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Clumsy Love (短編集)コミュのフライング24(2005,12.23完) 4k

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 世間では、12月23日が『イヴイヴ』とか言うでしょ?
 これって、クリスマス・イヴだけじゃ物足りない人が広めたの?
 それとも、クリスマスには縁が薄い人?
 私は……後者かな。
 だって、私にはどっちもないから。
 彼氏と呼べる人なら居るわよ。
 彼氏と呼んでいいなら、ね。
 同じ夜、同じ朝に微笑む関係でも、イヴとクリスマスは別々。
 私は孤独、彼には家族。
 そんなの、半年前から知ってる。
 何気なく彼のケータイを覗いたとき、キレイな奥さんとカワイイお嬢さんに苦笑したから。
 ああ、勝てないな、って普通に思えた。
 私には、こんな笑顔は似合わないし、子育てだって自信がない。
 それに、とって代わって全てを奪うだけの勇気もない。
 特別な日に、特別な時間を過ごす権利なんて、諦められた。
 けど、せめてイヴイヴとか呼ばれる日ぐらいは……いいかな、って。
 そう思って、ケーキより早い予約の電話(ジョーク)を入れたのが一ヶ月前。
 そんなお願いがすんなりOKもらって、ちょっとびっくり。
 気まぐれ半分での挑戦だったから、嬉しい反面……どうしよう、って気持ちが大きくなってきて。
 こんなの、学生のとき以来。

 クリスマスじゃないのに。
 クリスマスイヴでもないのに。
 みんなより少し早くはしゃげるチケットで、師走の忙しさも忘れられた。
 カレンダーに付ける×印だって、ダイエットの最高記録を上回ったぐらい。
 そんなカウントダウンだけで、ついつい微笑んでしまう。
『イヴもクリスマスもひとりだから』
 そんな台詞が楽に言える理由、みんなには内緒。
 嘘じゃないから許して。
 借りモノだって、ホンモノ。
 罪悪感? ないって言ったら嘘になるけど、それにはしばらく知らんぷり。
 だって、そんなんじゃ……。
『なんのために会うのよ?』
 そう自分に言い聞かせて迎えた23日は、今年最初の雪だった。
 神様、サービスいいじゃない。
 肩に乗る雪も払わずただただ、彼が来るのを待った。
 人を待つ楽しみをかみしめる。
 幸せって、こんな小さなものなんだ。
 まだ、私いける?
 若いってこと、だよね?
 それとも、歳をとって……そんな風に思うようになった?
 とりとめない考えで、時間はどんどん過ぎていく。
 彼を予約したイブイブが、刻一刻と消えていく。
 それでも信じていれば、きっと願いは叶うはず。
 サンタだって、1日ぐらいフライングしてくれても……。

「待った?」
「……全然、とか言って欲しい?」
「いや、いい。俺が悪かった」
「いいわよ、30分オーバーぐらい」
 本当は、先行30分で1時間オーバーの気分だけど。
「お詫びといっちゃなんだけどさ。……これ、プレゼント」
「…………あ、ありがとう」
 いつもは何もくれない彼が、ここぞとばかりに赤い小箱を差し出す。
「これ、選んでたら時間くっちゃって」
「……ありがとう」
「それと、さ。もうひとつ謝らなきゃいけないことがあって」
「なに?」
 心がざわめく。その真顔が、ワケもなく怖い。
「今日、このあと……1時間も一緒に居られないんだ」
「えっ?」
「職場に戻って、朝まで仕事なんだよ」
「………………」
「その代わり、明日の夕方! うまく都合つけて空けたからさ」
 ……神様。
「11時ぐらいまでなら、全然余裕あるから」
「ご家族との時間は?」
「そのあとで。埋め合わせは、クリスマスにする」
 ……そうなんだ。
 世界が色褪せていくのがよく分かった。
 舞い落ちる雪が、本当に白く、白いヴェールに変わりゆく。
「……明日は、いいわ」
「いや、大丈夫だからさホント」
「ううん、コレと、その気持ちだけで充分よ」
 プレゼントの小箱、何色だっけ?
「もしかして、遅れたから怒った?」
「いいえ」
「予定が狂ったの、悪かったよ」
「いいえ」
 仕方ないじゃない。
 誰が悪いわけでもない。
 強いて言うなら、私が悪いの。
「とにかく、明日はいいの。うん、明日はダメなの」
「あ、もしかしてそっちの予定が……」
「ううん、そうじゃなくて」
 全ては今日に恋い焦がれ、その夢に破れた……私が悪いの。
「埋め合わせさせてくれよ」
 要らない、と言わずに微笑んだのは彼の気持ちを考えてのこと。
 拗ねるだけじゃ、始まらないもの。
 大人の余裕が最優先よね?
「なぁ、明日がまずいなら明後日でも……」
「気にしないで」
 ……ごめん、やっぱり無理。
 大人になれず、拗ねるしかできない。
 無い物ねだりのワガママ娘は、どう転んでも誰かのせいにするの。
「明日もダメ、明後日もダメ。理由は……嘘つきになるから」
「……?」
『イヴもクリスマスもひとりだから』
 そんな言葉のせいにして、会えるチャンスを不意にするのは……ただの意地っ張り。
 欲しかったのは、イヴでもクリスマスでもなく……。
「さ、行きましょ」
「って、何処へ!?」
「うーん、空いてるところ」
「えっ、そっちはホ……」
「…………時間になったら、帰ればいいでしょ?」
 あなたの家族には勝てないけど、あなたにだったら勝てる気がする。
「帰らせないつもりか?」
 ……ビンゴ。
 きっと延長させてみせるわ。
 そう、それができれば……。

 本当の意味で、フライング24(イヴ)になると思わない?

- fin -

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