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愛の劇場 リレー小説部コミュの妄想 愛の劇場 第3話

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三四郎「お、お前は・・・」

北村「やぁ。さっき日本に帰ってきたんだ。」

眼前にいる男から、言葉に詰まる三四郎を全く意に介さない挨拶が快活な笑顔と共に返ってきた。長らく剪定されず伸びきった無精髭の中から淡紅色の唇と口腔、輝くような白い歯がこぼれる。長年に焼かれたであろう褐色の肌とが一層のコントラストをなし、刻まれた皺の数々はこれまでの人生が決して容易でなかった事を如実に物語っていた。すでに盆を過ぎたとは言え、まだ暑いこの季節に着ている長袖のネルシャツの朱色と黒褐色はくすみ、織り成した格子縞の境界線が覚束ないままくたびれている。そうかと言えば、対照的に折り目のプレスされたカーキ色のズボンが局在する北村の潔癖性を示していた。その姿は、窪んだ眼窩にその奥から覗く眼光、子供のように純粋で時には残酷にもなれる鋭さを保っていた。

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あの日も暑い夏の終わり頃だった。

容子「三四郎〜、今日こそは遊びに連れて行くからね!」

大学のプールサイドを囲む金網の向こうから声を上げているのはきっと容子だ。7レーン並んだ中央のスタート台に立った三四郎はその方向をちらとも見ずにゴーグルをわざとらしく直した後、勢いよく滑らかに水中へ飛び込んだ。

何回目のターンをしただろうか、暑さの終わりを知ってか知らずか鳴き喘ぐセミ達の狂騒は水中ではかき消されていた。いつからか発現していた青春の乾きと暑苦しさは眼前に広がる透明な青く冷たい水によってこそ満たされるべきだと三四郎は信じていた。

プールからあがった三四郎を待っていた容子の黄色いワンピース姿。

1993、恋をした。

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12年前、北村は親友であり容子の恋人だった。それが今、我が家の玄関に立つこの男は何をしに来たのだ。三四郎の心は懐古と疑念とが交錯し、この所の平穏を一挙に忘れ、激しくかき乱されていた。その声と眼光は変わらず北村であり、インターホンを受けた容子は思わずドアを開けてしまったのだろうか。

・・・

容子「とりあえずお上がりになって。」

先に平静を取り戻したのは容子だった。

北村「今日は挨拶に来ただけだからさ、玄関でいいよ。」

遠慮しようとする言葉尻に北村らしからぬあざとさを感じながら、三四郎もまた平静を取り戻そうとしていた。ほぼ10年ぶりに会うこの男がこんな時間にただ挨拶をしに来たとはとても思えない。

三四郎「久しぶりじゃないか。とりあえず上がってくれ。」

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北村はかつて、苦悩した。

大学で考古学を専攻し、とりわけシルクロードに傾倒していた北村は卒業後に、当時発表されたばかりのネパールでの遺跡発掘長期計画に研究員として参加することを望んでいた。しかし、その達成と同時に失うモノがある事は明らかだった。一つは年老いた両親とまだ幼い妹のために北村が卒業後、長男として担うべき家計のこと。幼い頃に遊んだ横浜の実家裏にある小高い山のような地頭山古墳こそが北村にとって象徴であり、薄れつつある絆は思い出となることなく現存していた。だが、真実に北村の心を狂おしく犯していたのは他でもない恋人である容子だった。北村の父と母は考古学への息子の情熱を理解していた。だが、容子は違った。北村は決して理解されぬ相手を愛した自分を悔やんだ。また、理解しない容子を恨んだ。そして、離れることに耐えられない己の愛を知った。

容子「絶対、イヤ。」

北村「おれが嫌いなのか?」

容子「そうじゃなくて。ネパールがイヤなの。結婚はいいけど。。」

研究員採用面接の前日、北村は容子に結婚とネパールへの同伴を申し込んでいた。

北村「そうかい、分かった。」

時として若さと純粋が人をエゴイスティックにする。今の北村と容子がそうだった。空高く昇った日がやがて沈むように北村と容子は離別を選択した。研究員として採用された北村は卒業後にネパールへ渡り、容子に一通の手紙もよこさぬまま10年が過ぎた。

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三四郎「どうだい、ウヰスキーでも飲むかい?」

ビクトリア調に彩られた応接間のソファに座り、所在なさげに北村は居た。その姿を眺めた三四郎はすっかり自分の領域の中にある気がして平静を保ち、家主としての威厳を示そうとしていた。実際、三四郎自身も容子の趣向には閉口しがちであったのだが、この日ばかりは有用に働くことに満足を覚えた。

北村「ああ。それにしても、ずいぶんと立派な家だな。」

三四郎「それは厭味かい?」

北村「はは。褒めてるんだよ。子供もいるみたいだし幸せそうだな。」

容子「ちょっと志吾郎を寝かしつけてくるわね。しばらく二人で話してて。」

3人でいる空気に重圧を感じていた容子が足早に立ち去る後姿を見る北村の様子からは、三四郎と容子が夫婦になり子供がいることへの驚きを一寸も見ることができなかった。だが、その表情に別の何かもっと重大な話を秘して来ているのは明らかになりつつあった。三四郎は日頃から愛飲している山崎12年をお互いのグラスへそっと注ぐと、静寂した部屋の中で濡れた氷がカランと音を響かせた。

三四郎「さてと。昔話って様子でもないみたいだが、どうしたんだ。」

北村「実はな…」

…つづく。



続きはー、じぇし!

コメント(2)

>1993、恋をした

↑こういうの、わたしだいすき♪

OH〜君に夢中、普通の女と思っていたけど
ラーヴ、人違い、オー、そうじゃないよ...

名曲、んふふふ

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