【話題】航空会社の「子ども禁止ゾーン」は子連れ差別なのか?

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フライト中の赤ん坊の泣き声に耐えかねて、航空会社にクレームをつけた女性漫画家の雑誌コラムがネットで「炎上」、その後本人がネット民の反応に「反省」して最寄りの警察署にまさかの「自首」をするという逆噴射展開の顛末も記憶に新しい。

そんななか、マレーシアを拠点とする航空会社エアアジアが、長距離路線を対象に12歳以下の子どもが利用できない「クワイエットゾーン」を導入し、再び「子連れフライト」が話題となっている。
【参照記事】:子どもの泣き声がイヤな人はお金で解決 / 航空会社エアアジアが有料の子ども禁止ゾーン設置(ロケットニュース24) http://rocketnews24.com/2013/02/14/292739/

たびたびネットの話題に上がる、子連れ旅行や子連れ移動のストレス。ただ、あまりの頻度と神経質さに、時々思う。
「ホント、他人のことに色々お節介に口出す上に自意識過剰でもあるよなぁ。ひとのことなんか、ほっときゃいいじゃん?」

「子どもって泣くよねー。ぶっちゃけウルサいよねー。TPOもあるしさぁ。でも言ってわかる相手じゃないし。そうは言えど大人だっていろいろ都合あるし、困ったな。じゃ、みんな大人で頭寄せ合って対策考えない?」
……こういう展開を見せるのが、欧州の感覚だ。

つまり、子どもが泣くのは当たり前。親が慌てるのも当たり前。でも泣き声で他の大人が迷惑するのも当たり前。どちらも開き直ることもなければ耐え忍ぶこともなく、それぞれが権利を主張して落としどころを探り、ルールを決める。

先ほどの記事中では、英国系航空各社が「子ども禁止なんて考えられない、当社はお子さま大歓迎です」と善人面でコメントをしているけれども、「うっはぁ、よく言うよ」というのが正直なところ。

彼らが大歓迎するのは、“よくしつけられて紳士淑女に迷惑をかけることのないお子さま”だけである。


欧州はもともと歴史的に「子どもお断り」を宣言する店やサービスが多く、そうやって明確に(社会的に一人前の市民として見なされない野蛮な生き物たる)子どもと、(一人前の市民たる)大人とが住み分けている。

つまり、子どもは歴史的に長らく一人前の人間として見なされていなかったために、「いてもいい場所(時間)」「いるべき場所(時間)」が決まっていて、大人とは完全に住み分けさせられていたのだ。

上流階級では子どもは使用人が育て、まともで見苦しくないテーブルマナーが身に付くまでは親と同じテーブルで食事をすることもなかったという話は有名である。


ちなみにこの「一流市民と準市民」の差別感覚が、大人と子どもだけでなく、階級とか人種とか性別とか、様々な対象に反映されてきた(そして度重なる抵抗と修正を受けてきた)のはお察しの通りだが、当の一流市民たちは聞こえのいい理論武装をして、決して認めないだろう。

例えば先日、ロンドンからパリに行こうとして家族分のユーロスターのチケットをオンライン予約しようとしたら、一等席が出ない。あれ?一等席なしの運行なのかと思ったら、何のことはない、子どもは一等席への立ち入り禁止なので、画面にさえ出て来ないのである。子連れは一等席を使えない。他方、大人は少々多めに料金を払って一等席にさえ行けば、子どもの喧噪に晒されることもない。

つまり、お互いの精神衛生上、住み分けるのは実は建設的なのだ。
「子どもは泣くものです」「子どもは国の宝」「耐えるべし」「耐えらんねーよ」「子連れがデカい顔すんな」「メンヘラだまれ」などと、どうせ立場の違うもの同士、会話は永遠の平行線をたどる。そこで足踏みして両サイドで憎悪を募らせるのはなんら生産的でない。

ならば、お互い視界に入らぬように住み分けるのが一番。これぞ欧州外交である。より快適な環境を享受したいと願う人々には課金し、権利を明確にし、快適さを提供することこそ、資本主義が得意とするサービスではないか。


というわけで、「子ども禁止ゾーン」は差別などではなくて、真に資本主義的なサービスの鑑である。本来の意味をまったく失った「平等」に浸かった日本社会では当初抵抗が強いだろうが(女性専用車両の導入時を思い出して欲しい)、口先だけの「お為ごかし」などやめて、権利をくっきり線引きすればみんな本当は助かるのだ。

日本人は、もうちょっとわがままを言ってもいいし、逆にわがままにはしっかりと「値段」がついていることを受け入れると、少しは生きづらさが緩和されるのではないかと、ちょっと思っている。


河崎環
コラムニスト。子育て系人気サイト運営・執筆後、教育・家族問題、父親の育児参加、世界の子育て文化から商品デザイン・書籍評論まで多彩な執筆を続けており、エッセイや子育て相談にも定評がある。現在は夫、16歳娘、7歳息子と共に欧州2カ国目、英国ロンドン在住。