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少年の夢 未完 17

少年の夢 未完 17 2016年11月03日 09:08
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「母とは、たまーにだけど、ちょっとした話の食い違いから、妹のアユミをかばって、『マリエはいつかお母さんを見棄てるだろう。けれどもアユミはお母さんを見棄てることはない。どんな逆境に遭っても、お母さんの味方になってくれる。そう言って私を冷たい目で見据えるの。昔パパにそうされたことを、根に持っていて、私にもパパの血が入っているから、そうなると信じ込んでいるの。そんなママに出合うと、私のほうが、母親に見棄てられると、不安になるわよ。ヒステリーが高じて、私を襲ってくるのではないかと、思うことだってあるわ。押し黙って、じっと冷たい目で私を見ていることだってあるんだもの。穴蔵、違う、地下壕にはカンパンとかの非常食や、ローソク、マッチ、包帯、絆創膏、それにジュースや飲料水も置いてあるわ。いざというときに、一週間そこで過ごせるだけのものが確保してあるの。一番困ったのは、羆がそこを襲ってきた場合のことよ。穴蔵なんて、もとは羆とか狐とか猪のものでしょう。だから簡単に見つけられて、襲ってくる心配があったの。中には食べ物があるんだもの、臭いで嗅ぎ分けて入って来られたらどうしようかと、随分頭を悩ましたものよ。それでどうしたかというとね、入口を頑丈にして、刃物を外に向けて取り付けたのよ。私の先祖が使っていた鍬とか鎌なんかが、たくさん物置にあったから、それを小川で洗って砥石で研いで、光る刃にして外向きに取り付けたのよ。それに触れて前足を切ったり、口でこじ開けようとして、舌を切ったりしたら、大変な目に遭うから、諦めて帰るわよ、羆だって。抜け作の猪だって、武器の怖さを知るわよ。そもそも穴蔵を掘った私が、扉を開けようとして、怪我をしたくらいだものね。ほら見て、この親指の傷跡」
 マリエは言って、リカに親指を突き出した。親指の先に白い線が浮かんでいた。
「帰りに、その穴蔵を見せるわね。私の地下壕」
 とマリエは言った。
 マリエが「帰りに」と言ったので、そろそろ帰らなければならない時間になっていることに気づいた。幹太が腰を上げたので、リカも兄にならって立ち上がった。
「マリエちゃん、明日学校に行けるよね」
 とリカがマリエの肩に目をやった。「まだ肩がつるの?」
「もう大丈夫よ。明日学校に行くわ、先生にこんなところまで歩かせたら悪いもの」
 そう言って立ち上がると、肩を怒らせて、大丈夫さを示した。
「今日はね、お兄ちゃんが少年野球の地区予選で優勝したお祝いに、オコワを炊くのよ、お赤飯のこと」
 リカがオコワと言ったのを、コクワと聞き違えて、マリエはぎくりとし、心臓が烈しく拍った。
「優勝したのよねえ。私ラジオのローカル放送で、それを聞いてびっくりしたんだけど、本当に優勝したのよね。凄いことだわ。ミキタ君、おめでとう」
 マリエは本心からそう言った。実際は幹太の優勝を祝うために、勇躍コクワを採りに向かったのだったが、それは言えなかった。
 今、ココワとコクワが交錯して耳に入ってきたことで、狼狽しながら、お祝いのコクワを渡さなければならないと、マリエは自分に言い聞かせていた。
 家を出ると、マリエはすぐ地下壕に案内した。外部からは目立たないように岩石や木の枝で隠れていたが、扉に近づくと、リカと幹太の怯むのが分かった。マリエが説明した通り、鍬や鎌の刃が光って、外に向かっていたからだ。マリエは腰を屈めて、その重い物騒な扉に手をかけた。肩が震えたので、リカが心配して手をかした。
「気をつけて!」
 とマリエが声を大きくした。
 幹太が身を乗り出して扉を持ち上げ、よけた。暗い穴の内部がのぞいた。身を屈めてマリエが入り込んで行き、
「三人はとても入れないわ」
 と頭を出して言った。
 大切にしまっておいたコクワだけを手にして出て来た。
「これ、私のおみやげよ」
 とマリエはレジ袋に入れたコクワを差し出した。マリエが傷を負っての収穫であることは、先のマリエの話で分かっていた。
「悪いわ、こんなにたくさん貰って」
 とリカが言った。マリエは幹太のお祝いのために採ったものだったから、ここで渡せてほっとしていた。学校でリカに渡せたとしても、また何を言われるか分かったものではなかった。その心配が、ずっと燻っていたのだ。
マリエはその問題の品を白昼堂々と渡せたことで、胸撫で下ろしていた。
 幹太は穴蔵をのぞいて、よくこれだけの地下壕をマリエ一人で完成させたものだと感心していた。計画だけで実現しなかったトンネルを掘る母親の夢が、娘の中に眠っていたのだろうか、などと気を回したりした。穴の周りには、小高い塀のようになって掘り出した土が盛られていた。
「マリエちゃん一人で、よくこんな穴掘れたわ」
 とリカが言った。外から射し込む太陽の光では、奥まではとても見えなかった。ローソクをつけて中を見せようとしたが、リカはそれをとどめて、地下壕の扉を閉めた。
「今度来たときね」
 とリカは残念がるマリエを慰めていた。その今度がいつになるのかは想像できなかったが、家の裏に近接しているという渓流とか、迫っている山とか、興味をそそる見たいものがたくさんあった。その多くの自然に圧倒されて、逃げ帰るような思いがどこかにあった。かりにもそんなことがあってはならなかった。それはマリエの日常の苦労を、等閑にすることでもあるからだ。
 マリエは二人を途中まで送って来た。来るとき、雄鶏が現われた辺りまで来て、マリエは引き返して行った。
「明日ね」
 とリカが最後に言った。二人が振り返ると、マリエはけんけんをして走っていた。

未完

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