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しょおせつ2 補足コミュのmurakami1

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僕は腰が痛かった。オペが終わってすぐに近くにあった椅子に座りこんだ。オペの最中に気が休まるものといえば音楽くらいなもので、無機質な壁やライトに囲まれながら、ひたすらオペに集中するしかない。もちろんオペの最中に女性の裸なんて見ることはできないし、ポテトチップスだって食べられるわけがない。ただひたすらオペに専念し、患者の生命を守る。それは医者として当然の義務だ。オペが終わると、患者の遺族に知らせるために、まずはオペが終わったという合図をナースに内線を通じて伝える。僕の場合、電話のシャープを三回押すとピンクレディーのUFOを流すことができるようにしてある。それがオペが終わったという合図だ。曲の意味はない。ただ好きなだけだ。もしこれが患者にバレてしまったら、何を馬鹿なことをやっているんだという目で見られてしまうだろうが、過酷なオペが終わった後には、それぐらいのことは許してほしいと思っている。僕から言わせてもらえれば、世の中の人間は、僕も含めて我慢をしすぎなのだ。今日のオペの最中僕はこんなことを考えていた。たまには茶碗のご飯を手ですくって食べたっていいはずだ。手を使っておかずを取り、味噌汁の具を食べる。でも僕が知る限り、箸を使うのを止めて、今日は手でご飯を食べるぞ、と言った人間はひとりもいない。熱いかもしれないが、熱さによる手の皮膚の痛みによって余計にご飯がおいしく感じられるかもしれない。嫌、そんなことよりも、腰が痛いから座ってご飯が食べられば、僕にとっては幸せなことなのかもしれない。立ち食いそばは絶対にダメだ。あれは腰を痛める。僕が六時間のぶっ続けのオペの最中に考えていたのはそんなことだ。休みを取らずぶっ続けで六時間。山手線だと何周分になるだろうか。山手線に始発から終電まで乗り続けた人間はいるのだろうか。オペのメスを人体を切りつける以外に日常生活で使用した人間はいるのだろうか。僕は自分でいうのもなんだが結構オペがうまい。病院内でいえば医院長の次にオペがうまいのは僕だろう。だからオペが成功しても周りの医師やナースは当然のことだと思っている.。僕は難しいオペを終えて、一人の患者の命を救うことが出来たとき泣きたくなるぐらいに感動してしまうことがある。僕はいつだってオペが終わった後は褒めて欲しいのだ。いつだって今日のオペも素晴らしかったですね、というふうに言ってもらいたい。だがもはや僕のことを褒めてくれるような人間はいない。オペを失敗した時には、山ほどの人間が僕のことをきっと非難するであろうというのに。だからというわけではないのだが、僕はオペが終わった後、泣き出してしまった.。「どうかされましたか?」と声を掛けてきてくれたのは、同じオペに臨んだ僕と同い年のナースの奈津実だった。「僕は何でもないんだ」と言った。どうせわかるわけがないと思った。「奈津実が学生の時、学校の先生で泣いてくれた人はいるかな?」と僕は唐突に尋ねた。「ありますよ。中学生のときにクラス対抗の運動会で私達のクラスが優勝した時に、お前達よくやったって言って、担任の先生が泣いてくれましたよ」奈津美はつい最近あった出来事であるかのように言った。「そっか。それは良かった。やっぱり仕事をしている時でも嬉しくて泣くっていうことは大事なことなんだよね」と僕が言うと、奈津実は僕の涙をティッシュで拭いてくれた。「ありがとう」と僕は言って、腰を押さえながら医局へと戻っていった。

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