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生活保護者の集いコミュの「生活支援戦略」に関する厚生労働省案に対する意見書

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012年10月10日

「生活支援戦略」に関する厚生労働省案に対する意見書

                           生活保護問題対策全国会議
                          代表幹事 尾 藤 廣 喜

はじめに
 厚生労働省は,本年9月28日,社会保障審議会の「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」(以下,「本特別部会」という。)において,「『生活支援戦略』に関する主な論点(案)」を提示し,「生活支援戦略」の厚生労働省案(以下,「厚生労働省案」という。)を明らかにした。
 厚生労働省案は,前半の「新たな生活困窮者支援体系に関する論点」においては,?総合的な相談と「包括的」かつ「伴走型」の支援,?「中間的就労」などの多様な就業機会の確保,?「貧困の連鎖」防止のための学習支援などの取組など,これまでにない新たな生活困窮者支援策を正面から打ち出している一方,後半の「生活保護制度の見直しに関する論点」においては,露骨な給付抑制策が並んでおり,現行生活保護法の根幹に変更を加える憲法違反の疑いのある提案も散見される。
 厚生労働省は,生活保護制度の利用者がこれ以上増加しないようにするために,あるいは,前半の新たな生活困窮者支援策の財源を捻出するために,生活保護の適用を厳格化し受給を抑制しようと考えていると推測される。しかしながら,新たな生活困窮者支援策が真実効果を上げるためにも,必要とする人はきちんと生活保護を利用でき,住居や生活費が確保されていることが不可欠の前提条件であることは明らかである。目下の雇用の崩壊状況,生活保護以外の社会保障制度の機能不全状況のもとで,もし少しでも保護抑制を狙いとした「戦略」を立てたとしたら,それだけで人権侵害が蔓延し,餓死・孤立死・自殺等の悲劇が増大することが目に見えている。厚生労働省案の,とりわけ後半部分には大きな変更が加えられなければならない。
 今般,示されたのはあくまでも厚生労働省の案に過ぎず,決めるのは本特別部会の委員の方々である。当会議は,貧困研究や困窮者支援に情熱を傾けて来られた委員の方々が,その社会的責任と役割,歴史的使命を果たされるべくご奮闘されることを期待し,それを願って,本意見書を発するものである。



厚生労働省案の基本認識の誤り
1 高齢者の貧困拡大・年金制度の不備という主因に目をつぶる誤り
 生活困窮者の生活支援の戦略を立てるためには,今なぜ,どのように貧困が拡大しているのかについての,正確な現状分析を行うことが不可欠であるが,厚生労働省案は,こうした現状分析を十分行うことなく,漠然と「働けるのに保護を受けている人が増えている」などという印象を前提に,生活保護制度の利用者数の増加を稼働可能層の問題に収斂させ対応策も矮小化してしまっている。
 しかし,1980年から2009年の年齢別被保護人員の推移で見ると,大きく割合を増加させているのは60歳代と70歳以上の高齢者である(27%→52%)。これに対し,40代までの若い層はむしろ,その割合を大きく減じている(59%→33%)。
 すなわち,生活保護受給者増加の最も大きな要因は,高齢化の進展にもかかわらず,年金制度が不備なため低年金・無年金の高齢者が増えていることにある。したがって,まず検討されるべきは,高齢者の貧困化に対応できる年金制度の拡充(最低保障年金の創設等)であるが,厚労省案は,全くこの点に言及していない。

2 就労指導を強化することで就労自立できるという認識の誤り
 厚生労働省案は,「働けるのに生活保護を受ける人が増えている」という認識を前提に,これらの人を厳しく追い立てることによって就労自立させるというコンセプトに基づいている。これは,いわゆる「その他世帯」が増えていることを根拠としている。
 しかし,「その他世帯」の世帯員のうち約半数は60代以上と10代以下であり,そもそも「働ける人」ではない。いわゆる働き盛りの20代から40代は「その他世帯」の3割弱しかいない。また,「障害者世帯」「傷病者世帯」は,「?世帯主が?働けないほどの重い障害や傷病をもっている世帯」なので,「その他世帯」の中には中軽度の障害や傷病を抱えている人が多く含まれている。そのうえ,「その他世帯」の人のうち約3分の1は既に働いている(以上,日弁連パンフレット「Q&A今、ニッポンの生活保護制度はどうなっているの?」)。
 したがって,「働けるのに漫然と生活保護を受けている人が増えている」という前提認識自体に誤りがある。就労指導を単純に強化・厳格化することによって単純に一般労働市場において就労自立できる人が増えるということはあり得ない。

※日弁連パンフレット

3 「不正受給」を強調することの誤り
 厚生労働省案は,不正受給対策強化の必要性を強調し,その余波で,被保護者に対する管理強化の方向性を指向している。
 しかし,不正受給が占める割合は,金額ベースで0.4%弱で推移しており,この間,生活保護利用者が悪質化している事実はない。むしろ,生活保護を利用する資格のある人のうち実際に利用している人の割合が2,3割しかおらず,全国各地で餓死,孤立死,自殺が相次いでいる。日本の生活保護受給率は人口比で1.6%で他の先進国(ドイツ9.7%,イギリス9.3%,フランス5.7%等)に比べて異常に低い。GDPに締める公的扶助(生活保護)費の割合も日本はわずか0.5%で,OECD平均(3.5%)の7分の1というレベルである(以上,前掲日弁連パンフレット)。
このように,現代日本においては,「不正受給(濫給)」よりも「受給漏れ(漏給)」の方が規模の上では深刻な問題なのである。こうしたデータ上の基本認識を正確に行わず,いたずらに不正受給を強調し,受給抑制と受給者に管理強化を指向する改革を行えば,行く道を誤ることは自明である。

個別の提案に対する意見
1 総合的な相談と包括的伴走型の支援
 〜福祉事務所における福祉専門職採用の強化をセットにすべき 
 厚生労働省案は,「自治体業務の軽減」「ケースワーカー業務の軽減」のために,民間の「総合的な相談支援センター」に業務を委託すると読める。
 これでは,福祉事務所職員からケースワーク業務を分離して民間に丸投げしてしまうことにより,福祉事務所は,調査・保護決定・金銭給付・制裁権の発動といった事務処理のみを行うこととなりかねない。
 今でさえ福祉的素養のないケースワーカーによる人権侵害が絶えないのに(注1),ケースワーカーがケースワーク業務を免れ,さらに困窮者の実像に触れる機会が減れば,ますますその傾向が強まるおそれがある。委託を受けた民間事業者は,福祉的素養のない福祉事務所職員と利用者との板挟みに合い,場合によっては,「水際作戦」の代行をさせられるおそれもある。
 厚生労働省案のように,ケースワーク業務の一部を民間委託するのであれば,少なくとも,ケースワーカーについて,無資格者が数年で異動を繰り返す現状を改め,社会福祉士等の専門資格をもつ者を積極的に採用し,福祉的専門的観点から,福祉事務所職員と委託を受けた民間事業者とが連携協力して業務を行い得る体制を構築することが必要不可欠である。

(注1)厚生労働省の『平成21年 福祉事務所現況調査』によれば、現業員の最低限必要とされている社会福祉主事(社会福祉の一定の講習を受けた者等)取得率は、生活保護担当現業員で74.2%、査察指導員で74.6%であった。社会福祉士取得率はそれぞれ4.6%、3.1%、精神保健福祉士はそれぞれ0.5%、0.3%でしかなかった。ここから、多くの生活保護担当現業員が、社会福祉の専門的な知識や技術がないままに生活保護業務を担っていることが明らかになっている。さらに、生活保護担当現業員の経験年数としては、「1年未満」が25.4%、「1年以上3年未満」が37.9%、「3年以上5年未満」が20.8%であった。全国的に、生活保護担当現業員は、3〜5年で異動することが多いようで、生活保護法やその運用に精通した経験者が育たない現状がある。

2 中間的就労の在り方
(1)「公的雇用の場の創出」という方向性は評価できる
「働く意思があっても,とにかく働く場がない」という目下の雇用情勢と,稼働能力があるとされる生活保護利用者には低学歴,無資格等の就職上のハンデを抱える者が少なくないことからすると,「中間的就労」という形で,雇用の場を公的に保障していく方向性は評価できる。

(2)一般就労を「ゴール」とすべきではない
 厚生労働省案では,「社会参加→中間的就労→一般就労」とされていて,一般労働市場における就労自立への「過程」として「中間的就労」を位置づけているように見える。
 しかし,目下の厳しい雇用情勢のもとで,生活困窮者が一般労働市場での就労自立を果たすのは至難の業である。にもかかわらず,一般就労をゴールと位置づければ,どんな雇用実態であっても(いわゆる「ブラック企業」であっても),とにかく就労さえすればよいという形で闇雲やみくもな一般就労への誘導が行われたり,一般就労に至らなかった者に対して「努力不足」等のレッテル貼りが行われたりする危険がある。
 したがって,一般就労を「ゴール」とすることはやめ,「中間的就労」での半就労・半福祉による働き方そのものを積極的に位置づけるべきである。その意味で,「中間的就労」という用語ではなく,「社会的就労」などの用語を用いるべきである。

(3)高卒資格・その他の資格取得のための職業訓練の充実の必要性
 稼働年齢層の生活保護利用者の49%は中卒で,40%が高卒である(木下武徳「生活保護稼働年齢世帯の実態調査報告」賃金と社会保障1563号)。こうした低学歴,低学力が大きな就労阻害要因となっていることからすれば,高卒資格を取得するための支援や専門学校等で就職に有利な資格(自動車運転免許を含む)を取得するための支援を充実させることが必要不可欠であるが,厚生労働省案ではそういった検討が全くされていない。
   こうした支援や訓練を行うことなく労働市場に送りだしても,低賃金・不安定な労働にしか就けないので,早晩生活保護に舞い戻ってしまう危険険性が高い。「ワークファーストアプローチ」ではなく,「人的資本開発(教育訓練重視)アプローチ」の方が,利用者の選択の幅を広げることにもなるし,長い目で見たときには経済的効果もあると思われる。

(4)労働法制遵守のルールづくりとチェック体制の構築が急務
 厚労省案においても,「『貧困ビジネス』化の防止の観点から,就労環境の質を確保するための仕組みを検討することが必要ではないか。」と指摘されているとおり,「ボランティア」「インターンシップ」「請負」などの名目のもとに,実質的な無償労働,最低賃金以下の労働や,労働基準法等の労働法制を守らない「労働」が広がってしまう危険がある。
 特に,2で述べる稼働層に対する就労指導の強化や事実上の就労強制とセットになったとき,その危険はより大きくなる。
 この危険性を排除するためには,案に記載されている公的認定制度だけでなく,最低賃金や労働法制の遵守等のルールづくりと恒常的なチェック体制の構築が必要不可欠である。
   

3 稼働層に対する締め付けの強化

《厚生労働省案》
○ 保護開始直後から早期で集中的な就労支援(案31頁)
・就労可能な者については、就労による保護からの早期脱却を図るため、保護開始時点で例えば6か月間を目途に、受給者主体の自立に向けた取組についての計画の策定を求め、本人の納得を得て集中的な就労支援を行う。
・なお、一般就労が可能と判断される者であって、自らの希望を尊重した就労活動を行っても3ヶ月(場合によっては6ヶ月)経過後も就職の目途が立たない場合等には、職種・就労場所を広げて就職活動を行うことを基本的考え方とすることを明確にする。
○「低額・短期間であってもまず就労すること」への就労支援方針の明確化(月額5万円程度の収入をイメージ)

《これに対する意見》
(1)雇用の質を問わず就労に追い立てることは雇用全体の質を悪化させ貧困を拡大する
 目下の厳しい雇用情勢の中で,6ヶ月という期限をもうけ,しかも3ヶ月で本人の希望に反する職種・就労場所への就職活動を強要することや,雇用の質を問わずに「まず就労」を強いることは,事実上,被保護者を劣悪な労働条件の職業に追い込むことにつながる。これは,賃金低下圧力を強め,低賃金労働者を大量に生み出し,雇用全体の質を悪化させ結果として貧困を拡大させることをも招きかねない。

(2)「有期保護」以上に過酷な結果となるおそれがある
 仮に,3ヶ月経過後に職種・就労場所を広げた就職活動を行うよう指導指示をし,これに従わない場合,保護の停廃止を行うといった運用がなされることとなれば,従前,地方団体などから提案されていた有期保護(3年ないし5年)以上に過酷な結果となる。これは,明らかに憲法25条に違反する。
このような憲法違反の形式的な発想を「基本的考え方」とすることは許されない。

(3)運用によっては現行生活保護法27条に違反するおそがある
 3ヶ月という形式的な期間で,本人の希望に反する職種・就労場所での就職活動を強制することは,「指導又は指示は,被保護者の自由を尊重し,必要の最少限度に止めなければならない。」とする生活保護法27条2項や,「第1項の規定は,被保護者の意に反して,指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。」とする同条3項に違反する。
 この点,同条の趣旨について,立法担当者であった小山進次郎が,「従来,ともすると生活保護を恩恵的,慈恵的とする風潮が社会の各層においてみられたのであって,その保護の実施機関側も被保護者の人格を軽視して必要以上の指導,指示を行い,これがために被保護者の全生活分野にとって好ましからざる影響を与え,被保護者も亦卑屈感に流れ唯々諾々としてこれに盲従するという極めて好ましくない傾向に陥ることがないではなかったが,この点特に注意し,指導,指示が濫用されぬようにする必要があるのである。換言すれば,生存権の保障は個人の人格権の侵害を許容するものでは決してないのである。」と述べていることを想起すべきである(「改訂増補・生活保護法の解釈と運用」414頁)。

(4)「伴走型支援」と「まず就労」は矛盾しており現場が混乱する
 早期に集中した就労支援を行うこと自体は否定しないが,それはあくまでも本人の意思を尊重し,自尊感情を呼び覚まし,本人が自発的に就労活動を行うよう,本人をエンパワメントするものでなければならない。
 就労支援は,生活保護利用者の義務ではなく,自立のための権利として位置づけられなければならないのである。
 厚生労働省案も,前半では「包括的かつ伴走型支援」を提起し,「パーソナル・サポート・サービス検討委員会」の「23年度モデル・プロジェクトの実施を踏まえた中間報告」でも,「伴走型支援の目的は当事者の自立(経済的自立,社会生活自立,日常生活自立,精神的自立など様々な自立の形が考えられる)であるが,そのためには,支援が当事者の主導権・自己決定権を奪うものであってはならないことはいうまでもない。支援者側の『あるべき自立』像に基づくお仕着せの支援のコーディネイトが行われているのでは,当事者の自立は困難である。支援者は,当事者の気持ちと向き合い,あくまでも当事者が自らの生活を決定できるよう必要な援助を行う『補佐役』『相談役』である必要がある。」とされている。
 ところが,「まず就労」を強調する厚生労働省案は,こうした施策と真っ向から矛盾している。1でも述べたとおり,事業を委託された民間事業者が「伴走型支援」を行おうとしても,福祉事務所からは「まず就労」の圧力が期間を区切って形式的に加えられることになり,現場では軋轢と混乱が生じることが必至である。

(5)諸外国の例に学ぶべきである
 例えば,スウェーデンの社会サービス法が「社会サービスの事業は,個人の自己決定権と尊厳に対する尊重を基礎として行われなければならない」(第1章1条3項),「自分の必要性を満たすことができない者は,その生計維持及びその他の生活上の営みに対して,社会委員会の援助を受ける権利を有する。」(第4章1条1項),「前項の援助は,当該援助を受ける者の自立した生活を営む力を強化するように形成されなければならない」(同条2項)としているような,理念をまず明確にすべきである。
 また,フランスの積極的連帯所得(RSA)は,求職活動に対する援助(雇用復帰個別支援)を受ける権利を保障し,役所が,学歴、資格、職業経験、家庭事情(子どもの有無などにより、どの程度の就労が可能か等)、通勤事情(自宅からの通気圏の決定や転勤の可能性について等)、その地域の雇用情勢などを精査した上で、求職者の希望を考慮して、再就職にふさわしい業種や職種、雇用形態、希望賃金・勤務地、必要な職業訓練等、再就職活動の方針を定めた「雇用アクセス個別計画(PPAE)」を作成するとしている。また,RSA受給者は、「適正な求人」を2回以上断ることはできないとされているが、「適正な求人」とは、PPAEに記載されている求職者が求めている仕事の性質及び特徴、優先的な地域、希望する賃金レベルを考慮した上で、求職者の資格と職業能力と合致し、少なくとも以前の給与の95%以上を保証する求人でなければならないとされている。
就労支援にあたっての「基本的考え方」としては,このように,本人の希望を尊重し,上記のような多様な要素を十分に考慮することをこそ明らかにすべきである。

《厚生労働省案》
○稼働能力があるにもかかわらず明らかに就労の意思のない者への対応(案42頁)
・稼働能力がありながらその能力に応じた就労活動を行っていないことを理由に、聴聞等所定の手続を経て保護を廃止された生活保護受給者が、その後同様の状況下で就労活動に取り組むことを確認した上で再度生活保護を受給するに至った際、やはり能力に応じた就労活動を行わないため保護を再び廃止された場合は、急迫の状況ではないことなど一定の条件のもとに、その後再々度保護の申請があった場合の審査を厳格化。

《これに対する意見》
(1)ケースワーカーの恣意的判断で保護が認められず悲劇が起きる
 厚生労働省案は,何をもって「明らかに就労の意思のない者」と判断するかの基準が不明確である。先に検討した,3ヶ月とか6ヶ月の期間を限定した集中的な就労指導が形式的に行われ,その間に就労自立しなかった者,職種や就労場所の変更についてのケースワーカーの指導に従わなかった者が,機械的に保護を打ち切られ,しかも,再度困窮したとしても,二度と生活保護を利用することができなくなるおそれがある。
 目下の雇用情勢下で,このような機械的処理が行われれば,野宿・餓死・孤立死・自殺等の悲劇を招くことが目に見えている。

(2)前近代的な旧生活保護法への逆戻りである
 旧生活保護法が「能力があるにもかかわらず、勤労の意思のない者、勤労を怠る者その他生計の維持に努めない者」等を絶対的欠格条項として保護の対象から排斥していたのを改め,現行生活保護法2条は,無差別平等原則(法2条)を採用し,現に困窮している限り,保護を無差別平等に受けることができるとしている。
 その趣旨について,小山は,「旧法の第2条や第3条のような絶対的欠格条項を受給資格の上に設けなかったことは,新法の特徴の一つである。これは何等かの意味において社会的規準から背離している者を指導して自立できるようにさせることこそ社会事業の目的とし任務とする所であって,これを始めから制度の取扱対象の外に置くことは,無差別平等の原則からみても最も好ましくない所だからである。」(前掲106頁),「特に,世帯の状況に対する考慮を欠き,機械的に就労による所謂自立の強要をするが如きは無差別平等の原則の極端なる誤解と言うべきである。」(同108頁)と述べている。
 厚生労働省案は,過去に就労の意思なしとして保護を廃止された者の生活保護の利用を制限し,実質的に「勤労を怠る者」を欠格条項化するものであって,無差別平等原理(法2条)に違反する。このような前近代的な提案は撤回されるべきである。

(3)新宿七夕訴訟・東京高裁判決に抵触する
 さらに,上記提案は,直近の東京高裁判決の判示内容にも明らかに抵触する。
 すなわち,ホームレス状態だった原告が新宿区を被告とした保護申請却下処分の取消を求めた訴訟について,東京地裁は平成23年11月8日に下記第2項及び第3項記載の内容を示して原告勝訴判決を言い渡し、その後、東京高裁も平成24年7月18日に東京地裁判決を維持した。
 両判決は、生活保護法2条の趣旨解釈から「生活保護法が社会的規範を逸脱した者についても保護の対象から一律に排除することはしていない」ことを前提に、稼働能力活用要件の稼働能力を活用する意思について,「一般的な社会的規範に照らして不十分な難のあるものであるとしても、当該生活困窮者が申請時において真にその稼働能力を活用する意思」を有していればよいと判断した。
 また、稼働能力活用要件の稼働能力活用の場についても、両判決は「当該生活困窮者の具体的な環境の下において、その意思のみに基づいて直ちにその稼働能力を活用する就労の場を得ることができる」と認められるか否かを問題にした。就労は雇用主が雇うことが当然必要なので、「就労の場を得ることができる」とは,「現に特定の雇用主がその事業場において当該生活困窮者を就労させる意思を有していることを明らかにしており、当該生活困窮者に当該雇用主の下で就労する意思さえあれば直ちに稼働することができるという特別な事情が存在すると認めることができ」る状況であると判示している。
 そして,こうした稼働能力活用要件の三要素である?稼働能力の有無、?稼働能力活用の意思の有無、?稼働能力活用の場の有無は、それぞれ申請時に「ある」か「ない」かが問題となるのであって,厚生労働省案が採用しているように,再々度の申請においては,その判断基準が突然厳格化されることを正当化する理屈はない。


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