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希代のドリブラー・前園真聖、憧れたマラドーナのプレーを大分析…魅力に迫る!

2016.06.06

 サッカー史に残る名選手ディエゴ・マラドーナ。生きる伝説として、現代のサッカー界にも多大なる影響を及ぼしている。

 そのマラドーナが伝説の存在となった大会が1986年に開催されたメキシコでのワールドカップだ。カルロス・ビラルドに率いられたアルゼンチン代表のエースとして参加したマラドーナは準々決勝のイングランド戦で、サッカー史に残るプレーを見せた。

 クロスに飛び出した相手GKに先んじてボールを触りゴールを決めた“神の手”ゴールと、センターライン付近からイングランド守備陣を手玉に取るドリブルでの“5人抜き”からのゴール。この2点で勝利したアルゼンチンは決勝でも西ドイツを下して、同国2度目となるW杯トロフィーを掲げた。

 マラドーナが伝説の選手となったメキシコW杯からちょうど30年。『サッカーキング』ではその偉業を振り返るべく、サッカー界の様々な人物に話を聞き、偉大さを再認識するべく、『マラドーナ特集』を実施する。

『キャプテン翼』作者・高橋陽一氏に続く、第2回目のインタビューは元日本代表の前園真聖氏。現役時代はマラドーナと同じくドリブルを武器とする小柄なアタッカーとして活躍した同氏に、幼少期から憧れであったというマラドーナの存在や、そのプレースタイルについて聞き、さらには開幕が目前に迫ったコパ・アメリカ・センテナリオやリオデジャネイロ・オリンピックについても言及してもらった。

インタビュー=小松春生
写真=野口岳彦

マラドーナのプレーを最初にご覧になったのはいつですか?

前園真聖 小学生くらいの時ですね。ドリブルが際立っていて、憧れの存在になりました。当時、上手い選手はミシェル・プラティニとかがいましたけど、彼ほどボールが足に吸い付いている選手はいなかったので、すごくインパクトがありました。

小学生ながらも印象的だったんですね。

前園真聖 他のサッカー選手とちょっと違うように見えたんです。ボールタッチとか、足に吸い付いている感じとか。独特のリズムがあって。今はそんな選手はあまり見ないですね。あと、子どもの頃っていうのは、ボールを持って、ドリブルで何人も抜いていくことがカッコいいんですよね。だからこそ憧れました。

マラドーナと前園さんにはサッカー選手としては身長が低いながらも、ドリブルを武器にした共通点があります。参考にしたプレーはありますか?

前園真聖 プレーを参考にしたと言うよりは、マラドーナのビデオを見ながら、ドリブルやボールタッチの感覚をよく見て、コーンじゃなくても石とか並べたり、土の上に丸を書いてそこをジグザグにドリブルしたり…。そういう練習をしていました。

プレー動画はビデオテープが擦り切れるほどご覧に?

前園真聖 そうですね。当時、テレビで放送していたサッカー番組と言えば、『三菱ダイヤモンド・サッカー』くらいでしたが、僕が生まれ育った鹿児島では放送していなかったので、リアルタイムで見ることができませんでした。ただ、スポーツ用品店にはサッカーのプレービデオが流されていたので、それを借りて見ていました。見て、返して、の繰り返しだったので、スパイクとかユニフォームを買いに行くというよりも、ビデオを借りに行くことが目的のようになっていましたね(笑)。その中でマラドーナのビデオもあって。最後、ビデオを返す時はそれこそ擦り減るくらい見ていました。現在のように手軽にプレー動画を見ることもできませんし、サッカー雑誌の種類も多くなかったので。そのビデオが唯一と言って言い教材でした。

参考にされたプレーはドリブル時の相手との間合いなどですか?

前園真聖 マラドーナは足がすごく速い選手ではないです。クラウディオ・カニーヒアの方が速かったくらいだと思います。それでも抜いていけるタイミングや緩急のつけ方、ボールタッチで外すタイミング…。途轍もなかったですね。今はリオネル・メッシが近いプレーをしますけど、そういった存在はいなかったです。

今年の6月でマラドーナがメキシコW杯で優勝カップを掲げてから30年が経ちます。同大会のイングランド戦では“神の手”と“5人抜き”というプレー見せました。5人抜きは衝撃でしたか?

前園真聖 もちろんです。インパクトももちろんありましたが、やっぱり単純にカッコよかったですよね。パスを使わずにドリブルで相手の守備を打開していく。衝撃的でした。ゴールキーパーまでかわしていますから。

“個の力”はサッカーの醍醐味でしょうか?

前園真聖 「お金を払うとしたら、そういうプレーだな」と僕は思っています。プロ選手として、ですね。試合ではなく、「この選手を見たい」「お金を払っていい」と純粋に思わせてくれた選手は、マラドーナでした。

先ほど名前が出ましたが、世間では「マラドーナとメッシ、どちらが優れているか」という議論があります。前園さんはやはり幼少期から見ていたマラドーナの印象が強いと思いますが。

前園真聖 僕の中ではマラドーナですね! 展開されるサッカーが違うし、時代も違うので一概に比較はできませんが、やはりマラドーナではないでしょうか。W杯での実績や優勝したかどうかも含めてですけど。あとは、存在感もメッシとは違いますよね。それはプレーだけではなく、マラドーナの人間像や何をするか分からないような、危うさも魅力なんだと思います。

「マラドーナか、ペレか」論争はいかがですか?

前園真聖 ペレについては世代が少し違うので、正直に言えば印象が薄いです。すごい選手であることは間違いないですが、リアルタイムで見ていないので、心には残っていないです。もちろん「すごい!」というリスペクトはありますよ。プラティニはマラドーナと同世代で、すごい選手ではありましたが、マラドーナほど心が揺さぶられたわけではなかったです。マラドーナは華やかでしたね。

前園さんがマラドーナと一緒にプレーするとしたら、どういったプレーを心掛けますか?

前園真聖 とにかく近くでプレーしたいです! 希望するポジションは特にないですけど、真ん中あたりで。たくさんパス交換したいですよね。

では逆に全盛期のマラドーナと相対した時、ボールを奪う自信はありますか?

前園真聖 絶対無理でしょ!(笑) まず、ディフェンスの立場から考えれば飛び込めないです。飛び込んでしまうとかわされる。でも、間合いを開けてしまうと何でもできる選手ですし。まぁ…、無理でしょうね(笑)。

マラドーナは2010年の南アフリカW杯でアルゼンチン代表を率いました。監督としてのマラドーナの印象はいかがでしょうか?

前園真聖 監督の評価というよりも、存在ですね。采配とかはあまり期待していませんでした(笑)。でも、ベンチにいるだけで絵になる。テレビカメラもマラドーナばかり映していましたし。逆に、メッシよりも目立っていて(笑)。それを分かって、マラドーナに注目を集めるために監督として選んだ可能性もあるかもしれませんね。

マラドーナと会う機会があったら、聞いてみたいことはありますか?

前園真聖 単純にボールを持ったら何を考えているか、というのは聞いてみたいです。ボールを持ったら、まず何を最初に考えるかとか、やはりプレー面。マラドーナが攻撃時に何を考えているかが気になります。

今年の夏はコパ・アメリカ・センテナリオが開催されますが、優勝予想をお聞かせください。アルゼンチンに優勝してほしいですか?

前園真聖 それは全くないですね。アルゼンチンが優勝できるイメージもないです。近年のコパ・アメリカも優勝できていないですし。アルゼンチンはやはりメッシあってのところがあるので、メッシがバルセロナと同じようなシチュエーションでプレーできないと厳しいですよね。バルセロナでもメッシ一人の力ではなく、周りとの関係性によって、より能力が引き出されています。

 ブラジルはネイマールがリオデジャネイロ五輪に出場する、コパ・アメリカは出ないので……。有力候補はチリですかね。

全盛期のマラドーナがチームに加わればアルゼンチン優勝の可能性が上がるかもしれません。

前園真聖 でも、コパ・アメリカのような南米同士の試合は、戦い方を含めて難しいんです。どこが優勝するか分かりませんが、勝ってほしいというのはあります。メッシ次第ですね。

ネイマールの名前が出ましたが、リオ五輪の展望はいかがでしょう。日本も出場します。

前園真聖 ずっと言っていることですが、厳しい戦いになると思います。予選の時から言っていますが、「勝ったから強い」ではありません。結果、勝利しましたが、冷静に見れば予選の決勝で対戦した韓国の方が実力は上でした。本大会で勝ちに行くのであれば、オーバーエイジ3人を入れることも踏まえて、どうチーム作りをするのか。予選のメンバーのままではかなり厳しいと言わざるを得ないですね。

グループリーグの突破も厳しそうですか?

前園真聖 もちろん、簡単ではありません。結果は関係なく、大会で得たものが2018年のロシアW杯につながれば、という意識もあるかもしれません。でもそのサイクルでは遅い。本田圭佑は北京五輪代表でしたが、本大会では何もできませんでした。そこで世界を知って、世界に飛び出して今があるかもしれませんが、その時点で25歳くらいになっている。それでは遅いと思います。だから経験を得るのではなく、何が何でも勝ちに行くやり方が必要だと思っています。経験を得るために五輪に参加するという目的であれば、オーバーエイジは要りません。ブラジルなどは本気でメダルを取りに来るわけですから。中途半端にせず、はっきりとした目的を持って出場してほしいですね。

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By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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