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FFXI_NovelコミュのEpisode10 ”二人の”

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Episode10 "二人の"


天晶暦 1001年


 セルビナの事件は波紋を呼んだ。


 石の区、天の塔では星の神子を囲んで元老、各院の院長と守護天使の代表、セミ・ラフィーナが議論を戦わせている。口の院の院長、アジドが強硬にバストゥークへの復讐を言い立て、それに他の院が同調している。セミ・ラフィーナのみが穏健論を展開。


道を急ぐ5人がジャグナーの大森林を抜けようとする同じ頃、遠くウィンダスにはセルビナの事件の報がもたらされ、魔法の支配する連邦国家はにわかに色めき始めていた。
「そもそもサンドリアと結んだときから見えていたことだろう!セルビナに手を打っておかなかったのが悔やまれる!」
アジドが声を荒らげる。
「セルビナの事件は残念だったと思います。しかし、実際に国民に被害は出ていないのです。今こちらが動けば、それこそバストゥークの思う壺になりませんか」
ミスラらしくない冷静さでセミが返す。
「まだそんなこと言ってるのか?いいようにやられて、それでも「こちらは動けない」といい続けると?」
「そうではありません。ただ、まだ時期が」
そこまで言い差したとき、一人の守護天使が入ってきた。
「失礼します。セミさま」
白い鎧に身をつつんだ守護天使は、セミに近づき、なにかを短く耳打ちした。
「・・・そうですか。わかりました。ありがとう。」
「まだ時期が、なんだね?」
アジドが話を戻す。
「セルビナ航路でマウラからセルビナに向かった船が消息を絶ったそうです」


ざわっ


人々がどよめきはじめた。
「ウィンダスの人は乗っていたのですか?」
星の神子が蒼白な表情で問う。
「はい。20人ほどの乗客は、すべてウィンダスの国民だそうです。セルビナ近海で・・・最後はバストゥーク軍と接触があったとのこと」
「なんと・・・」
沈黙が流れる。折りしもセルビナの事件直後である。セルビナを占拠する、というのとは違う性格の話になる。
「ほほう。こうしている間にも事態は動いているみたいだな、セミ。それでも動くべきでないと言うのか?」
アジドが睨む。
「私ぁ」
元老院の長、シャントットが口を開いた。
「もう我慢ならないね。すこし懲らしめてやったほうがいい。」
セミは目を閉じた。
「これだけ早い時期にバストゥークが手を出してくるということは・・・。このまま放置しておけば、被害は拡大するでしょう。バストゥークがサンドリア・ウィンダスのみならずジュノへ食指を伸ばすのは時間の問題です。連邦の利益のみならず、この世界のために立ち上がるべきかと思います。」
「やっとわかったか。各院、守護天使、聞いてのとおりだ。」
「神子さま?」
星の神子と呼ばれるタルタルがつぶっていた目を開いた。
「やむを得ません。準備をしてください。セミ。アジド。守護天使と院の統帥をお願いします。」
「はい」


 天の塔での会議が終わり、三々五々メンバーたちは散っていった。メンバーたちはそれぞれ自分の持ち場に戻り、これからの激動に備えて号令を発しなければならない。もっとも、すべての機関は既に有事への準備作業をほぼ終えており、あとは出動命令を待つのみだった。


 セミが守護天使の詰め所に向かって石の区を歩いているとき、背後に気配がした。普通では気付かない気配の消し方をしているが、熟練の戦士の研ぎ澄まされた感覚と、彼女自身の天性のカンが彼女を振り向かせる。
 果たして、彼女の眼前にいたのは彼女と同じ背丈のミスラであった。軽くて頑丈そうな皮の服に身をまとい、悪戯っぽい笑みを浮かべたそのミスラは彼女の古くからの友人の一人であった。
「さっすがセミ。普通気付かないよ?アハハ」
「ナナ。悪ふざけがすぎますよ。」
ミスラの名はナナー・ミーゴ。ウィンダスに知らないものはいない「泥棒ミスラ」である。守護天使長と泥棒ミスラという不思議な取り合わせではあるが、二人は幼いころからの知己であった。目を合わせると、セミが歩き始めた。ナナが後に続く。
「ヘヘ。深刻そうな顔して歩いてるから気になってね」
「普通に声をかけて下さい。・・・別に深刻なことなどないのですよ」
少し表情をこわばらせながら、セミがつぶやくように言った。
「へぇーっ。本当かね。困ったときはすぐ相談相談!自分に溜め込むからそんな白髪になるんだよ。」
「こっ、これは白髪なんかじゃ・・・!」
「アハハ。で、やっぱりもう?」
「・・・はい。ウィンダスでも戦いが始まります。ナナ・・・」
「おっと、皆まで言わなくてもいいよ。天使長さまが泥棒ミスラに頼みごとなんてしちゃいけないさね」
昔から二人の関係はこうだった。セミが表ならナナが裏。セミが光ならナナが闇。セミが表の世界でナナを必要とするときには何も言わずにナナが実行する。ナナが困ったときにはいつのまにかセミが手を回している。守護天使という立場で泥棒ミスラにものを頼むわけにはいけない。しかし二人の間にはそんな言葉は必要なかった。
「バストゥークねぇ。・・・久しぶりにジュノにでも行ってくるかねぇ」
セミが足を止める。うつむき、不安そうな表情になったセミはしばらく沈黙した後、こう言った。
「ナナ。ジュノは・・・」
「おっと、心配なしなし。一番楽しそうな所はあんたには渡さないからねぇ」
「・・・気苦労かけますね。いつも・・・」
「お互い様だって!じゃ、またね!」
ナナは森の区の方向に駆け出していく。泥棒ミスラの仲間はこの日のうちにジュノを目指して出発した。ナナの読みはこうである。バストゥークはサンドリア、ウィンダスの2方面に対して行動を起こした。そのうちサンドリア方面については既に砂丘を制圧し、ロンフォールに迫ろうという勢いになっている。
 一方でウィンダスとの関係は。バストゥークはマウラ=セルビナ航路を押さえたが、バストゥークとウィンダスの接点は2つある。ひとつは件のマウラ=セルビナ航路。もうひとつは・・・ジュノである。ウィンダスとバストゥークの間に事が起こるとすれば、最初の衝突はここで起こる。これを回避する、あるいは「よりよい結果」を得ようとするならばジュノに手を売っておかなければならない。
 ジュノはその生い立ちからして中道である。3国のどこに偏ることもなくその体制を維持している。とはいえ、ここを中心に2国の衝突が起こることを想定すると、この中道の構造体を見方に付けて有利に事を運べればそれに越したことは無い。表向き中道を標榜しているならば、真正面から交渉しても仕方が無い。そこで、ナナのような者が必要となる。
 ここまではナナの想像の中のことだが、おおむねセミの思いと一致していた。今ウィンダスがまさに動き出そうとするとき、皮肉なことに最初に動いたのは通常の機関ではなく、泥棒ミスラの仲間たちであった。
 数日後、ウィンダスがバストゥークに宣戦を布告。元老院長のシャントットが自らバストゥークの大統領府に挑戦状を叩きつけた。文字通り大統領府の机の上に文書を叩きつけ、それだけで帰ったのだ。タルタルという種族は本当に恐ろしい。特に、シャントットやアジドといった武闘派の最右翼は特に、である。そのアジドはこのとき既に戦闘部隊を率いてウィンダスを出発し、タロンギを超えようとしていた。ブブリムからメリファト、ソロムグを経由してジュノを経由してバストゥークに至る予定だが、久しぶりの大規模な行軍でもあり、予定より遅い足取りとなっていた。
 ジュノにこうした動きが伝わるスピードは早かった。セルビナの事件のこと、バストゥークの手でセルビナ近海で汽船が沈められたと思われること、これへのリアクションとしてウィンダスがバストゥークに宣戦布告したこと。これらのニュースがトリビューン紙の号外で矢継ぎ早に伝えられた。この動きの裏にはナナー・ミーゴがいた。いちはやくジュノに入った泥棒ミスラはその人脈をフル活用し、天晶堂経由で機関紙の紙面をコントロールしていた。
 ニュースは大公を含むすべてのジュノ住民に伝わり、バストゥークの危険性を論じるもの、あるいはウィンダスの動きを性急に過ぎると叫ぶもの、ジュノに危害は及ぶまいと事態を静観するもの、それぞれが様々な思いを口にし、あるいは沈黙を守っていた。しかしそれらの意見がひとつのベクトルに向かうきっかけがあった。それはやはりトリビューン紙の記事であった。


 -セルビナ事件の真相 バストゥーク正規軍による無差別虐殺-
 まずお詫びしなければならない。先日報道したセルビナの事件は本紙の情報筋によるものであったが、本紙記者の直接の取材により、記事には著しい事実誤認があることが判明、新しい事実が明らかになった。先日の記事ではセルビナにバストゥーク軍が押し寄せた際にセルビナの住人はこれを察知してタルタル・エルヴァーンの住人を優先して船にのせ、マウラに脱出して事なきを得たと報じたが、これは誤り。実際にはバストゥーク軍と住民の間に戦闘が発生していた。住民側の死傷者数は相当数にのぼり、わずかな住民のみが脱出することができたとのこと。生き残った住民によれば、バストゥーク軍はまずタルタルとエルヴァーンの住民を漁業ギルド前の広場に集合させた。
 このとき、これに対してウィンダス出身のガルカの騎士が抵抗を試み、20数人のバストゥーク兵士を倒したが、そこでこの騎士も力尽き、セルビナの希望の火が消えた。
 バストゥーク軍は、他のガルカの住民に命じて一人一人順番に槍で刺殺してゆき、一人残らず殺し終わったところで死体をひとつの穴に投げ込み、燃やし尽くした。殺された住民の中にはウィンダス、サンドリア住民、そしてバストゥーク国民も含まれていたとのこと。
 先日来、到底理解できない行動をとっているバストゥーク軍だが、ことここに至ってはバストゥークの肩をもつ理由はまったくなくなったと言っていいだろう。


 無論、この記事にもナナー・ミーゴの息がかかっている。実際にはセルビナの住民はそのほとんどが避難を終えており、このためバストゥークの殲滅作戦の内容は外に漏れてはいなかった。ナナはこれを掘り起こすために多少の脚色を加え、公共のメディアに載せることにしたのである。
 この記事への反応は鋭かった。ジュノの住民たちはウィンダスとサンドリアのタルタルやエルヴァーンに同情し、同時にバストゥークへの怒りで燃えた。ルルデの庭にあるバストゥーク大使館は連日、抗議デモと過激な住民の攻撃にさらされることとなり、門を硬く閉ざすこととなった。


「妙な記事だなぁ、カフィ?」
ロックがトリビューン紙をひろげたむこうから言う。タルタルにこの紙面のサイズは大きすぎる。新聞を広げると上半身がすっぽり隠れてしまう。
「俺らはそんな死体なんて見てないけどなぁ」
誰かが情報を操作しているのだ。これがウィンダスの手によるものだとは誰も想像できなかったが、暗然たるものが裏に動いている気配を感じ取ることはできた。
「誰かがこのジュノを味方につけたがってるってことか。誰か、というのはウィンダスかサンドリアか・・・?」
ジュノ上層の限定酒場と呼ばれる酒場にメンバーが集まっている。今日は「ヒュームの日」なのだが、最近の「ヒュームの日」はジュノの住民に開放していた。
「いずれにせよ、まもなくここで何かが起こるってことさ」
 カフィが呟いた。既にエールを数杯空けているが、その目にはまったく酔いが感じられない。
「くるかねえ。バストゥークが。」
 シキが弦を止めて言った。詩人の性分か、酒場でも楽器を離さない長身のエルヴァーンである。
「意外と、もうすぐそこにいるかもな」
カフィが笑顔もなく返す。
 この心配はまだ当たっていなかった。バストゥークからはまだ大規模な行軍は始まっていなかったし、ウィンダスからはアジド率いる第一隊が進発していたがまだ遠くタロンギにいる状態であった。
 同じ酒場の中で、ある親子からこんな会話が聞こえてきた。
「だめだよ、バストゥークに戻ったらパパが」
「うーん、でもせっかくのマイホームが。。。」
「命あっての、って言うでしょうに。」
見ればタルタルとヒュームが話をしている。タルタルであるがゆえにバストゥークから逃げてきたのであろうか。
パパと言われているほうは黒魔道士の衣服に身を包んでいるタルタルである。金髪がフードの下からのぞいている。苦労が刻み込まれたような顔をしていて、彼の今の気分であろうか、憂鬱な表情がいっそう老け込んだ風情をかもし出している。
一方のヒュームは若い栗色の髪をした騎士である。騎士といっても駆け出しのそれであろう。一般的な新米の騎士の鎧をまとい、手にしている盾も量産型と見受けられる。
「このあいだの・・・」
ハルネがタルタルを見て言った。
「ああっ、ハルネさん。先日は北でお世話になりました。またお会いできるとは。」
物腰の低いタルタルである。よくよく見れば豪奢な装備品である。熟練の黒魔道士なのであろう。
「バストゥークから来たのか?」
ハルネがたずねる。
「はい。仕事でバストゥークにいたのですが、あんなことになって一家でウィンダスに逃げることになって」
「それは大変だね・・・。そちらは?」
「はい。息子です」
「え?」
どうみてもヒュームの騎士である。親の数倍の背丈の息子、ということになる。どういう親子なのだろうか・・・。
「そ、そう。よろしくね」
「ハルネさんっすか!親父から話を聞きました。凄い怖いい詩人だとか!」
「バカ、お前、なんてことを!」
「怖い詩人ねぇ・・・」
ハルネが後ろを振り返り、弦を取り出す。
「ひぃっ、勘弁してください、こいつまだほんの子供で!」
「・・・なにを怯えてるんだか。からかいが過ぎたね。」
ハルネは弦をしまい。親子のほうを向き直った。
「で、これからどうするんだ?」
「とりあえずウィンダスに越そうとは思ったのですが、ジュノにくれば何かあるかもしれないと思って私はジュノにきてみました。息子はジュノが見たいというので連れてきましたが・・・」
息子はおちつきなく、目を丸くしてあたりを見回している。
「あのとおりなので、ウィンダスに帰そうかと思っています。」
「ふーん。」
「そうだ、ハルネさんはジュノで何をしているのですか?」
「何って、別に・・・」
ハルネが今Pozのメンバーたちがやろうとしていることを、おいそれと話すべきではないと思い、躊躇していると、
「お仲間に入れてもらえませんか?」
「・・・よく知りもしないで、いきなりそんな・・・」
「おっと、仲間ならいくらでもいたほうがいいぜえ?」
後ろからロックが会話に加わる。
「どこの誰だか知らないが、俺たちの仲間に加わるなら今のうちだぜ。なにしろ俺たちゃ、これからなグブ」


ズゴッ、と鈍い音がした


後ろから謎の棍棒が振り下ろされてロックの目が焦点を失う


「なんでもないんですのよ。お気になさらずに♪」
ユリがロックを引きずっていく。どこからあんな長い棍棒を持ち出したのだろうか。
「私の名はマンゴッド。黒魔道士です。いくらかの経験はあります。きっと役に立つと思います。」
「黒魔道士だってよ、エル。」
「そりゃ、黒魔道士が増えるのはうれしいけどもさ。俺たちがこれからやろうとしているのは、」
そこまで言いさしたときに、カフィがエルを制して言った。
「マンゴッド。命がけっていう言葉があるけど、俺たちは本当に死ぬかもしれないことをしようとしている。」
「今までだって、死ぬ思いはしていますよ。」
「実際に死ぬこともあるだろう。それともうひとつ、」
「人が相手になるんですよね」
「・・・知っているのか」
「もうすぐここは戦場になるんですよね。今ここに残っているLSはみんなバストゥークと戦うつもりだって聞きました。私もバストゥークの家を取り戻したい。バストゥークと戦うしかないんです。今まで何年も何年も単身で働いてきて、やっと家族を呼び寄せたと思ったら追い出されるなんて・・・!」
勤め人の悲哀がにじみ出ている。
「まったく納得できませんよ。だいたい黒魔道士なのに勤め人だったのがいけないんです。だから戦いたい。相手がバストゥークなら申し分ありません。」
「そうか・・・」
まあ、そこまで覚悟しているなら、とシキがつなぐ。
「そろそろ、歓迎の意を表すべきじゃないかな」
「そうだな、マンゴ。歓迎しよう。ようこそジュノ上層へ。そしてようこそわれらの仲間へ。」
「あ、ありがとうございます。でもマンゴって・・・?」
「団長から呼び名を与えられるのが入団の儀式みたいなものなのですよ」
ファイフが声をかける。
「そうなんですね。こ、これからよろしくお願いします。」


仲間が一人増えた夜、ウィンダスとバストゥークの軍勢はジュノに迫ろうとしていた。

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