ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ホーム > コミュニティ > アート > 文芸の里 > トピック一覧 > SF 未完 〈12〉 街の憂鬱...

文芸の里コミュのSF 未完 〈12〉 街の憂鬱 の巻

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コミュ内全体








 夏の日の朝、窓の下に小綬鶏の声がして、ぼくはレースのカーテン越しに地面を覗いて見た。やはり二羽の小綬鶏が、アオイの根元から窓を見上げていた。二羽は雌と雄で、親しいいつもの鳥と、その兄だった。
 以前フクロウが、霞網ではないかと、怪訝な顔をしたレースのカーテン越しに、チョットコイと呼ぶのははばかられて、勝手口の木戸を開けて、チョットコイと彼らのお株を奪って呼んだ。二羽は面食らって、いっとき逃げ腰になったが、その兄は特に、自分が狐に囚われていたのを助けてくれた救い主であると知って、大いに悪びれつつ寄って来た。兄につられて妹も寄って来た。中に入るように勧めると、上がり口の雑巾で枯葉を蹴散らすような拭い方をして、リビングに入って来た。人様の家の中は生れてはじめてだったらしく、二羽はきょときょと落着きなく、すすめる長いソファに兄妹の間隔を極端に開けて、右端と左端にのった。彼等には足を前に伸ばして座るのも、かえって疲れるだろうから、ぼくもそれ以上は言わなかった。だから、長いソファの右と左の端に立つ格好だった。
「よくわかったね、この家が」
 依然きょときょとして部屋の中を見回している二羽に、ぼくは言葉を発した。
「フクロウさんにに聞いたから」
  とこれは妹が言った。この鳥はふだんぼくと行動しているときより、しおらしかった。いつもは乱暴で、男勝りな口を利くのである。兄の前では、それができないらしい。
 二羽は七、八分経ってもそわそわして落ち着かなかったので、何かあるなと思ってぼくは訊いてみる。
「きみたちがわざわざここまでやって来たのは、どういう目的があったんだ」
 妹は脚に貼り付けて来たものを、嘴ではがしにかかった。苦労して剥ぎ取り、ぼくに見せたものは、動物の毛皮の一部のようだった。毛が短いことから、鹿か馬か牛のようだ。栗毛だ。皮に毛が

密集しているところから、動物から毛を抜き取って来たのではなく、皮を剥ぎ取って来たものだろう。そんなことは生きた体からはできないので、死体から切り取って来たと思える。
「これはどういう意味なんだ」
 ぼくは毛皮の見本のようなものを、指につまんで見ながら言った。
「隣の山からフクロウさんのところに伝書鳩が飛んできて、その毛皮の切れ端を見せて、応援を頼むって言われたらしいのよ」
「これはカモシカの毛だな」
 ぼくは毛皮の切れ端を目に近づけて、そう言った。妹小綬鶏はうなずき、説明に入った。少ない言葉ですむように、ぼくは想像を豊かに働かせなければならなかった。つまりこのカモシカが他の動物に殺されたのだ。それで殺した動物を征伐しなければならないのだろう。応援を頼むというのは、そのことだなと考えられた。その殺し屋というのはクマだな、とぼくは睨んだ。そのクマ狩りの応援をするように、二羽の小綬鶏はフクロウに差し向けられてやって来たのだ。
 ぼくがそれを言うと、妹は半分だけうなずいて、もっと先へ進めという顔つきになった。離れた位置にいた兄もそばに寄ってきて、ぼくを睨むようにしていた。
 前にフクロウがやって来たとき、動物はそれぞれ人間に手本を示すために動かされている、というようなことを話していたのを思い出していた。性格の荒い動物は荒いなりに、おとなしい動物はおとなしいなりに、それぞれの持てる能力に応じて、今生きることから、将来の行く末までも、演じつつ生きているということだった。では性格が粗暴で悪さを働く動物は、行く末までも荒れ狂って暗黒なのかというと、そうでもなく、しつけの効くものと、そうでないものがいて、その善悪を見分ける役割を負った動物もいるということだった。役割を担った最高のものがフクロウと考えてもよさそうだった。フクロウは普段の努力とか経験ではつちかえない天稟の能力を与えられていて、強暴なクマの興奮を鎮めたり、麻痺させて眠らせたりもできるのだった。しかし本来の性格を変えることは難しいとも語っていた。
 ちょうどぼくの家の前の松の木でコウノトリが巣作りをしていたときだったので、少し前に隣の街で起こったコウノトリの美談と重ねあわせて、フクロウは教えてくれたのだった。その美談のコウノトリは自分の巣の上にアパートの上の階から落ちてきた幼子をかばい、自分の子でないからと追い出したりせず、餌を運んで来て与えたというのだ。それに比べて、とフクロウはぼくの家の前の松に巣作りをするコウノトリに怒声を放った。あれは悪い鳥です、とも言った。
「なぜそう断定できますか」
 とぼくはそのとき訊いた。
 松の木に巣は完成していたが、まだ卵は産んでいなかった。
「留守中に巣に来ていた鴉を、ものすごいスピードで降下してつかまえ、首を折って下に落していました」
 ぼくはその一週間前、松の木の根元に翼を開いたままこと切れている鴉を見つけて埋葬していたので、まさかそのことを指しているのではあるまいと思って、訊いてみたのであった。
「それはいつのことです?」
 ぼくは身を乗り出してたずねていた。
「つい、さっき。私がここにお邪魔したときでしたよ」
 とフクロウはいともたやすく言った。フクロウが帰った後、松の木の根元に行ってみると、なるほど首を折られた鴉が横たわっていた。ぼくはその骸を、一週間前に埋めた鴉の隣に葬った。木彫に使った板の切れ端に、カアの墓と書いてやった。前の鴉にも同じ墓標を立てたので、「カア、カア」鴉の声が聞こえた気がした。
 兄と妹の小綬鶏が、身振り手振りを加えて、鳥言葉とつたない人間の言葉をこきまぜてぼくに伝えたところによると、クマは現在フクロウの祈りによる麻酔にかけられて眠っているが、その眠りから覚める時刻が迫っている。眠りが醒める前に、山から海岸に運び出す、その指揮をぼくにとってもらいたいとのことだった。ぼくが指揮をするぶんざいでないと、躊躇っていると、フクロウにそう指示されて来たのだときかなかった。フクロウに聞かなければこの家は分からないはずで、フクロウの介入は明らかだった。しかもフクロウが以前、吾々動物はみな、人間に手本を示すために動いている、と語っていたことを思い合わせると、ぼくは今日立ち上がらなければならない義務のようなものを感じた。
 麻酔をかけられているクマの目覚めが迫っているとなると、優柔を決め込んでいるわけにはいかなかった。
「わかった、わかった。行くよ、行くよ」
 とぼくは言い放った。張り詰めていた二羽にどっと緊張の崩れて行くのが見えた。
 「クマが攻撃してきたとき、長い棒があったらいい」
 と妹が言った。さっきから二羽がそわそわして、家の中を見回していたのは、武器になるものを探していたのか、と読めてきた。
「武器になるものか」
とぼくは考え込んで深く頭を垂れてしまった。ふと思いつくものがあって、玄関に立って行き、傘立てに立ててあった三段式の高枝切り鋏を手に戻った。伸ばせば、四メートルにもなり、先端に鋏がついている。
 ぼくが折りたたみ式の高枝切り鋏を伸ばして見せると、鋏の部分が鳥の嘴のようになっていて,しかも目らしきものまでついているので、二羽は怯えて目をそらした。二羽に怖ろしく見えたのなら、効果覿面というわけだ。
「これでよし」
 ぼくは言って、伸ばした高枝切り鋏をたたんでソファに立てかけておいた。それがずれてギシと音がしただけで、二羽の体は同時に動いた。
「戦に出るとなると、しっかり腹ごしらえをしないといけないな」
 ぼくは買い置きのトウモロコシがあったのを思い出し、大鍋に水をくんで、三本のトウモロコシを茹でることにした。
 ぼくがガス器の前に立って、それが茹るのを待っていると、妹小綬鶏が足元に来て、首を傾げたりしながら見上げている。兄のほうは戸棚の上に乗って、やっぱり大鍋のトウモロコシを見ていた。茹であがると、すこし冷まして、兄と妹に一本ずつ与え、ぼくも一本を齧った。二羽は床の皿に載せたトウモロコシを、端から行儀よくではなく、アトランダムにつついていたが、
「私は、なまのほうがよかったな」
 と妹が口を滑らせたのを、兄が横からつついて黙らせる場面もあった。つまり農家のトウモロコシ畑を荒らしていることを、暴露してしまったのだ。兄につつかれて、
「そっか」と理解したまでは良かったが、「トウモロコシは野生の食べものじゃなかったか」などと悪びれて言った。しかしその弁明も兄からするとよけいなものだったらしく、また妹をつついていさめた。
 食べ終わると二羽の前にマグカップを置いて、オレンジジュースを注ぎ与えた。二羽は鳥独特の,うがいをするような飲み方をした。それも人間への手本とするなら、天へ感謝をささげよという教えなのかもしれなかった。すると四足の動物より鳥のほうが、神の思いにかなった生きものと言えるのだろう。フクロウも、その部下たる小綬鶏も、鳥なのだから。フクロウなどは、闇の中でも見通す、人間の百倍の感光度を持つ目を持っているというのである。
 問題のクマのいる隣の山までは歩いて二時間。そこから海までは一時間半。都合三時間半の長い行脚がはじまることになった。ぼくはナップザックに乾パンと紙パック入りの飲料を詰め、高枝切り鋏を手にして出発した。
 コウノトリのいる松の木に来ると、二羽はぼくのこちら側に身を隠すようにして歩いた。
「やっぱり怖いか、あの鳥は」
 松の木を過ぎて、しばらくしてから訊いた。
「怖い。今朝も大きな声で呼ぶと、見つかるから、小声しか出せなかったよ。だから二時間も窓の下で待たなければならなかった」
 と妹が言った。
「何だって、窓の下に二時間もいたのか」
「だって、怖い鳥だもん」
 と妹が言った。  
 コウノトリは幸いを運ぶ鳥だと言われていても、やっぱり善と悪と二種類に分けられるのかと、ぼくはフクロウの言葉をぼんやりと、しかし身につまされて感じていた。なぜかといって、この二羽の善良な鳥を二時間も待たせ、そのために悪の征伐に出かけるのが、遅れてしまっているのである。悪者をかばう憲兵のように、松の木の上に立っているとしか思えないではないか。
 険しい山を喘ぎ喘ぎ登って、隣の領土に入り、そこを少し下ったところに森がひかえていた。
その森の中にシロフクロウがいて、一頭のクマを目を光らせて見張っていた。クマは四本の足を横に投げ出し、鼾をかいて眠っていた。
 ぼくの知るフクロウは茶褐色のモリフクロウだったが、こちらは一回り大きく、全身白い羽毛でおおわれたシロフクロウだった。やはりモリフクロウと同じく、こちらの山の動物たちの魂の管理を、一羽で負っているようだった。体が大きいだけに、他の地域で手に負えない動物も、こちらへ回されてくるらしかった。二匹のクマも、そうやってこの山へ追い出されて来たのだったが、一匹はこちらでも管理しきれず、いま山を追われる身になったのだった。
「もう一匹のクマはどうなりました?」
 ぼくはそれが気になって、シロフクロウの留まる木の枝を見上げて訊いた。
「あれはこのクマに引きずられて悪くなっていただけで、引き離すと見違えるほど良くなりましたよ。ただ大酒のみの弊害はありますけれどね」
 シロフクロウは寛容さを滲ませて、そう言った。
「大酒飲み?」
 ぼくは意外な言葉に接して、そう言った。
「大酒飲みをご存じない?」
 とシロフクロウは逆に意外そうな顔をした。ぼくは大酒飲みを知らないわけではなく、酒が山中に発酵していることが分らなかったのだ。しかし温泉が湧くように、酒が出ていても不思議がるほどのこともないと考え直した。
「いや、蜂蜜を好むクマならともかく、酒飲みのクマなんて、初めて耳にしましたので」
 とはぐらかしてしまった。
「私も、二匹あずかって、二匹とも追い出すことになったら、どうしようかと頭を悩ませておりましたが、このクマに引きずられていただけと分かって、ほっとしましたよ」
 このとき眠っているクマの鼾が、変調をきたして、身じろいだので、このクマの処置についての具体的な話に移った。
「海辺に放置するのではなく、目を覚ますのを待って、海へ追いやってくださいね。その折り、私もひと飛びして行ってみますけれど。もう許容する猶予はないのですよ。このクマに限って。これが最終的な裁きというものです。海岸に丸太を組んだイカダが置いてあります。それに乗せて追い出すだけです。離れ島に着けば、そこで一匹だけで生きていけばいいのです。ここから見える島はぜんぶ無人島です。人さまに危害を加えることはありません。自慢するわけではありませんが、私の目でくまなく調べてありますからね」
 シロフクロウは一通り語り終えると、世にも奇妙な鳴声を発した。クマを運び出す随伴者を呼んだのだ。
「パーピ、パピパピ、ゴーゴー」
 そんな奇妙きてれつな呼び声に、次々とクマの運搬に協力する動物たちが集まって来た。頑丈な角の雄鹿が五匹、牙の鋭いイノシシが十数匹、アライグマ、タヌキ、この国には棲息していないはずのカンガルーやダチョウも入っている。他に歩みが遅く、自分がいると逆に引っ張られて足手まといになりそうな小さな生き物は、行くのを断念した。
 鳥たちはクマを曳く列には加わらないが、行進を力づけ励ます歌の声援を送るために集まっていた。彼らは先へ先へと進み、沿道の木々に留まって応援の歌声をひびかせるはずである。
 当のクマは、これら手ぐすね引いて待ち構える動物たちのことも知らずに、高いびきかいて眠っている。
 雄鹿がブドウの蔓をクマの胴体に絡めて固定させ、片方の端を自分の首に巻いた。他の雄鹿もそれぞれブドウの蔓をクマの胴体に巻いて、一方の端を自分の首に絡んで口にくわえた。雄鹿が掴むブドウ蔓の、クマに近い側を、イノシシなど背の低い動物が口にくわえ、あるいは抱え持った。
 まだ記述していなかったが、凶暴化したクマの被害は大きかった。四匹の雌鹿と五匹の子鹿が食い殺されていた。イノシシの被害も多く、十数匹を下らなかった。身寄りのないイノシシもいたので、実態がつかめず、被害の総計はもっと多くなると思われる。いったいこのクマに、何が起こったというのだろうか。クマに悪霊が入り込んで、暴れまわったとしか考えられないではないか。要するに、悪霊に入り込まれてしまう器であることが問題なのであろう。
 肉親を奪われた鹿やイノシシたちの、クマへの憎しみは相当のもので、クマを運び出す苦労など苦とは思っていなかった。
 野鳥の囀りが、大気を切り裂くばかりにキンキンと響き、森をかがやかせた。

「オーリャ、ワンサ」
 クマを曳き出す雄鹿の掛け声がかかった。笹が撥ね、雑草や散り敷く落葉のこすれ合う音、ぱちぱち小枝の折れ弾ける音、それらの音のざわめくなかを、クマ曳きの行進は開始された。
 そのしんがりを、ぼくは一人でついて行った。二羽の小綬鶏は、行進の歌を奏でる鳥の群れにまじって、どこにいるのか見当がつかなかった。

 クマを曳く一行が海辺に着き、クマの麻酔が切れて立ち上がったのは、夜も更け、深い藍色の空に星が瞬きはじめたころだった。山に行かせまいとする動物たちを牙で威嚇して戻ろうとするクマを、最終的に押しとどめたのは、シロフクロウだった。シロフクロウは砂浜に打ち上げられた難破船の舳先に留まって、クマを睨み付けると、天の神に応援を頼むべく声を発したのである。その声を聴くと、たじたじとなって、イカダのほうへ後退をはじめた。今とばかりにぼくは、高枝切り鋏をクマに突き付け、イカダに乗りこませた。そのイカダを雄鹿が頑健な角で押しやった。イカダは砂をえぐって水に浮かんだ。他の雄鹿も加勢してイカダを押した。クマは牙を剥きだして吼えたが、何と言っても多勢に無勢。しかも廃船の舳先にシロフクロウがいるとあっては、勝ち目がなく、イカダに身をゆだねて漂って行くしかなかった。イカダはクマを乗せて、ゆるやかに海上を滑って行った。
 感光度が人間の百倍あるシロフクロウの目で、豆粒ほどに遠ざかったことを確認して、みなは帰路についた。小綬鶏はもちろんのこと、鳥目の鳥たちは、星明かりに頼るほかなかった。
 ぼくは夜行性の動物たちと一緒に山を登り、隣の境界に入ると、山を下って行った。シロフクロウに送って行くように命令されたアライグマがついて来たが、ぼくは一人で帰れるからと、アライグマを帰そうとした。
「またいつか、お会いする日を……」
 と別れの挨拶をしたが、こんなことはもうないほうがいいと思っていた。ぼくは高枝切り鋏をのばして、月光と星明かりを頼りに、イチジクの実を落としてやり
「おみやげだ、おくさんによろしく」
 と言った。
「うちの奴、喜びますぜ。イチジクは好物だから」
 と言いながら拾うと、大きな木の葉に包んで、それを背中にくくりつけ、帰って行った。
「それは洗わなくても、いいんだぞ」
 とアライグマに声を投げかけたときには、影も形も見えなかった。
 なじみのフクロウ㋨棲む森の前を通ると、樹冠の上で見張っていた彼女が降りてきて、
「ごくろうさま」
と迎えた。シロフクロウとは雰囲気がちがっている。シロフクロウには威圧する力があったが、このモリフクロウには優しく包むところがある。
 ぼくが今日あったことを報告できないでいると、モリフクロウが慰めるように言った。
「しょうがないのよ、裁きは避けようがないのだから。伝書鳩が来て教えてくれたのだけれど、あのクマ次々と動物を殺して、肝臓だけを食べていたんだってね」 
ぼくはモリフクロウのその最後の言葉を、重く閉じ込めて山を下って行った。遠く街の灯が見えてきた。あそこには何も知らない世界が眠っている。ぼくは憂鬱とも気だるさともつかない感覚に包まれ、歩みを進めていった。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

文芸の里 更新情報

文芸の里のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング

mixiチケット決済