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文芸の里コミュの花びらのシーツ  〈メルヘン〉

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◇花びらのシーツ


 夏の日の昼下がりです。
 森では子供たちの声が、沸き立つように木立に響いています。賑やかさにかけては、引けを取らない小鳥たちも、顔をしかめるほどです。
 あまり太くはないクヌギの樹に、ミヤマクワガタの兄と妹が、寄り添って樹液を吸っていました。兄さんクワガタは茶褐色の背もつやつやしく、あごも大きくがんじょうなのがついていて、堂々とした体つきでした。けれども妹の方は、こじんまりとしてあごも小さく、まったく、見栄えがしないのです。
 クワガタの兄妹は、子供たちの声を気にしていたのですが、おなかがすいていたので、樹液を吸い続けました。子供たちがここまで来るには、まだ時間がかかると思っていたのです。
 ところが突然、すぐ前で女の子のキンキン声が弾んだのです。
「クワガタめっけた。私がめっけたんだから、私のよ!」
 不意をつかれて、ミヤマクワガタの兄と妹は逃げ出せませんでした。立派なあごを持つ兄さんは、体を起こして威嚇の構えを見せます。妹はその傍で、びくびく震えています。
(お兄ちゃん、上へ逃げようよ)
 と心では言っているのですが、あまりの恐ろしさに声が出ないのです。
 クワガタは羽根を出せば飛べるのに、がんじょうなあごの武器があるため、ついそれに頼ってしまうのでしょう。また、もともと蝶や蜂たちのように、すいすい身軽には飛べないように出来ているのです。
 女の子が、クワガタを取ろうとして手を伸ばしてきます。兄さんクワガタの隣りで、妹クワガタも短いあごを突き出し、威嚇の構えになります。
「もし、つかまえたら、私だってかみついてやるんだから。私のあごは、兄さんより短いけど、一度かみついたら、絶対に放さないのよ」
 妹クワガタは意気ごんでいます。
 女の子は、手、顔、足と、ひっかかれたのか、すりむいたのか、赤チンだらけです。その赤チンの手を、兄さんクワガタに近づけます。兄さんクワガタは、赤い色に興奮したのか、よけいいきり立ち、さっと回りこんであごを振り立てました。
「きゃー、お兄ちゃん助けて!」
 こう叫んだのは、人間の女の子なのです。そして別な驚きにとらわれたのは、クワガタの妹です。
(この女の子にも、お兄さんがいるんだわ)
 こう思うと、女の子に近しさを感じました。
(そしたら、私たち、妹どうしね)
 妹クワガタは、威嚇の姿勢を崩して、女の子のほうに近づきました。
「何だ、こんなものがつかめないのか」
 助けを求める女の子の声に、駆けつけた三人の男の子のなかの一人が、兄さんクワガタをあっさり手にしてしまいました。兄さんクワガタは、勝手が狂って空中に足とあごをばたつかせるばかり。
「いやよ、それは私のよ!」
 女の子は、兄らしい男の子が虫かごに入れようとするのを拒みました。
 男の子は仕方ないというふうに、女の子の虫かごに兄さんクワガタを入れました。
 子供たちは他のクワガタやカブト虫を探しに行ってしまいました。

 妹クワガタは、まったく無視されて残されたのです。すぐクヌギの樹を駆け下りて追いかけましたが、谷の向うに子供たちを見失ってしまいました。
 妹クワガタは悲しくてなりません。お父さんも、お母さんもいず、たった一人の兄さんだったのに、連れて行かれてしまったのです。
 どうしてすぐ、飛んで追いかけなかったのかと、自分の愚かさが悔しくてなりませんでした。羽根を出すことさえ忘れていたのです。
 クワガタの妹は、悲しさと寂しさが募ってきて、夕方になると、村里を目指して飛んで行きました。
 灯りに向かってなら、相当長くも飛べました。灯りがだんだんふくらんできて、人家に着くと、庭をひと巡りして偵察しました。
 虫の箱が見つかると、降りて行き、中を覗きました。空っぽの箱もあれば、蓋がしてあって、中が見えないのもあります。そんなときは、箱に耳を押し当てて、音を探ります。
 クワガタがいないと分かると、次々と家を移って探して行きました。
 夜空に星が光って、飛んでいるときは寂しいとは感じませんでした。星が、小さな虫の悲しみを知ってくれているように思えたからです。星はたえず、ささやいていました。
〈ほれ、もっと探して行きなさい。兄さんは、必ず見つかるよ〉
 星たちは、確かにそう言っていました。それだからこそ、妹クワガタは飛んだのです。高く低く、初めての土地を、電線や、畑や、夜露に濡れて青白く光る道をこえて、疲れも忘れて飛んで行ったのです。
 三つばかり、クワガタやカブト虫の入った箱を見つけました。空気孔から覗いてみると、ノコギリクワガタや、アカアシクワガタ、オオクワガタなどでした。ミヤマクワガタもいましたが、
「お兄さん?」
 と呼んでも、とろんとした目をして、知らん顔をしていました。
 みんなを外に出してあげたいと思っても、蓋はがんじょうで、小さな妹クワガタの力ではどうにもなりませんでした。
 村の灯は点々とどこまでも広がっていて、全部を探していくのは気が遠くなるほど大変なことでした。
 ある家の屋根に留まって羽根を休めていると、聞き覚えのある、女の子の声がしてきました。この甘えたところのあるキンキン声は、あのとき、「クワガタめっけた!」と叫んだ女の子に違いありません。
 妹クワガタは急に元気づいて、庭をひと巡り、ふた巡り、三巡りして、ついに軒下にある大小二つのダンボール箱に目を留めました。
 二つのダンボール箱は、軒下の端と端に、そむき合うような感じに置いてありました。
 大きなダンボール箱を覗いて、びっくりしました。たくさんのクワガタが、囚われていたのです。餌として与えられているスイカの、すえたにおいが洩れていました。女の子がこんなにたくさんつかめるはずはありません。そこに思いつくと、妹クワガタは軒下のもう一方の小さなダンボール箱に向かって、スタコラスタコラ走り出しました。こんなとき、羽根を出して飛ぶことを忘れているのです。
 小さなダンボール箱に辿り着くと、空気孔から覗きました。
「お兄ちゃん!」
 妹クワガタは、勢い込んで叫びました。自分の声らしくもなく、しわがれています。兄さんが連れ去られてから、食べ物も飲み物も口にしていなかったのです。
 兄さんクワガタは、ゆさぶられたように体を起こすと、こわい目つきで妹をにらみつけました。けれども、立派なあごを振り立てて威嚇する元気はありませんでした。兄さんクワガタは、足を引きずりながら寄って来るなり、
「来ちゃだめだ、帰れったら! この家には猫もいるんだ」
 こう邪険に言い放ちました。
「私、帰ったってつまんない。ここにいる」
 と、妹クワガタは言い張ります。
 これ以上話しても、地団駄踏んで鳴き出すばかりだと知っていましたので、兄さんクワガタは静かに言い聞かせる方法に切り替えました。
「いいか、ここにいたって、おまえは小さい上に、あごの武器だって、そんなに貧弱なんだから、相手にしてくれないんだ。大体めすのクワガタを飼っている子供なんて、この村には一人としていやしないんだ。
 そうかといって、箱の外に取りついていれば、必ず猫がやってくる。ここには鶏といって、大きな飛べない鳥もいるんだぞ。昼間になったら、そいつがやって来て、おまえをいじめないとも限らんだろう。
 かりにだ。女の子がおれたちに餌を与えようとして、蓋を開けに来たとき、おまえを見つけて、一匹では寂びしいだろうと、中へ入れてしまったとしてもだよ、おれたちに待っているのは何だと思う。戦いだよ。同じクワガタ同士、戦わされるんだよ。いわばおれたちは、ケンカをするためのどれいだよ!」
「お兄ちゃん、それで足をけがしたの?」
 妹クワガタは、兄さんクワガタの前足の一本が、ねじ曲がっているのを認めて聞きます。
「たいした傷ではないがね……」
「私、お兄ちゃんを助け出すわ」
 妹クワガタにこのとき、ある考えがひらめいたのです。そしてあの女の子なら、きっと自分の言い分を聞いてくれると思ったのです。
(だって妹同士だもん。分かってくれるわよ)
 妹クワガタは独り言のように、こう言いました。
「おまえが、おれを助け出すって?」
 兄さんクワガタは、呆れるというよりは、妹の処置に困り果てたというように言いました。
「私が助け出すって言ったら、助け出すのよ。明日見ていなさい」
 妹クワガタはこう言い残すと、森に向かって飛び立ちました。クヌギの樹にたどり着くと、うつらうつらしながら、朝になるのを待ちました。
 妹クワガタにひらめいたある考えというのは、一週間ほど前、樹の精に聞いた話から思い浮かんだことなのです。樹の精が話したところによると、
「樹がよいと、その実もよいし、花も綺麗なのが咲く」
 というのです。
「樹がいいか、悪いかは、何で見分けるの」
 妹クワガタが聞くと、樹の精はあっさりと言ったものです。
「花や実で見分けるのさ。綺麗な花を咲かせる樹はいいし、よい実をつける樹もいい。さっき教えた話を、あべこべに言っただけのことだよ」
「そしたら、よい樹の樹液をなめたら、私もよいクワガタになるのね」
 妹クワガタは、目をぱちくりさせて聞きました。
「そうだよ。だが、あんたのいるクヌギなんか、いい樹と思うがねえ。まだ若くて、落着きなく揺れるあたりがちょっと物足りないところではあるけど」
「樹の精のおじさんには、どの樹がいいかわかる?」
「ああ、わかるとも。あの沢の上にあるツツジは立派なもんだ。まだあんなに美しい紫色の花を咲かせているじゃないか。今どき花をつけているツツジなんか、どこを探したってありゃしないよ」
 樹の精が言った沢の上には、確かに一本だけ綺麗な花を咲かせている樹があったのです。
「でも、いつかは、散ってしまうわ」
「ところが、永久にあのままの状態で美しくいられる方法があるんだよ」
 樹の精はささやき声になっていました。
「どんな方法?」
 妹クワガタは、二、三歩前に進み出ていました。
「本と言ってな、人間が読んで、心を清く気高くするものなんだが、その本の間に挟んでおくと、永遠に美しいままでいるんだ。本というのは、パルプといってな、樹を原料としてつくってあるから、花とは深い繋がりがあるんだなあ。あの紫ツツジなら、本の中で今よりも大きく、美しく育つと思うよ。ただし、本の中味にもよるけどね。ためになるよい本だと、美しくも大きくもなるし、悪い本だと、萎れて、最後には消えてしまう」
 妹クワガタは、樹の精とのこんなやりとりを、夢うつつの中で、繰返し頭に上らせていたのです。

 木立の間に、朝日がぎらりとさしてきました。小鳥たちは、朝日に濡れてきらめく樹々の間を、めまぐるしく飛び交い、鳴き立てていました。
 妹クワガタは、朝日を浴びて明るんでいる沢の上に目をやりました。紫色のツツジは、優しくにおいかけるように、ぼおっと霞んでいます。濃い緑の中で、そこだけがオアシスでもあるような、ほのかな彩りです。
 妹クワガタは、決心を固めてそこへ飛んで行きました。
 ツツジの樹の下に入って、見事な花を見上げていました。今にも落そうにゆらゆらしている花びらがあります。
散り落ちて、色あせた花びらもありますが、少しでも新しいほうがいいと思ったのです。
 快い風がきて、花をゆすると、危なっかしくついていた花びらが、ひらりと妹クワガタの上にかぶさってきました。
「ねえ、花びらさん」
 と妹クワガタは、薄紫の光におおわれながら呼びかけます。
「はい、何かおっしゃいまして?」
 と花びらは聞きました。声に力がないのは否めません。
「あなたを、人間の女の子にあげてもいいかしら。本の間に挟まれて押花になるのよ。樹の精から聞いたんだけど、このツツジの樹に咲いた花なら、きっと永遠に美しい押花でいるっていうのよ。それに大きくもなるんだって」
「大きくなるんですって! 押花というのは聞いたことがあるけど、押花が大きく育つなんて初めてですわ」
 花びらの驚きが、妹クワガタの体にびびびと震動して
きました。
「ええ、書かれてある本の内容にもよるんだって。だから私、女の子に渡すとき、しっかり頼むつもりよ。ためにならない本には挟まないでって」
「私、大きくなりたいとは思いませんけれど、押花として子供たちのお役に立てるのでしたら、どうぞ運んでくださいな。どうせここで落葉と一緒に朽ちて、他の植物のためのかすかな養分となるか、一陣の風でもくれば、たちまちさらわれて、いずことも知れない所へ飛ばされて行くのでしょうから」
「嬉しいわ。承知してもらえて」
 妹クワガタは、花びらの下から這い出しながら言いました。花びらが思いのほか大きいので、果たして運べるだろうかと、不安がかすめました。けれども、ためらっている時ではありません。
「いい? 行くわよ」
 妹クワガタは、自分に向けたとも取れる掛け声とともに、花びらの付け根を、がっしりとあごで挟みこみました。そして、後ろ向きに近くのモミジの樹に登っていきます。後ろ向きに登るのは、挟んだ花びらを樹の幹にひっかけてはならないからです。てっぺんまで運び上げ、そこから風に乗って、一気に村里まで飛ぶつもりなのです。その間、花びらを傷めないようにするのが一苦労です。樹の皮にこすりつけては、か弱い花びらはひとたまりもありません。
 えっさ おっさ
 何だ こんな樹
 バックで登ったって
 へちゃらさ
 短いあごは
 こんなとき
 役に立つ
 ああ役に立つとも
 ちっちゃい体も
 役に立つ
 えっさの こらさ
 ズン・ズン・ズン

 短いあごと、ちっちゃい体が役に立つというのは、少々注釈を加えないと理解できないでしょう。短いあごのほうが、薄い花びらをきつくくわえこめるということと、
ちっちゃい体のほうが、小枝や葉をかいくぐって、登って行き易いという意味なのです。
 さて、一時間も奮闘して、モミジの樹のてっぺんに出ました。風が強まり、しっかりくわえていないと、花びらだけ吹き飛ばされてしまいそうです。
 ほどよい順風が来たので、妹クワガタは樹を離れました。見事な速さで空に吸い取られ、やがて一点の星屑のように消えました。

 ものの一分もかかったでしょうか。妹クワガタは、農家の屋根に取り付いて呼吸を整えていました。花びらが萎れないように、自分が盾となって陰をつくっていました。
 あの女の子の声がしました。妹クワガタは、今が時とばかりに、花びらをくわえて飛び出します。屋根を外れたところで宙返りをすると、母屋に突進しました。
 室内を覗きながら縁側の前を飛んでいくと、奥まった部屋で、女の子が夏休みの宿題をやっていました。妹クワガタはそこまで飛び、女の子の肩口に留まりました。「ぎゃお!」
 女の子はびっくりして、手で払いのけようとしました。けれどもその前に、妹クワガタは後ろに回り、首を伝って髪の毛につかまりました。女の子は、どこへ行ったかと、くるくる犬のように回って探しています、このままでは叩き落されると思い、妹クワガタは机の上にひょいと跳び下りました。
「何だ、クワガタのめすじゃないの」
 女の子は、恐れることもなかったという顔をして言いました。妹クワガタは、その女の子に示そうとして、ツツジの花びらを掲げました。
「へんなものくわえてるわ」
 女の子は目を近づけてきます。妹クワガタはこのときとばかり、
「この花びらをあげるから、お兄ちゃんを返してちょうだい」
 と叫びました。けれども声はかすかで、女の子はきつねにつままれた面持ちです。
「このクワガタが何か言ってる」
 女の子はさらに耳を寄せてきます。妹クワガタは繰返し訴えます。
「お兄ちゃんが、どうしたって?」
 女の子は言って、顔をしかめます。「まさか、クワガタが口を利くはずもないわね」
 女の子は、クワガタがくわえているものの点検にかかりました。
「これは何かの花びらだわ。あごに挟まってはなれないのかしら」
 妹クワガタはじれったいとばかりに、花びらを夏休み帳の上に置くと、自分はさっとその下に潜り込んで、
 
 えっさ おっさ
 何だ こんな本
 重くて たまるか
 えい こら しょ

 こんな掛け声をかけつつ、表紙を前足で持ち上げてなんとか閉じようとしました。
「わかった。押花にしなさいっていうのね!」
 女の子は叫びました。妹クワガタは、その通りとばかりに、再び夏休み帳に跳び乗ると、声を張り上げます。
「お兄ちゃんを、返してちょうだい」
 女の子はしばらく首を傾げていましたが、
「そういえば、この間ミヤマクワガタを見つけたとき、傍にこのくらいのめすのクワガタがいたわ。するとあんた、あのミヤマの妹ね」
 妹クワガタは大きく頷きました。
「こんな花びらはいらないけど、これを運んできたあんたの努力は認めるわ。それに小さいなりをしてお兄さんを助け出そうという、あんたの兄さん思いのところもね」
 女の子は言って、ダンボール箱を置いてある庭に向かおうとしました。その女の子のシャツをつまんで、妹クワガタは引っ張りました。それから、しゃかしゃかと女の子の体をよじ登りました。女の子はもう払いのけようとはしません。妹クワガタは女の子の肩にのり、後ろ足で立ち上がると耳に口を寄せて、
「いい本にね」
 と声を張り上げたのです。
「この花びらをいい本に挟むのね。そしたらどうだっていうの」
 女の子が、妹クワガタのいる側へ首を傾げて聞きました。妹クワガタは、その大きな耳に前足をかけて、
「大きくなるの」
 と言いました。女の子はかすかに笑って、
「そうするわ」
 と言いました。妹クワガタはするすると下りていきましたが、まだ女の子を心から信じるとまではいきませんでしたので、机の横の本立てに這い登り、ためになりそうな本を探していきました。そこから背表紙の絵と字の気に入ったのを見つけ出し、「これ」と指さしました。妹クワガタの選んだのは、「星の王子さま」でした。
 女の子は言われるままに「星の王子さま」を引き抜いて、ツツジの花びらを挟みました。これでひと安心です。妹クワガタは、花びらの挟まれたところを覗くようにして、
「ツツジの花びらさん、ありがとう。どうかいつまでもおしあわせに」
 とささやくと、女の子の先になって庭へ飛んで行きました。
「クワガタの兄さん、あんたにはいい妹がいたのねえ。はるばる森から救出にくるなんて、何と仲のいい兄妹なんでしょう、私たちもこうありたいわ。それなのに、兄さんたら、私を置いて、勝手に泳ぎに行ってしまったんだから」
 女の子はぷりぷり口をふくらませて、ダンボール箱の上の厚紙を取りのけました。兄さんクワガタは、しばらく暗い中に閉じ込められていたので、感覚が鈍ってのそのそしていましたが、妹クワガタがダンボール箱の縁に留まって、
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
 と叫ぶと、はっと我に返った身ごなしになって、次の一瞬には、妹クワガタと一緒に飛び立っていました。
 妹クワガタは飛び立ちながら、
「お願いを聞いてくれてありがとう。花びらを大事にしてね」
 と声を張り上げたのですが、はたして女の子の耳に届いたでしょうか。
 妹クワガタが、花びらの心配をする必要はありませんでした。というのは、女の子が子供部屋に戻って、「星の王子さま」を開いてみると、いくらか萎れていた花びらは、彩りも鮮やかによみがえって、はじめの二倍ほどの大きさになっていたのです。いい香りも漂ってきて、夢でも見ている気分になっていました。
  ↓

つづきます




     

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