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書庫 「葉っぱ猫」 mixi処コミュの『ワールド・イズ』

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 僕は昔から、この世界が嫌いだった。


   ○


 いつかの昔に感じていたのは「この世に僕を必要とする場所はない」という感覚だった。

 生まれてからの19年、僕は普通に生きてきた。

 思い出もたくさんある。中学生の時に好きな子が出来て、告白して振られて、でもそれからしばらくして違う女の子に告白されて付き合って、色んなことを知った。

 他人と関わることに楽しさを覚えてから僕は、いろんな人と関わるようになって。

 でも、いつも僕の心にあったのは「未来への不安」だった。

 今は楽しい。

 いつだって今は楽しくて、幸せで、時には泣いたりするけれど、満ちていて。

 なのにいつだって僕は、怖かった。

 友達はたくさんじゃないけど、一緒にいられるだけで楽しいひとたちに囲まれて、家族は皆優しくて、小遣い稼ぎのバイトでは、しんどいときもあるけど、頑張っていて。

 だけど、その全てが物足りなく感じてしまうときが、高校を出ると急に増えた。

 きっかけは、彼女が「夢を目指すために留学する」と僕の前から姿を消したことだろうか。

 とても悲しくて、でも応援はしたくて、笑顔と涙交じりに僕は彼女を見送った。

   ○

 僕には夢や目標がなかった。

 でも、過ごしやすい環境と、仲の良い友達と、暖かい家族に囲まれて、今は幸せだった。

 笑顔があって、時には悲しみや苛々があって、でもそれが人生なんだと諭してくれる人が傍にいて、他人から見れば、常に誰かが傍にいるように見えただろう。

 幸せだと感じる自分は、確かに本物だ。

 けれど、本当の僕は、僕の心は孤独だった。

 いつだって誰かを求めていて、助けてほしいと手を伸ばしている自分が、心の奥深く、僕があんまり意識をしないところに隠れている。

 そのことに気付いたとき──彼女が夢を追って旅立ったとき、僕は自分のことを理解した。

 僕には、なんにもなかった。

   ○

 いつかの未来を思い浮かべることが、僕にはできなくなっていた。

 友達を遊んでいても愛想笑いを浮かべることが多くなったし、家族にも本当の心を打ち明けられなくなったし、辛い気持ちを表に出すことができなくなった。

 人は言う、お前は恵まれてるよなぁ、羨ましいよ──でも本当はそんなことなんてなかった。

 目指すものがない僕には、いつだって今しかない。それが怖いことを、彼らは知らないからそうやって笑ってそんな風に言える。

 電灯のない夜道がずっと続いているような、そんな中で誰とも繋がれない孤独感。

 怖さと不安。

 確かに僕には、仲の良い友達と、暖かい家族がいた。

 なのに、僕がこんな風に思うのは、世界に対する冒涜か? 不幸な人たちへのあざけりか?

 それでも。

 僕はきっと、この世に必要とされてはいないんだ。僕を必要な人間なんていないんだ。

 そう思っていた。

   ○

 不思議なもので、心の真ん中にそういう気持ちを抱えていても、人は幸せそうに生きられる。

 少なくとも、僕がそんなことを考えていることを周りは知らない。

 そんなある日のことだった。

「あなたは、なんでそんなに寂しそうに笑ってるの?」

 中学時代の友達と、カラオケから帰る途中。駅前で「占い」の看板を立てた女の子が、僕の顔を見て、首をかしげてそう言った。

 僕を囲んだ友達は、なんだこいつ、みたいな目で彼女のことを見たけど、僕はそんな友達と別れて、彼女に近づいた。

 突然かけられた声は、不自然なタイミングと言葉。

 だけど、彼女の言葉は、何故か僕の足を彼女へと向けた。

「なんでわかるの?」

 僕は彼女に聞く。今まで一度だって、誰にも言われたことのない言葉。

「隠してるつもりだったの?」

 彼女は不思議そうにまた首をかしげて、笑った。

 そして、僕のもう少し先の未来で、僕のことを変える言葉を言った。

「ワールド・イズに続く言葉ってなんだと思う?」

 そのときは意味がわからなくて、僕は「何が?」と聞き返したけど、彼女はそれには答えずに続ける。

「あなたにとってのワールド・イズに続く言葉はなに? わたしは、ナウ、この瞬間だと思う」

 それだけ言って微笑んだ彼女に、僕はなんとなく占いをしてもらって。

 結局、その変な女の子とは二度と会うことはなかった。

   ○

 いつだって僕は、自分の中に未来への不安と、今への恐怖があった。

 けれどそのたびに、ふとしたときに、あの時に彼女が言った言葉を思い出している。

「ワールド・イズに続く言葉はなんだろう」

 そして、彼女の言ったそれに続く言葉を思い出す。世界に続く言葉は、今、この瞬間。

 世界は、今、この瞬間。

 別にあれから彼女と再会する機会もなかったけど、何故か、その言葉を浮かべるたびに、ちょっとだけ未来への不安は消える。

 理由はわからないけれど、僕にとってもワールドイズに続く言葉は、ナウになった。

 そしてそう思ったとき、僕は少しだけ、嫌いだったこの世界が、好きになった。


 終。

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