が神奈川に引っ越すため、お店も閉めてしまいます。
 でも、既にバーバーを継ぐための修業を始めていたバイトの強志さんまで放り出すのは無責任と言うものです。なので、タケちゃんのおじいさんおばあさんは、強志さんの新しい修業先の理髪店を近所で開業している知人に託し、バーバーの店舗兼自宅は引き払わずに強志さんの住居として貸し出す事に決めました。
 ちなみにアヤ姉と強志さんは婚約関係にあり、二人が二十歳になったら入籍、アヤ姉が大学を卒業したら一緒にバーバーで暮らし、強志さんが一人前の理容師になったらバーバーを復活させる計画のようです。
「花ちゃん、健の奴、藻茶市を離れても上手くやっていけると思う?」
 アヤ姉が訊きます。
「案外上手くやれると思いますよ」
「そうだよね。結構図太いし、腹黒いし、最近は何気に逞しいし」
 逞しい…しばらく会わないとそう思うのでしょうか。私は未だに、幼児期からの頼りなくて調子の良いタケちゃんのような気がしますが…。
「聞いたんだけどさ、はじめくんや和也くんもここから出て行くんでしょ? 花ちゃん、寂しくならない?」
 大学進学を機に一人暮らしを始めた人が何を言っているのやら…。
「私は大丈夫です。むしろ気がかりな奴らがウロウロしなくなって清々してます」
 少しだけ、見栄を張りました。本当は心配です。
「ま、龍太郎くんが残るから平気か。でも学校は別々なんでしょ?」
 リュウちゃんは市内では(滑り止めとして)有名な私立高校に進学する事が決まっています。そして私は、市内の公立では最難関と呼ばれる高校に進学する事が決まっています。別に自慢ではなく、単にガリ勉な地味子と証明されただけです。
「だから、私は世話焼きません。リュウちゃんこそ、弟か妹の世話焼かなきゃいけなくなるでしょ」
「弟か妹の世話ねぇ…結構しんどいんだよねぇ…ワガママで甘ったれだし」
 アヤ姉はタケちゃんへの愚痴に反れ始めました。さすがにそのタケちゃんの実姉です。しかし私も…。
「分かります、分かります。面倒い事とか押し付けられたり、都合の良い時だけ花姉花姉ってウザいし、ちょっと文句言うとガミガミ扱いだし」
 二人の妹である咲と実への愚痴になってしまいます。
「でさ、話しは戻るけど、寂しくないの?」
 アヤ姉は完全に話しが反れてしまう前に修正をかけて来ました。こう言う所は安心な人です。
「だから、寂しくないし、むしろ清々してます。私はマネージャー兼ボディガードじゃありません」
 ええ、そうですとも。更に言うと苦労好きでもありません。
「そう。なら良いけど。しかしあんた、随分と頭の良いとこに行くのね。将来とかどうするつもり?」
 アヤ姉こそ公立の大学に通っているのですが、それを言うのは嫌味と言うか、生意気と言うか、なのでそこには触れない事にしました。
「大学は理数系の学部に行って、情報工学を勉強するつもりです。大学院まで行って研究者になりたいと思ってます」
 先生の前でも祖父母の前でも言った本心です。ちなみに祖父母の和菓子屋は、双子の妹の咲が継ぎたいと言っていますので、そちらに任せるつもりです。
「割りと明確なビジョン持ってるのね。健はいい加減に美術系の大学か専門に行くかも、程度なのに」
「別に中学卒業までに明確なビジョンを持たないといけないって事もありませんから。タケちゃんにしては上出来な回答かと」
 ああ、また私は生意気な事をほざいてしまいました。高校は通信制だったので社会に出て働いていた…と、言うよりも起業していたアヤ姉に対してアレな言葉です。
 だから私は可愛くないのでしょう。
 本来『幼なじみの世話焼き委員長キャラ』ならもっとツンデレで可愛い女の子で、こんな地味で小言ばかり言っている上に、異性として認識されないなんて有り得ないはずです。アヤ姉ですら『幼なじみの世話焼き委員長キャラ』として恋愛対象として見られた事があったのに!
「そりゃそうだ。花ちゃん、やっぱ私より健をよく知ってるわ」
 私の自己嫌悪とは裏腹なのか、そこまで読み取ったのか、アヤ姉はわっはっはと笑いました。
 ああ、やっぱり私はこの人みたいにはなれそうにありません。
 いや、なりたいと思った事はないはずですが…。多分。

 ___

「なぁ、委員長。ここで二人で話すのって初めてじゃないか?」
 俺はふと訊ねてみた。
「そう…かな」
 立ち入り禁止のはずの屋上の鍵を委員長は持っている。だから、二人で話しをしたいから、ここに連れて来てもらった。
 別に二人きりになるのを避けていた訳ではない。単に周りに誰かがいただけだ。
「と、言う訳で一番古い友達の委員長に改めて言います。私、葉山健は誕生日の翌日には神奈川県へと旅立ちます」
「知ってる」
 いつになく冷静な口調だ。
「でも、私が一番古い友達なんだよね。タケちゃんが物事付く頃には既にいたもん」
「まるで双子だな」
 そう言って、尻を拭くのが下手なのでパンツを穿かないのに、ミニスカをよく穿いている奴の顔が頭に浮かんだ。
「双子は訂正する。咲と同列になりたくない」
「その理由は深く聞かないよ。聞きたくないから」
 委員長ははぁ、と溜め息を吐いた。春風は今日も優しく冷たく、最近伸ばし始めた髪を撫でてくれる。
「でもさ、ホント、私達って長続きしてるよね」
「そうそう。よく俺みたいなのに付いて来れるなって、逆にヒいてるくらいだもん」
「ヒくなよ、自分で」
 委員長はクスクスと笑い出した。
「でもタケちゃん、本当に向こうに行っちゃっても大丈夫なの? あんた、この街以外で暮らした事ないじゃん」
 吐き捨てるような言い方だ。何? 不機嫌アピール? 笑ったかと思ったら何で機嫌悪くなってるの?
「まあね。委員長は…凄く小さい頃にあるんだよね、東京」
「最終的にはあんたの行く街に流れ着いてたみたいだよ。東京、埼玉、神奈川って流れ流れてフラフラしてたみたい」
 それで怒ってるの? でも、じいちゃんの治療に最善と言われる先生がいるのがその街なんだ。
 じいちゃんの病気は多分治らないけど、少しでも長く楽しく生きていられるようにって、ばあちゃんと両親が考えた結果だ。
「ま、割居くんもいるし、本田くんの住む街にも電車で行けるしね。別にあんたは心配しないよ」
「心配してくれなんて言ってないし」
 ケンカしたい訳じゃないのに、こんな言葉しか出て来ない。委員長の顔は見たくなくて、空の青と雲の白ばかり見上げていた。
「そうだね。もう十五歳だしね」
「そうそう。俺も一人前の男にまた一歩近付く」
「あと何億歩かかるやら」
 またクスクスと笑い出す委員長だ。一体どんな心境だよ。悪い物でも食ったんだな、きっと。
「せめて何百歩にしといて」
「はいはい、あと四百六十歩くらいにしといてあげる」
「そうしてよ」
 全く、何で俺はこんな奴と話したくなったんだよ。
 いや、一番古い友達だからだけど。

 ___

 卒業式も終わり、タケちゃんの誕生日も一昨日過ぎ、昨日、タケちゃんはついに神奈川へと行ってしまいました。はじめちゃんもカズちゃんも今月中には引っ越しますし、みんな、バラバラになってしまいます。
 私は早く作り過ぎた制服に袖を通し、鏡の前に立ちます。
 中学までの紺ブレにグレーのスカートが、黒に近い紺のセーラー服に変わります。白いスカーフだけが妙に浮いていて、慣れないコスプレでもしているかのような気分になります。
 似合わないなぁ、なんて思ったので私服に着替えました。
 ああ、意味がない春休みの日々です。

 高校に進学してからも、地元なので同じ中学の出身者はいますから、当然のように学級委員に推された私は、あっさりとOKしました。
 でも、今の私を委員長と呼ぶ人はいません。私は水沢さんと呼ばれています。
 ずっとそう望んでいました。同じクラスになった子からは漏れなく委員長と呼ばれ、時々水沢と呼ばれてもピンと来ない九年間を過ごしていましたので、ちゃんと名前で呼ばれるのは嬉しいはずでした。
 なのに、何故か寂しさも付きまといます。
 今の私は委員長であって委員長ではありません。
 でも、私はちゃんと高校に馴染んで、一学期は瞬く間に過ぎて行きました。

「何かさ、普通は高校に入ったら大人っぽくならない? リュウちゃん、逆に子どもっぽくなってない?」
 リュウちゃんは丸刈り坊主にした黒髪、ピアスを取ったままの穴だらけの耳、それでいて制服の半袖のポロシャツはちゃんと着ていて、泥だらけですがスニーカーは学校指定の無地の白です。
「はあ? 俺はガキっぽくも大人ぶってもない」
 日焼けした顔を不機嫌に歪めるのは、子どもの頃から変わらないのですが、それ故にやはり子どもっぽく見えてしまいます。
「花ちゃん、リュウとは会ってたでしょ? ご近所なんだし」
 カズちゃんが言います。やはり、クラスどころか学校が違うと委員長とは呼んでくれないようです。花ちゃん…。
「あんまり会ってないよ。私は勉強とか忙しいし、リュウちゃんも部活とか忙しいし」
 私は素っ気なく答えてしまいました。もう少し可愛らしく答えられないものでしょうか。
「そうそう。ガリ勉女と違ってスポーツメンの俺は忙しい…」
 生意気なリュウちゃんは流し目で黙らせます。壁ドンするだけの価値もありません。
「おお! 花ちゃんの猛獣使い、久々に見た」
 はじめちゃんも目を輝かせてながら言います。こちらもやはり、花ちゃん…。
 久し振りにアーケード街の憩いの広場に集まった私達なのに、男子メンバーはそれなりにテンションが高いのに、私は不機嫌なガリ勉地味子です。
「で、タケは? 今日までに着くって行ってなかった?」
 咲が口を挟みます。いつからいたのでしょうか?
「知らないよ。しかし、タケちゃんも無茶するねぇ。ヒッチハイクで来るなんて…。今日どころが何日かかるやら…」
 私は溜め息と一緒に不安を吐き出しました。
「ちょっとそこら辺を歩いて来る」
 私は立ち上がりました。別にタケちゃんを捜しに行く訳ではありません。皆は捜しに行くつもりだと思うのでしょうが。

 各店舗のエアコンのお陰で涼しかったアーケード街から出ると、七月の太陽がジリジリと照り付けました。
 でも大丈夫です。ちゃんと日焼け止めは塗っていますから。
「委員長?」
 聞き覚えのある鼻にかかったような高めの声に、最近では誰も呼ばなくなった呼び方でした。
 私は振り返りました。
「タケちゃん?」

 ___

 横浜市から藻茶市までのヒッチハイクの旅は、思いの外サクサクと進んだ。
 まずは大阪まで行く長距離トラックに乗せてもらい、夜はその運転手さんの家に泊まった。小柄で柔らかな印象の人で、奥さんは明るくよく笑う人だった。二人には俺と同い年の孫がいるようだ。
 次に乗せてもらったのは岡山に帰る途中だと言うお兄さんで、彼も数年前にヒッチハイクで旅をしたらしい。物静かで大人しそうだが、インドにバックパック一つで出かけたり、世界平和のための署名活動をしたりと、何かと行動派らしい。
 その次に乗せてくれたのは、三十代前半と見える女性だった。戸成市に行くから、その途中にある藻茶市で下ろしてくれると言う。彼女は、今は岡山市に住んでいるが、いずれは離婚して実家のある戸成市に戻りたいと言う。離婚の理由についてはズカズカ触れる程、野暮ではないつもりなので訊かなかった。
 でも、車を下りる時に頬にキスをされた時は正直心臓が暴れまくり、このまま倒れるんじゃないかと思った。
 でもそれだけだ。連絡先も交換しなかったし、こんな変なおばさんの事は忘れるようにと念を押された。
 藻茶駅からは歩く事にした。
 炎天下を歩いていると、見覚えのある人を見付けた。
 地味な顔に、少し短くしたはずなのに相変わらず動きのない髪型、公立では市内一の偏差値を誇る高校の制服を着ている所を見ると、部活か委員会で登校していたのだろう。もう夏休みだし。
 俺はツカツカと歩み寄り、声をかけた。
「委員長?」
 振り向く。不満げな顔に相変わらずの黒渕眼鏡を乗せている。
「タケちゃん?」
 俺は頷いた。
「どうしたの、その頭? それにピアスもそんなにジャラジャラさせて…」
 ああ、やっぱりこのクドクドした感じ、委員長だ。変わらない奴だな。
「制服とか頭髪の規則がないから。バンド活動も始めたし。
 どう? 俺、見違えただろ? 別人だろ?」
「アホでひ弱なタケちゃんがヤンキーのコスプレしてるようにしか見えない」
 失礼な奴だ。
「何だよ、委員長も制服以外は変わらないじゃん」
「今でも委員長だけど、あんたのクラスの委員長ではないけどね」
 妙にトゲがある。
「でも今更花って呼ぶのも不自然な気がするんだよな。いっそ、水沢委員長花に改名したら? ミドルネームだよ」
「日本人って戸籍でミドルネーム付けられたっけ?」
「知らん」
「知らないのに言うなって」
 呆れたように笑い出した。ああ、やっぱりこの反応、委員長だよ。

コメント(4)

「タケちゃん、お帰り」
 委員長は俺を見据えると静かに言った。
「ほら、皆憩いの広場に集まってるよ」
 そう言うと俺の手を引いて歩き出した。

【了】
葉山「はい、ついに最終回だ、こんちくしょー」
水沢「もう八月だよ。いつの間にか物語の時間軸と現実の時間軸がズレまくってるよ」
葉山「で、委員長。何? その黒染めスプレーは…」
水沢「似合わないから。それにグレてた時のリュウちゃんのパクリでしょ?」
葉山「やめて!」
水沢「それにしても、皆バラバラになっちゃったねぇ」
葉山「ホント、それ。でもヨシは初めからそうするつもりだったみたい」
水沢「私だけ残って、それを見守るみたいな?」
葉山「無駄に心配して神経すり減らしながらな」
水沢「!?」
葉山「だってそう言うキャラでしょ、委員長」
水沢「そうだけど、それって私、かなり損じゃない?」
葉山「好きでやってるのに?」
水沢「その『ドMなんでしょ?』みたいな訊き方やめな」
葉山「に、してもラストシーンでのタライの雨はやらなくて本当に良かっ…」
水沢「やめなさい! 今からでもやられるから!」
葉山「ヤバいヤバい…」
水沢「ま、そんなこんなで、『中二病疾患』はこれにて終了です」
葉山、水沢「今までどうもありがとうございました!」
一話 空色デイズ 四月終わりから五月始め頃(作中での時間軸)
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二話 イタい子達のレクイエム 五月後半頃
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三話 イタい子達のレクイエムパート供]桟鄙鞍昇
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四話 アジサイの季節に 六月後半頃
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五話 雨上がりの屋上 七月前半頃
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六話 それいけ! アホ娘! アホ男! 七月中頃
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七話 夏時間 七月終わり頃
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八話 寄り添って眺める朝日 八月前半頃
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九話 涙色の夕日 八月後半頃
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十話 守るって何? 九月始め頃
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十一話 クラゲと一緒に旅に出よう! 九月中頃
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=80865622&comment_count=21
十二話 私の世界 九月終わり頃
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=81051118
十三話 砂時計 十月前半頃
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十四話 アイスクリームとキャッチボール 十月後半頃
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十五話 俺があいつであいつは誰だ? 十一月始め頃
十六話 眼鏡の地味子はモテモテ巨乳 十一月半ば頃
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=81549255&comment_count=14&from=one_tab
十七話 フラワー&ドラゴン 十一月終わり頃 十一月終わり頃
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=81965383#comment_id_1480051395
十八話 オネエなパパとキツネ犬 十二月前半頃
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十九話 ホットケーキ記念日 十二月後半頃
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二十話 僕らの帰る家 一月初め頃
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二十一話 ハブられ女子と老け男子 一月中頃
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=82544615&comment_count=13
二十二話 リトルムービースターズ 一月終わり頃
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=82544933&comment_count=21&from=community_list
第二十三話 兄弟ゲンカ多発注意報 二月前半
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comment_count=33&comm_id=3656165&_from=subscribed_bbs_feed&id=82546455&from=home_comm_feed
第二十四話 旅立ち直前と周囲の人達 二月後半
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=82906965&comment_count=30
第二十五話 空と水に溶けろ! 三月前半
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=82979376&comment_count=31&from=community_list
第二十六話前編 春風が吹いた時(オリジナル版)
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=83551812&comment_count=1
第二十六話後編 春風が吹いた時(リメイク版)
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=3656165&id=83551883&comment_count=6&from=community_list
最終話 旅立ち
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