最新記事

南シナ海

中国空海軍とも強化――習政権ジレンマの裏返し

2016年7月25日(月)08時25分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

米海軍制服組トップ訪中 南シナ海問題に関し会談 Ng Han Guan-REUTERS

 南シナ海の判決を受け中国の反撃がやまない。米中海軍トップ会談で中国は人工島建設継続を、軍事委員会副主席は「平和の幻想を抱くな」と表明。「判決がボタンを押した」と弁明し、態度を翻したフィリピンにも対抗しなければならない。

人工島建設はやめない――米中海軍トップ会談

 新華網7月18日電によれば、リチャードソン・米海軍作戦部長と呉勝利・海軍司令員(軍事委員会委員)との会談が北京で行われたとのこと。

 会談で呉勝利司令員は「中国が領土主権問題に関して譲歩すると思わない方がいい」と、一歩も譲らぬ姿勢を見せた。

 さらに「われわれは如何なることがあっても、南シナ海における主権と権益を犠牲にすることはなく、これは中国の核心的利益であり、中華民族の根本的利益である」とした。 

 また「われわれはいかなる軍事的挑発も恐れない。中国の軍隊は、国家の主権と安全と発展を守る堅強な力であり、中国海軍はいかなる権利侵害と挑発に対しても対応するだけの十分な準備ができている」と強調した。

 その上で、「我々は島嶼建設を中途半端に終わらせることは絶対にしない!」と、人工島建設を続行することとともに、積極的に防衛していくことを宣言し、アメリカを牽制した。

 中央テレビ局CCTVでは、威圧的な呉勝利氏の顔を大写しにして、小顔のリチャードソン氏の顔を委縮しているような表情で脇に映し出すに留め、「ほれ、この通り、中国軍は強い!」という印象を人民に与えることに必死だということが、逆に伺われた。

 一方のリチャードソン氏は「中国海軍の接待に感謝し、喜んで呉勝利と提携して両軍関係の友好的な発展と信頼関係の構築に寄与したい」としたと言ったと、新華網は伝えている。

 その言葉を受けるかのように、中国側がリチャードソン氏を北海艦隊や潜艇学院に案内し、遼寧などの艦艇を視察したことなどを紹介し、「中国が米国よりも上に立ちながら」、米中がいかに友好的であるかをアピールした。

 用意周到に組まれた映像の割には、二人が並んで立っている映像なども映しており、それを見る限りにおいては、リチャードソン氏は決して引けを取らず、ほぼ同じ背の高さで、せっかく呉勝利氏の顔だけ大写しして、まるで縮んだように恐縮したリチャードソン氏の顔を添えたのに、その映像効果を帳消しにしている。

「平和の幻想を抱くな」――範長竜・中央軍事委員会副主席

「人民網」7月21日電によれば、範長竜・中央軍事委員会副主席(中共中央政治局委員)は、南部戦区部隊の視察を行い、「軍事闘争に関するあらゆる準備作業を強く推進し、肝心の有事の時には、必ず"突撃任務"の力を瞬時に発揮できるようにせよ」と指令を出した。

 南シナ海作戦に関してこのように具体的な指令を出したのは、中華人民共和国誕生以来初めてのことだと、CCTVでも軍事評論家による解説が行われた。「今日のフォーカス」など多くのニュース番組でも特集し、範長竜副主席が「平和の幻想を抱くな」という声明のもと、「今後、南シナ海における哨戒飛行を常態化させる」と強調したと報道した。

 解説者はさまざまに表現を変えながらも、結局のところ「判決が軍事強化のボタンを押した」とし、「平和のための防衛」から「平和のための攻撃」に出るため「準備は整った」と異口同音に唱えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席、アラブ諸国と関係強化訴え 世界平和のモデ

ワールド

中国主席、アラブ諸国と関係強化訴え 世界平和のモデ

ワールド

アングル:メキシコ大統領最有力のシェインバウム氏、

ワールド

香港民主派14人、国安法違反で有罪判決 予備選巡り
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程でクラスター弾搭載可能なATACMS

  • 2

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 3

    地球の水不足が深刻化...今世紀末までに世界人口の66%が影響を受ける恐れ

  • 4

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 5

    「天国に一番近い島」で起きた暴動、フランスがニュ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 8

    ウクライナ、ロシア国境奥深くの石油施設に猛攻 ア…

  • 9

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 8

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中