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高福祉高税率へ回帰のスウェーデン、国際競争力低下の危惧

発足1年の中道左派政権が打ち出す20世紀型税制で、自由市場改革は後退してしまうのか

2015年10月17日(土)13時10分

10月15日、スウェーデンのロベーン首相(写真)率いる中道左派政権は、来年度の予算編成で増税を検討中で、実施されればスウェーデンの富裕層は世界最高水準の税率に直面することになる。2014年12月撮影。提供写真(2015年 ロイター/Maja Suslin/TT News Agency)

 スウェーデンのロベーン首相率いる中道左派政権は、来年度の予算編成で増税を検討中で、実施されればスウェーデンの富裕層は世界最高水準の税率に直面することになる。

 批評家からは、企業の競争力や魅力が低下するとともに、労働意欲をそぐとの懸念の声も出始めている。

 同中道左派政権は、2016年末までに教育や住宅建設、雇用のために320億クローナ(39億ドル)を調達する計画で、財源は燃料税や働いている年金受給者への課税、若者を雇用する企業への支援カットなどでまかなう。住宅改築補助金は縮小し、原発への課税を強化し、銀行税も検討している。

 最高限界税率は現在の57%から60%に引き上げ、KPMGによると世界最高水準になるという。最高税率が適用される基準も月収5万2500クローナ(6478ドル)超と、他国に比べて低い水準だ。

 20世紀のスウェーデンの高福祉モデルを支えたのは高い税金だったが、2006年からの中道右派政権は労働に対する報酬を増やし、給付金を減らす改革を進め、税負担をフランスやフィンランド、ベルギーを下回る水準まで抑えた。そして、今度は振り子が逆に動き始めた。投資家を引きつけた過去10年の自由市場改革は後退し、1年前に発足した中道左派政権は税率を世界最高水準に引き上げようとしている。

 最大野党の中道右派、穏健党のバトラ党首は「現政権のやり方は国民の財布と企業の注文台帳を空っぽにするものだ」と批判する。

 しかし政府系シンクタンクは現在の公共サービスの水準を維持するには年間約200億クローネ(24億6000万ドル)の税収増が必要だと指摘する。記録的な移民流入ペースや医療給付金のコスト、人口高齢化などで支出が一段と増す可能性もある。

 1980年代には税率を下げるためにパートタイムで働くことを選ぶ医師が多かったという。ある医師は「今後われわれが当直や夜勤を引き受けるのはますます難しくなる」と話す。

 スウェーデンのソフトウェア企業タクトンのCEOは、政府が増税に舵を切れば、再び同国はビジネスをするのに適さない場所だというレッテルを貼られると指摘する。また、従業員の40%が外国人の同社では、人材確保が一段と難しくなることを懸念している。

[ストックホルム 15日 ロイター]

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