ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

生活保護者の集いコミュの自立援助ホームでひきこもる

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20210506/med/00m/100/005000c

青山さくら・児童相談支援専門職員

 新任の児童福祉司Aさんを誘って、数日前に自立援助ホームを退所した(出奔した、と表現した方がいいかもしれない)Bさんの部屋の後片付けに行った。弁当の容器やペットボトル、汚れた下着まで散乱する部屋で、彼女はパン職人になることを夢見て、朝早くからパン屋さんで懸命に働いた。しかし給料をストリートミュージシャンに貢ぎ、勤務先の店主に借金までして、返すあてもなく逃げるようにホームを出た。児童養護施設で長く暮らしていた彼女が、施設の先輩のところにいるのはわかっていたので、残っている荷物は送ってあげようと思った。

子どもたちの「最後のとりで」
 自立援助ホームは、子どもたちの「最後のとりで」といわれる。家族の支援がない子たちが、義務教育を終えた後、働いたり学校に行ったりしながら自立できるように援助する施設だ。15歳から20歳すぎくらいの、被虐待の子がほとんどで、大人への不信感を抱え、社会での生活にもなかなかなじめない子が多い。

 Bさんのこれからを考えながら、部屋に残された施設にいた頃の写真などを拾い集めて段ボールに詰めていると、ホームの職員に、「Kくんが引きこもってるんですよ」と声をかけられた。

 
 
 Kくん、ここにいたのかあ。以前、私が担当したときは中学3年生で、ゴルフ練習場からボールを盗んで児童相談所(児相)に保護された。最初は、夜中に練習場に忍び込んでボールを100個ほど盗み、その練習場のオーナーに盗んだボールを「買ってください」と持っていった。オーナーは盗品だとわかっていたが、小遣いがないというKくんに500円渡してやった。またKくんがボールを抱えて現れたので、今度は警察に通報。警察は、要保護児童として児相にKくんの身柄とともに通告、一時保護所で保護することになったのだ。

 Kくんは、身長180センチくらいの色白のイケメンだったが、対人緊張が強く、自分の気持ちをなかなか言葉にできなかった。交通事故によるけがの治療中のため働けないトラック運転手の父と、近所の総菜店で働く母と、小学4年生の妹と4人暮らし。経済的に困窮し、Kくんの将来を考える余裕もないような両親に、私は「中学卒業まで児童自立支援施設で生活させてはどうか」と提案した。児童自立支援施設は非行少年を対象とした施設だが、施設内の中学に通いながら、寮での共同生活を体験することが、学校にも地域にも居場所がないKくんに必要なんじゃないかと考えたのだ。父は「俺の子を感化院に送ろうっていうのか!」と怒鳴って反発したが、妹が「(兄ちゃんに)おしっこするとこ見せろって言われた」と言ったことから、「あの変態やろう、もう家には入れねえ」と、Kくんの施設入所を承諾した。

 県北にある児童自立支援施設まで、一時保護所から車で2時間かかる。移送中、Kくんは大声をあげて泣き続けた。閉め切った車のガラス窓から外に向けて叫ぶような、何かを訴えているような大泣きだった。

退寮は免れたけれど
 
 
 それから、私は別の児相に異動したのだが、Kくんは施設内の中学を卒業し、定時制高校に入学したはず……。自立援助ホームの職員によると、自宅から高校に通っていたKくんは、父とけんかして何度も家出した。児相の一時保護所にも3回入っている。新幹線の車内で無賃乗車で捕まり、父とも関係が修復できず、高校も中退し、自立援助ホームに入った。Kくんは17歳になっていた。入所当初、Kくんはカレー店に就職した。カレーが好きだから店の賄いが毎日カレーでも気にならない、30万円ためてシェアハウスで1人暮らしがしたい、と真面目に働いていたらしい。順調そうに見えたが、店のアルバイトの女子高校生のマスクを盗んだと疑われ、クビになり、落ち込んでそのままホームで引きこもってしまったらしい。

 「どうにかなりませんか?」とホームの職員に言われ、閉じられた扉に向かって「Kくん、私です、覚えてる?」と何度か声をかけたけれど、反応はない。自分を児童自立支援施設に入れた福祉司を、今でも恨んでいるのだろうか。

 「寮費(3万円)もずっと滞納していて、貯金もなくなっていますから、ホームとしては退寮してもらうしかないと考えています」とホーム長は言う。(最後のとりでなのに冷たいじゃないか)と心の中でつぶやいていると、新任のAさんが「なんとかなりますよ」と根拠のない明るい声をあげた。

関連記事

<経験者が語る「帰る場所」がない孤独感>


<「子どもにも意見を表明する権利がある」 虐待経験者の中学教諭語る>


<改正児童福祉法5年 塩崎元厚労相の現状認識は>


<コロナで顕著化 “ステイホーム”で苦しむ“ホーム”なき女性たち 松本俊彦さんに聞く(上)>


<児童福祉法改正 「施設から家庭へ」実現するか/上>


 
 
 私たちは役所のケースワーカーに相談した。3カ月後、18歳の誕生日を迎えたKくんは、生活保護を受けることができ、寮費はそこから支払われることになった。退寮だけは免れたが、「Kくん、これからどうしようかねえ」と扉の向こうのKくんに問いかけたい気持ちだ。「なんとかなるよ」と言ってあげられない自分が、もどかしい。

「くらしと教育をつなぐ We」(フェミックス)より一部加筆し転載。

(登場する人物や家族背景などはプライバシー保護のため事実とは異なる表現にしています)

特記のない写真はゲッティ

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

生活保護者の集い 更新情報

生活保護者の集いのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。