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青春小説 ■春海■コミュの第3章■夏・絡み合う腕■1

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○溶け込む二人

「…梅雨明け宣言をいたします。」
天気予報のお姉さんがうれしそうに話しかけていた。
当然だよな、こんなに暑いじゃネエかとっくに梅雨は開けてらあ。
ビルに照り映える光を右手でよけながら大きな交差点を
足早に渡った。
頭上には高速道路が交差しながらうねり
目の前には全てを制圧するかのように見下ろしている巨大ビル。
それに、動く歩道・キャッチセールス・騒音・排気ガス・
信号・群れる学生・喧騒・拍手・煙草の紫煙・口紅・香水
みんな俺の嫌いなものだった。
何故?俺はここにいるんだろう?
ナゼ?俺ハココニイルンダロウ?
答えられるはずも無いこんな疑問を日々自分にぶつけていた。

巨大ビルのB1にある噴水の所に着いた。
「遅いぞ!」
春海がいきなり陰から飛び出してきた。
「おう!わりぃわりぃ、ちょっと昼寝しちゃってさあ」
「まあ許してやろう。そのかし、なんか食べさせろ」
「お姫様はお腹が空いていらっしゃるようだ」
「うむ。よきにはからえ。な〜んて。キャハハ」
「何食うかなあ…」
「何でも良いよ」
「どうせ金はねえしなあ・・と、吉牛でも行きますか?」
「なに?吉牛って・・」
「吉野家の牛丼って事」
「わああああ!」
「な・な・なんだよ」
「感激ぃ!ずっと前から入ってみたかったんだア」
「そうか・・ちょっと姫様では御付がいないとはいれないもんなあ」
「うん、女の子同士でもチョット入りづらいよねあの雰囲気」
「よし!それじゃあ連れてってやっか」
「やったあ!」

「うっぷー、食った食った」
「お前、女なんだからもっと品の良い表現無いのか?」
「大変おいしゅうございました・・・これで良いのかなあ?」
「はいはい、よろしゅうございますう」
「カカカ・・でもキテキの『つゆだくでね』って言うセリフ、カッコ良かったよ」
「妙な所に感激する奴だなあ」
「うんうん、する奴なんだよ」
「しかし、何時来てもここのビルはでけえなあ」
「東洋一大きなビルなんだゾ」
「お前がエバンな、ポカッ!」
「あてっ!」
「なんツーかさあ、近代的なビルなのに何処か懐かしさを感じるんだよな・・
東京には山が無い所為かな・・山のような感覚で見てる気がする・・
俺、ずっと山の中で育ったからな」
「ふ〜ん。面白い考え方だね。ビルを見て懐かしいなんてさ」
「うん、自分でも変かなって思う事がある。」
「それってえ・・キテキのお・・ボオッとにつながるのかしら・・」
「ああ、そうかもしんねえ。俺、何で東京なんかに出てきちゃったんだろうってさ」
「でもだから、こうして春海様と知り合えたんだゾ。東京に感謝しろ」
「そうか・・そうだな・・感謝すっかなあ」
「うん、しろしろ」
「はい、くろくろ」
「?・・ソレって面白いの?」
「・・ん・・っ・・まあまあ・・・・かな?・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

真っ青な空が広がっている。
中高層ビルの隙間から湧き上がるように入道雲が立っていた。
もう真夏のような陽気だ。

俺達は少しだけ日陰を作っているテラスの椅子に腰掛けていた。
彼女はSODAを口に含みながら微笑んでいた。
「俺さあ入道雲って好きなんだよな」
「私も」
すかさず答える春海。
「へえ・・そうなのか・・」
ふと横を見ながら考えていた。
「なあ・・この間云ってた話しなんだけどさあ。」
「えっ?なあに?」
「ホラッ、ナベと話してたじゃん。今度何処かに行こうって」
「ああ・・あれね・・」
「今度、海に行かねえか?春海の友達、誘ってさあ」
「いいねえ。行こっ行こっ。陽子ってさあ友達がいるんだ。
少しおとなしいけど、笑いたがりの女の子ナンだよ」
「笑いたがりって何だよ。」
「なんでもすぐ笑っちゃうの、きっとナベさんの事、気に入ると思うわ」
「へえ・・そうかな・・あいつを気に入るのって変人だぜ」
「そんな事な〜いよ。私ナベさん好きだモン」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何よ!人の顔ジィッっとみて・・・・・」
修平が指を差すように人差し指を差し出した。
「あっ!だから変人って云ったのね!ひっどーい」
興奮した春海がテーブルを揺する。
「ほら、興奮するからSODAがこぼれてるぞ」
「あっごめん」
「今度その陽子ちゃんに話しておいてくれ」
「OK。」
気持ち良さそうに真っ白な雲が泳いで行く。
時折頬にあたる風が夏の訪れを教えていた。
「俺、そろそろバイトだ、行かなきゃ」
「う・・うん・・あ・・あの・・さあ」
「何?」
「う・・ん・・・いいや・・何でもない」
「何でも無くないだろ・・何だよ」
「何でも無いよう」
「・・?ホントにぃ?・・吐けよ。吐いちまえ」
春海のポニーテールの結び目を掴まえて頭をグルグル回した。
「ヒャアアアア・・や・やめちくれ〜い」
隣のテーブルに座ってる初老の品の良いご婦人が
微笑ましそうに眺めていた。
「ん?ん?何かな?吐きたくなったかな?」
「・・・・・・・」
「何だよ。はっきりしないなあ・・何でも無いんだな!」
「ううん。何でも無くない・・」
「おっしゃ!わーーった。目を閉じててやるから懺悔しろ。いいな」
軽く目を閉じて見ると、目の前が真っ赤に染まった。
ホントに夏だ。そんな事を感じてた。
ホラ、良くあるでしょ直射日光の中で目を閉じると
目の前が真っ赤になる事って・・
「じゃあ・・いうよ・・」
「早く云え。もうバイトの時間なんだから。」
「あ・・あの・・さあ・・やっぱ、な・何でも無い、何でも無い。」
「・・・・・・お前なあ、バカか・・さっきの繰り返しじゃないか
これでもう1回お前のポニーテールを掴まえてみなよ。
同じ所をグルグル回っているタイムパラドックスじゃねぇかよ。」
「何?その薬みたいな名前。」
「もういいよ。じゃあ俺、行くな」
「うん・・気をつけてね」
もう修平は走り出していた。振り返りながら手を上げて答える。
「おう!」
後に残った春海は片肘を突いて小さく溜息を吐いた。
「ふん・・だ・・ご飯作って待っててあげようかなって思ってたのに・・」
見えなくなってしまった修平に話しかけた・・・。

何処に主眼を置くかによって人生は変わって行くもんだ。
そんな言葉をボンヤリ思い出していた。

今の俺は前の俺とは全く違う。
生き様さえも変わろうとしていた。
それが、焦りに変わり、苛立ちにつながって行った。
今の俺は本当の自分では無いのかもしれない。

例えば部屋に帰る。
いつもなら曲を作ったり、詞を書いたり、本を読んだりだな。
それが今はただボンヤリしてる事が多いのは何故なんだろう?
目的意識の問題なのかな?

なんとなく常に春海が一緒にいて微笑んでいるような。
とても快いのだけれど、それが苛立ちにつながっているとしたら・・
明らかにそれは悲劇の始まりなんだ。
もちろん春海に罪は無い
俺も一緒にいる事を望んでいるのだしそれが一番楽しいんだ。

ただ・・
ただ・・?
ただ・・このまま流れて行くのが・・恐いのかな?
この前だって春海が何を言おうとしてたか気付いてたはずだ。
何故?気づかないような素振りを続けたのか?・・・

生活の一部になる事が恐かった。
目的や夢を凌駕する存在になってしまうのが恐かった。
俺はそうやって今まで逃げてきたじゃないか。
何人の女の子がそう云いながら去っていったことか・・・。
「優しくないよ・・修平・・・」
そうだな・・そうなんだよ。
俺は優しくなんて無い。
俺に構わないでくれ。
俺はそういうひどい奴なんだ。
両手を頭の後ろに組んで、煙草の煙を天井に向けて吹かしていた。
天井の暗がりに何人もの女の子が現れては消えて行った・・。
俺は・・眠りに・・落ち・・・た・・。

薄暗い部屋の中で誰かが泣いていた。
壁に向かって‥正座して‥両手で顔を覆って泣いていた‥
「春海か?」
何も答えない‥
「春海なのか?何、泣いてるんだ?」
何も答えず、肩を震わしている・・。
「春海!」
肩を触ろうとしたら・・夢から醒めた・・。
窓は薄青色で鳥の鳴き声が部屋まで入ってきた。
「朝か・・・今日も暑くなりそうだな・・」

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