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みんなで勝手にリレー小説コミュの[第一回本編]

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コメント(9)

「やばい・・・どうしよう・・・」
自室にある机に向かい、背もたれに大きく体を預け、一枚の紙を眺めている少女がいた。その紙には「統一模試結果」と題されていて、その少女が出したであろう結果が一覧表のようになっていた。428/500、と書かれている。
少女がちらと視線をやった、机においてあるもう一枚の紙にも、3ヶ月前の日付になっている「統一模試結果」がおいてあり、そこには433/500と書かれていた。3ヶ月前の模試から、5点落としている。だが、この少女にとってこの5点の差は重要でなく、得点そのものが重要だった。
「やばい・・・どうしよう・・・」
少女は再度つぶやいた。いくら眺めても得点が変わるわけではないし、そんなことは本人にもわかっていた。だが、眺めずにはいられなかった。
少女の名は、倉本 結衣(くらもと ゆい)。公立橘高校3年生。進学率の高い高校で、2年生になったばかりのときから、すでに大学受験に向けて猛勉強を進めるクラスメートに囲まれていた。結衣の両親も大学進学を期待しており、特に父親は厳格で、進学以外は認めていなかった。
結衣は、そんな環境がイヤだった。勉強勉強、自我を抑えてまで、好きなことを我慢してまで、勉強を続けることがイヤだった。自分の価値=勉強と成績。そんな環境に我慢ができなかった。そんな時、違う高校に通う中学時代の同級生の男にバンドに誘われた。
「ボーカルを探してるから。」なんてことのない一言だったが、自分が必要とされている気がして二つ返事でOKした。学生のバンドらしい、いわゆるコピーバンドだった。コピーしたのは、少し前に一世を風靡した3ピースバンド「ヒステリック・ブルー」。結衣はここで、衝撃的な歌に出会った。ただ聞いているときは流れていくだけだったがだが、実際に歌詞を理解し、歌ったことで内容がダイレクトに心に響いてきた。


授業よりも、食事よりも、もっと大切なこと。私、歌が好き


「春・spring」と題されたこの曲が、大好きになった。それから、毎週バンドが楽しみになった。気分転換になったのか、勉強もさほど苦ではなくなってきた。正確には、練習をするときの気分転換が勉強になっていて、成績は2の次になっていた。
高校2年が終わりに近づくにつれ、それまで何も言わなかった結衣の父親が、バンド活動に対して口を挟むようになった。そして、2ヶ月前、ついに父親から要求が出た。

「いつまでこんな遊びを続けるんだ?勉強は?成績は?そんなので大学いけると思ってるのか?」
食後の食卓で、父親が突然切り出した。
「遊びじゃないし!勉強だってちゃんとしてるじゃん。なにがいけないの!?」
突然の否定でカッとなった結衣はつい強い口調で反論した。
「お前の同級生は、お前が遊んでる間にも勉強してるんだぞ。すぐにおいてかれるんだ。」と父親。
「テストだって、点取ってるじゃん!なにがいけないの!?」
結衣は冷静さを失い、ただただいった。父親はそれをじっと聞くと、声のトーンを変えて話した。
「母さんからテストのことは聞いてる。でもまだ先は長いんだ。今はよくてもすぐに後悔するんだぞ?」
「バンド辞めたほうが絶対後悔する。」結衣が即答する。
「まったく・・・」少し困惑した顔で父親が続けた。「そんなに言うなら、約束をしよう。今度の模試で、今回以上の点を取ったら、バンドは好きにしていい。でも、低い点を取ったらバンドはやめる。どうだ?」
「点数取ればいいんでしょ?わかった。」
結衣は吐き捨てるようにいうと食卓をあとにした。リビングにある自室に行くための階段を2,3段上ったとき、結衣は父親を睨むと、つぶやくように、
「お父さんて、そればっかり」
というと部屋に入っていった。

そして今、そのとき啖呵を切った結果が出ていた。背中の中ほどまではあろう、綺麗に手入れをされ、ひとつに束ねられた漆黒のロングストレートの髪を触りながら結衣はつぶやいていた。
「やばい・・・・どうしよう・・・・」
さっきから、その言葉しか出てこなかった。

そんなとき、ベットにほってあった携帯が突然鳴り出した。
着信 小川 美奈
結衣は急いで電話に飛びついた。
「もしもし結衣?統一の結果、お父さんに言った?」
美奈は高校入学から同じクラス。橘の中では平凡な成績だが、ずば抜けた運動神経の持ち主で、1年生からバスケ部のエースとして活躍している。
美奈は思った事をハッキリ言う。こうだ!と思った事は、例え何があろうともやりとげる。そんな主体性に溢れた男勝りな性格に、決められたレールの上を走る事しかできない結衣は憧れ、何でも話し相談をしていた。そして美奈は誰よりも結衣を応援し、また心配もしてくれていた。

「ううん…まだ言ってない。」
「だよね、まぁ…言えないよね。」
珍しく二人の間に重たい沈黙が流れる。
「で、でもさ、428点取ってるんだよ!?これってT大余裕で合格ラインじゃん!?あたしなんて299点しかいかなかったし。」美奈の励ましが虚しく響く。
「美奈だって、うちのお父さんの性格知ってるでしょ!?統一の結果、言ったらどーなるかくらい…」
分かってる。美奈だってお父さんの結論を分かってて励ましてくれている。だが結衣はバンド脱退という約束を果たさなければならない絶望感に支配され、どうしていいのか分からなかった。
「…ねぇ結衣?とりあえず家に来ない?」
「え?」
「こーなったら結衣がバンド辞めなくて良いように作戦会議するよっ!中間試験の勉強会って事にしてさ!結衣のトコにはタイミング見て、私から『勉強会してま〜す!』って電話するし!」
美奈らしい気の使い方が何だか嬉しかった。帰りがそこまで遅くならなければお父さんもうるさくは言わない。それにこのまま一人で考え込んでいたら、本当に頭がどうかしてしまいそうだった。

美奈の家へ向かう自転車のペダルがいつもより重い。まだ夏だというのに、今日は何だか一足早く秋が来たかの様な涼しい風が吹いている。空を見上げると夕焼けに染まる金色の鱗雲が天高く敷き詰められていた。そんな景色を漠然と見ながら、只々ため息ばかりついている。

ピンポーン
「結衣、遅かったね〜!さては作戦会議用に食料を調達してきたのかな〜?」
「…あ!ごめん、お菓子かジュース、買ってくればよかったね。」
「いいよ、たぶんそんな事だろうと思って手は打ってあるからさ!とりあえず上がって!」
美奈の部屋で床に座るなり私は机にうつ伏せて、また大きなため息をついた。
「ほら〜、もぉそんなため息ばっかついててもしょうがないんだから、作戦考えるよ!」
「だって…前回のテストよりも点数が下回った事実は変えようがないじゃない…」
「でもさ、5点じゃん5点!ホントちょっとだけだよ!たった1%下がっただけ!」
「それじゃうちのお父さんは折れないよぉ…『入試で合格点に5点足りなかったが、ちょっとだけなんだから合格でいいだろう。なんて事があるか?』って言われてオシマイだよ。」
「じゃぁ…じゃぁ…強行突破!?こーなったらお父さんに反抗して、結衣のやりたいバンドを意地でも続けちゃう?」
「それ、作戦でも何でもないじゃない…」
「……ちょっとアタマ使いすぎた…」
ベッドに寝そべり頭を抱える美奈を横目に結衣はじっくりと考えた。お父さんとの約束、カッとなっていたとはいえ、破るなんて怖くてできない。でもバンドは?せっかく自分が夢中になれる物を見つけたっていうのに、それをむざむざ捨ててしまわなければいけないなんて、絶対イヤ。でも…じゃぁ…どうしたらいいのっ!?

ピンポーン
「やっと来たな〜」そういって美奈は起き上がり玄関へと走って行った。
ドタドタ
「わりぃ!遅くなった!買出ししてたら、ついあれもこれも買っちゃって」
「タク?どして??」
この背が高くて小さな丸いサングラスをかけた男が結衣たちのバンドのドラム、平川 拓司だ。タクは3年生から同じクラスで学年のムードメーカーでもある。普段のおちゃらけた雰囲気からは想像できないしっかり者で人望も厚く、また学年でもトップクラスの秀才でもある。
「へへ〜ん、あたしが呼んだの!作戦会議なんだから、関係者もいた方がいいかなって!」
「作戦会議?中間試験の勉強会じゃねーのかよ!?」
「そんな場合じゃないのっ!結衣がピンチなんだからっっ!」
タクは全く状況が飲み込めていない。結衣は仕方なく「お父さんとの約束」を話す事にした。

・・・・・・

「何だよソレ…俺らのバンド、そんなんで潰されてたまるかよ…おい結衣!リーダーにはこの事言ったのか?」
「い、言えるわけないよっ!!心配…かけたくない…」結衣は顔を上げることができなかった。
「だから結衣が今まで通りバンドを続けられる、そんな作戦を考えてよ!」
美奈も必死にタクに訴えかける。

しばしの沈黙のあと、タクが静かに口を開いた。
「オッケ。だいたいできた。この作戦ならいける。」
タクの瞳の奥が静かに燃えていた。
「んじゃ、ちょっと出かけてくるわw1時間ぐらいで戻る。」
「ちょっと!でかけるってどこに?!まさか結衣の家に単身乗り込む気じゃないでしょうね?!」

「落ち着け。そんな火に油を注ぐようなことを実行できるのは俺の知る限り美奈ぐらいだよ・・・少しは信用しろって」

そう言い残すとタクは足早に部屋を出て行く。足取りは非常に軽かったように思える・・・

「( ゚Д゚)・・・・」
「信用しろって言われてもねぇ?」
「うん・・・」
信用していないわけじゃない。タクは十二分に信用に足る人物である。
けれど今回は事情が事情だし・・・しかも考え始めて10分そこらでいきなり
出かけてくるといわれたら不安がるなと言われるほうが無理だ。
ぅ〜・・何か考えすぎて頭痛くなってきた・・タクも1時間ぐらいはかかるって
言ってたし、美奈には悪いけど仮眠を取らせてもらお・・


PM6:00 −タク−
(さーて、時間もないしちゃちゃっと動きますかね。ってしまった・・
結衣が何時まで美奈の家に居れるのか確認するの忘れてた・・・あいつの
親父さん厳しそうだしなぁ〜、引っ張っても9時ぐらいか・・)
そんなことを考えながら携帯のアドレス張を手際よく開いていく。
こいつにはほぼ毎日電話してるとはいえ・・・
今回の俺の計画では惜しくも人選漏れしちゃった悲運のお方であり、
無駄に申し訳ない気持ちで発信ボタンを押してたりする
・・・8コール・・・9コール・・・相変わらず出るの遅いな・・・

「もしもし、どうしたタク?」
「ああ、すまん彬。ちょっと急ぎなんで手短に・・・楓さんいる?」
「ん?姉貴?まさか告白する気か!?Σ(・ω・ノ)ノ」
「馬鹿!冗談言ってる場合じゃないんだって、結衣がさ・・・」
どの道こいつにはこれからの流れを把握しておいてもらわないといけなかったんで、時間がないなりに今の状況と作戦を説明することにする。
 紹介が遅れたが今話している相手は 松山 彬 俺らのバンドのリーダーで担当はギター。結衣をボーカルに誘い入れた張本人である。
 んでこいつの姉に当たるのが 松山 楓    ・・さん 初代リーダーにして前ボーカル。容姿端麗なんだが見た目にだまされてはいけない。小悪魔・・いや、もうひとがんばりしたら悪魔に昇進できそうなぐらいの黒さを秘めている(* ̄д ̄)    現在天下のH大学2年生。タクが唯一頭が上がらない人でもある。

「なるほど、そういうことならすぐ変わろう。姉貴も携帯ぐらい持てばいいのにな、今のご時世小学生だって持ってるっていうのに。・・姉貴、タクから電話」
途中から声が小さくてよく聞き取れなかったが・・おそらく呼び出してるのだろう

「もしも〜し、どうしたタク?」

「あ、楓さんすいません。実はですね・・」

 状況&作戦説明。
「ふむ。理解はできたけど・・・その役目は彬じゃだめなの?今のリーダーはあの子なんだし」
「俺等だと言い合いになっちゃってうまくまとまらないと思うんすよ。楓さんの行ってる大学って結衣の志望校だし、結衣から見たら尊敬できる先輩だし説得もしやすいかな・・と」
「なるほどね、そういうことなら協力しましょう。それじゃ今から出るから・・集合場所はF駅でいい?」
「はい、今駅の方に向かってますんでそこで。」
「了解〜。   あ、彬ー」「ん?」

「そこにあるレポートの清書やっといて〜、期限今日中(笑)」

電話はここで切れてしまった・・すまん彬・・・
この後予定通り集合して世間話やら作戦の打ち合わせやらしてる間にあっという間に小川家の前に到着した。

PM7:15 −結衣−
「結衣、結衣っ!」
ん〜、美奈の声が聞こえる。寝ぼけた目で時計を見てみると7:15分・・
いけない、仮眠のつもりが本格的に寝入ってたみたいだ。頭がぼーっとする。
「やっ!結衣ちゃん久しぶり、私のことわかるー?(^^;」
「久しぶり・・あ、え!?か、楓さん?!」
「お、いい反応だw目は覚めた?」
そりゃもうバッチリ。結衣とは関係ないが早出の時に遅刻確定の時間帯に起きてしまった時ぐらい覚醒した。(あれはたまりません・・ほんっとに)

「それじゃ、お待たせしました。今から作戦の説明に入るね」
決して狭くはないんだけど4人入ってちょっと人口密度が高くなってしまった美奈の部屋で仕切りなおすようにタクが説明に入った。

思い返してみると・・・
この日は18年の人生の中で一番ハードな日だった・・・
                        -to be continued-







帰宅途中の電車で私は娘のことを考えていた。その日は娘との約束の日だった。
当時、娘は学校の友人と組んで音楽活動を行っていた。そのことで娘と意見が衝突していたのだ。弁解しておくが、私は音楽家という人種を尊敬している。人の心を引き付ける才能は素晴らしいものであり、勉強しか取り柄のない私にとっては尊敬の対象である。娘の活動は自称音楽活動という表現の方が相応しかった。休日に路上で昔流行したアーティストの真似事をする程度だというのだから情けない。大事な一人娘がこんなものに時間を浪費していると思うだけで鳥肌が立ってきた。
私は何度も娘にバンド活動を―いや、遊びを止めて受験勉強に専念することを進言したが、娘は聞く耳を持たなかった。娘とは顔を合わせる度に口論になった。幾度目かの口論の際に、私は娘に次の模試で今回以上の点を取ればバンドを続けてもいいが点数が下がれば辞めるようにと提案した。娘は二つ返事で了解した。
我が家の玄関で妻が出迎えてくれた。
「お帰りなさい。今日は遅かったのね。」
皮靴を脱ぐ際に、娘のスニーカーが無いことに気がついた。私が問うと妻は困ったような表情で答えた。
「学校から帰った後に美奈ちゃんの家に行ったみたいよ。すぐに戻るって言ってたけど…」
リビングのソファーに腰を掛け、妻が冷蔵庫から缶ビールを運んできた頃だった。玄関から「ただいま」という娘の声と同時に、数人の「お邪魔します」という声が聞こえてきた。
「あら、おかえりなさい。友達も一緒なの?」
妻と私の視線は娘の後ろに注がれた。玄関には以前紹介された娘の友人―バンド仲間である小川美奈と平川拓司の他に一人、見知らぬ女性が居た。女性は松山楓と名乗った。
お互い簡単な挨拶を終えると、即座に彼女は私に話があるという旨を述べた。
突然の訪問に戸惑いながらも、妻は冷静に彼女らをリビングに案内した。我々はガラステーブルを挟む形でソファーに腰を掛けた。彼女らのために、妻が飲み物を出したが松山楓はコップには手を付けなかった。彼女は威圧的とも表現できそうな視線で私に言った。
「結衣にバンドを続けさせて下さい。」
ある程度予想していた内容だった。下を向いている娘に問いかけた。
「模試はどうだった?」
娘の沈黙は全てを物語っていた。沈黙をかき消すように、松島楓が意見を述べ始めた。
「たった5点足りなかっただけです。」
「でも、足りなかったんだろう?」
私の反論が余程不満だったのだろう。彼女は私を睨んだまま鞄の中から一枚の紙をテーブルの上に叩きつけた。その用紙には統一模試結果と書かれており、娘の名前と共に模試の結果が記されている。
「良く見て下さい。結衣ちゃんの点は確かに下がっていますが、全国平均点はもっと大幅に下がっています。偏差値に換算すれば以前よりも結衣ちゃんの数値は大幅に上がっているんですよ。これを見てもお父さんは結衣ちゃんの成績が下がったって仰るんですか?」
まるで暗記した内容を忘れないうちに言い切るかのように彼女は言い放った。私は表情すら変えなかった。
「成績が下がっているかどうかは関係ない。点数が上がったか下がったか―結衣との約束はその一点だけだ。」
結衣は未だに無言で下を向いている。再び松島楓が鞄から何かを取り出し、彼女はその紙を丁寧に私に差し出した。文頭に嘆願書と書かれていた。用紙を凝視している私に向って、小川美奈が初めて口を開いた。
「クラスのみんなの家を回って、署名してもらったんです。私たちだけじゃなくて、みんなが結衣にバンドを続けてほしいって思ってることをお父さんに分かってもらいたくて…」
ざっと一クラスの人数分の署名が連なっていた。私は動揺を隠せなかった。
「おじさん!マジお願いします!」
私の視線の先には土下座をしている平川拓司の姿が映っていた。
会社勤めを続けている間に何度か土下座をしたことがある。その時の気持ちを思い出していた。
私には自分のために土下座をしてくれるような友人がいるだろうか。
私の考えが定まらぬうちに、松島楓が述べた。
「お父さんはこれを見てもバンドを止めた方が良いと仰るんですか?」
彼女の言葉には不思議な説得力があった。松島楓が言葉を続けた。
「これが結衣ちゃんの才能です。」
―才能
その一言によって私の最後の砦は崩れていった。娘には、私が尊敬する音楽家と同種の才能が備わっている。人を引き付ける才能だ。
その事実に感動した私は、成績を保つことを条件にバンド活動を続けることを許可した。
松島楓達が帰った後、私はテーブルの上に置かれた缶ビールを開けた。既に温くなっていたが、実に美味しいと感じたのを今でも覚えている。
その夜の私は道化師と呼ぶのに相応しいだろう。
娘の為に友人が署名してくれた嘆願書―
その全てが『嘘』だと私が知るのはまだ先のことだった。
「結衣、いくらなんでも落としすぎだぞ!」
近所迷惑になるんじゃないかってぐらいの父の怒鳴り声が居間に響く
398/500 「統一模試結果」の一覧表には確かにそのような数字が書かれている。
「後半年もしたら受験なんだぞ?!わかってるのか!」
「うん・・・」
テーブルにうつむいてただただ申し訳なさそうに話しを聞いている
そんな結衣を見て少し冷静になったのか
「・・ふぅ、バンドが大事なのもわかるが・・・受験の方は今からが正念場なのは
お前も十分わかっているだろう?成績を維持するという条件でバンドも許可しているのだから、次はこんな結果にならないように。」
「うん・・・」
話が終わると結衣は部屋に戻っていった。最近の結衣はどうも様子がおかしい。バンドに没頭しているという風でもないし・・
むしろここ一ヶ月ぐらいで見たら帰宅時間は以前より早くなっているように思える。
「もしかしたら、あなたを説得する為にいろんな人の力を借りちゃったからプレッシャーになっているんじゃないの?誰かさんに似て責任感の強い子だから」
「おいおい、誰かさんは無いだろう」
思わず苦笑してしまったが確かにありえない話ではない。責任というものは適度にかかる分には良い刺激になるが、かかりすぎると潰れかねない。まして結衣はまだ高校生だ。それに・・妻がこう言い出すときは決まって
『あなた、なんとかしてください』
という合図でもあるのだ。以前空気が読めなかったがために倉本家から3日間晩酌と煙草が消えてしまった・・今父娘揃って落ち込むわけにはいかない!!
「母さん」 「はい?」
「後で結衣の様子を見に行くから・・晩酌頼む」 
 
「はぁ・・・」
部屋に戻ってからずっとこんな感じだ。例の一件以来ため息をついてない日がない。最近考えっぱなしで自分がわかんなくなる・・・
歌が大好きだ 仲間もできた 
 失いたくない 失いたくない・・・でも それは
  約束を破って 大切な仲間に嘘までついてもらって
 貫くものだったのだろうか?
タクの作戦を聞いたとき止めることができたはずだ。バンドの活動は難しくなるかもしれないけど歌うことはできた。受験が終わればお父さんだってさすがにバンドのことには口をださないだろう。
「何でもっと冷静になれなかったかなぁ、私・・」
覆水盆に帰らず・・だっけ、起こってしまったことに対して何を言っても元には戻らないのはわかってる・・でも、あの「嘘の嘆願書」が、両親に、仲間に、そして歌に・・その全てに嘘をついてるようで・・あぁ、初めて陥ったからわかんないけどこういうの鬱って言うのかも知れない。
そんな時、「春・spring」と共に携帯が鳴り出した。この着信音に設定している人は一人しかいない。私は慌ててポケットの携帯をとりだした。   -続く-



 楓さんに説得してもらいつつ、頃合いを見て嘘の嘆願書を見せてダメ押し!
これが俺、平川拓司の考えた作戦である。     表向きの・・
この作戦には実は裏があったのだ・・楓さんと彬にしか話してないが、作戦は失敗する予定だった。バンドに反対している結衣の親父さんが説得に応じるとはどうしても考えられなかったし。結衣は3度の飯よりも歌(バンド)が好きだからな、それを取り上げてしまったら勉強なんて手がつくわけがない。次の統一模試の結果は見なくともわかる。そうなってからが勝負だった・・
成績ががた落ちした模試結果と共に俺と彬で倉本家へ再度説得。

「っていうのがお前の描いたシナリオだったな、タク」
「だからそう怒んなって・・まじで反省してる・・・」
ここまで怒ってるリーダーを見るのは今回が初めてかもしれない・・
「お前は昔っから詰めが甘い、そこまで段取り組んでるんだったら何で説得が成功しちゃった時のことまで考えてねえんだよ?話聞く限りじゃ今最悪の状況じゃねえか」
仰るとおり・・実のところ結衣とはもう1ヶ月近く会ってない。バンドの方もしばらく休むってメールがきたっきりだ・・・
「これ以上言ってもしょうがないな、俺今から結衣に電話すっから切るぞ」
「ちょっ、電話ってまじかよ?」
「こんな時に動かなかったらリーダーの意味ないだろ。来週は『3人で』ミーティングするからな、じゃな」





彬からの着信。結衣は通話ボタンを押そうとした。しかし、言葉が見つからず出ることが出来なかった。メロディがいったん止み、すぐにまた同じメロディが流れ出した。
少し息を吸い込むと、思い切って結衣は電話に出た。

「・・もし・・もし・・・」
次の言葉がでてこない。
「俺の電話にすぐでないとは、偉くなったな〜結衣。」
彬の声は相変わらずだったが、逆にそれが安らぎをもたらすかのように結衣の耳に響いた。
「あ・・ごめん。」結衣がつぶやくように言った。
「連絡よこさないから心配したぞ。タクにも会ってないのか?」
「うん・・・」
混乱し始めた頭では、何を話していいか分からなかった。それを察してか、少し間をおいてから彬はゆっくりと尋ねた。

「どうした?」
「やっぱり・・・・ダメだよ。嘘ついてまでやりたいことやったって・・・なんか違うよ・・・」
「嘘って・・・お前・・・」
「だってそうじゃん!お父さんに嘘の署名なんてみせて・・・」
「そりゃ、そうだけど・・・」

しばしの沈黙。結衣が何を考えているのか、彬にはよく分かった。嘘をつくことは、彬にも抵抗があった。タクの作戦で想定外の結果が出てしまい、そのことで嘘を肥大させてしまったことに困惑していた。バンドを守ることを最優先に考えてしまったことが、逆に仲間を苦しめることになる事実に、彬もまた苦しんでいた。

「じゃぁ、どうしたらいい?」彬が、静かにではあったが問う。
「わかんない!」結衣の声は今にも泣き出しそうだった。

「・・もうやめるか。俺たち。」しばしの沈黙をやぶる彬の強烈な一言だった。
「えっ・・・・」結衣は耳を疑った。しかし彬はなおも続ける。
「今ならまだ間に合うだろ。全部親父さんに話して、謝って、俺らと縁切って解散するか。」
彬は淡々と、しかしはっきりとしゃべった。覚悟を決めたような口調に、結衣は背筋が凍りついたようになった。
「でも・・・でも・・・」そう言うのがやっとだった。
「苦しむくらいならさ、今回のことは皆でお前の親父さんに謝って、そしたら解散しよう。」

どんな名女優でも、そのときの結衣を再現するのは難しいだろう。それほどに結衣は困惑し、混乱した。彬はふぅと大きく息をついた。勢いとはいえタクになんと説明をしよう、彬はそんなことを考えていた。

「だめだよ・・・・・」
消え入りそうな声で、結衣がしゃべった。声が小さく、聞き取りづらかったのか彬はつい「えっ?」と聞き返した。その声が聞こえたのかは分からない。しかし、結衣は冷静さを欠いた頭で強く言った。

「やめちゃったら、彬と一緒にいれなくなっちゃうよ!」

しまった!と電話にもかかわらず結衣が手で口を覆った。感情的になると本音が出てしまう結衣の悪いくせが出た。美奈にも言ってない気持ちが、つい出てしまった。あわてた結衣がなんとか弁解を試みようとするより早く、彬が言った。
「アホ・・・俺だって気持ちはお前と一緒だよ。」

それを聞いて、自分の耳までが熱くなっていくのが結衣自身にもよく分かった。先ほどの彬と代わって、今度は結衣が「えっ?」と聞き返した。動揺を悟られないように、慎重に。
「俺だって、お前と・・・」彬は続ける。彬の言葉のたび、鼓動が早くなっていく気がしていた。その先を聞きたいような、聞きたくないような今まで感じたことのない感情が結衣の体を走り回った。

「お前とタクと一緒じゃなきゃ、バンドなんてできねぇよ」

「え?」
結衣の聞き返す声のトーンが明らかに変わっていた。高まるはずの鼓動がどんどんと沈静化していく。逆に彬はテンションが上がってきたのか、饒舌になってきた。
「お前の歌とタクのドラムじゃなきゃ、俺のギターは鳴かねぇっつーの。お前だって俺のギターじゃなきゃダメだろ。結衣!」
「え!?あ、う・・うん。そ、そだね・・・」肩透かしを食らって、適当な相槌を打つしかなかった。
「彬は頭いいけどバカだからね」楓からもそう聞いていた。本当にバカだったんだ・・と結衣は再認識した。

「よし、」と彬。「解散なんてやっぱりなしだ。月曜19時、駅前公園な。じゃ!」
「あ、ちょ、ちょっと・・・」待て、と言おうとしたが電話からは無機質な音がすでに流れていた。一方的に電話を切られ、結衣は電話をベッドに放った。しかし、悩みを吐露した為か、少し気が楽になった気がした。とりあえず月曜に公園へ行こう。そう考えていた。

結衣は気づいていなかった。自室の扉の前にいる父親に、今の会話をすべて聞かれてしまったことに。ノックをする前にかかってきた電話。娘に悪いと思いつつも、つい会話を立ち聞きしてしまった父親は、騙されていた事実にショックをうけ、怒鳴り込むことも出来ずに静かにリビングに戻っていった。
外は、父の気持ちを表すかのようにしとしとと雨が降り始めていた。
盗み聞きをするつもりは無かった。
娘を元気づけようと2階へ向かい、部屋のドアをノックしようと右手を軽く握った瞬間、娘の声が聞こえた。

『嘘の署名』

私がこの言葉の意味を理解するのに、どれだけの時間を要しただろうか。
数秒かもしれない。
数分かもしれない。
私がどれだけの時間、娘の部屋の前で立ち尽くしていたのか、全く思い出すことは出来ない。
静かだったということは鮮明に覚えている。
今、冷静に考えれば、娘の話し声は廊下まで聞こえていたはずだ。
ただ、私の耳には届いていなかった。
静寂の中で「嘘の署名」という言葉が何度も心に突き刺さった。

その夜から、私は娘を避けるようになった。
私の教育方針によって娘は嘘をつくほど追いつめられていた。
嘘をついてまで娘が手に入れようとしたものは、何一つ手に入ってないだろう。
本来ならば父親として、嘘をついた娘を叱るべきなのだが―
その資格が私にあるのだろうか。
何度考えても同じ答えに辿り着く。
『私には資格が無い。父親失格だ。』

毎週金曜日の夜は、帰宅後も「残業」がある。
土日の接待ゴルフのために、リビングでクラブの手入れをしていた。
テレビの音楽番組では、娘と同年代の女性歌手が歌っていた。
良い表情だ。
素直にそう思った。
きっと娘も友人とバンドをしているときは、こういう表情だったのだろう。
自分がその表情を奪ったという事実に心が潰されそうになった瞬間―

「お父さん」

声のした方向に娘が立っていた。
私は言葉が出なかった。
クラブを磨いていた手は完全に動きを止めた。
娘は私と目を合わせないようにしながら言った。
「私達のバンド…明日、学園祭のライブに出るの」
娘は言葉を続けた。
「ずっとコピーバンドやってたんだけど、初めてオリジナルの曲を演奏する予定で……その…」
娘は言葉を詰まらせた。
うつむいた娘の表情を見て、久しぶりに娘の顔を見たような気がした。
それだけ私が娘を避けてきたということだろう。
数秒の沈黙の後、
意を決したように、娘は私の目を見た。
「だから…お父さんに見に来てほしい」
再び沈黙が訪れた。
私の答えを待たず、娘はリビングを去った。
娘の目は、何か決意を秘めた目だった。

その数分後、私は上司の自宅へ電話を掛けた。
「倉本です。夜分遅くに失礼致します。突然で申し訳ありませんが、明日のゴルフ…欠席させて頂けないでしょうか。」
「やっぱ衣装までバシッと揃えたかったなぁ」
「タク…学園祭なんだから、制服で我慢しなきゃ」
結衣の緊張した声が控え室に響く。
初のオリジナル曲を引っさげてのライブ。学園祭とは言えドキドキする。その声の調子に気付いたのか、彬がリーダーらしくフォローする。
「大丈夫、練習通りいくぞ。」
その落ち着いた声が結衣の心に平静を取り戻す。
「結衣、オヤジさん…」
「うん、今日、見に来てって誘った…」
「そっか」
本番前の緊張感とはまた違う空気が控え室を沈黙へと誘う。

暫くして結衣が小さく頷き、はっきりとした声で言った。「行こう!」


大きな拍手が聞こえ、ステージの緞帳が上がる。スポットライトが眩しい。
始まった…結衣の心はかつてないほど「歌」に集中していた。タクが激しく、しかし正確にリズムを刻み、彬が情熱的に旋律を奏でる。
あれほど心配していた父親の事もすっかり忘れていた。ただ、自分達の歌を心に届けたかった。自分達の存在を高らかに謳いあげたかった…。

流れ落ちる汗、激しい鼓動、3人の魂が一つになった。

グッと肩を抱かれ結衣は我に返った。隣に彬の屈託のない笑顔がある。ふと後を振り返るとバチを振り回し大はしゃぎしているタクがいる。
「やったな!」
「うんっ!」
物凄い充実感、達成感、安堵感、結衣はありとあらゆるプラスの感情に浸っていた。
3人揃って手を繋ぎ、大きく一礼をする。顔を上げて改めて感じた。

私、歌が好き。


夕日煌く中、一回り大きくなった3人が爽やかに逞しい笑顔で歩いている。結衣たちのバンドは歴代最高の盛り上がりを見せたという事で、学園祭には何の賞も設定されていないにもかかわらず「校長賞」を特別授与されたのだった。
「俺の刺激的なビートがみんなの心を震わせたんだぜ!」
タクは相変わらずだ。
「みんなのキモチがちゃんと届いたって事だろ!」彬がたしなめる。
確かにそうだ。その実感が今の結衣の自信になっている。ただ一つ、どうしても届けたい人に届いているのかどうか、その不安を除いては。
「…なぁ、今夜、3人でオヤジさんに謝りにいくか?嘘の署名なんかしてごめんなさいって」
「リーダー彬がそー言うなら、俺も行かねーわけにはいかんだろ。3人でアタマ下げるぜ。」
「彬…、タク…、、、ありがとう。」
「ただいま…」
結衣が玄関を開けると、台所から母親がパタパタと出迎えに来る。
「おかえり、結衣。打ち上げじゃないの?あら、あなたたちも来てたのね!」
「こんばんわっ!」「遅くにすみません。」
「みんな揃ってどうしたの?ここで打ち上げするの?あらあら、ご飯の準備しないと…」
「いや、おばさん、違うんです。俺ら、ちゃんとケジメつけなきゃいけない事があるんです。おじさんと話し、させて下さい。」
彬は真っ直ぐ結衣の母親を見つめた。
「結衣も一緒に話しをしなきゃいけないんでしょ?いいわ、ちょっと待ってなさい。」
穏やかな笑顔のまま、母親は振り返り居間へと向かった。
間もなく、父親が出てきた。
「どうしたお前達?」
「すいませんでしたっっ!」「すんませんっ!」「ご、ごめんなさいっ!」
3人それぞれが思いのたけを言葉に込めて、精一杯の謝罪を述べた。

静かに3人の言葉を聴いていた父親が、おもむろに口を開いた。
「嘘…そんなもんつくな。嘘なんて、いつかはバレる。バレないように神経使い、バレそうになったらまた嘘をつく。そして騙しているという罪悪感に苛まれるんだ。
だったら、最初から本当の事を伝えてぶつかってこい。それでも嘘をつくって言うんだったら、一生バレないように嘘をつき通せ。それだけの物を背負って生きていけ。それだけの覚悟を決めてやれ。まずは、大人の、そして結衣の親としてお前達を教育するという責任を負っている俺からの説教だ。
そして、俺から結衣へ、もう一つ言わなきゃいけない事がある。
結衣、悪かった。お父さんが勉強、成績、そればっかり言ってお前を追い詰めてしまっていた。結衣のやりたい事をやる、ただそんな当たり前の事の為に、お前に嘘までつかせてしまった。これは俺の父親としての接し方としては失敗だったと反省している。嘘をつく事で心苦しい日々を送らせてしまった事を許してくれ。」

結衣の父親の予想もしていなかった反応に3人とも唖然とし、一言も発せずにいた。そんな3人を見て父親が穏やかな笑顔で言った。
「オリジナルなんだろ?いい曲じゃないか。」

何年ぶりだろう。結衣は父親の胸の中で、まるで小さな子供のようにわんわん泣いていた。


3人は夜の住宅街を打ち上げ会場へ歩いていた。半年前には想像もできなかった「打ち上げ、楽しんでこいよ」という父親の一言が結衣には嬉しくて仕方なかった。

「キモチ、ちゃんと届いてたな…」彬がポツリと言った。
「うん、届いてたね。びっくりしたけどね。」
「心込めりゃ、心打つことができるって事よっ!俺イイコト言うなぁ〜、、あ、もしもし、楓さん?打ち上げ主催、ありがとございやすっ!そりゃも〜全力で向かってますから〜〜

どこまでもいつも通りなタクの姿に彬と結衣は顔を見合わせて微笑んだ。
「ねぇ彬、ありがとね。私、半年かけて、学園祭成功させて、あのお父さんにさえもキモチ届けることができて…」
「結衣はキモチ届けたかった人、もう全員に届けられたのか?」
結衣は彬の唐突な質問に動揺を隠せなかった。

「えっ…わた、わたしは…ていうか彬はどうなの?」
「質問に質問で返すな。…まぁ、いいか。俺はなぁ、あと一人だけ残ってんだ。半年かけて、いつも届け、届け〜って思いながら送ってたんだけどな。今日こそは届いてねぇかなぁ。」珍しく彬が目を逸らしながら喋っている。

「えっ…その、わ、わたしもあと一人。でももしかしたら、私のキモチは届いてたのかもっ…。」
真っ赤になった結衣の手を握り、彬が目を見つめて言った。



「・・・届いた?」



澄み渡る星空の下、もっと大切なものが見つかった。

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