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新旧翻訳読み比べコミュのニコライ・ゴーゴリ - Николай Васильевич Гоголь - Nikolai Vasilevich Gogol

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ニコライ・ゴーゴリ - Николай Васильевич Гоголь - Nikolai Vasilevich Gogol についてはこのトピックで。

コメント(3)

【タイトル(書籍名)】:鼻(外套・鼻)
【作者】:ゴーゴリ
【翻訳者】:平井肇
【出版社】:岩波文庫
【出版年】:1938年(1965年改訳発行)
【補足情報】:
【引用頁】:61-62p(一)
【引用】:
 イワン・ヤーコウレヴィッチは、礼儀のためにシャツの上へ燕尾服をひっかけると、食卓に向かって腰かけ、二つの葱の球に塩をふって用意をととのえ、やおらナイフを手にして、勿体らしい顔つきでパンを切りにかかった。真二つに切り割って中をのぞいてみると――驚いたことに、何か白っぽいものが目についた。イワン・ヤーコウレヴィッチは用心ぶかく、ちょっとナイフの先でほじくって、指でさわってみた。《固いぞ!》と、彼はひとりごちた。《いったい何だろう、これは?》
 彼は指を突っこんでつまみ出した――鼻だ!……イワン・ヤーコウレヴィッチは思わず手を引っこめた。眼をこすって、また指でさわって見た。鼻だ、まさしく鼻である! しかも、その上、誰か知った人の鼻のようだ。イワン・ヤーコウレヴィッチの顔にはまざまざと恐怖の色が現われた。しかしその恐怖も、彼の細君が駆られた憤怒に比べては物のかずではなかった。
「まあ、この人でなしは、どこからそんな鼻なんか削【そ】ぎ取って来たのさ?」こう、細君はむきになって呶鳴【どな】りたてた。「悪党! 飲んだくれ! この私がお前さんを警察へ訴えてやるからいい。何という大泥棒だろう! 私はもう三人のお客さんから、お前さんが顔をあたる時、今にもちぎれそうになるほど鼻をひっぱるって聞かされているよ。」
 だが、イワン・ヤーコウレヴィッチはもう生きた空【そら】もない有様であった。彼はその鼻が、誰あろう、毎週水曜と日曜とに自分に顔を剃【あた】らせる八等官コワリョーフ氏のものであることに気がついたのである。

【引用頁】:69-70p(二)
【引用】:
 いまいましげに唇をかんで菓子屋を出た彼は、日頃の習慣に反して、誰にも眼をくれたり、笑顔を見せたりはすまいと肚をきめた。ところが、不意に彼は或る家の入口の傍で棒立ちになって立ちすくんでしまった。じつに奇態な現象がまのあたりに起こったのである。一台の馬車が玄関前にとまって、扉【と】があいたと思うと、中から礼服をつけた紳士が身をかがめて跳び下りるなり、階段を駆けあがっていった。その紳士が他ならぬ自分自身の鼻であることに気がついた時のコワリョーフの怖れと驚きとはそもいかばかりであったろう! この奇怪な光景を目撃すると、眼の前のものが残らず転倒してしまったように思われて、彼はじっとその場に立っているのも覚束なく感じたが、まるで熱病患者のようにブルブルふるえながらも、自分の鼻が馬車へ戻って来るまで、どうしても待っていようと決心した。二、三分たつと、はたして鼻は出て来た。彼は立襟のついた金の縫い取りをした礼服に鞣皮【なめしかわ】のズボンをはいて、腰には剣を吊っていた。羽毛【はね】のついた帽子から察すれば、彼は五等官の位にあるものと断定することができる。前後の様子から察して、彼はどこかへ挨拶に来たものらしい。ちょっと左右を見まわしてから、馭者に、「馬車をこちらへ!」と叫んで、乗り込むなり駆け去ってしまった。
 哀れなコワリョーフは気も狂わんばかりであった。彼はこのような奇怪千万な出来事をどう考えてよいのか、まるで見当がつかなかった。まだ昨日までは彼の顔にちゃんとついていて、ひとりで馬車に乗ったり歩いたりすることのできなかった鼻が、まったく、どうして礼服を着ているなどということがあり得よう! 彼は馬車の後を追って駆けだしたが、さいわい、馬車は少し行ってカザンスキイ大伽藍の前でとまった。
【タイトル(書籍名)】:鼻(外套/鼻)
【作者】:ゴーゴリ
【翻訳者】:吉川宏人
【出版社】:講談社文芸文庫
【出版年】:1999年
【補足情報】:
【引用頁】:64-65p(I)
【引用】:
 イワン・ヤーコヴレヴィチは礼儀をわきまえ、シャツの上に燕尾【えんび】服を着、テーブルの前に腰を下ろすと、塩を振りかけて玉ねぎ二つの味を整え、ナイフを取って、しかめつらしい顔つきでパンを切りにかかった。パンを半分に切ってから、彼は切り口をのぞいたが、驚いたことに何か白いものが見えたのだ。イワン・ヤーコヴレヴィチはナイフで慎重にほじり出して指でさわってみた。「堅いものだぞ?」彼はこう一人ごちた、「いったい全体何だろう?」
 彼が指を突っ込んでひっぱり出すと――鼻である! イワン・ヤーコヴレヴィチは茫然としてしまった。目をぬぐってさわってみても――鼻だ、たしかに鼻である! しかもどうやら、誰かの見なれた鼻なのだ。恐怖がイワン・ヤーコヴレヴィチの顔に刻まれた。しかしこの恐怖も、彼の女房をとらえた憤激にくらべれば、ものの数ではなかった。「どこでもってお前は、こん畜生、鼻を削【そ】いできたんだよ?」彼女は怒りを込めて叫びはじめた。「このいかさま野郎! 酔っ払い! あたしの方でお前を警察に突き出してやる! まったくなんちゅう悪党だろう! あたしゃもう三人のお得意様から聞いてんだ、お前は顔をあたるとき、人様の鼻をちぎれるくらいひっぱるそうじゃないか」
 しかしイワン・ヤーコヴレヴィチは生きた心地もしなかった。彼はこの鼻がほかならぬ八等官コヴァリョフのものであるのを見てとったのだ、床屋は彼のひげを水曜と日曜ごとにあたっていたのである。

【引用頁】:72-73p(II)
【引用】:
 彼はいまいましげに唇を噛んで喫茶店を出ると、自分の習慣に逆らって誰にも目をやらず、誰にも笑いかけないことにした。突然、彼はある家の扉のそばでぎくりと立ちすくんだ。彼の眼前に説明しがたき場面が展開したのである。玄関前に箱馬車が停まり、その扉が開いて、身をかがめてとび下りたのは制服姿の紳士、それが階段を駆け上がっていったのだが、これを目にしたコヴァリョフの恐怖、驚愕したことといったらなかった。というのも、彼は気づいたのである、この紳士は彼自身の鼻だったのだ! この異常な光景にあって彼は目の前のあらゆるものがでんぐり返ったような気がし、自分が立っているのもやっとであるのを感じ、しかし何としても鼻が箱馬車に戻ってくるのを待ち受けようと決心して、熱病病みのように全身を震わせていた。ほんの少しで鼻は確かに出てきた。その着ている制服は金糸で刺繍され、大きな立襟【たちえり】がついていて、ズボンはなめし革、腰には剣をおびていた。羽飾り付きの帽子から判断して、やつは五等官の官位にあると考えることができた。あらゆる点からみて、どうやらやつはどこかへ表敬訪問に行くところらしい。やつは左右に目をやると、御者に向かって「やってくれ!」と叫び、馬車に乗り込んで走り去った。
 あわれなコヴァリョフは気も狂わんばかりであった。彼はこのような奇妙な出来事をどう考えていいのかさえ、わからずにいた。実際あり得ないではないか、つい昨日まで彼の顔についていて、馬車に乗りも歩きもできなかった鼻が、制服を着ているなんて! 彼は箱馬車の後を追って走り出したが、幸いなことに馬車は少し走ってから、カザン寺院【訳注:ネフスキイ大通りにある大寺院】の前で停まった。
【タイトル(書籍名)】:鼻(鼻/外套/査察官)
【作者】:ゴーゴリ
【翻訳者】:浦雅春
【出版社】:光文社古典新訳文庫
【出版年】:2006年
【補足情報】:今回のこの三作は「落語調」に訳してある。(解説より)
【引用頁】:10-12p(1)
【引用】:
 イワン・ヤーコヴレヴィチはずいぶん格式を重んじる人でありますから、シャツの上からこう燕尾服を着込みまして、テーブルにつくと塩をふりかけ、こんな風に玉ねぎを二つの山に分けまして、今度は手にナイフを持つと、くそ真面目な顔つきでパンを切り分けにかかった。パンを二つに切り分けて、そのなかをのぞいてみると、おやまあ、びっくり、何だか白っぽいものがある。イワン・ヤーコヴレヴィチは恐る恐るナイフでつついてみて、それから今度は指でさわってみた。
「かたい!」
 そんなふうにひとりごとを言った。
「いったい何だろうね、これは?」
 指を突っ込んで引っぱり出してみるってえと、……これがなんと、鼻ッ! ……イワン・ヤーコヴレヴィチは二の句がつげない。目をこすって、もう一度さわってみますが――やっぱり、鼻ッ。正真正銘、掛け値なしの、どこからどう見たって、どう転んだって、鼻ッ! それどころか、どうやら見覚えがあるような気がいたします。イワン・ヤーコヴレヴィチの顔には、もう恐怖の色がうかんでおります。ところが、この床屋の亭主の恐怖なんざ、おかみさんの剣幕にくらべれば屁【へ】でもない。
「どこで、ちょんぎったんだい?」
 おかみさんは怒りにまかせて怒鳴りだす始末。
「このろくでなし! 酔っぱらい! 警察に訴えてやるからね。とんでもない悪党だ! もう三人のお客さんから聞かされてるんだ、ひげ剃りの最中にあんたがぎゅっと鼻をひっつかむもんだから、ちぎれそうになって弱ったもんだってね」
 ところがイワン・ヤーコヴレヴィチのほうは生きた心地もあったもんじゃない。この鼻が毎週水曜日と日曜日に顔をあたりに来る省参事官補佐、つまり八等官コワリョフの鼻にほかならない、そうわかったからであります。

【引用頁】:21-23p(2)
【引用】:
 未練がましく唇をかんで菓子店を出ると、いつもの習慣を破って、きょうは人をながめたり、微笑みかけたりするもんかと腹をすえた。と突然、少佐はあるお屋敷の前で棒立ちになっちまった。目の前でなんとも不可解な出来事が起こったのであります。と申しますのも、車寄せの前に一台の立派な箱馬車が停車しまして、ドアが開きますと、制服を着た一人の紳士が背中をこごめて出てきて、階段をトットットッと駆け上がっていった。コワリョフが驚いたのなんのって、なにしろそれって、ほかならぬご自分の鼻なんですから! この尋常ならざる光景を目【ま】の当たりにして、コワリョフは目をまわした。立っているのもやっとの思いです。よし、ここはあいつが箱馬車に戻ってくるまで待ってみようと決心したものの、まるで熱にでもうかされているみたいに全身のふるえが止まらない。二分ばかりしますと、はたせるかな、鼻がお出ましになった。高い襟、金糸の刺繍のある制服姿、スウェードのズボン、腰にはサーベルといういでたち。羽根飾りのついた帽子から推察するに、五等官の身分にあるらしい。どうやらどこかに表敬訪問に行く途中らしく、左右に目を走らせると、「さあ、出せ!」と御者に声をかけ、馬車に乗り込み、走り去ってしまった。
 かわいそうにコワリョフはもう気も狂わんばかりです。この奇妙な出来事をどう理解すればいいのか、てんでわかりゃあしません。だってそうでしょう、きのうまで自分の顔にくっ付いていて、馬車を乗り回したり歩いたりできようはずもない鼻ですよ、それがあろうことか、制服を着てのし歩いているんですから! 思わずコワリョフも馬車を追っかけて駆けだした。幸い馬車は遠くまで行かず、カザン大聖堂の前で停車した。

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