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文芸の里コミュの未完SF〈4〉 小綬鶏兄の救出の巻

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 人間に動物の代表としてメッセージするために遣わされたという梟は、次々とゆるがせにできない奥義を語ったが、それを順を追って書き留めることは不可能だ。それで僕に直に差し向けられたと思われる小綬鶏が、持ちかけてくるものから、順次片付けていくしかないだろう。
 梟も僕に、そのような含みの忠言を残して行った。
「あの小綬鶏には一つ違いの兄さんがいるのよ。だけどその兄さんが狐に囚われてしまったの。半年前に」
 梟がこう言ったとき、チョットコイが僕に話したがっていたのは、そのことだなとぴんときた。
「中身については話さなかったけれど、困った問題があるって言ってた、昨日帰りに」
「そうなの。彼女そのことで苦しんでいるのよ。相談にのってあげてね」
 と梟は言った。詳しいことは妹に訊けばいいと、それ以上は話さなかった。
 翌日約束したとおり小綬鶏に会うと、梟に聞いた話をして妹に真相を迫った。一刻も早く小綬鶏の兄さんを救出しなければならなかった。
 その日(兄さんが狐にさらわれた日)小綬鶏の兄さんは枯れはじめている薄原で、何気なくチョットコイと呟いた。準備段階もなく、いきなり十八番のチョットコイが喉を突いて出てきたので、気分を好くしていた。それで次々とチョットコイを連発していると、近くで「コン、コン」と狐の声がしていることに気づいた。しまった! と思ったが手遅れだった。何匹かの狐に取り囲まれていたのだ。小綬鶏の妹はそれ以上の説明はしなかったが、動物は人間のために創られているとの梟の話から、僕は大胆な意訳を試みて、それも許されると考えた。その前提でいくと、最大限の意訳も可能だということで、コンと鳴く狐の内面には、強敵であるツキノワグマが(コナイでほしい)という願いが秘められていたと想像された。つまり(コン、コン)『来ないで欲しい、来ないで欲しい』とひたすら祈りつつ鳴いているとき、それに楯突くように<チョットコイ、チョットコイ>と鳴く小綬鶏の兄の声は相当癪に障ったのであろう。捕まえて餌食にするくらいではおさまらず、もっと留めて置いて、とっちめてやれということになった。それで悪賢い知恵を集めて協議した結果、囮にして他の小綬鶏を誘き寄せ、捕まえてその肉に与ってからにしようぜ、ということになった。兄さん小綬鶏は人間のゴミ捨て場から拾ってきた古い鳥篭に入れられ、かろうじて生きるだけの餌を与えられて飼われることになった。
 囮にされても、兄さん小綬鶏はチョットコイとは鳴かなかった。チョットコイと鳴けば、仲間の鳥が捕らえられて餌食にされると分かっていたからだった。囮の鳥籠の傍には、三匹ほどの狐が隠れて待ち構えていたが、誘き寄せられて来る小綬鶏はなかったので、見張の狐も飽きてしまって、囮の鳥籠は放置されたままだった。囮の役に立たないからといって、がらがらに痩せた兄さん小綬鶏を食べたいとは思わなかった。
 それにしても、重い鳥籠を山の麓のゴミ捨て場から、よくも運んできたものである。囮の道具として、小綬鶏を誘い込み、新鮮な鳥の肉を食ってやろうという暗い情熱が燃え滾って、力になったのだろうか。暗い情熱とは、本来狐に具わっている本性なのである。狐はそのように創られているのだから、どうしようもない。
 狐の性根はそのように神からは遠いところにあると、僕は梟に教えられていた。狐の本性が動物の中で、どの辺りにランクされているかも、梟は教えてくれた。
 とにかく悪いものは冷血なのである。僕は梟に教えられた知識に基づいて、いたって冷静客観的に、狐に立ち向かって行くことができた。狐が牙を剥いて向かって来るときのことを考えて、懐中に小刀を忍ばせもした。
 小綬鶏の妹はすごすごと僕の後ろについて、右へ左へと山道を導いて行った。言い忘れたが、狐に見棄てられた兄さん小綬鶏を見守って、毎日欠かさず餌を運んでいた小綬鶏がいたのである。その鳥こそ、囚われている兄さん小綬鶏の愛人ならぬ、愛鳥だった。結婚を約束した仲だった。結婚を間近にして、兄さん小綬鶏は狐に囚われてしまったのである。兄さん小綬鶏が消えてしまって、この恋する鳥がどんな思いで探し回ったかは、筆舌にできないほどである。一羽で山を駆け回って、探し回った。もちろん妹小綬鶏も捜し歩いたが、夫婦になる約束の乙女の鳥には、一心同体の片割れを失ったような悶え苦しみだった。鳥籠に囚われているのを見つけ出すまでは、生きた心地もしなかった。見つけ出してからは、妹も餌を集めては兄のところへ運んだ。妹は口の中に溜めてきた食物を鳥籠の中へ入れてやるしかできなかったが、許婚の雌鳥は口移しで兄に食べさせたりした。
 妹小綬鶏は兄を救い出すのに、その許婚の雌鳥を連れて行ってはどうかと、提案した。
「それはいい考えだ」
 と僕は言った。少し遠回りして、一本の樫の木の下で、妹は枝を見上げて、ぐずぐず何やら唱えはじめた。間もなく、
ーーチョットコイーー
と澄んだ声が洩れて出た。僕は妹の呼び声が、これほどぴったりした言葉であるとは知らなかった。万物は時にかなって美しいと、日頃から考えていたが、今のチョットコイは、万物の中でもぴか一に美しかった。
 枝と木の葉の奥から、クチュクチュと甲高い声が洩れて出て、そこから翼を開いた一羽が舞い降り、僕と妹の前に立った。僕がいても、驚く気配を見せないので、妹がこの兄の許婚に、僕のことを話しているな、と頷けた。話したのは、そう昔のことではない。もしかすると、二日前、妹が僕に話してしまおうと決心した後かもしれない。
 間もなく、二羽と一人は山の中腹から上部へと踏み込んで行った。この時は人間の僕がいるので、心を強くしてか、二羽は僕の前を歩いた。僕はブレザーの隠しの上からナイフを探って、布ごしに掴んでいた。
 山道は途中から、木の少ない比較的平らな草原になっていた。薄の穂が風に揺れて、草が揺れる音のほかには、ごくたまに、ちょっ、ちょっと、虫の鳴声が洩れ出るくらいで、あたり全体を静けさが被っていた。
 僕はその中から、チョットコイと小綬鶏の声がしてくるのではないかと、不安に締め付けられたが、虫よりも重たい声は一度としてしてこなかった。コンコンと鳴く狐もいなかった。ふと僕は、狐は本当は何と鳴くのか、根本的な懐疑に襲われて、耳を澄ました。子犬じみた声でキャンキャンと鳴くのか。犬の遠吠えのように、ウオーンと吠えるとか聴いたことがあるが、実際のところは分からない。かく教えた者も、狐の真の声を聴いているとはいえなかった。はたしてコンコンと鳴くというのも怪しくなってきた。
「あそこよ。兄さんのいるところ」
 妹小綬鶏が、僕の足元に寄って来て、そう言った。許婚も歩みを止めて、その辺りの様子を窺っている。あまりに静か過ぎて、愛する相手がいるのか、不安に駆られているふうにも見えた。その存在が不確かな相手に、許婚はクックッと短い声を発して来訪を報せた。応えるようにグフッというような声が洩れた。二羽の小綬鶏の上に、ほのぼのとした安心が広がり、山の平和と相和して、目の前の草が静かに揺れている。
 兄は僕を見ても、少しも驚かなかった。妹から聞かされているのだろう。どういう話をしたのかは分からないが、味方になってくれる人で、肉鳥として売るとか、剥製にして売り飛ばすような人ではないと、兄を安心させていると思えた。
 いよいよ僕に、人間だけにできる魔術をつかう時が差し迫っていた。錆び付いた鳥籠を片手で押さえると、格子になった鉄の扉を持ち上げて、鳥籠の仕切りを取り払った。兄さん小綬鶏は一瞬戸惑いを見せたが、過去の悪夢を追い払うようにして、外へ出て来た。狐が草の中から見ている気がしたので、僕は三羽をそこに待たせて、一人草原のなかへ出て行った。そしてライターを取り出すと、大きく咳払いをして、狐に威厳を示し、枯草の固まったところに火をつけた。火が広がって山火事にならないように、少し離れた地面を靴底で削り取って、湿った黒土を掘り起こした。バックに人間がいると分かれば、小綬鶏を捕らえようなどとは、二度としないだろう。動物にとって、火ほど恐ろしいものはないのである。火を見て狐は、逃げ支度をはじめているだろう。運び出す宝を隠しているとは思えないから、我先にと逃亡しているだろう。
 火は約十メートル、幅一メートルほどを燃やして炎は見えなくなり、白煙を昇らせるだけになった。その煙に身を隠すようにして、僕と三羽は山を下って行った。
 三羽が塒としている辺りに来て、歩みが遅くなると、僕は振り返って片手を挙げ、
「じゃ、元気でね。また会おう」
 と言った。
 三羽の嘴が揃って開いて、
「チョットコイ」
 と発声した。準備の時間もとらず、その声はいっせいに飛び出してきた。僕はその言葉を、チョットコイからチョット行け、と言い換えて歩いて行った。チョット行け、なら、どこかでチョットコイと呼ばれたら、その誘いに乗れるのである。しかし今はまだ早すぎる。もっと離れてから、できれば、別の日に呼んでくれ。そうすれば喜んで行くだろう。
 僕はそんな独り言をしながら、夕日に染まっていく郊外の街へと歩みを進めて行った。

小綬鶏兄の救出の巻

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