東アジア世界－歴史と現在コミュの【文献紹介】三国・五胡十六国・魏晋南北朝（六朝）

中国史の中で漢帝国滅亡から隋唐帝国時代までの間の４００年間にわたる時代に関する文献を紹介するトピックです。

この時代は，後漢滅亡後，講談で有名な魏・蜀・呉の三国時代を経て，魏により天下統一され，後継国の晋（西晋・東晋）に引継がれたのも束の間，内政の乱れから北方異民族の侵入・自立を招き，五胡十六国の大混乱の時代となり，これらの中から華北を統一した北魏外の異民族政権（北朝）と混乱を避けて江南地方に逃れた東晋意向の漢族政権（南朝）とが対峙する南北朝時代へと展開する，中国史上稀な分裂時代です。

既読，未読を問いません。

最低限，著者名，書名，出版社は挙げてください。

内容の簡単な紹介，感想などを述べていただけると，ありがたいです。

コメント(4)

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[1] mixiユーザー 10月04日 22:01

川勝義雄「魏晋南北朝」（講談社学術文庫）

　「秦漢と隋唐の巨大帝国にはさまれた四百年におよぶ大分裂時代。専制君主なき群雄割拠の混迷の中から王義之，顧愷之，陶淵明，『文選』など，壮大な文化は出現した。後世の中国にあらゆる面で多大な影響を残す（華やかな暗黒時代）。その爛熟してゆく『貴族制社会』の形成，変容，崩壊の変遷を詳細に読み解き，中国文明の構造と得失を浮き彫りにする」（紹介文より）

　著者は，この時代を，同時期の西欧と同じく，中国が古代から中世へと移行した時代と捉え，この時代に始まる中国の中世は続く隋唐帝国の時代まで続くとしています。
　そして，西欧の中世が古代文明の全崩壊に至った文字通りの暗黒時代であったのに対し，中国の中世は戦乱続く世にあっても中国文明の継続性が維持され，「文選」や「世説新語」「顔氏家訓」，陶淵明の詩や仏教文化に代表される絢爛たる文化が花開いた「華やかな暗黒時代」であった点において，西欧とは顕著な対照をなすとし，その違いをもたらした原因を，騒乱の中で連綿と中国文明を継承発展させていった当時の中国知識人の存在に求めています。

　こうした著者の，この時代についての把握は，隋唐までを中国の古代と区分する東京の「歴史学研究会」系の見解に反対し，中国は魏晋南北朝時代以降中世に入ったとする京都学派の立場を代表するものです。
　それは，西欧に対して中国の後進性，停滞性を対比する「歴史学研究会」系，ひいてはマルクス主義系の西欧中心主義史観に対して，西欧に対する東洋の独自性，自己主張を唱え，「東西文明の融合」を旗印とする京都学派の伝統的な立場に立脚するものと言えます。

　この魏晋南北朝時代は，皇帝の下に整然と天下が統一された「一治」の時代に比して，乱世の中で中国史を彩る様々な構成要素が分子運動を繰り返す，その意味で中国文明の地金が見える時代です。
　帝国の権力をめぐる皇帝とその一族，外戚，宦官，知識人官僚，武人らの闘争，中国社会の基底をなす地方名望家に統率された農村共同体，地方に割拠し，広大な領地を保持し私兵を貯える地方豪族・地主達，窮乏し，各地を放浪して群盗化・軍閥化し，あるいは民間宗教の下に集い，遂には反乱の兵を挙げる流民達，帝国の衰亡に伴って周辺に割拠し，中原に侵入してくる異民族，そうした中で読書を怠らず連綿と中国文明を受け継いでゆく知識人層と，ここには既に，中国史を貫く基本要素が出揃っています。

　なお，この時代のとりわけ南朝の貴族文化，例えば，南朝の梁朝時代に編纂された詞文集「文選」などが，これからやや下った時期の日本平安文化に対して多大の影響を与えており，日本にとっても縁の深い時代と言えます。

　こうした時代の諸相を，著者は明晰かつ平易に説き明かしており，この時代の概説書として定評があります。

　著者川勝義雄（１９２２－１９８４）は中国中世史の権威で元京都大学人文科学研究所教授。

[2] mixiユーザー 08月22日 09:20

伊藤正文注「曹植」(岩波書店中国詩人選集３)

「歴史上、転換期といわれる時代には、しばしば、曹植のようなすぐれた詩人が誕生する。
　転換期には、よく凄惨な事件がともなうものだが、曹植が出あった後漢末から三国にかけての時代はことにひどかった。人人はおのれのもつエネルギーのすべてをかけて、明日の運命のためにたたかった。彼らはおのれを圧殺せんとする壁の存在を常に意識していたに違いない。それ故、この恐怖状態からの脱出を、他の抹殺という手段に求めたのであろう。そのように考えなければ、歴史にきざみこまれたあまりにも多くの無意味な死は、解釈できない。私には、人間のもつ限りない悪意が、狂ったように中国全土をかけめぐったのが、この時代であると思われる。
　しかしこのような時代に生まれた文学なればこそ、《建安の文学》と呼ばれて、後世の詩人たちの創作意欲をかきたてる理想的な文学となりえたのだ。だが限りない悪意への反撥を示しえたが故にすぐれるのではない。さらに。その悪意の所有者である人間そのものの把握に進み得たが故にすぐれたものとなったのである。我我は《建安の文学》に、文学の既成概念をふき飛ばした自由さ奔放さを感ずるとともに、人生の深淵を見せられる思いがするのはこのためである。そこには、ギリギリの生活に抵抗する文学者たちの凄まじいエネルギーの噴出があったし、文学者なるが故にひとり醒めたまま、狂気につかれた人間のあがきを凝視しなければならぬ苦しい思いがあった。しかもこの凝視は次には彼自身に向けられる。この意味で《建安の文学》は、余裕から生まれた文学と、著しい対比をなす。
　それ故、我我は、《建安の文学》の首魁が、幾十万の人間を殺した曹操であり、その代表選手が曹操の子の曹植であったことを忘れてはならない。」(解説より抜粋)

[3] mixiユーザー 10月09日 08:05

稲畑耕一郎監修「図説中国文明史５・魏晋南北朝・融合する文明」（創元社）

最新の考古学の成果をもとにした図説中国文明史シリーズの第５巻。

「魏晋南北朝は、分裂の時代、動乱の時代だといわれる。
　前後４００年に及んだ漢王朝の崩壊のあと、魏・蜀・呉の三国鼎立に始まり、ひとたびは司馬氏の建てた晋王朝によって安定が保たれたかに見えたものの、その晋がいくばくもなくして北方に勢力を得た民族の圧力を受けて江南に遷ると、やがて北でも南でも次々と支配勢力が入れ替わり、隋の統一に至るまで、実に大小３５もの政権がここに誕生しては、姿を消した。分裂の時代といわれる所以である。
　この間、史書に記される万余の兵力が衝突した大規模な戦いだけでも数百を数え、戦闘は日常化していた。各種の政治勢力による主導権争いや各地に割拠した政権間の戦いばかりでなく、政権内の内紛があり、諸民族間の衝突があり、さらに追い詰められた農民とそれを糾合した宗教結社による叛乱がこれに加わった。「死者万をもって計う」「白骨野を蔽う」「人相い食む」「存するもの百に一二なし」「千里煙なし」といった記述の数々を、この時代を語る史書のなかに見出すのは、どの時期であれ、難しいことではない。動乱の時代をいわれる所以である。」
「どれほどの大乱であったかを語る端的な指標は、この間の人口の激減である。後漢の後半にはほぼ一千万戸、五千数百万人を数えていた人口は、三国の争覇の後には二千万から三千万人にまで、ある記録によれば、一千六百万人にまで減少した。」
「それでも、生き延びんとした人びとは、戦乱の地を逃れ、安住の場所を求めて、大陸各地を東へ西へ、南へ北へと流離した。・・・これとは逆に、匈奴、氐、鮮卑などの民族で北辺から流入して漢族と入り混じった人数も優に一千万は超えると見られる。」（「監修者序文」より）

[4] mixiユーザー 12月15日 09:20

吉川忠夫「王義之　六朝貴族の世界」(岩波現代文庫)

「『六朝の書，唐の詩，宋の画』ということばがある。説明するまでもなく，中国数千年の歴史のなかで六朝，唐，宋それぞれの時代を代表する芸術をあげたことばだが，六朝時代を代表する芸術としてあげられた書，その六朝の書の第一人者に王義之をおすことはだれしも異論のないところであろう。王義之は俗に『書生』―書の世界における聖人―とよばれる。・・・
　ところで本書は，『書聖』とよばれる王義之の書そのものをとりあげて多くかたることはないであろう。そもそも至高の芸術はことばによる解説を必要とするであろうか。荘周は『意を得ては言を忘る』といっている。維摩居士は不二の法門に入ることのなんたるかを問われて，ただ黙するのみであった。芭蕉は松島について，『造化の天工，いずれかの人か筆をふるひ詞を尽さむ』といった。それにも似て，至高の芸術は言表のかなたの存在なのではないか。王義之の書そのものについては，読者みずからかれの作品にあいたいしていただくのがもっともよいと考える。本書は王義之のひととなり，生活，思想，信仰，およびかれの生きた時代についてもっぱらかたるであろう。書家王義之よりも，むしろ王義之を通して，４世紀の中国を生きた一知識人の全体的なすがたを描きたいを思う。・・
　王義之はなによりも一個の貴族であり，貴族として当然に政治にたずさわり，貴族にふさわしい教養の所有者であり，かかる教養のひとつとしてかれの書ひゃあった。それらの点があきらかになれば，かれの書に対する理解もきっとふかまるであろうと信ずる。」

著者は元京都大学人文科学研究所教授。専攻は魏晋南北朝思想史。

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