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こころとサイエンスコミュの「身体完全同一性障害」 

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「身体完全同一性障害」 
Amputee Envy 
・危険な願望はなぜ生まれるのか

身体完全同一性障害を患う人たちは、自分の身体の一部に違和感を抱き、その部分を切断してほしいと感じる。この異様な病気の原因を解明するヒントが最近の研究によって得られつつある。

1997年、スコットランドにある英国立フォルカーク病院の外科医ロバート・スミスは、ある患者の痛切な望みをかなえてあげた。その男性患者の左脚下部を切断したのだ。その2年後、スミスは定年退職後のドイツ人にも同様の手術を行ない、英国の日刊紙『インディペンデント』が2000年にこれを報じた。

どちらの手術も医学的には必要のないものだ。2人の患者とも、自分の片方の脚は邪魔なものであって、その脚があるがために長らく精神的苦痛にさいなまれていた、とスミスに語っていた。

精神科医によると、こうした患者が世界中に数千人おち、ほとんどは男性で、健康上何の問題もない手足を取り除いてしまいたいと望んでいる。なかには、実際に外科的切除を医師に依頼する人も少数ながらいる。

この過激な要求を生み出しているのが、「身体完全同一性障害」(BIID)というごくまれな精神疾患だ。

「四肢切断同一性障害」や「アポテムノフィリア(四肢切断愛)」という別名もある。患者は手足のうちどれか一つが自分の体ではなく、“余分なもの”と感じられるので、辛い思いをするのだという。

そうした患者にとって、切断願望は単なる空想ではなく、異質な付属物を自分の体から切り離したいという強迫観念的な欲求なのだ。患者の多くがこうした考えにさいなまれ、社会生活を損ない、仕事に集中できなくなっている。

身体を肉体的に傷つけ、生命にかかわることさえある。切断手術をしてもよいという医師が見つからない。
あるいは手術を受けるお金がない場合、患者は自分で手足を切断してしまう恐れがある。重量物の下敷きにして足をつぶす、指やつま先をノコギリで切断する。線路の上に手足をのせて列車にひかせる。手足にドライアイスを当てて凍らせて壊死させる、などだ。

これはは実に異様な試みだが、最近の研究によると身体完全同一性障害患者は妄想にかられているわけではない。初期の研究では四肢切断に対する性的フェティシズムが原因ではないかとみられたこともあるが、現在では別の解釈を指向する研究者が大半だ。

ある仮説では、患者は子ども時代に他人から優しく世話された経験がなく、そうした他人からの配慮を手に入れる手段として身体障害者になりたがるのだという。

別の研究によると、実際の身体構造と本人のボディ?イメージ(身体像)が神経学的に一致せず、それが原因だと考えられる。例えば身体像を地図のような形に作り上げている脳領域が損傷すると、そうした不一致が生じる可能性がある。

いまのところ、身体完全同一性障害患者の病的な願望を抑える薬剤や精神療法はない。一方、外科手術は場合によっては効果的だ。しかし、そうした荒療治に頼るのはなく、科学の力でこの病的願望の原因である精神疾患を治療できるようになることを医師たちは望んでいる。切断願望を抑え、身体障害者にならずにすませる方法だ。

< Fast Facts >
1、健康上はまったく問題のない手足を切断したいと望む人が世界に数千人いると推測されている。こうした願望は、身体完全同一性障害(BIID)という非常にまれな精神疾患による。

2、この疾患は悲惨で、患者の肉体を傷つけ、死を招く場合もある。患者は自分の危険な願望にひどく苦しみ、重量物の下敷きにして足をつぶす、線路の上に手足をのせて列車にひかせるなど、危険な行動を起こすこともある。

3、一部の研究者は身体完全同一性障害が本人の身体構造と身体像(ボディ?イメージ)の不一致から生じると考えている。脳のうち、身体地図が存在する領域が損傷すると、こうした不一致が生じるだろう。この不一致を解消する手だてが
治療につながる。
・なぜ切断したがるのか?

身体障害のあるふりをする人や、障害を負いたがる人がいることが、1800年代後半から報告されてきた。1977年には、ジョンズ・ホプキンズ大学の性研究者だった故ジョン・マネーらが手足の切断を考えると性的に興奮するので切断されたいと望む二人の患者を報告した。

マネーは、これらの患者は義足や松葉杖、車いすを見ると性的に興奮する一種の性的倒錯(パラフィリア)であるとして、これを四肢切断愛と定義した。
そして、性的満足を得るために手足の切断を望むのだと結論づけた。

確かに、多くの症例で性的願望は一定の役割を果たしているようだ。ニュージャージー州にあるイングルウッド病院メディカルセンターの脳・身体疾患専門医リチャード・L・ブルーノは、一部の患者は四肢切断者に性的魅力を感じ、自分が四肢切断者になった場合を想像すると興奮することを1997年に報告し、こうした患者を「ディボーティ(熱望者)」と名付けた。

また、コロンビア大学の精神科医マイケル・B・ファーストは2004年の論文で、身体完全同一性障害患者52人のうち90%近くが四肢切断者に性的魅力を感じていると報告した。

しかし、性的衝動だけでは十分な説明がつかない。ファーストの研究では、問診した患者のうち、四肢切断を望む第一の理由として性的興奮を挙げたものは15%にすぎなかった。同様にブルーノは、性的幻想ではなく身体障害そのものに惹き付けられて切断願望を抱いている患者が大勢いることを確認した。

実際に身体障害を負いたいと望む者と、手足に包帯を巻いたり車いすや松葉杖を使ったりして身体障害を装いたいと願う者がいる。ブルーノは前者を「ワナビー(志望者)」、後者を「プリテンダー(ふりをする人)」と呼んだ。

これらの人たちは性的満足というよりも、周囲からの認知や同情を求めているのだとブルーノは主張する。そして、多くの患者は子ども時代(ふつう身体完全同一性障害はこの時期に始まる)に周囲から愛情や関心を注がれず、身体に障害を負って他者に依存することで、そうした感情的サポートを得ようとしているのだ、という説を立てている。

この仮説を裏付けるものとして、プリテンダーには自分の育った家庭が冷たく厳格で禁欲的だったと語る者がいることをブルーノは明らかにした。多くの患者が、車いすの人が周囲から手厚い配慮をうけているのを子ども時代に見てうらやましく思い、自分も怪我をして人から世話をしてもらえたらよいのにと、時には強迫的なまでに空想した、と述べた。

しかし一方で、身体障害願望というよりも、身体的同一性の異常としてこの病気をとらえる研究者もいる。ファーストの調査研究では、患者の約3分の2が、切断を望む最大の理由は「本当の自分になりたいから」だと語った。ある患者はこんなふうに語っている。「私は自分自身が変な身体のなかにいる気がします。右手と右足がなくなれば、ようやく完全な身体になると思います」。
ファーストは身体完全同一性障害を「性同一性障害」になぞらえる。性同一性障害も同様に、自分の身体構造の一部が自分の抱く内面的な自己イメージと一致しないため、不快な違和感を覚えている。どちらの障害も若い段階で発症するのが一般的であり、外科手術によって問題が解決する場合もある。

ファーストによると、こうした類似からすると四肢切断願望も同一性障害の一種だと考えられ、メンタルヘルス専門家向けの標準的な手引書『精神疾患の分類と診断の手引き(DSM)』でもそのように分類されるべきだという。

<手足切断願望は、脳の身体地図の異常が原因なのかもしれない>

こうした同一性の喪失は、神経系の原因で生じている可能性が大きい。大脳皮質(脳の外側層)には身体の各部と地図のように対応している部分があるが(図、1)、その一部が歪むか欠損しているのが原因だと考える研究者がいる。

例えば脳に損傷を負うと、この身体像の一部を作り出しているニューロンが傷つき、それに対応する身体部位が自分の身体ではないと感じられるようになるのだろう。

この結果、脳で認識される身体像と一致させるために、この身体部位を取り去ってしまいたいと望むようになるのかもしれない。

脳の損傷や異常によって影響を受けるのは身体地図のうちどこか一カ所である場合が多いだろうから、身体完全同一性障害が一般に左手なら左手、右足なら右足など、四肢のうち特定の部分を取り除きたいと望んでいることにも説明がつく。
例えばファーストが調べた患者の一人は両足から膝から下を切ってしまいたいと望んでいたが、この確固たる切断希望は後に猟銃の事故によって左腕を肘の上から切断してからも引き続き残った。

また、脚の切断を望む患者のほとんどが、膝の上で切断してほしいと位置を特定して示した、とファーストは報告している。

さらに、頭頂葉に生じた膿腫や脳出血が原因で身体像が歪むことが知られている。頭頂葉(頭のてっぺんあたり)は感覚入力をもとに書かれた身体地図が存在する場所だ。

<脳の身体地図> 図、参照

身体中の感覚神経と運動神経は大脳皮質(脳の外側層)との間で情報をやり取りしている。触覚や痛みなどの感覚を伝えるシグナルは、頭頂葉の最善部に届く。体性感覚野という領域で、「感覚ホムンクルス」(ホムンクルスはラテン語で『こびと』の意味)とも呼ばれる。

感覚シグナルはここで合流し、その人の身体像(ボディーイメージ)が作られる。身体の各部分の感覚受容器に対応したニューロンがそれぞれ集まり、一種の地図を構成している。

この地図上のニューロンの量は、対応する身体部分の大きさではなく、その身体部分に感覚受容器の密度を反映している。このため、ホムンクルスの手と顔(特に唇)は実際の人間の体型と比べると不釣り合いに大きい。

手と顔は、例えば尻や脚よりも感覚神経の終末が密集して分布しているからだ。
前頭葉の後部にある運動中枢は身体の筋肉と接続し、運動をコントロールしている。ここにも感覚ホムンクルスと同じような身体地図がある。この地図も手や顔などの筋肉が密集している身体部分ほど大きく表現されている。

これらの2つの身体地図はいずれも、左半身に対応する地図が右半球に、右半身の地図は左半球にある。(ザビ-ネ・ミューラー)



英国の神経学者オリバー・サックスが1984年の著書『左足を取り戻すまで』(邦訳や晶文者、1994年)で取り上げた症例がよい例だろう。

ある朝、若い男性が目を覚ますと、ベッドに誰か他人の脚があることに気がついた。彼はそれが死体の脚だろうと思い、ベッドから放り出そうとしたが、自分自身が床に落ちてしまった。

その脚は彼の身体にくっついていたが、彼にはそれがニセモノであり、自分の本当の脚はどういうわけか消えてしまったように思われた。

検査の結果、彼の右頭頂葉の上部に腫瘍が見つかり、その夜に脳出血を起こしていたことが判明した。サックスは腫瘍がこの男性の身体地図を損ねていると推測した。
手術で腫瘍を除去したところ、男性は正常な体性感覚を取り戻した。

このように身体の一部が自分のものではないと感じる障害を「身体パラフレニア」という。
身体パラフレニアと身体完全同一性障害には類似点があることから、カリフォルニア大学サンディエゴ校の神経科学者ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドランとポール・マゴーチは2007年に発表した論文の中で、身体完全同一性障害も頭頂葉の一部が損傷しているのではないかと指摘した。

そうした損傷によって、身体の特定部分と頭頂葉にある身体地図のつながりが切り離されてしまうのだろう。末梢神経の損傷によって身体完全同一性障害が起こる例もあるようだ。

サックスは1974年にノルウェーの山中で雄牛に襲われ、左大腿部に重傷を負った。傷が治った後、彼は大腿部とのつながりがなくなったように感じ、時々はその脚を切断したいと思った。

切断すれば「まったく役に立たず、昨日しない、まさしく“死んだ”脚をあちこち引きずり回すことから解放される」だろうと、自著『左足を取り戻すまで』に書いている。

こうした肉体的な傷害によって、手足と脳のコミュニケーションが遮断される場合もあるのだろうとサックスは考えている。

同様に、子どもの頃に手足を怪我して、その後間もなく切断願望にとりつかれるようになった患者もいる。ファーストの2004年の研究では、身体完全同一性障害患者のうち、脚を引きずったり骨折した経験をきっかけに切断願望を抱くようになった者は全体の約5分の1だった。

しかし、多くの症例は神経経路の生まれつきの異常に起因すると考えられ、怪我などの環境要因は二次的な役割を果たしていると思われる。

<切断願望を抑える>

従来の心理療法や抗うつ剤などの薬物療法では、切断願望は抑えられない。ファーストの研究では、どちらの治療法でも症状に大きな変化は生じなかった。

より効果的な治療法が見つかることを期待して、この病気の神経学的メカニズムに関する研究が進んでいる。

サックスは運動療法によって多くの患者を救っている。問題の身体部分を順序だてて動かすようなプログラムに従って運動するよう、療法士が指導する。

この種の治療法は、自分の身体と思えなくなった部分と、それに対応する脳内の身体像を再び統合すると考えられる。

またサックスは自身の怪我の後、左脚を使った歩行に必要な神経・筋肉機能を取り戻すうえで、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲が役に立ったという。この曲のリズムとメロディーに助けられて「脚が戻ってきた」と彼は書いている。

こうした簡単な運動療法には、身体と脳の間の神経経路を再び強化する効果があるのかもしれない。しかし、自分のものと思えなくなった身体部分が脳の身体地図から消去されてしまった場合は、この種の治療法は効かないだろう。

そうした場合には、ラマチャンドランとマゴーチが研究中の方法が有効かもしれない。外耳道をまず温水で、次に冷水ですすぐという方法で、その耳とは反対側の脳半球が刺激される。

これによって、脳卒中に伴って身体パラフレニアになった患者の症状が一時的に軽くなった。
頭頂葉が刺激されることが改善をもたらすのだろう。
ラマチャンドランらは今後、身体完全同一性障害患者にこの方法を試したいと考えている。
もしこれが有効となれば、脳に電極を埋め込んで関連領域を直接に刺激するなど、より持続的な方法を試すことになるかもしれない。

身体完全同一性障害に対する現時点でもっとも効果的な治療法は、最もダメージの大きな方法、つまり外科手術のようだ。

ファーストの調査研究では、本人の希望する位置で手脚を切断する手術を受けた患者が6人いたが、手術後には切断願望が消え失せて、とても幸せな気分になったと語っている。

ある患者は切断手術について「5年前に受けて以来、人生で最高の気分で過ごしている」と語る。別の患者はこう話す。
「やっと穏やかな気持ちになれました。絶え間ない欲求不満に悩まされることはもうないのですから」
(翻訳:小幡美恵子)
↓続く

コメント(2)


<切断手術を認めるか否か?>
手足を切除してほしいという身体完全同一性障害の願いを、外科医は聞き届けるべきだろうか?医療倫理学者の意見は分かれている。賛否それぞれを代表する主張を以下に示す。

賛成…患者が切断願望を長年にわたって抱き続け、精神異常ではなく、手術のリスクと結果について十分承知しているのであれば、切断手術を行なっても倫理的に差し支えない。
それによって多くの身体完全同一性障害の自傷・自殺行為を防げるだろう。
(医療倫理学者ティム・ベイン:英オックスフォード大学とニール・レビー:豪メルボルン大学)

反対…健康な手足の切断は、患者に危害を加えることを医師に禁じた「ヒポクラテスの誓い」に背く。精神医学の観点からいえば、手足を切断したいという身体完全同一性障害の願望は体重を減らしたいという拒食症患者の願望と同様、妄想に過ぎない。このような場合、医師は患者自身の不合理は願望から患者を守らなければならない。

また、切断手術によって満足感を得たいとしばしば報告されるものの、その満足は必ずしも永続的ではない。これに対し、ひとたび切断したら手脚は元には戻らない。さらに、切断した患者が医学的なリハビリを受ける権利や早期退職する権利を求めた場合、社会は相当高いコストを負担することになる。
(アーサー・カプラン:ペンシルベニア大学生命倫理センター所長)

著者:Sabime Mueller ザビーネ ミューラー
物理学者、哲学者。ドイツのアーヘン大学病院にある医学史、医学理論、医学倫理研究所で生命倫理プログラムの責任者を務めている。
初めまして、こんばんは。
現在大学で「身体完全同一性障害」について調べています。
知名度が低く、症例もごく僅かな為、論文探しに手間取っています。
Michael B. Firstさんの2004年の論文等、URLを教えていただけないでしょうか。
返信お待ちしております。

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